D税理士事務所

 正職員とパートタイム職員の均等・均衡待遇の状況を職務分析・職務評価を行うことで明確にし、今後の等級制度、賃金制度等の制度設計の足掛かりとした。

企業情報

住所 山梨県甲斐市
従業員数 正職員 4名
パート職員2名
事業概要 法人税等の税金の申告書作成、届出等の税理士業務

PDFデータ

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要約

 職員の仕事に対するモチベーション向上のため、職務分析・職務評価を用いて、職務の明確化と等級制度・賃金制度の制度設計について検討した。
 現状の正職員とパートタイム職員の職務内容が言語化されたことで、今まで曖昧であった仕事内容が客観的に明確になった。これによって今後の仕事に対する向き合い方や行動を各職員が具体的に意識できるようになり、毎日の仕事に対するモチベーションと職務遂行能力の向上の実現が期待できるようになった。

背景・目的

 当事務所では、パートタイム職員、正職員の各職員の賃金額を新規採用時に一律一定額として決定し、その後は事業主の評価で昇給額を決定しているため、個々の能力に応じた適切な給与の支給なのかが曖昧な状況であった。
 そのため職員側としても、どのようにすれば昇給するのか不明瞭であり、現状の支給額が自己の能力に見合った額か判断できず、スキルアップのモチベーションに繋がっていなかった。そこで正職員とパートタイム職員の職務を明確化したうえで、職務分析を行い、職務評価制度を導入することで、パートタイム職員の正職員へのキャリアパス体系や仕事に対するモチベーション向上を図ろうと試みた。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

実施目的
  • ・パートタイム職員と正職員との均等・均衡待遇の確認
  • ・正職員とパートタイム職員の職務内容と賃金の比較検討、職員の処遇を明確化
実施者 職務の棚卸・職務評価者 所長
実施対象 正職員4名、パートタイム職員2名
職務評価方法 要素別点数法(パートタイム職員)

 パートタイム職員、正職員ともに職務の定義を明確にし、職務に応じて賃金等を提示することで能力を発揮して事務所に貢献できる組織にしたいと考えた。
 そのため事務所としては同一労働同一賃金の原則に基づき、正職員とパートタイム職員の公正な待遇の確保がなされているかの確認と、どのような対応が必要かを確認する必要があった。そこで税理士業務に従事する正職員4名とパートタイム職員2名の職員を対象とし、対象の職員を正職員1(リーダー)、正職員2(サブリーダー)、正職員3(一般職)、正職員4(一般職)、パートタイム職員5に区分した。

② 職務内容の棚卸

 顧問先の業務が多様で顧問先によって提供する業務内容が違うものと同じものが混在するため、職務の棚卸作業は、区分した職員ごとに業務内容を洗い出して可視化した。

1.リーダー
正職員1 職務内容
◆主な業務内容
  • ・メイン顧問先の決算・申告・月次処理に関する最終判断および管理
  • ・税務調査対応の指揮・調査官との折衝、リスク案件への対応
  • ・高度な会計処理・税務判断を要する案件の対応
  • ・経営分析・改善提案書の作成
  • ・金融機関・他士業・専門家との折衝を含む重要顧問先対応
  • ・顧問先への提案活動・新規顧客開拓を含む対外的な営業・説明業務
  • ・他の職員の申告書等の内容確認と承認、指導・育成
  • ・業務マニュアルの整備・運用
  • ・事務所内の業務改善・品質管理体制づくり
  • ・顧問先への定期訪問・打合せ、試算表など日常業務の最終確認
◆権限・責任の程度
  • ・決算書・申告書・税務調査に関する最終決定権と大口顧問先対応の責任
  • ・所長不在時代理者としての対応および重要方針決定への関与
  • ・顧問料体系・契約内容の判断権限とイレギュラー事案への専門判断
  • ・一般職員への業務配分・指導・評価を含むマネジメント責任
2.サブリーダー
正職員2 職務内容
◆主な業務内容
  • ・顧問先の決算・申告・月次処理に関する最終判断および管理
  • ・月次監査のチェックと、一般職員が行った処理内容の点検・指導
  • ・税務調査における資料説明・質疑応答などの補佐的対応
  • ・法定調書・償却資産申告・各種届出書の作成と内容確認
  • ・顧問先への単独訪問による試算表説明・業績報告・帳簿改善指導
  • ・一般職員の育成・実地指導および業務分担の調整
  • ・分析による経営資料・月次資料作成、提案
  • ・業務マニュアルの更新や標準化業務の整備・運用
◆権限・責任の程度
  • ・中程度までの税務判断・業務処理に関する所内での一次判断権限
  • ・所長・リーダーの不在時の顧問先対応および代行責任
  • ・一般職への業務指示・進捗管理・指導に関する責任
  • ・緊急時やイレギュラー事案の対応判断(上位者への報告前提)
3.一般職
正職員3 職務内容
◆主な業務内容
  • ・小規模企業、個人事業主等を中心とした顧問先の月次監査(担当)
  • ・売上・仕入の仕訳作業および残高確認など決算準備資料の作成
  • ・年末調整における基礎データ入力・確認業務
  • ・法定調書・償却資産に関する入力・資料作成
  • ・顧問先からの資料回収および帳簿指導、監査同行時の補助
  • ・事務所内の庶務対応(書類整理・備品管理など)
  • ・月次資料・決算補助資料・年末調整個票の作成・提出
◆権限・責任の程度
  • ・基本的な税務知識に基づく簡単な決算業務と日常処理の責任
  • ・小規模な個人事業主等への限定的な顧問先対応(標準的な範囲内)
  • ・所定外・休日出勤を対応とその際の報告・連絡・相談の責任
  • ・事案や最終判断については必ず上位者の決裁を仰ぐこと
4.一般職
正職員4 職務内容
◆主な業務内容
  • ・小規模企業、個人事業主等を中心とした顧問先の月次監査(担当)
  • ・月次監査における仕訳入力・照合作業など決算補助
  • ・売上・仕入・給与データの入力と基本的なチェック作業
  • ・年末調整・法定調書・償却資産に関する業務(データ入力・整理等)
  • ・帳票管理・資料ファイリングなど記録管理業務
  • ・資料回収・簡単な帳簿指導を含む監査同行時の訪問補助
  • ・電話・来客対応を含む顧客窓口の一次対応
  • ・事務所内の庶務対応(書類整理、郵送手配など)
  • ・会計ソフトの基本入力操作による日常仕訳処理
◆権限・責任の程度
  • ・定型的な月次・年末調整・決算補助業務の担当者としての処理責任
  • ・所定外労働を原則行わない範囲での業務
  • ・誤り発見や初期判断を行い必要に応じて上位者に報告
  • ・一般的な顧問先対応や重要判断は行わず、上司の指示を受ける
5.パートタイム職員
パートタイム職員5 職務内容
◆主な業務内容
  • ・小規模企業、個人事業主等を中心とした顧問先の月次監査(担当)
  • ・仕訳入力(基本的取引)の正確な処理
  • ・年末調整・法定調書に関する補助作業(データ入力・チェック等)
  • ・証憑整理・スキャン・ファイリングなど書類管理業務
  • ・資料回収レベルの顧問対応
  • ・郵送物の準備・簡単な書類作成
  • ・電話対応(一次受け)および来客対応の補助
  • ・入力資料・整理資料の提出および照合作業結果の報告
  • ・その他、職員が指示する業務
  • ・業務範囲は明確に限定
◆権限・責任の程度
  • ・指示された範囲内での定型作業(入力・整理等)の正確な遂行責任
  • ・業務ミスについての最終確認を前提とした業務確認・報告責任
  • ・イレギュラー対応や判断が必要な案件には職員に引き継ぐ責任
  • ・他の職員の指示の範囲外の行動を行わないこと

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 パートタイム職員・正職員ともに、基本給のみを計算に含めて時間賃率を計算した。活用係数の設定にあたり、人材活用の仕組みや運用の違いについて、正職員とパートタイム職員とを比較すると、「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について以下のような違いがみられた。

  • ・「転勤等、働く場所の変更可能性」について、正職員、パートタイム職員ともに変更の可能性はない。
  • ・「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」について、正職員は、変更の可能性があるが、パートタイム職員は変更の可能性はない。
  • ・「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について、正職員は、変更の可能性があるが、パートタイム労働者は、変更は原則ない。

 以上の人材活用の仕組みや運用の違いを踏まえ、活用係数は「0.9」とした。

④ 職務評価

 これらを踏まえ、職務評価ツールを用いて正職員とパートタイム職員の間で基本給について均等・均衡待遇が図られているか確認した結果、おおむね均等・均衡が図られていることを確認した。 なお、パートタイム職員の時給が違った理由は、勤続年数と責任の程度が異なるためであった。

プロット図①パートタイム職員と正社員の比較

Step2. 制度設計

① 正職員転換制度の導入

 同事務所では、正職員及びパートタイム職員が職務内容と権限や責任の程度に基づいたキャリアパスについて基本的な理解が出来ていることから、今後は、パートタイム職員が働き続けられる環境を整備し、職務能力やモチベーションを更に向上させるための正職員転換制度の導入に向けた準備を行っている。

② 賃金制度、等級制度の検討

 正職員、パートタイム職員の昇給においては毎年評価等を行い、その結果を反映している。さらに、職務能力やモチベーションを更に向上させるため、能力、責任に応じて客観的に理解できる等級制度、賃金制度に変更するための準備を現在行っている。今後の制度設計に向けて、センターのコンサルタントより職務給に基づいた等級制度、賃金制度案の指導を受けている。

③ 評価制度の検討

 同事務所では現状の支給額が自己の能力に見合った額か職員自身で判断できず、スキルアップのモチベーションに繋がっていなかった。そこで各職員がどのような仕事をして成果を上げれば昇給・昇格するかを明確にするため、今回取り組んだ職務分析・職務評価の結果を踏まえて職員各自が自己の現状の立場を認識し、それぞれの等級に応じて1年に1度「目標設定による行動」、「仕事に取り組む姿勢」、「仕事に対する考え方」の結果を所長と職員自らが評価することで、構築した賃金制度に反映させる評価制度の導入を考えている。

組織図

組織図

【支援開始後の状況を反映した等級制度のイメージ図】
 正職員、パートタイム職員の職務ポイントと格付け(等級)、および、パート・有期に係る 活用戦略を基に等級制度の段階数を検討。

支援開始後の状況を反映した等級制度のイメージ図

効果

 今回の職務分析・職務評価の実施では、現状の正職員とパートタイム職員の職務内容が言語化されることで、今まで曖昧だった仕事の内容が客観的に明確になった。今後の仕事に対する向き合い方や行動を各職員が具体的に意識できるようになることで毎日の仕事に対するモチベーションと職務遂行能力の向上が実現し、更に採用においても優秀な人材の獲得が期待できる。

課題

 今後の正職員とパートタイム職員の等級を設定するに際し、職務分析・職務評価により待遇の確認をした結果、現在の正職員・パートタイム職員ともに、「業務内容・業務量・能力」と賃金とを関連付けることが難しかった。そのため今後は、各人が職務に対してどのような能力があればどのくらいの等級でどのくらいの賃金になるかということをよりわかりやすく規定していくことが必要であると考えている。

今後の展望

 今回は職務評価を行う際に、現状の職務を忠実に言語化することに焦点を当てた。また、職務構造表を作成する際には、正職員、パートタイム職員各自の共通の職務内容や異なる職務内容を意識して言語化した。改めて言語化することで現状の職務内容が明確になり今後の昇給や採用といった将来に向けた人事戦略が明確になったと感じた。具体的にはこの職務分析・職務評価制度が適正に運用され、更に今後導入を検討している等級制度、賃金制度、評価制度と連動されることで職員の働きやすさやモチベーション向上の実現につながり、優秀な人材の採用が可能になることが予想される。

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