事例2-1-2 大手卸小売業

職務分析・職務評価結果を活用した業務の標準化とパートタイム労働者の役割等級制度の構築

同社は、日用生活品を中心に開発、製造、販売を行っている企業で、国内および海外に多くの店舗を展開しています。
1980年代の創業以後、多店舗展開をし、現在に至っています。

職務評価を実施したきっかけ

同社では、創業後、多店舗展開していく戦略を採用しました。効率よく多店舗展開していくためには、業務の標準化を図ることが必須だと判断した当時の経営層は、店舗業務のマニュアル化をしました(以下、「店舗業務マニュアル」とします)パートタイム労働者の業務内容や人事評価もこの「店舗業務マニュアル」をベースに設計されており、人材育成の際にも活用されています。

また、「店舗業務マニュアル」は定期的にメンテナンスされており、普段の仕事の中で改善すべき項目が発生した場合は、社内イントラを通じて改善提案がなされています。パートタイム労働者の役割も「店舗業務マニュアル」を通じて規定されており、正社員との仕事の違いも明確に定められています。

同社では、この「店舗業務マニュアル」を作成するプロセスに、職務分析・職務評価(分類法)の手法を活用したと判断されます。本事例では、この「店舗業務マニュアル」の作成プロセスを通じて、職務分析・職務評価の実施のプロセスについては、以下のとおりです。

職務評価の実施プロセス

「店舗業務マニュアル」が整備される以前は、パートタイム労働者に社員ランクの仕組みはありませんでした。多くの場合、パートタイム労働者の時給や担当する仕事は店舗ごとに決めていました。ところが、担うべき仕事の定義や基準が不明確なまま、時給決定がなされると、ベテランのパートタイム労働者ほどモチベーションが上がりにくいといった問題や、店舗全体の仕事の標準化がなされていないという問題が生じていました。そこで、店舗運営に関するパートタイム労働者の仕事の標準化(「店舗業務マニュアル」の作成)を実施し、役割等級制度を構築することになりました。

【図表1】 役割等級制度の設計プロセス(職務分析・職務評価の実施プロセス)

役割等級制度の設計プロセス

現場管理者である店長が仕事を洗い出し、店長をヒアリングすることにより、網羅的に仕事内容を把握

仕事の標準化を進めるにあたり、まず、①にあるように店舗店長に、店舗内の仕事を洗い出してもらいました【図表1】。具体的には仕事内容を書き出してもらうアンケート調査を行い、網羅的に仕事内容を把握しました。その上で、詳細な内容をヒアリングで確認しました。ヒアリングは複数回実施され、店長たちの意見を聞きつつ、集められた情報の整理を行いました。洗い出された仕事は、大項目、中項目…と整理され、最終的に業務マニュアルである「店舗業務マニュアル」としてまとめられました。

この「店舗業務マニュアル」は、店舗運営の基礎となるものであるため、どのような店舗でもすぐに対応できるよう、現在も日々更新されています。店舗運営をしている正社員やパートタイム労働者から、日々の業務の問題点や改善点を吸い上げる仕組みを構築しました。従業員からの問題点、改善点を店舗運営担当者が集約し、必要により「店舗業務マニュアル」の改定が定期的に行われています。

洗い出された仕事をもとに役割等級制度を整備

以上のような「店舗業務マニュアル」の整備を経て、③にあるパートタイム労働者の役割等級制度の整備に取りかかりました。従業員の経験や熟練により担える業務に差があることから、「何年目でどんな仕事をしているのか」ということを分析し、その仕事内容に応じた社員ランクを設定しました(※1)【図表2】。

「パート」「アルバイト」は4段階の階層となっています。パート1等級、パート2等級は、「レジうち」や「お客様対応」等の基本的な業務が中心です。パート3等級になると、「店舗の各売り場管理」といった責任を伴った仕事を担うようになります。パート4等級は、「店舗リーダー」と呼ばれ、店舗の中でも中心的な役割を果たしています(※2)。なお、パートとアルバイトは労働時間に違いがあるだけで求めている仕事は同じになります。

※1 平成24年8月現在の仕組みです。今後制度改定で変わる可能性があるとのことでした。
※2 同社の標準的な店舗は一人の正社員以外は、すべてパートタイム労働者で運営されており、パートタイム労働者が中心的な役割を担っています。

【図表2】 役割等級制度イメージ

役割等級制度イメージ

職務評価の導入成功のポイントと効果

店舗業務の標準化が可能になった

「店舗業務マニュアル」が整備される前までは、各店長の裁量により店舗運営がなされていました。同社のブランドイメージがある程度消費者に認知されていたとしても、店舗ごとに店長のカラーが出てしまっていたとの問題意識がありました。「店舗業務マニュアル」を整備したことにより、店舗の効率的な運営と業務の標準化を行うきっかけを作ることができました。店舗に携わる正社員やパートタイム労働者も自分たちのやるべき仕事が明確になり、働きやすくなりました。同社として、どのような戦略や方針をとっているのか、従業員に対してわかりやすく説明することができ、ブランドイメージ向上の基盤整備につながりました。

役割等級制度の構築によりパートタイム労働者のモチベーション向上につながった

店舗業務マニュアルに定められている仕事をもとに、4段階の役割等級制度を構築したことにより、パートタイム労働者(特にパート)の仕事の達成基準がわかりやすくなり、何ができるようになると次の等級に昇格できるかというキャリアパスが明確になりました。

また、売り場の管理や店舗運営に責任のあるパート4等級は店舗業務マニュアル作成時に作られた評価シートを活用し、仕事の振り返りや育成、賞与の決定等に活用されています。その結果、自身の改善点を上司と共有化できる人材育成の仕組みが構築できたことから、従業員のモチベーションアップにつながっています。

パートタイム労働者から正社員転換する際のベースを作ることができた

割等級制度が整備されたことにより、正社員とパートタイム労働者との比較が容易になり、その結果、パート3等級、パート4等級の従業員が正社員1等級に正社員転換をする制度を導入することができました。

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