事例1-1-8 飲食店(中華料理店)
職務評価を用いてパートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況を確認した上で、パートタイム労働者の格付け制度、賃金制度を整備した事例
1. 企業概要
所在地 | 東京都 |
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従業員数 | 約1,800名 うち、パートタイム労働者約1,300名 |
主な事業内容 | 飲食店 |
2. パートタイム労働者に関わる人材課題
同社は全国に飲食店を約40店舗、デリカショップを約10店舗運営している。職種としては大きく「調理部門」と「サービス部門」に分かれる。
まず、調理部門についてはこれまで正社員を新卒で採用して長い時間をかけて社内で育成していくという人材活用モデルであった。そのため、パートタイム労働者の職務の範囲は狭く、洗い場や野菜のカット等の調理補助が中心であった。しかしながら、正社員の採用も年々厳しさを増しており、パートタイム労働者にこれまでよりも幅広い職務を担ってもらう必要が増してきた。
一方で、サービス部門については、調理部門とは対照的に、正社員よりもパートタイム労働者の人数が圧倒的に多い状況にあり、既に正社員並みの仕事をこなしているパートタイム労働者も少なからず存在していた。そのため、優秀でやる気のあるパートタイム労働者の定着、つなぎとめを図る必要性が高まっていた。
3. パートタイム労働者の人事制度の概要
元々は、パートタイム労働者に対する格付け制度は整備されていなかった。そこで、職種別に職務内容を棚卸して、格付け制度を整備した。等級は調理部門で5段階、サービス部門で6段階とやや細かく区分することとした。これは、キャリアステップを細分化することで、モチベーションを高めることを狙ったためである。
図表1.パートタイム労働者の格付け制度(調理部門)
洗い場・ 下処理 |
デザート | 麺 | 揚げ | 前菜 | 鍋 | |
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調理 (パ)5 |
食器の洗浄、厨房の整頓、野菜の下処理の全てを担当している | 季節に合わせたデザートづくりを担当している | 麺料理の調理の前段階(蒸し麺の作成等)の全てを担当している | 揚げ物全般を担当している。 | 前菜料理の仕込みや調味、タレの作成を一通り担当している | 一品料理の「炒める」、「焼く」といった作業の一部を担当している |
調理 (パ)4 |
デザートづくりを担当している | 一部の前菜料理の仕込みや調味、一部のタレの作成を担当している | 指導を受けながら、一品料理の「炒める」、「焼く」といった作業の一部を担当している | |||
調理 (パ)3 |
麺料理の調理の前段階(蒸し麺の作成等)の一部のみを担当している | 指導を受けながら、揚げ物全般を担当している。 | - | |||
調理 (パ)2 |
食器の洗浄、厨房の整頓、野菜の下処理の一通りの作業を担当している | 指導を受けながら、デザートづくりを担当している | 指導を受けながら、麺料理の調理の前段階(蒸し麺の作成等)の一部のみを担当している | - | - | |
調理 (パ)1 |
指導を受けながら、食器の洗浄、厨房の整頓、野菜の下処理の作業を担当している | - | - | - |
賃金制度は、それぞれの格付けごとに支給額の上限値と下限値を定める範囲給を設定することとした。こうすることで、基本の時給は職務内容や役割に応じて決まる仕組みになった。各等級の範囲給の範囲内で査定昇給を行うこととした。具体的な人事評価項目については、今後検討していく。
地域における人材確保の困難さに応じて、既に個別の店舗ごとに時給設定に差を設けていたため、その差は維持することとした。
4. 要素別点数法の導入目的と活用状況
正社員とパートタイム労働者の均等・均衡待遇の確認、パートタイム労働者の格付け制度の検証、格付けに応じた賃金制度の導入を実現するため、要素別点数法による職務評価を実施した。
ヒアリングの結果、調理部門とサービス部門、両者のパートタイム労働者と正社員の下位等級者(調理部門:調理(正)1~3等級、サービス部門:サービス(正)1~3等級)との間で、職務内容に重複があることが懸念されたため、パートタイム労働者と正社員の下位等級者との間で、職務評価を用いて均等・均衡待遇の確認を行うこととした。
職務評価を実施する際には、まずパートタイム労働者の職務内容の棚卸しと職務説明書の作成を行い、職種ごとにパートタイム労働者のレベル区分(等級区分)を5~6区分とした。
次に、それぞれの職種・等級ごとに、パートタイム労働者および正社員の下位等級者の中から、ベンチマーク社員を抽出し、職務評価を実施した。
パートタイム労働者の格付け制度の検証においては、上記で区分した5~6等級の格付けに対して、それぞれ対応する社員の職務ポイントを平均することで、格付けの職務ポイントを算出した。
パートタイム労働者の格付け制度と職務評価の結果は下記の通りである。
図表2.パートタイム労働者の格付け制度と職務評価の結果
サービス部門
パートタイム労働者 | 対応関係 | 正社員 | ||
---|---|---|---|---|
役割等級 | 職務ポイント | 職能資格 | 職務ポイント | |
サービス(パ)6 | 23.0 | ⇔ | サービス(正)3 | 22.7 |
サービス(正)2 | 20.0 | |||
サービス(パ)5 | 18.7 | |||
サービス(正)1 | 16.0 | |||
サービス(パ)4 | 13.3 | |||
サービス(パ)3 | 10.7 | |||
サービス(パ)2 | 9.0 | |||
サービス(パ)1 | 8.0 |
調理部門
パートタイム労働者 | 対応関係 | 正社員 | ||
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役割等級 | 職務ポイント | 職能資格 | 職務ポイント | |
調理(正)3 | 17.0 | |||
調理(パ)5 | 14.67 | ⇔ | 調理(正)2 | 14.7 |
調理(パ)4 | 13.0 | 調理(正)1 | 13.0 | |
調理(パ)3 | 10.0 | |||
調理(パ)2 | 9.0 | |||
調理(パ)1 | 8.0 |
職務評価の結果、調理部門では、パートタイム労働者の調理(パ)5と正社員、調理(正)2が均等・均衡待遇における対応関係にあり、営業サービス部門では、パートタイム労働者のサービス(パ)6と正社員、サービス(正)3が均等・均衡待遇における対応関係にあたることが検証された。なお、正社員の調理(正)1およびサービス(正)2、サービス(正)1は、エントリー層であるため、均等・均衡待遇における対応関係とならない。
賃金制度の設計にあたっては、まず各部門の上限値を設定した。調理部門では、パートタイム労働者の調理(パ)5と均等・均衡上対応関係にある正社員、調理(正)2の時間賃率を調理(パ)5の時給として設定した。サービス部門ではパートタイム労働者のサービス(パ)6と均等・均衡上対応関係にある正社員、サービス(正)3の時間賃率をサービス(パ)6の時給として設定した。
次に下限値については、各部門の下限にあたる調理(パ)1、サービス(パ)1について、最低賃金や人材確保の観点を考慮して決定した。調理(パ)2~4、サービス(パ)2~5については上限値と下限値の範囲内で設定を行った。
5. 均等・均衡待遇の状況
正社員の調理(正)2およびサービス(正)3とそれぞれ対応関係にあるパートタイム労働者の調理(パ)5とサービス(パ)6は職務ポイントがほぼ同じであり、時間賃率では、正社員のサービス(正)3とパートタイム労働者のサービス(パ)6が均衡していたものの、正社員の調理(正)2とパートタイム労働者の調理(パ)5とでは調理(パ)5の時間賃率が若干低い状況であった。なお、パートタイム労働者の時間賃率は時給に加えて、1か月単位で支給される職責手当と6か月ごとに支給される賞与を含んでいる。一方で正社員の時間賃率は、基本給と職責手当の合計額を1か月の所定労働時間で割ったものに、年間賞与額を1年間の所定労働時間で割ったものを加えることで算出した。今回の人事制度改訂により、パートタイム労働者の調理(パ)5の時間賃率を正社員の調理(正)2と同じ水準に設定したため、均等・均衡待遇が確保されることとなる。
図表3.職務評価の結果と均等・均衡待遇の状況
6. パートタイム労働者の人事制度により得られた効果
現在制度設計を終え、3月の従業員説明会の準備を行っており、本格的な制度導入は来年度以降になることが予想される。制度による効果は、導入後に改めて検証していく必要があるが、パートタイム労働者の職務範囲と処遇との関係が明確化されたことで、職務範囲を広げることへのインセンティブとしての機能を果たすことが予想される。また、格付け制度によりキャリアステップが明確化されたことで、優秀でやる気のあるパートタイム社員の定着、囲い込み等に寄与するものと思われる。
- Point
- 好事例として参考にして欲しいポイント
これまでは、パートタイム労働者についてきちんとした格付け制度が無く、処遇を決める根拠が明確でなかった。今回の人事制度改訂では、具体的な作業項目レベルでの職務内容の棚卸しを行い、職務評価を活用した格付け制度や賃金制度を整備したため、職務や役割と処遇の結びつきが明確になったことが一番のポイントと言える。