有限会社奥州秋保温泉蘭亭
職務分析・職務評価で自社の課題を把握
積極的な取組で付加価値の創出!
社員のマルチタスク化、新卒・外国人採用による人手不足対応

企業情報
住所 | 宮城県仙台市 |
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従業員数 |
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事業概要 | 宮城県仙台市の秋保温泉街にある、自然に囲まれたロケーションの温泉旅館で、宿泊、温泉入浴、食事、グランピング、犬の宿などのサービスを提供している。 |
取組のきっかけ
若手・ベテラン社員ともに活躍できる新たな等級制度・賃金制度へ
当社は、パートタイム労働者が多い職場であるが、熟練パートタイム労働者の高齢化や、正社員と同等の能力を有していても、子育てや介護などを理由にフルタイム勤務が難しく、やむを得ずパートタイム労働者となっている者が多くいるといった状況が見られた。そこで新たに、部署を横断して、複数業務(マルチタスク)を担うポジションを作り、定型業務に従事するパートタイム労働者と正社員の中間層を作りたいと考えていた。
また、新規事業の立ち上げを予定しており、若手社員の登用、新規採用が必須という状況であった。
そのため、若手・ベテラン社員ともに活かせる新たな等級制度・賃金制度の検討を進めていきたいと考え、厚労省の働き方改革推進支援センターによる専門家の支援を活用し、職務分析・職務評価を実施することとした。
これまでの取組(令和4年度)
取組1. 正社員とパートタイム労働者の基本給の均等・均衡を確認
社員の現在位置を把握
職務分析・職務評価を実施し、正社員とパートタイム労働者の基本給に不合理な待遇差がないか確認。おおむね、均等・均衡が図られていたものの、入社経路の相違などから、パートタイム労働者間で賃金にばらつきがあることが確認できた。
また、正社員においては、若手社員を多くサンプリングしたこともあるが、パートタイム労働者と比較し、時間賃率の水準が低いという課題を発見。
取組2. 等級制度、賃金制度の設計
必要な・効果的な制度を設計
パートタイム労働者において、明確な等級制度を設計し、等級に応じた時給を設定。
正社員は取組1の課題から、基本給を引上げた。

取組3. マルチタスク制度の創設
更なる取組
職務分析・職務評価の過程で、職務を棚卸しし、整理することにより、部署を横断し、複数の業務(マルチタスク)を担う社員の定義づけを行うことができた。
効果
- ・等級制度やマルチタスク制度の創設により、キャリアステップを提示することができ、モチベーション向上・人材定着へつながった。
- ・社員の現状を把握し、有効な人材活用の仕組みを構築することができた。
更に実施した取組(令和5・6年度)
取組のポイント
- 取組1
- 社員のマルチタスク化の推進
- 取組2
- 制度の運用にあたり、従業員への丁寧な説明
- 効果
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- ・マルチタスク社員が増えたことで、部署を横断した人員配置ができるようになった。
また、突発的な事態や当日欠勤への対応もスムーズに行えるようになった。 - ・繁忙期に売上高が増えた(10%増)のに対し、総時間外労働時間(総人件費▲5%)が削減され生産性が向上した。
- ・マルチタスク社員が増えたことで、部署を横断した人員配置ができるようになった。
取組1. 社員のマルチタスク化の推進

当社における社員のマルチタスク化とは、部署を横断し、フロント、ルームセッティング、清掃、接客、調理、予約管理などの複数の業務に従事できるようなることを指します。
当社では、本館の他にグランピング施設「GLAMPSEASON」、ペットと宿泊できる施設「R with dog」が稼働しており、それぞれの施設で提供するサービスが異なり、それに伴う業務も多岐に渡っています。
①マルチタスク化への経緯
新型コロナウイルス感染症の影響で、近隣地区のホテル・旅館はどこも壊滅的な打撃を受け、当社でも社員の多数を占めていた勤続年数の長いパートタイム労働者が大量に退職するなど、危機的状況に陥った。
その際、新規事業(グランピング施設のオープン)の立ち上げを予定しており、立ち上げにあたって若手社員の登用・新卒採用をすることとしていたため、人材の入れ替わりを機に、従来の「固定業務に専念する働き方」から、「複数の業務を担当する働き方」へ、人材育成の方針の転換を行った。
②マルチタスク人材の育成・推進
マルチタスク制度の創設にあたり、まずは在籍中の従業員から候補者をモデリング選出して、テスト運用し、広報業務で部署を超えた若手中心のYouTubeチームを結成したことから取組を開始した。
新規事業(グランピング)のオープンでは、従来の旅館業とは趣が異なる新規事業に対し、希望した者を優先的に新規事業に配属させ、部門責任者にもするなどマルチタスク人材の育成を図った。
今では、マルチタスク社員であるパートタイム労働者が支配人に抜擢される等、制度の浸透が進んでいる。
人材の募集に際しても、マルチタスク社員として当初から募集・採用を行い、正社員・パートタイム労働者ともにマルチタスク化を推進し、合計50名程がマルチタスク社員となった。
パートタイム労働者の等級制度においては、マルチタスクについて定義づけをし、キャリアステップの道筋を提示することで、モチベーションの向上を図っている。
ランク | 定義 |
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パート④ |
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パート③ |
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パート② |
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パート① |
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特別時給 |
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取組2. 制度の運用にあたり、従業員への丁寧な説明
①従業員へのマルチタスク制度の説明

ペットと宿泊できる施設
(R with dog)
年1回、1月に新年会を実施する際、経営計画発表会として、従業員にマルチタスク制度について説明を実施している。
また、従業員とは定期的に面談を実施し、希望・適正を把握するよう努め、従来の働き方のままを希望する従業員に対しても配慮している。
現在は2024年に新規事業(ペットと宿泊できる施設)もオープンし、フロント・広報・調理・宿泊(本館・グランピング・ペット施設)の部門で約50名のマルチタスク人材が活躍している。
②外国人技能実習生の採用と育成

ベトナム・ミャンマーからの技能実習生
国内の労働人口減少とインバウンドを想定し、2023年にベトナムからの技能実習生を採用した。希望者は特定技能に移行し、正社員として採用している。現在も技能実習生を受け入れており、ベトナム・ミャンマー・フィリピンの実習生が、当社でマルチタスク人材として働いている。
外国人技能実習生には、入社時のオリエンテーションで日本の文化・日本での生活の仕方・日本の商習慣の他に、当社の経営方針やマルチタスク制度についても研修を実施している。
独自の取組として、社内の相談体制に加え、母国語が話せる現地の先生にZoomで相談して当社にフィードバックするなど、安心して働けるような体制を構築している。
VOICE 事業主の声

取締役 菅原 幸子
弊社は秋保温泉街の旅館から、山林を含めた1万坪以上の広大な敷地を持つ総合リゾート施設へと転換を目指しています。それゆえ、従来の業務に加え、新しい業務を横断して従事できるマルチタスク人材の育成が必須でした。
そのため、会社のビジョンを明確にし、何度も従業員へ説明して浸透させていきました。
コロナ禍の影響で従業員の世代交代が発生し、弊社のビジョンに共感する若い従業員が多数入社しました。マルチタスクの浸透で体調不良等の突発的な欠勤への対応や有給休暇の取得促進、時間外労働の削減といったメリットもありました。
効果
- マルチタスク社員が増えたことで、部署を横断した人員配置ができるようになった。また、突発的な事態や当日欠勤への対応もスムーズに行えるようになった。
- マルチタスク化に伴い、社員の考え方が業務に固執せず、柔軟になった。
- 繁忙期に売上高が増えた(10%増)のに対し、総時間外労働時間(総人件費▲5%)が削減され生産性が向上した。
今後への想い
- 宿泊業は離職率が高いと言われている。その対策として仕事のやりがいや透明性の高い評価制度、働きやすい職場環境整備といったエンゲージメント向上を進めていきたい。
- マルチタスク人材の育成を進め柔軟な人員配備が組めるようになったら、週休3日制の導入など、若い世代に訴求できる制度を導入したい。