A社

職務内容が異なる契約社員の待遇を、実態に合わせた形で賃金や評価に反映させるため、新たな等級制度や賃金制度を設計

企業情報

住所 大阪府
従業員数
  • ・正社員 約26名
  • ・パートタイム労働者、有期雇用労働者及び無期転換者(呼称、契約社員) 約64名
事業概要 公共施設の運営

PDFデータ

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要約

  • 一部契約社員を正社員の指導職レベルで活用できるよう、契約社員の職務を明確化したうえで、正社員と契約社員双方に対応した評価制度を検討。また、制度を導入することで、契約社員のキャリアパス体系やモチベーション向上を図ろうと試みている。

背景・目的

 同社は、契約社員などの職務を明確化し、職務範囲の拡大を通じた待遇改善をおこないたいと考えていた。一方で、実態としては契約社員の中でも、高度な業務を担当する者と単純な業務に担当する者が混在し、職務内容が評価が賃金に十分に反映されていない状態であった。また、契約社員は、キャリアパスに応じた昇給制度がないため、高度な職務をこなす者に対しては、必要に応じて採用時に賃金を引き上げ対応していた。
 こういった実態の改善を図り、一部契約社員を能力に応じて、正社員の職務区分の指導職や一般職(正社員の職務区分は、①管理職②指導職③一般職の3つ)と同等レベルで活用すべく、従前から知っていた職務分析・職務評価を実施することとした。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

「一部契約社員について、正社員でいう「指導職」の職務レベルまで活用できるようにする」

 これまで契約社員は勤務時間と時間帯で限定的に活用しており、大半は補助業務に従事していた。今後は、契約社員のモチベーション向上・キャリア形成支援・有効活用の観点からも、正社員の職務区分でいう指導職レベルまでの活用を目指すこととした。

② 職務内容の棚卸

 職務内容の棚卸は、事務職で勤務する職員の職務の内容をほぼ網羅できることを理由に、全社のうち施設A、施設B及び施設Cの3施設の勤務者を対象とした。

■ 職務内容の棚卸
【1. 部門】
  • ・施設A
  • ・施設B
  • ・施設C
【2. 対象とした契約社員のタイプ】
  • ・契約社員(パートタイム)
  • ・契約社員(フルタイム)
  • ・契約社員(無期雇用)
【3. 対象とした職種】
  • ・施設運営事務の補助
    (事務職以外の業務に従事する者は、正社員に対応する職種がないので含めていない)

◆主な業務の内容
◆責任の程度

棚卸の実施、差異の確認

 棚卸の結果、職務内容は想定していたとおり、契約社員の大半が補助業務となっていたが、一部、正社員と同じ役割を担っている契約社員も見受けられた。

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 比較対象の均等・均衡待遇の状況を確認するにあたり、「比較対象それぞれの時間賃率」と「比較対象の人材活用の仕組みまたは運用の違い」について以下のように整理した。

【1. 時間賃率について】

 契約社員との待遇の違いとして、正社員は基本給のほかに、役職手当を支給されており、時間賃率を算出するにあたって対象とした。職務と関係がない、通勤手当、家族手当(正社員のみに支給)は時間賃率には含めないこととした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

 3つの観点から確認したところ、運用に多少の違いがあるものの、職務内容の棚卸の結果のとおり、実態としては大半の契約社員の職務が“補助業務”となっていた点も考慮し、活用係数(※格差の度合いに応じ調整するための計数)はすべて1に設定した。

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 正社員 契約社員
(フルタイム)
契約社員
(パートタイム)
無期雇用契約社員
転勤等、働く場所の変更可能性
X市内
× ×
X市内
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性
事務職内

事務職内
×
事務職内
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、以下の見解に至った。

  • ・現時点では均等・均衡待遇は実現されていると判断。
  • ・職務ポイントが3つの群に集まる傾向については、法人として、今後契約社員の人事制度の在り方を踏まえ検証。
  • ・正社員との差が無いとした際に、契約社員を活用するとなると、やはり制度設計が必要。
■ 職務評価結果
職務評価結果のグラフ

Step2. 制度設計(等級/賃金)

① 等級(グレード)制度の検討

 同社では、これまで正社員は役割に基づく等級制度があったが、契約社員には等級制度は設けられていなかった。今回の取り組みにより職務評価による業務の整理を踏まえた、契約社員にも適用できる新等級制度のたたき台を作成した。

 作成にあたっては、既に存在していた正社員の等級制度をもとに、それに見合った契約社員の等級を当て嵌めながら作成を進めた。

■ 等級制度たたき台
契約社員 対応する正社員
    M-1
(管理職)
大規模組織の責任者もしくは最高歴の専門職・熟練者。広範かつ統合的な判断・意思決定を行い、組織運営を先導・創造する業務を遂行
【役職】:課長・課長代理・大規模施設長・プロジェクトマネージャー
専門職
(責任者)
専門職で業務の責任者および施設庁を補佐。 S-1
(指導職)
中規模組織の責任者もしくは高度の専門職・熟練者。上位方針を踏まえて管理運営・計画作成・業務遂行・問題解決を行い、組織運営を推進
【役職】:係長・施設長・プロジェクトリーダー
専門職S
(仮)
無期専門職にいる正社員転換候補者を早期に選抜・登用する等級として設定 J-2
(一般職)
グループやチームの中心メンバーとして、創意工夫を凝らして自主的な判断・改善・提案を行いながら業務を遂行
【役職】:主任・チーフ
専門職 10年以上の長期勤務で無期雇用となった契約社 J-1
(一般職)
担当者として、上司の指示・助言を踏まえて定例的業務を遂行
【役職】:スタッフ
一般職 1週37時間30分の常勤職員 J-0
(一般職)
担当者として、上司の指示・助言を踏まえて定例的業務を遂行
【役職】:スタッフ
短時間 1日4時間30分または4時間45分の非常勤(短時間)職員に区分

② 賃金制度の検討

賃金制度も等級制度同様に以下のように整理した。

新・等級名称 職務
ポイント
新・等級定義 新・基本給
※時間賃率
  対応する正社員
格付け制度
時間賃率(参考値)
※基本給÷所定内労働時間(7.5h/1日・20日)×活用係数 ※下段は月額
上限値 中央値 下限値 上限値 中央値 下限値
            ①管理職(M-1) 3,094
(464,200)
2,750
(412,500)
2,405
(360,800)
①専門職(責任者) 30P 専門職で業務の責任者および施設長を補佐 2,000   1,800 ②指導職(S-1) 2,620
(393,000)
2,296
(344,400)
1,972
(295,800)
②専門職S(仮) 23P-25P
  • ※指導職(J-2)⇒指導職(S-1)相当
無期専門職にいる正社員転換候補者を早期に選抜・登用する等級として設定
1,970   1,600 ③一般職(J-2) 2,240
(336,100)
1,935
(290,350)
1,630
(244,600)
③専門職 16P-20P 10年以上の長期勤務で無期雇用となった契約職員 1,566   1,367 ④一般職(J-1) 1,866
(280,000)
1,603
(240,550)
1,340
(201,100)
④一般職 13P-16P 1週37時間30分の常勤職員 1,133   1,066 ⑤一般職(J-0) 1,684
(252,700)
1,434
(215,200)
1,184
(177,700)
⑤短時間 8P-11P 1日4時間30分または4時間45分の非常勤(短時間)職員に区分 1,030   1,022

効果

  • 今後、無期雇用契約社員を正社員に転換する方向性で対応を進めているため、職務内容が可視化できたことで、無期雇用契約社員を今後どのように活用したらよいのか検討しやすいベースをつくることが出来た。
  • 今後、今回のコンサルティング支援の内容を踏まえ、正社員への職務分析職務評価の導入も検討している。

課題

  • 今後、策定した制度の導入を検討する際、職務評価ポイントを付けるには、異なる職務を客観的に評価する基準が必要なため、今後も慎重な検討が必要だと考えている。

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