有限会社 奥州秋保温泉 蘭亭

意欲向上を図るため、職務経験が長く、正社員並みの能力を保有するパートタイム労働者のキャリアステップの明確化や部署を横断した複数の業務(マルチタスク)を担うパートタイム労働者の活用に向けて、等級制度・賃金制度の見直しを行った事例

1. 企業概要

所在地 宮城県仙台市太白区秋保町湯元字木戸保7-1
従業員数 正社員:37名
有期雇用労働者:37名(パートタイム労働者34名、契約社員3名)
主な事業内容 宿泊業

2. 取組みのきっかけ

熟練パートタイム労働者の高齢化や、新規事業の立ち上げの予定により、若手社員の登用、新規採用が必須という状況であった。
パートタイム労働者が多い職場であり、中には職務経験が長い者や、正社員と同等の能力を有し、正社員として採用したいパートタイム労働者もいた。しかしながら、子育てなどがあり、フルタイム勤務が難しく、やむを得ずパートタイム労働者となっている者が多くみられた。そこで、正社員とパートの間の業務区分(マルチタスク)を創設し、能力を有するパートタイム労働者のモチベーション上昇、さらなる活用に向けて、まずはパートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇が図られているかを確認し、新たな等級制度や賃金制度の設計を進めることとなった。

3. 人事制度改革の経過

同社は、既存の事業では、熟練の高齢パートタイム労働者が多くなっていた。加えて、比較的若くかつ正社員と近い業務を行う能力があるパートタイム労働者も存在していた。正社員への登用も進めてきたが、子育て・介護などを理由にフルタイムで勤務をするのは難しいパートタイム労働者が多いことが判明した。今後は、パートタイム労働者の業務として、新たに、部署を横断して複数の業務を行う(マルチタスクを担う)ポジションを作り、定型業務に従事するパートタイム労働者と正社員の中間の層を作りたいと考えた。あわせて、新規事業の立ち上げを機に新規採用を積極的に行う予定であり、これにより若手の育成が急務となっていた。
取組み開始の時点では、パートタイム労働者について、年齢・勤続年数による分類はあったが、等級制度といえるような明確な制度はなく、スキルマップを作成し始めたところであった。そこで、現状としてパートタイム労働者と正社員で賃金の均等・均衡が図られているかどうかを確認するのと並行して、若手・ベテラン共に活かせる等級・賃金制度設計や評価制度の検討を進めていきたいと考え、コンサルティングに申込みをし、専門家のアドバイスを受けながら制度設計の取組みを行うこととした。

4. 職務評価の実施ポイント

ア.実施した職務評価に関する基本情報

実施目的 ・パートタイム労働者と正社員との均等・均衡待遇の確認
・パートタイム労働者の等級制度と賃金制度の検討
実施者 ・職務の棚卸:支配人、フロントマネージャー
・職務評価実施者:支配人、フロントマネージャー
実施対象 ・宿泊部のフロント課・接客課
▶パートタイム労働者:23名
▶比較対象とした正社員:24名
職務評価実施手法 ・要素別点数法

イ.実施内容

(1)均等・均衡待遇の確保状況の把握

①パートタイム・有期雇用労働者の活用方針「パートタイム労働者の一部を正社員並みに活用したい」

同社のパートタイム労働者は人数が多く、定型業務を担っている者と一部マルチタスクと呼ばれている複数の業務を担っている者がいる。
また、経験と能力はあるが、家庭の事情等によりフルタイムで働くことが難しいパートタイム労働者もいた。現在マルチタスクを担っている又は経験・能力を有するパートタイム労働者には、今後、正社員に近いレベルの業務を担ってほしいと考えている。
このような状況を踏まえ、同社は、人材の活用方針について、「マルチタスク、経験・能力を有するパートタイム労働者の一部を正社員並みに活用したい」という方針に設定した。

②職務内容の棚卸

今回の取組みの対象としたのは、宿泊の業務に従事するパートタイム労働者合計23名。「宿泊部」をピックアップしたのは、パートタイム労働者が多く在籍しており、比較しやすい若手の正社員が多くいたためである。宿泊部の部門である「車輌管理課」「サービス課」「パブリック」「フロント課」「バンケット課」「売店課」「グランピング課」を対象に設定した。
職務の棚卸の作業は、支配人と現場の責任者(マネージャー)を中心に、各課/チーム単位で各人の業務内容及び責任の程度の書き出しを行い、3階層に分けて実施した。職務内容の棚卸の結果、マネージャー・正社員、パートタイム労働者それぞれの業務について、想定通り明確な相違があることがわかった。

【職務棚卸のサンプル(接客課)】

職務棚卸のサンプル(接客課)

【職務棚卸のサンプル(フロント課)】

職務棚卸のサンプル(フロント課)

③均等・均衡待遇の状況確認

時間賃率の計算にあたっては、正社員については、基本給のほかに職務手当を含めて計算した。一方でパートタイム労働者は、基本給のみを計算に含めて時間賃率を計算した。
また、活用係数の設定にあたり、人材活用の仕組みや運用の違いについて、正社員とパートタイム労働者とを比較すると、「転勤等、働く場所の変更可能性」「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について以下のような違いがみられた。
「転勤等、働く場所の変更可能性」について、現在支店がないため、正社員及びパートタイム労働者について転勤の可能性はない。
「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」について、正社員は部門を超えた異動の可能性があり、新規事業の担当になる可能性があるが、パートタイム労働者について原則職種変更はない。
「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について、正社員の多くは、事業場敷地内の社員寮に居住しており、突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする必要があるが、パートタイム労働者は、原則として時間外勤務や急な呼び出し対応は発生しない。

以上の人材活用の仕組みや運用の違いを踏まえ、活用係数は「0.9」とした。

人材活用の仕組みまたは運用の違い
正社員 パートタイム労働者 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 × × ・当社は、現在支店がないため、正社員及びパートタイム労働者について転勤の可能性はない。
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 × ・正社員は部門を超えた異動や、新規事業の担当になる可能性があるが、パートタイム労働者について原則職種変更はない。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 × ・正社員は突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする可能性があるが、パートタイム労働者について原則として時間外勤務や急な呼び出し対応は発生しない。

これらを踏まえ、職務評価ツールを用いた結果、おおむね均等・均衡が図られていることを確認した。ただし、入社経路の相違などでパートタイム労働者間同士の賃金のバラツキが確認できた。
正社員の時間賃率については、今回、若手社員を多くサンプリングしたことで全体的に水準が低くなった。そのため、正社員の業務レベルに近いパートタイム労働者と比較すると、パートタイム労働者の方が時間賃率の水準が高い傾向にあるとわかった。
また、担当者としては、想定していた通りの現状であったが、正社員の時間賃率が低いという現象も確認できたため、若手社員の基本給の増額が必要であることを認識した。

プロット図①パートと正社員の比較

(2)パートタイム・有期雇用労働者の人事制度

①等級(グレード)制度

同社では、従前、パートタイム労働者に対する等級制度について、年齢・勤続年数による分類はあったが、明確な制度は設けていなかった。そこで、当事業のコンサルティングの結果をもとに、担当する職務の職務評価ポイントに応じた格付け制度の設計に向けて等級制度のたたき台を作成した。

【等級定義(パートタイム労働者)】

等級定義(パートタイム労働者)

②賃金制度

賃金規程上、賃金表はパートタイム労働者のみ3つの時給タイプが存在している。これまでも賃金の引き上げは行っており、令和4年10月には若手の正社員の基本給、パートタイム労働者の時給引き上げを行った。今回、コンサルティングを受ける中で、等級制度の設計に伴い、等級に応じて各等級の基準となる基本時給の水準を設定した。

【賃金制度(パートタイム労働者)】

賃金制度(パートタイム労働者)

③評価制度

同社では、従前、正社員及びパートタイム労働者に対しても、評価制度はたたき台しか存在していない。新規事業として、地域を巻き込んだ大規模なリゾート事業(地域創生町おこし等)を計画しており、新規事業も組み込んだ評価制度を作成し、早急な運用を目指すため検討している。

5. 今回の取組み、制度の導入後に期待する効果

●効果

コンサルティング支援の過程で、自社の課題を明確にすることにより、どのような制度を設計していく必要があるのか、目標をしっかり定めることができたことは、今回の取組みの成果であったと考えている。業務の棚卸を行ったことで、部署を横断するなど複数の業務(マルチタスク)を行うパートタイム労働者の定義づけができた。それにより、職務に応じた処遇を反映した制度を設計することができた。また、キャリアステップを提示することで、モチベーションに良い影響を与えることを期待している。新規採用者に対しても等級制度を提示し、今後のキャリアをイメージ出来るようにすることで、意欲のある人材を呼び込み、人材定着へ繋がると期待している。

●課題

定年が無く、働けなくなるまで働いて欲しいという方針のため、若手との世代交代のタイミングが難しいと感じている。一方、熟練のパートタイム労働者の高齢化が進み、若手正社員の積極的採用を進めていった結果、両者の中間に立てるような人材が不足していることが露呈した。このため、今回の取組みをベースにスキルマップ作成やキャリアプランを構築することで、社員のマルチタスク化を推進し、意欲とサービスレベル向上を目指している。

正社員は、社員寮に居住しているので、住居費は低額となっており可処分所得は少なくないが、パートタイム労働者の時間賃率と比較すると、正社員の時間賃率が低い設定になっているケースがあることに今回の取組みで気付くことができた。基本給の増額を行ったものの、正社員に対しても早急に制度設計を行い、運用していきたいと考えている。

●工夫

社内・社外研修を充実させ、マルチタスク人材をさらに増やすことで、業務効率化やサービスレベルの向上を目指している。そのためには、若手・ベテラン共に活かせる制度が必須である。地域の活性化を目的とした新規事業を進めていくために、社員のリスキリングや地域創生の経験がある人材の採用にもっと力を入れられるように、制度の早期運用に向け取り組んでいるところである。

【令和年4年2月時点】

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