学校法人B

均等・均衡待遇が図られているか確認したうえで、組織運営を支える有期雇用労働者の更なる活用に向け、実際の役割に応じた新たな等級制度や賃金制度を検討した事例

企業情報

住所 大阪府
従業員数
  • ・正社員(呼称、正規教職員) 約20名
  • ・有期雇用労働者 約30名
  • ・パートタイム労働者 約30名
事業概要 教育、学校支援業

PDFデータ

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要約

  • これまで、正社員や有期雇用労働者の仕事内容の実態に則した職務基準が存在しなかったが、職務評価コンサルティング支援を通じて、新たな等級制度の案を策定したことで、組織、職務権限基準の制定を前提とした人事制度の見直し機会を得た。

背景・目的

 同法人では、正規教職員と非正規教職員では非正規教職員が多数を占めており、同一労働同一賃金に係る改正法の規定に非正規教職員の処遇が対応できているのか懸念があったため現状確認をしたいと考えていたが、当時は、正規教職員も含め職務基準のような制度自体がなく、したがって評価基準も存在しなかった。そのため、職務評価コンサルティングを通じて、現在の職務内容の可視化し均等均衡待遇が図れているか確認したうえで、制度設計の検討を進めることとした。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

「非正規教職員の一部を正規教職員並みに活用する」

 学校運営は正規教職員だけでは賄えない現実があり、非正規教職員の力が必要である。非正規教職員の中には正規教職員とほぼ変わらない職務を担っている。但し、非正規教職員に主任業務などまで任せるかは、能力及び適正に応じて判断し抜擢しているため、飽くまで一部を正規教職員なみに活用する」こととした。

② 職務内容の棚卸

 対象範囲は、非正規教職員の中でも、週5日勤務の有期雇用労働者と週3日勤務の有期雇用労働者とした。対象とした理由は以下の通りである。

  • ・週5日勤務の有期雇用労働者:社員全体の30%を占めている。正規教職員との働き方の違いは雇用期間の差のみであり、同じ人材活用の運用がなされている。
  • ・週3日勤務の有期雇用労働者:正規教職員に近い業務をしている。

補足)週3日勤務の労働者の中には無期雇用労働者もいるが、無期雇用労働者は対象外としている。

■ 職務内容

正規教職員は、役職に応じてA~Cのグループにわけ棚卸を実施。非正規教職員は、週3日の有期雇用労働者と週5日の有期雇用労働者にわけ棚卸を実施した。

区分 【非正規教職員 (週3日)】
◆主な業務の内容
  • ・クラスの運営
    (担当クラスにおいて、クラスルームやメールを通じて連絡事項の伝達)
  • ・面談、懇談の実施
    (担当クラスにおいて、面談や懇談を実施し、連絡やその他学校生活の支援を行う)
◆責任の程度
  • ・部下はいない
  • ・担当する学級についての運営管理が求められる
  • ・トラブル対応
    (担当する学級についてのトラブル対応と上司への報告が求められる)
正規教職員 Aグループ(校務分掌主任及び副主任)
正規教職員 Bグループ(学年主任及び副主任)
正規教職員 Cグループ(教科主任)
非正規教職員 (週5日)
非正規教職員 (週3日)

各区分ごとに作成し比較

 職務内容の棚卸の結果、非正規教員(週5日)の職務内容が、場合によっては正規教職員よりも高いレベルを担っていることが分かった。

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 均等・均衡待遇の状況を確認するにあたり、以下を整理した。

【1. 時間賃率について】

 基本給は、正規教職員と非正規教員(5日)は基本給に加え教務関係手当、学年主任関係、教科主任関係の3つを含めた。非正規教員(3日)は時給とした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

 3つの観点から確認したところ、正規教職員と非正規教員(週5日)は差異がないため、非正規教員(5日)は活用係数(※格差の度合いに応じ調整するための計数)を1とした。一方、非正規教員(週3日)は、正規教職員は年度ごとに主任や授業以外の学校運営の役割を担当する必要があるが、非正規教員(週3日)はその役割が無いことから、活用係数を0.9に設定した。

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 正規教職員 非正規教員
(週5日)
非正規教員
(週3日)
相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 × × ×
  • ・なし
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 ×
  • ・正規教職員は年度ごとに主任や学校運営上の役割を担う必要がある。非正規教員(週5日)も同様に主任などの公務を担う可能性がある。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性
  • ・非正規教員(週3日)は、イベントなどは勤務日以外でも参加。ピンチヒッターの優先度は低い
  • ・非正規教員(週5日)も役割に応じて、専任教員か否かに関わらず、同様に時間外対応などが求められる。

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、正規教職員と非正規教員間、また正規教職員内でも職務評価ポイントと時間賃率に乖離があり、均等・均衡待遇が図れていないことが分かった。
 本学校法人はこれまで職能給を採用していたため、職務ポイントが低くてもベテラン(勤続年数・年齢が高い)ほど、高い賃金が支払われている結果であった。また、若手の教員の方が実際は担う役割が大きく、職務ポイントは高いにも関わらず、賃金はその実態と合っていないことが改めて確認された。

■ 職務評価結果(非正規教員(週5日)の場合)
職務評価結果(非正規教員(週5日)の場合)のグラフ(パターン1)
職務評価結果(非正規教員(週5日)の場合)のグラフ(パターン2)

※パターンの詳細説明は後続の「工夫」を参照

Step2. 制度設計

① 等級(グレード)制度の検討

 職務評価の結果をうけて、まずは、全教員を職務評価ポイントでマッピングし、整理し直した新たなランク付けを策定。正規教職員の一番下のS5と非正規教職員の一番上のランクが揃うようにした。

■ 職務評価ポイントのマッピング(抜粋)
職務
ポイント
非正規教職員タイプの社員no.および格付け   正規教職員の社員no.および格付け
社員no. 格付け 社員no. 格付け 社員no. 格付け 社員no. 格付け 社員no. 格付け
19 J1 T5 J2 T5 J3 T5        
19 J10 T5 J11 T5 J12 T5        
19 JJ_1 T5 JJ_3 T5 JJ_4 T5        
18                    
■ 等級制度のたたき台
非正規教職員 正規教職員
等級名 職務ポイント 等級定義 基本給(※時間賃率) 等級名 時間賃率(参考値)
上限 中央 下限 上限 中央 下限
T6 25
  • ・各種主任を担う
  • ・役割の範囲内において、取りまとめを行う。
2,000 1,935 1,870 S5 2,594 2,269 1,944
T7 19
  • ・教科担任の他、クラス担任を受け持つ。
1,845 1,780 1,715        
T8 15
  • ・教科担任として授業を行う。
1,690 1,650 1,610        

② 賃金制度の検討

賃金制度は、非正規教員(週5日)と非正規教員(週3日)について、正規教職員の一番下のS5ランクを基準に、新等級ごとの賃金及び昇給の範囲を検討した。新しい等級制度の導入をまずは検討予定であり、作成した賃金制度に基づく賃金制度改訂の着手はその後を予定している。

③ 評価制度の検討

コンサルティング支援後、評価制度のベースとなる職務基準を現在作成中であり、来年度には完成予定としている。新しい職務基準に基づいた新しい評価基準も次いで作成予定であり、数年以内に導入できればと考えている。

効果

  • これまで職能評価を実施していたが、職務評価の結果をに応じ、今後役割に応じた評価をおこなう場合は、今までの評価方法を大きく変えなければならない証明ができた。
  • 現状分析から、課題点を明らかにすることができた。
  • 現状分析を通じて、正規教職員の制度も改訂が必要であることが分かった。
  • 人事システム等を検討する前に、まずは組織の決まり、構造、役割の定義など人事制度を超える全体の見直しの必要性に気付くことができた。

課題

  • 当初目標としていた賃金制度を改革するところまでは達成できていない。
  • 非常勤教職員の制度改訂の前に、まずは正規教職員の制度改訂に着手しなければならない状況。

工夫

職務内容の棚卸

  • 職務内容の棚卸の際、正規教職員は役職に応じて区分をA~Cに分け、非正規教職員と差が分かりやすく明確になるようにした。

均等・均衡待遇の状況確認方法

  • 今回、職務ポイントを付ける際、2パターンでの確認をおこなった。1つ目のパターンは、各役割を職務評価で点数付けし、担当する役割に応じて足し合わせる方法である。結果として、一部の教員間では差がつかなかったが、正規教職員は、「クラス担当」という役割を担う比率が高く圧倒的に多いことを確認した。これにより、「クラス担当」という役割を基準に、より明確に評価を分けられるということが分かった。
    2つ目のパターンは、この「クラス担当」を基準に、追加的に行う役割を加点方式で計算した。

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