事例1-2-5 大手製造業

管理職の人事制度設計のために職務評価を活用

同社は、昭和17年(1942年)に創立し、その後、いくつかの会社との編成を経て、昭和60年に現在の社名・組織となりました。同社は、創業以来、ものづくり企業として、とくにウォッチ(時計)開発により磨き上げた超微細・精密加工技術を武器に、多彩な分野に展開したことで発展してきました。現在の同社の事業領域は、情報関連機器(プリンター、プロジェクター)と電子デバイス・精密機器(電子デバイス、ウォッチ、FA)の大きく2つに分類されます。同社はどちらの分野も国内だけでなく、海外でも幅広く展開を図っており、平成23年度の売上高の半分以上は海外が占めるなど、国内を代表するグローバル企業となっています。

職務評価を実施したきっかけ

長期ビジョン実現のための役割基準の人事制度の整備

同社では、現場の力によって新しいものを生み出すといったボトムアップの社内風土の下、個人の職務遂行能力を重視する資格制度を中心とした人事制度を長年の間運用してきました。しかしながら、組織自体が大きくなり、事業も国内外と幅広く展開しているなかで、社内の組織や意思決定ラインが複雑化しており、社内の組織の役割を整理する必要がありました。特に管理職について階層(=役割)に応じて明示する必要があり、平成22年に新たな人事制度の構築作業を開始しました。

当初は、“職務”を軸にした人事制度を検討していたものの、「“職務”では管理職が職務記述書に記載された内容のみしか仕事をやらなくなるのではないか」といった不安がありました。また、同社では、長期ビジョンを設定し、平成27年度(2015年度)の業績目標などを掲げており、この達成のためには従業員に対して①会社から与えられた仕事に加えて、②自らが自主的に広げていく仕事という視点が必要であろうという考え方から、“役割”が適切であると考えて、“役割”を軸に管理職を対象にした人事制度の設計作業を進めることとしました。

同社では、管理職に対して“役割”を軸にした新しい人事制度を構築する上で、対象となる管理職がグループ企業を含め、1,800人いました。事業ドメインも多岐にわたるため、管理職の仕事も様々です。そのため、①管理職の階層の整理、②仕事に応じた処遇を実現するために職務評価を実施しました。

職務評価の実施プロセス

試運転から本稼動まで入念な期間をかけた職務評価の実施

同社は、外部の専門家のアドバイスの下で、課長クラス以上の管理職を対象に職務評価を実施しました。人事部門の担当者が中心となりプロジェクトチームを組成した上で、平成22年10月から平成23年1月までを試行期間とし、まずは部長クラス全体の4分の1に相当する70程度のポジションの部長クラスに部下の課長クラスの管理職の職務評価を実施してもらうことで、役割給を導入するに当たっての試運転(=役割の考え方に慣れる)を行いました。

具体的なステップは、まず、①部長クラスに部下の課長クラスの役割基準書を記入してもらい、次に、②人事部門の担当者がその役割基準書を基に課長クラスの仕事を4軸10要素の視点で職務評価を実施し、最後に、③人事部門の担当者が役割基準書を記入した部長クラスと職務評価の評価スコアの結果をインタビューの中で議論していく流れで進められました【図表】。

【図表】 職務評価の実施プロセス(パイロット期間)

職務評価の実施プロセス(パイロット期間)
出所:ヒアリング調査より

前述の試行期間の終了後、今度は全ての管理職を対象に、同様の流れによる本稼動としての職務評価を実施しました。なお、本稼動を行う前に、人事部門において、試行期間で部長クラスから出た意見の整理を実施しています。具体的には、①役割基準書の整理、②評価スコアを踏まえた階層(=グレード)の整理などが挙げられます。これらを調整した上で、全ての管理職に対しての職務評価を実施し、対象者を9つのグレードに格付けを行いました。

なお、職務評価の結果の処遇への反映については、9つのグレードごとに設定された評価スコアの範囲をベースに、①現在の処遇金額、②外部の専門家の有する賃金データ、③自社の支払能力を踏まえて、新たにシングルレート(昇格以外の昇給は無し)の基本給を設定しました。

職務評価の導入成功のポイントと効果

経営層を巻き込んでの新人事制度の設計

同社では、当初から人事部門だけでなく、社長を含めた経営層を巻き込んで新しい人事制度を設計してきました。そのため、職務評価を行う上で、管理職に対して行うインタビューでは、協力体制を築くことが可能となり、本稼動においても短期間で1,800人全員の職務評価を無事終えることが出来ました。

入念な準備を行った上での管理職インタビューの実施

人事部門の担当者は、職務評価の対象者の仕事について事前に調べ、対象者の仕事について十分に理解をした上で、管理職インタビューを実施しました。

また、管理職インタビューでは、管理職に対して、「なぜこの評価軸を使って職務評価を実施するのか」という点について納得してもらえるよう、評価軸ごとに対象者の仕事を当てはめて具体的に説明するよう心がけました。さらに、管理職インタビューでは、時間を区切らずに丁寧な説明を心がけることを徹底し、管理職に対して、職務評価の理解浸透に努めました。

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