社会福祉法人 蕗の会

有期雇用労働者と正社員の均等・均衡待遇の確認を行い、その結果を踏まえて正社員と有期労働者に共通の等級制度を設計

企業情報

住所 東京都八王子市
従業員数
  • ・正社員(呼称、正職員) 約12名
  • ・有期雇用労働者 フルタイム(呼称、有期フルタイム職員) 約40名
  • ・有期雇用労働者 パートタイム(呼称、有期パートタイム職員) 約45名
事業概要 生活介護(障害者福祉サービス)、就労継続支援A,B型(障害者福祉サービス)、放課後等デイサービス、ショートステイ、日中一時支援、不燃物処理事業(障害者の一般就労)

PDFデータ

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要約

  • 有期雇用労働者を対象に、職務分析・職務評価を実施し、均等・均衡待遇が図られているかを確認した。その結果、是正が必要な点が確認されたため、有期雇用労働者と正職員共通の等級制度と賃金制度を設計した。

背景・目的

 福祉業界は他業界に比べて賃金が高くはなく、人材確保に苦慮していることもあり、同法人でも正職員とパートや有期雇用労働者が混在している。他方で、同法人の賃金体系は正職員が年齢給と職能給、有期雇用労働者は時間給と分けていた。同一労働同一賃金の動きを受け、正職員と有期雇用労働者で同じ体系にしていかなければいけないと考え、コンサルティング支援へ応募した。また、職員と施設が倍の規模になり、事業を安定的に継続するために、従業員の処遇改善やモチベーション向上のための仕組みが必要だと感じており、等級制度の検討にも着手することにした。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

有期パートタイム職員について:「大半は障がい者支援と補助業務に活用したい」

 業務を進めるにあたり、基本的には正社員の主任クラスに指示を仰ぐこととしており、正職員と有期パートタイム職員とでは責任の程度に大きな違いがある。また、フルタイムで働けない事情がある職員がほとんどのためこのような活用方針を策定した。

有期フルタイム職員について:「一部を正社員なみに活用したい」

 有期フルタイム職員も有期パートタイム職員の業務の進め方と同様で、正職員の主任クラスに指示を仰ぐため、正職員と比較すると責任の程度に違いがある。しかし、有期フルタイム職員の役割は個人によるばらつきが大きく、正職員を目指して積極的に人材育成を受けたり責任ある業務を担う社員がいるためこのような活用方針を策定した。

② 職務内容の棚卸

 「ひのき工房」と「ふきのとう」の2施設は、同法人のなかでも主たるサービスといえる、障害者の就労支援と生活介護の両方をカバーしている。また、正職員と有期フルタイム職員・有期パートタイム職員が混在しており、比較対象として、正職員が多く在籍していることから、その2施設を対象に選択した。

■ 職務内容(参考:有期パートタイム職員を抜粋)
職位/氏名 業務内容 権限・責任の程度
有期パート
3009T
  • ■生活介護、就労支援業務
    クラブ活動(ハンドベル)の準備、運営、利用者支援を行う。
    木工製品の磨き作業、利用者支援を行う。
  • ▲権限・責任の程度:部下なし
    利用者支援の内容を上司に報告し判断を仰ぐ
    生活介護支援業務の進捗を上司に報告し判断を仰ぐ
    事故や突発事象が発生した場合は、上司の判断を仰ぐ。

 同施設には複数の職種が混在している状況ではあったが、今回は直接利用者に対応する支援員に限定して実施した。これは同法人での主たる職種であり、人数としての比率が高いためである。

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 正職員と契約社員間の均等・均衡待遇の状況を確認するにあたり、

【1. 時間賃率について】

 正職員と有期フルタイム職員・有期パートタイム職員の全雇用区分において基本給のみを対象とした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

有期パートタイム職員について

 人材活用の仕組みや運用について、違いがあることを確認したが、今回の分析では後述の有期フルタイム職員と正職員の比較の際に使用した活用係数に合わせて、あえて有期パートタイム職員と正職員とを比較する際の活用係数も、高い水準の0.9に設定することとした。

有期フルタイム職員について

 有期フルタイム職員は、人材活用の仕組みや運用が正職員に近くなっていることを踏まえ、活用係数は0.9とした。
 ※活用係数=格差の度合いに応じ調整するための計数

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 正職員 有期フル 有期パート 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 ×
  • ・正職員と有期フルタイム職員は、転居を伴わない範囲で異動し、勤務先の施設等が変わることがあるが、有期パートタイム職員にはそういった異動はない。
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 × ×
  • ・専門性を重視しているので、正職員であっても職種の転換は難しい
  • ・正職員は、支援員として資格を持って仕事をしており、かつ利用者もいるため、施設内で配置転換される可能性はあるが、施設を超えての変更は実質難しく、基本的には同じ施設で働く。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 ×
  • ・正職員は突発的な残業や急な呼び出しへの対応があり、有期フルタイム職員も正職員ほどの頻度ではないが、これらに対応している。有期パートタイム職員には、こういった変則的な勤務は発生しない。

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、有期雇用労働者と正職員との均等・均衡待遇は十分には確保されていないことを確認した。
 有期パートタイム職員と正職員の傾向線を比較すると、傾きや切片に明らかな違いがあり均等均衡待遇は図られていないと判断した。有期フルタイム職員も概ね、有期パートタイム職員と同様の傾向を示したが、傾向線同士を比較すると有期フルタイム職員と正職員との差異は小さかった。しかし、詳細に確認すると若干の差異が見受けられるため、均等・均衡待遇は確保されていないと判断した。

■ 職務評価結果
プロット図①パートと正社員の比較(有期パートタイム職員) プロット図①パートと正社員の比較(有期フルタイム職員)

Step2. 制度設計(等級/賃金)

① 等級(グレード)制度の検討

 職務評価の結果をうけ、正職員と有期雇用労働者の職級の見直しを進める第一歩として、まず有期雇用労働者について、担当する職務の職務評価ポイントに応じて、5等級に分け制度を設計した。正職員との対応関係については、正職員の下位2つの等級が有期雇用労働者の等級と重複するよう整理した。

■ 等級制度たたき台
正職員(役職以外) 有期雇用労働者(パートタイム・フルタイム)
等級 定義 等級 定義
3等級
  • ・施設長補佐業務
  • ・利用者支援業務
  • ・職員の指導監督業務
2等級
  • ・利用者支援業務
  • ・職員指導業務
  • ・主任不在時の場合の施設長補佐業務
有期職員5
  • ・主任を補佐し、施設の支援業務全般について、判断し下級者を指導、指示する職務
  • ・主任不在時に、主任代行として一定の判断業務を行う職務
1等級
  • ・日常業務の支援を行う
有期職員4
  • ・リーダーを補佐し、担当チームを構成する一定範囲の職務に対して、責任を担う職務
  • ・リーダー不在時に、定型職務及び一定の判断業務を行う職務
有期職員3
有期職員2
  • ・リーダーの指導のもと、指示の範囲内で責任を担う職務
  • ・主にマニュアルに従って日常的な支援を行う職務
有期職員1

② 賃金制度の検討

 同法人では、有期雇用労働者の明確な賃金制度を設計していなかったが、昇給については、1年でおおよそ15円程度時給アップを実施していた。今回、等級制度の検討に伴い、等級に応じて各等級の基準となる基本時給の水準を設定した。有期パートタイム職員と有期フルタイム職員を同じ等級にしたのは、どちらも時給ベースで賃金が考えられており、賃金設定の方式が同じだったためである。

■ 賃金制度たたき台
有期雇用労働者(パートタイム・フルタイム)
等級 基本給たたき台
上限 下限
有期職員5 1,175 1,160
有期職員4 1,175 1,095
有期職員3 1,110(上下に調整あり)
有期職員2 1,115 1,025
有期職員1 1,050(上下に調整あり)

③ 評価制度の検討

 同法人では、従前から、有期雇用労働者に対して年に2回程度人事評価を行っており、個別面談の機会を設定していた。さらにその評価の結果は、賃金水準や賞与等の一時金にも反映させていた。現行の人事評価は職員の支援内容で実施している。例えば、利用者や家族の来客に対する対応や仕事ができているかが、利用者支援の評価に入ってくる。また、福祉的な技能が身についているか等を見ている。
 新しく設計した等級制度を導入した後は、将来的に等級制度に合わせて、評価項目を見直す予定である。正職員との対応関係がある等級もあることから、なるべく正社員と評価項目についても共通のものを設定する予定である。

効果

  • 今まで設定していなかった等級制度を設計できたことで、賃金決定の物差しができた
  • 職務の構造表を作り、それを階層に割り当て、等級制度を作っていく、基本的な流れを知ることができ、その後に自力で検討を進める際に役に立った。
  • 制度が導入できれば、等級定義に書いてあるように各社員が自分の担当すべき職務内容が明確になるので、それによって自身が目指すべき仕事のイメージやキャリアアップの道筋を意識でき、社員のモチベーションによい影響がでるのではないかと考えている。

課題

  • 今回検討した等級制度の対象となる施設は、今回の取組対象である「ひのき工房」と「ふきのとう」のみである。今後、制度導入に向けては他の施設においても、同様の等級制度を当てはめることが可能か検証する必要がある。

工夫

基本給設定基準の整理

  • 予てより、有期雇用労働者の賃金を正社員のように年齢や職能に基づいて決まる形に切り替えたいと考えていたが、今回のたたき台で方向性が見えてきた。コンサルティング支援を受けた後、正職員と有期雇用労働者で年齢給と職能給と時給を同列に比較することを試みたが(例えば、時給を年齢給の部分と職能給の部分にわけ正職員と比較する等)、うまく対応関係が整理できそうである。今後は職務に関連する賃金項目を新設し、リーダー業務や会計担当といった業務の重さに応じて、基本時給に更に加給することを予定している。

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