株式会社球陽館ホテルズおきなわ

パートタイム労働者のさらなる活用に向けて、均等・均衡待遇の確保状況の確認を行い新たな等級制度、賃金制度を設計

企業情報

住所 沖縄県那覇市
従業員数
  • ・正社員 約20名(うち、短時間正社員 4名)
  • ・パートタイム労働者(呼称、パート社員) 約27名(うち、アルバイト 7名)
事業概要 ホテル(ビジネス、観光)、レストラン、宴会、会議

PDFデータ

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要約

  • 職務分析・職務評価の結果をもとに、清掃部門と調理部門で等級制度を整え、さらに他部門(宿泊部門とサービス部門)に拡大して等級制度を整備し、法人全体での導入に向けて進めている。

背景・目的

 ホテル事業はもともとパートタイム労働者や有期雇用労働者が多く、同社の場合は中途採用者のパートタイム労働者の比率が高かった。事業を70年近く経営しているが、当初は、年功序列で評価と待遇を決め運用しており、能力に基づく等級制度のようなものは無かった。体系的に整理したいと考えていたところ、職務評価の手法を知った。また、同社ではこれまでは明確な評価指標がなく、社長自身が各部門のリーダーから従業員に対する意見をヒアリングして評価をつけていたが、客観的な職能評価の指標と評価体系を導入し、頑張って能力を伸ばす社員が仕事を長く続け、貢献していくような経営をしたいと考え、コンサルティングを活用して今回の制度設計の取り組みを始めるに至った。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

活用方針と活用方針の策定理由

客室清掃部門:「選択した社員タイプの一部を正社員なみに活用したい」
 客室清掃部門は正社員も含めて人数が不足している。また正社員になっても責任が重くないため、パート社員を後々正社員に格上げしたいと考えたため。
調理部門:「選択した社員タイプの大半は、補助業務に活用したい」
 調理部門は料理長の元、まず与えられた仕事をきちんとこなす人材が必要であり、パート社員は補助業務を担当してもらいたいため。

② 職務内容の棚卸

 「客室清掃部門」と「調理部門」は、業務内容や人員の構造がシンプルで取り組みやすかったため、この2部門から着手することとした。また、パート社員が所属する6つの部門のうち、正社員とパート社員がそれぞれ3名以上いるため、その点でも適していると考えた。

■ 職務内容(調理部門のみ場合)
調理部門 【④、⑤、⑥】
◆主な業務の内容
  • ・朝食料理及び補助
  • ・料理の仕込み
  • ・従業員まかない
  • ・厨房清掃管理
◆責任の程度
  • ・部下なし
  • ・後輩へのレクチャー等なし
  • ・イレギュラー事象については、その場で上位者の判断を仰ぐ
料理長①
昼・夜・宴会担当 朝食担当
...

 客室清掃部門の職務の棚卸をしたところ、各職階の違いは、細々と指示を受けなくても自分で考えて仕事をこなすことができるかという点と、後輩への指導ができるかという点であった。また、調理部門に関しても、3段階の職務があることが分かり、管理能力があるかないか、指示待ちではなく自発的に考えて動けるか、という点で分けた。

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 正職員と契約社員間の均等・均衡待遇の状況を確認するにあたり、

【1. 時間賃率について】

 パート社員との違いとして、正社員は基本給のほかに、職務手当と役職手当が支給されており、時間賃率を算出するにあたっては、両者を対象とした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

 3つの観点から確認したところ、「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」と「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」に違いが見られたため、活用係数(※格差の度合いに応じ調整するための計数)は以下のように設定した。

 客室清掃 0.8、調理部門 0.9

 部門によって、活用係数が異なる理由は、求められる技術水準の違いである。具体的には、清掃部門は免許や特別な技術が必要とされないが、調理部門は調理師免許を持った人材が必要であり、調理の技術も一定水準が求められるため、免許がある者や、技術がある者は評価し、あげていく必要がある。また、パート社員で免許を持っている者もいれば、逆に正社員で持っていない者もおり、バランスを取ることが難しい。そこで、調理部門は、バランスをとるために、正社員と差をつけ過ぎないよう0.9と設定した。

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 正社員 短時間正社員 パートタイム社員 アルバイト 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 × × × ×
  • ・いずれの社員タイプも転勤等の可能性はない
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 ×
  • ・正社員、短時間正社員は、部門間(例:営業部と人事部)の職種転換あるが、パート社員は仕事の内容が変わる可能性はない。(ただし、パート社員でも、指示を受けてフロント担当がレストラン部門に臨時で応援にいくケースはある)
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 ×
  • ・アルバイトを除き、全員突発的な残業や急な呼び出しへの対応がある

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、比較的低い職務ポイントの業務に従事するパート職員でも、それよりも高い職務ポイントに従事する正社員と同程度の時間賃率に設定されているケースがあり、一部、均等・均衡待遇が実現されているとは言えない点があった。

■ 職務評価結果
プロット図①パートと正社員の比較のグラフ(客室部門) プロット図①パートと正社員の比較のグラフ(調理部門)

Step2. 制度設計(等級/賃金)

① 等級(グレード)制度の検討

 同社では、正社員も等級制度が無かったため、正社員の等級制度のたたき台は、職務評価による業務の整理を踏まえて業務内容、管理・マネジメント能力の観点で各等級の定義を決めた。その後、パート社員をあてはめた。

■ 等級制度たたき台
正社員 パート社員(パートタイムかつ有期)
等級 等級 職務ポイント 等級定義
正社員1級 パート1級 20-24 担当の業務における専門的な知識スキルを有し、新規採用者に対して適切な指導教育を行なっている。部門の調整役としてチームメンバーや正社員との連携を図り、快適な職場環境づくりに努めている。
正社員2級 パート2級 16-20 担当業務についての問題意識を常に持ち、上位者や正社員に対して改善提案を行なっている。他メンバーに対して積極的にフォローを行なっている。
正社員3級
パート3級 12-16 基本的知識スキルを有し、与えられた仕事を一人で着実にこなしている。具体的な作業指示を受けながら与えられた仕事に従事している。日々の業務を通して少しでも仕事を早く覚えられるよう努力している。

② 賃金制度の検討

賃金制度は、等級制度と対応する形で以下の通り設計した。

■ 賃金制度たたき台
正社員   パート社員(パートタイムかつ有期)
等級 基本給たたき台 等級 職務ポイント 基本給たたき台
上限 中央値 下限 上限 中央値 下限
正社員1級 1,600 1,500 1,400 パート1級 20-24 1,200 1,100 1,000
正社員2級 1,400 1,300 1,200 パート2級 16-20 1,000 950 900
正社員3級 1,200 1,100 1,000 パート3級 12-16 900 841 781

効果

  • 部門の業務全体を体系的に整理できたことと、どのように社員を評価していけば良いか、新しい仕組みの道筋が見えてきた。

課題

優秀な社員を採用することが難しいため、

  • 客観的な職能評価の指標と評価体系を導入し、頑張って能力を伸ばす社員を適切に評価し、既存社員のモチベーションを高めて定着させたい。
  • 将来的には新入社員に対しても等級制度を提示し、今後のキャリアがイメージできるようにし、モチベーションが高い人材を採用できるようにしたい。

人事評価をおこなうにあたり、

  • 職務だけではなく、態度や意欲等どのように評価をしていくか、また、評価者によって評価にバラツキがでないように評価者と評価手法をどうするか地域特性も踏まえ検討が必要

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