参考判例

「不合理な待遇」かどうかが争われた裁判(旧労働契約法第20条に関する最高裁判決)の概要をご紹介します。

こちらに掲載している判決は、いずれも個別事案の判決です。
事案によって異なる判断となる可能性がありますので、ご留意下さい。

1 正社員と有期雇用労働者(契約社員)の各種手当に関する待遇の違いが
不合理かどうかが争われた事件の最高裁判決(ハマキョウレックス事件

平成30年6月1日 最高裁判所第二小法廷判決・
平成28年(受)第2099号、第2100号 未払賃金等支払請求事件

運送会社で働く契約社員(有期雇用労働者)のドライバーが、職務の内容が同一である正社員のドライバーとの間に待遇差を設けるのは無効であると訴えました。その結果、表のとおり、5つの手当について、正社員との間に待遇差を設けることは不合理だと判断されました。

待遇 判 断 本件における
手当支給の目的
判 決 理 由
通勤手当
不合理
通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給。 労働契約期間に定めがあるか否かによって通勤に必要な費用が異なるわけではない。正社員と契約社員の職務内容・配置の変更の範囲が異なることは、通勤に必要な費用の多寡には直接関係がない。
皆勤手当
不合理
出勤する運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給。 正社員と契約社員の職務内容が同じであることから、出勤する者を確保する必要性は同じであり、将来の転勤や出向の可能性等の違いにより異なるものではない。
住宅手当
不合理
ではない
従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給。 正社員は転居を伴う配転が予定されており、契約社員よりも住宅に要する費用が多額となる可能性がある。
給食手当
不合理
労働者の食事に係る補助として支給。 勤務時間中に食事をとる必要がある労働者に対して支給されるもので、正社員と契約社員の職務内容が同じである上、職務内容・配置の変更の範囲の違いと勤務期間中に食事をとる必要性には関係がない。
作業手当
不合理
特定の作業を行った対価として作業そのものを金銭的に評価して支給。 正社員と契約社員の職務内容が同じであり、作業に対する金銭的評価は、職務内容・配置の変更の範囲の違いによって異なるものではない。
無事故手当
不合理
優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給。 正社員と契約社員の職務内容が同じであり、安全運転及び事故防止の必要性は同じ。将来の転勤や出向の可能性等の違いによって異なるものではない。
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2 正社員と有期雇用労働者(嘱託社員)の基本給等及び各種手当等に関する
待遇の違いが不合理か否かが争われた事件の最高裁判決(長澤運輸事件)

平成30年6月1日 最高裁判所第二小法廷判決・平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件

運送会社で働く、定年後に再雇用された嘱託社員(有期雇用労働者)の乗務員が、職務内容が同一である正社員の乗務員との間に待遇差を設けるのは無効であると訴えました。その結果、表のとおり、2つの手当について、正社員との間に待遇差を設けることは不合理だと判断されました。

待遇 判 断 判 決 理 由
基本給等

正社員… 基本給+能率給+職務給

嘱託乗務員… 基本賃金+歩合給+調整給
不合理
ではない
嘱託乗務員の基本賃金は、定年退職時における基本給の額を上回る額に設定していること、嘱託乗務員の歩合給は、正社員の能率給にかかる係数の約2倍から3倍に設定されていること、組合との団体交渉を経て、嘱託乗務員の基本賃金を増額し、歩合給に係る係数の一部を嘱託職員に有利に変更していることから、嘱託乗務員の基本賃金及び歩合給は、正社員の基本給、能率給及び職務給に対応するものであることを考慮する必要がある。
さらに、嘱託乗務員は一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、組合との団体交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、調整給が支払われるということもあり、これらの事情を総合考慮した結果、正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で、嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという待遇差は、不合理ではない。
待遇 判 断 本件における
手当支給の目的
判 決 理 由
精勤手当
不合理
労働者に対し、休日以外は
1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるもの。
職務内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を推奨する必要性に違いはない。
住宅手当
不合理
ではない
労働者の住宅費の負担に対する補助として支給されるもの。 正社員は幅広い世代の労働者が存在する一方、嘱託乗務員は老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、それまでも調整給を支給されている。
家族手当
不合理
ではない
労働者の家族を扶養するための生活費に対する補助として支給されるもの。 正社員は幅広い世代の労働者が存在する一方、嘱託乗務員は老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、それまでも調整給を支給されている。
役付手当
不合理
ではない
正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるもの。 正社員のうち役付者に対して支給されるものであり、年功給、勤続給的性格のものではない。
時間外手当
不合理
労働者の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるもの。 嘱託乗務員には精勤手当を支給しないことは不合理であるとの判断を踏まえ、時間外手当の計算の基礎に精勤手当を含めないという違いは不合理。
賞与
不合理
ではない
労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含みうる。 嘱託乗務員は、定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、それまでも調整給を支給されている。
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3 正職員と有期雇用労働者(アルバイト職員)の賞与等に関する待遇の違いが
不合理か否かが争われた事件の最高裁判決(大阪医科薬科大学事件)

令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷判決
(令和元年(受)第1055号、1056号 地位確認等請求事件)

大学で教室事務を担当するアルバイト職員(有期雇用労働者)が、教室事務を担当する正職員との間で賞与、私傷病による欠勤中の賃金に相違を設けるのは旧労働契約法第20条に違反するとして、損害賠償等を請求しました。その結果、表のとおり、賞与等について、正職員との間に待遇の相違を設けることは不合理ではないと判断されました。

この裁判例は、以下の総論を述べた上で判断されました。

・有期雇用労働者と無期雇用労働者(通常の労働者)の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが旧労働契約法第20条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る。
・その判断に当たっては、当該使用者における賞与の性質や目的を踏まえて、職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮することにより、不合理か否かを検討すべき。

※本件事案においては、原告らによって比較の対象とされた通常の労働者を比較の対象としつつ、他の多数の通常の労働者についてはその他の事情として考慮されました。

待遇 判 断 本件における
待遇の性質・目的
判 決 理 由
賞与
不合理
ではない
正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図るなどの目的で支給されるもの(職能給である基本給を基礎に算定)。 (本件における)賞与の性質・目的を踏まえて、職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったこと、その他の事情(人員配置の見直し等により教室事務員の正職員は極めて少数となっていたこと、正職員登用制度を設けていたこと)を考慮すれば、不合理であるとまでいえない。
私傷病による
欠勤中の賃金
不合理
ではない
長期的又は将来的な勤続が期待される正職員の生活保障を図り、雇用を維持・確保する目的で支給されるもの(6か月間は給与全額、その後は休職となり2割支給)。 職務の内容等の一定の相違や、上記のその他の事情に加えて、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いアルバイト職員に、雇用の維持・確保を前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するとはいえない。また、原告の勤続期間(※在籍期間は欠勤期間を含め3年余り)が相当の長期間に及んでいたとはいい難く、労働契約が当然に更新され継続するとうかがわせる事情も見当たらない。
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4 正社員と有期雇用労働者(契約社員)の退職金に関する待遇の違いが
不合理か否かが争われた事件の最高裁判決(メトロコマース事件)

令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷判決
(令和元年(受)第1190号、1191号 損害賠償等請求事件)

駅売店で働く契約社員(有期雇用労働者)が、駅売店で働く正社員との間で退職金の支給に相違を設けるのは旧労働契約法第20条に違反するとして損害賠償等を請求しました。その結果、表のとおり、退職金について、正社員との間に待遇の相違を設けることは不合理ではないと判断されました。

この裁判例は、以下の総論を述べた上で判断されました。

・有期雇用労働者と無期雇用労働者(通常の労働者)の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが旧労働契約法第20条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る。
・その判断に当たっては、当該使用者における退職金の性質や目的を踏まえて、職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮することにより、不合理か否かを検討すべき。

※本件事案においては、原告らによって比較の対象とされた通常の労働者を比較の対象としつつ、他の多数の通常の労働者についてはその他の事情として考慮されました。

待遇 判 断 本件における
待遇の性質・目的
判 決 理 由
退職金
不合理
ではない
支給要件や支給内容等に照らせば、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有し、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図るなどの目的で、様々な部署等で継続的な就労が期待される正社員に対し支給されるもの(年齢給と職能給からなる基本給を基礎に算定)。 (本件における)退職金の有する複合的な性質・目的を踏まえて、職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったこと、その他の事情(売店業務に従事する正社員(少数)は、組織再編等に起因して賃金水準の変更や配置転換が困難であったこと、正社員登用制度を設けて相当数登用していたこと)を考慮すれば、不合理であるとまでいえない。
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5 正社員と有期雇用労働者(契約社員)の各種手当等に関する待遇の違いが
不合理か否かが争われた事件の最高裁判決(日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件)

令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷判決
○日本郵便(東京)事件(令和元年(受)第777号、778号 地位確認等請求事件)
○日本郵便(大阪)事件(令和元年(受)第794号、795号 地位確認等請求事件)
○日本郵便(佐賀)事件(平成30年(受)第1519号 未払時間外手当金等請求事件)

郵便業務を担当する契約社員(有期雇用労働者)が、郵便業務等を担当する正社員との間で、各種手当や休暇等について相違を設けるのは旧労働契約法第20条に違反するとして損害賠償等を請求しました。その結果、表のとおり、扶養手当等について、正社員との間の待遇の相違は不合理だと判断されました。

待遇 判 断 本件における
待遇の性質・目的
判 決 理 由
扶養手当
不合理
長期勤続が期待される正社員の生活保障や福利厚生を図り、継続的な雇用を確保する目的で支給されるもの。 扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、契約社員にも扶養手当の趣旨は妥当する。
日本郵便(大阪)事件
祝日給
不合理
最繁忙期であるために年始に勤務したことの代償として支給されるもの。 短時間の勤務ではなく繁閑に関わらない勤務が見込まれている契約社員にも、年始における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は妥当する。
日本郵便(大阪)事件
年末年始
勤務手当
不合理
最繁忙期であり、多くの労働者は休日である年末年始期間に業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性の対価として支給されるもの。 業務の内容等に関わらず、実際に勤務したこと自体を支給要件としており、年末年始勤務手当の支給趣旨は契約社員にも妥当する。
日本郵便(東京・大阪)事件
夏期冬期
休暇
不合理
労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図る目的で支給されるもの。 短期間の勤務ではなく繁閑に関わらない勤務が見込まれている契約社員にも、夏期冬期休暇を与える趣旨は妥当する。
日本郵便(佐賀)事件
有給の病気
休暇
不合理
長期勤続が期待される正社員の生活保障を図り、療養に専念させることを通じて、継続的な雇用を確保する目的で休暇中の賃金を最大90日分まで支給するもの。 相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば(※原告らはいずれも10年以上勤務)、契約社員についても、有給の病気休暇を与える趣旨は妥当する。
日本郵便(東京)事件

※住居手当については、転居を伴う配置転換等が予定されない正社員にも住居手当が支給されていることから、転居を伴う配置転換等が予定されていない契約社員について住居手当を不支給とすることは不合理な格差であるとの高裁判決が確定している。

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