社会福祉法人でんでん虫の会

パートタイム労働者の更なる活用に向け、新たな等級制度、賃金制度、評価制度を設計

企業情報

住所 兵庫県加東市
従業員数
  • ・正社員 約20名
  • ・短時間正職 約3名
  • ・パートタイムかつ有期雇用労働者(呼称、非常勤職員)約22名
事業概要 障害福祉サービス事業の経営、特定相談支援事業の経営、障害児相談支援事業の経営

PDFデータ

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要約

  • 法人全体の職員のキャリアパス体系や人事考課体制の見直しの取り組みを進める中、その一環として職務評価を実施。人材確保が難しい昨今の状況下で、経験豊富な非常勤職員により活躍して欲しいと考え、非常勤職員の等級制度を新設するとともに、各等級に求められるコンピテンシー(「職務や役割における行動特性」)も作成し、他の施設に横展開した。現在は、新たに作成した等級制度やコンピテンシーに基づく新しい評価制度の導入を進めている。

背景・目的

 改正パートタイム・有期雇用労働法施行にあわせ、法人全体のキャリアパス体系や人事考課体制の見直しを行う過程で、非常勤職員の職務内容や責任の度合いが事業所によってばらついているという問題点が顕在化した。
 改正パートタイム・有期雇用労働法の施行日が迫ってきたため、これまでの見直しの取り組みが適正か確認すると共に、非常勤職員の業務内容の整理・体系化するため、職務評価をおこなうこととした。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

「非常勤職員の一部を正社員並みに活用する」

 正社員に近い者から補助的なものまで混在している業務内容を整理し、非常勤職員を補助的業務中心にするのか、もう少し上のレベルの業務も担ってもらうのか検討することとした。

② 職務内容の棚卸

 事業所Aでは、雇用形態問わず優秀な職員に仕事を任せるようにしていたことから、正社員と非常勤職員の分担の曖昧さや、正社員と同じ働きをしている非常勤職員の処遇の問題が、法人全体で見ても一番色濃く出ていた。そこで、当事業所で職務評価を実施して非常勤職員の位置づけを整理し、他の事業所へ展開することとした。

■ 職務内容
でんでん虫の家
【①】
◆主な業務の内容
  • ・利用者支援
    (作業準備、就労支援)
  • ・運転業務
    (利用者送迎、配達納品時等の運転)
    ※利用者同乗は年齢制限あり
◆責任の程度
  • ・各業務を担当し、進捗状況の報告が求められる
  • ・イレギュラー事象については、上位者の判断を仰ぐ
  • ・利用者ケース担当なし
主任・サビ管
支援員
支援員 短正
支援員
支援員
支援補助
支援補助

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 比較対象とする正社員は、管理職的立場の正社員では非常勤職員との業務が比較しづらいため、勤務時間が限られているという点で非常勤職員と近い就労形態である「短時間正職」を選択した。

 また、比較対象の均等・均衡待遇の状況を確認するにあたり、

【1. 時間賃率について】

 非常勤職員との待遇の違いとして、短時間正職は基本給のほかに、役職手当と資格手当を支給されており、時間賃率を算出するにあたっては、両者を対象とした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

 3つの観点から確認したところ、全てにおいて違いがあったため、活用係数(※格差の度合いに応じ調整するための計数)を0.7とした。

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 短時間正職 非常勤職員 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 ×
  • ・短時間正職は市内事業場の転勤の可能性があるが、非常勤職員は転勤の可能性がない。
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 ×
  • ・短時間正職は従事する仕事の場所の変更の可能性があり、それに伴い職務の内容も変わる可能性があるが、非常勤職員は職種転換や職務内容の変更の可能性がない。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 ×
  • ・短時間正職は深夜勤務や休日労働があるが、非常勤職員にはこのような対応は求められていない。

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、時間賃率換算にすると短時間正職の方が高く、均等・均衡待遇が確保されていないことを確認した。この理由としては、非常勤職員の賃金は、最低賃金以上という形で決めており昇給がない一方、短時間正職は昇給があるため、就職時には差がなくとも、時間の経過とともに短時間正職と非常勤職員とで差が大きくなったと考えられた。
 検討の結果、非常勤職員の賃金の決定方法を変更したほうがよいという結論に至った。

■ 職務評価結果
職務評価結果のグラフ

均等・均衡待遇の確認結果を踏まえ、同法人では「等級制度、賃金制度、評価制度」を設計することとした。

Step2. 制度設計(等級/賃金)

① 等級(グレード)制度の検討

 正社員の等級制度は従前より設けていたため、非常勤職員の等級制度のたたき台を作成し、このたたき台を元に、各等級に求められるコンピテンシーも作成した。

■ 等級制度たたき台
正社員、短時間正職(役職以外) 非常勤職員
等級名 等級定義 等級名 等級定義
一般社員
(上級)
G3
(22~26)
<周囲を指導できるレベル>
  • ・上司の極めて大まかな指示の下、日常発生する複雑な定型業務を自らの判断で処理できる。
  • ・下級者への指導、上級者に対し適切な意見具申を行える。
一般社員
(中級)
G2
(17~21)
<ひとりで仕事をこなせるレベル>
  • ・上司の大まかな指示の下、定型業務を独力で遂行できる。
  • ・初級者に簡単な定型業務の指導ができる。
  • ・上級者に対し報告・連絡・相談が出来ている。
パート
(アソシエイト職)
A2
(14~21)
<ひとりで仕事をこなせるレベル>
  • ・上司の大まかな指示の下、定型業務を独力で遂行できる。
  • ・A1に簡単な定型業務の指導ができ、上級者に対して報告・連絡・相談が出来ている。
  • ・上司の指示により、決められた手順に従って日常の定型的な繰返し業務を遂行することが出来ている。
一般社員
(初級)
G1
(14~16)
上司の指示により、決められた手順に従って日常の定型的な繰返し業務を遂行することが出来ている。
パート
(サポーター職)
A1
(8~13)
<正社員の社員ランクには到達していない>
  • ・具体的な作業指示を受けながら、与えられた仕事に従事している。
  • ・日々の業務を通じて、少しでも仕事を早く覚えられるよう、努力している。
■ コンピテンシー(抜粋)
評価項目 コンピテンシー
G2
一般社員
一般
(中級)
支援の基礎技術習得(障害特性/介助/コミュニケーション等) ⑥創造的態度 ㉑情報収集 ㉞成長意欲 ㊸継続力
業務記録書き方の習得(連絡帳/日報/計画・報告書等) ㉑情報収集 ㉚伝達力 ㊳ルール厳守 ㊴マナー意識
事務業務基礎能力の習得(PCスキル/メール/エクセル・ワード) ⑥創造的態度 ㉞成長意欲 ㊸継続力

② 賃金制度の検討

非常勤職員
等級 基本給たたき台
上限 中央値 下限
A2 1,050 1,000 950
A1 950 920 900

非常勤職員の等級を二分し、時給の水準も分け、今まで評価できていなかった業務への貢献を時給で評価することにした。
等級は正社員と同じように利用者の担当を持つか否かで、A2・A1に分けることとした。

③ 評価制度の検討

 もともとの評価制度は等級別ではなく、法人一律の基本方針や事業所ごとに決めた項目で評価していたが、経験の長い者(10年以上勤務している者が多い)や役職に就いている者が評価をしているため、この評価方法ではやや不公平感が出てきた。
 そこで、等級の中でやるべき職務を決め、それができているか否かで判断することにした。等級にはコンピテンシーも紐づけ、評価は等級だけでなく、行動指針に対して自発的に学び経験を積めているか等の3本柱で実施することにした。

効果

  • 制度の見直し及びその過程で浮上した非常勤職員の業務整理という課題に対し、改訂した評価制度など納得度の高いものができた
  • 等級制度とコンピテンシーにて、業務について必要な能力が示され「どういった事をすれば自分がステップアップできるのか分かりやすくなった」と概ね好評であった。

課題

  • 長年勤めている職員にいざ新たな等級をあてはめると、下の等級の業務が一部できていないことが分かるという誤差が発生。今後は、その誤差をどう埋めていくか課題である。
  • 他の事業所への横展開もほぼ完了したため、次のステップとして昇給の部分(断続的に引き上げられる最低賃金とのバランスをどうするか)について、引き続き検討したい。
  • 評価と賃金が完全に連動していないところがあるので、どう連動させていくのか課題である。

工夫

各等級で求められる能力の可視化

  • 等級とコンピテンシーの対応関係を示し、各等級に求められる必要な能力を可視化した。

周知活動

  • 新しい人事評価は、各所長に評価の仕方などをレクチャーしていくところから始め、実際に評価をしてみた後、面談も大切にしモチベーションの向上にも結び付けたいと考えている。
  • 新しい評価制度の導入について、本部主催で職員へ説明会を実施。今後は実際に評価を実施してもらいながら疑問点は説明しようと考えている。また、職員へのメッセージの出し方については気を配り、「みんなに成長してもらいたので実施する」という点を強調。名称も、「人事考課」は堅いため、評価をするのは人材育成のためという点を強調し、「人財育成評価」と呼んでいる。更に、新しく作成した非常勤職員用の等級制度を元に、職務説明書を作成した。

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