環境未来株式会社

専門技術のあるパートタイム労働者について、均等・均衡待遇の状況を確認し、キャリアステップを明確にした等級制度、賃金制度、評価制度を設計

企業情報

住所 長野県松本市
従業員数
  • ・正社員 約90名
  • ・有期雇用労働者 約11名
  • ・パートタイム労働者 約29名
事業概要 環境に関する検査・測定・分析の業務

PDFデータ

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要約

  • 同一労働同一賃金への対応に問題がありそうだと認識していた、専門技術を有するパートタイム労働者と正社員との間で均等・均衡待遇が図られているかを確認するため、職務分析・職務評価を実施。その結果を踏まえ、均等・均衡待遇が図られる賃金水準の設定と、パートタイム労働者の更なるキャリアアップを促すような制度を設計し導入した。

背景・目的

 同社では、取り組み以前より、技術職(検査業務や測定、分析業務に従事する職種)の同一労働同一賃金の対応について、問題意識を持っていた。技術職には、正社員、パートタイム労働者どちらも在籍しており、職務内容は似通っているのだが、パートタイム・有期雇用労働法に対応する上で、パートタイム労働者の賃金について方向性を決め兼ねていた。そんな折に、労働局主催のセミナーにて、コンサルティング支援を知り、応募することとした。

Step1. 現状の確認(均等・均衡待遇)

① パートタイム・有期雇用労働者の活用方針を策定

以下の理由により、「パートタイム労働者の一部を正社員なみに活用したい」とした。

  • ・パートタイム労働者は全社で30名程度と人数が多い。
  • ・同一労働同一賃金への対応で問題あるのではないかと考えている、検査・調査業務等に従事するパートタイム労働者が多い。
  • ・検査・調査業務に従事するパートタイム労働者には、長期勤続の者も多く、徐々にスキルアップしていく者が多い。また、正社員との業務内容に大きな違いはないと認識している。

② 職務内容の棚卸

 主に検査・調査業務に従事するパートタイム労働者の職務内容の棚卸は、「環境部」と「保健衛生検査部」から「分析グループ」「水質検査グループ」「食品・微生物検査グループ」「洗浄係」を対象とし、グループやチーム単位で行うこととした。

■ 職務内容
分析グループ
【①】(分析グループ パートAさん)
◆主な業務の内容
  • ・分析測定
◆責任の程度
  • ・部下なし
  • ・後輩の指導無し
  • ※ その他グループやチームも同様に棚卸を実施
正社員(リーダー)
正社員
正社員
正社員
正社員
パート
パート
...

 棚卸の結果、検査・調査業務や分析業務を行うパートタイム労働者は、正社員と作業内容に大きな違いはないが、作業量に違いがあることがわかった。また、洗浄係については、パートタイム労働者と正社員で同一業務をおこなう者はいないことがわかった。

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 以下方法にて、均等・均衡待遇の状況を確認した。

【1. 時間賃率について】

 待遇の違いとして、正社員には基本給のほかに、役職手当、免許資格手当、賞与が支給されており、時間賃率を算出するにあたって対象とした。

【2. 人材活用の仕組みまたは運用の違いについて】

 3つの観点から確認したところ、全てにおいて違いがあったため、活用係数(※格差の度合いに応じ調整するための計数)を0.8とした。

■ 人材活用の仕組みまたは運用の違い
観点 正社員 パートタイム労働者 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 ×
  • ・正社員は県内外の検査センター等の拠点への転勤の可能性があるが、パートタイム労働者はない
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 ×
  • ・正社員は検査部と営業部等の分野を超えた異動の可能性があるが、パートタイム労働者に職種変更はない
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 ×
  • ・正社員は突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応の可能性があるが、パートタイム労働者は時間外勤務の可能性のみで、原則、急な呼び出しは発生しない

④ 職務評価

 これらを踏まえた職務評価の結果、職務ポイントに広がりはあるが、傾向線からは非常に均等・均衡が図られている傾向に近いことを確認した。また、今回、若手も多く選定したことで全体的に水準が低くなったため、正社員の業務レベルに近しいパートタイム労働者を比較すると、こちらはプロット図上において時間賃率の水準が高い傾向にあるとわかった。

 更に、プロット図を幾度か作成する中で、時間賃率の差は、手当や残業代が要因として大きく関係していることがわかった。

■ 職務評価結果
職務評価結果のグラフ

Step2. 制度設計

① 等級(グレード)制度の検討

 パートタイム労働者に対して等級制度を設けていなかったため、担当する職務の職務評価ポイントに応じて、3等級に分ける形で等級制度のたたき台を作成した。正社員との対応関係については、策定した活用方針に基づき、パートタイム労働者の最上位の等級(パート3等級)が、正社員の一般Ⅰ、Ⅱと同水準となるよう整理した。

 尚、整理した等級制度のたたき台は、コンサルティング支援後、社内の関係者と協議を重ね、賃金の改定と併せ施行した。

■ 等級制度たたき台(検査業務)
パートタイム労働者   正社員
等級名 職務ポイント 定義 等級名
    ①部課長
    ②課長
    ③リーダー
④3等級 32~40pt
  • ・検査、分析の担当者として一人前
  • ・分析指示書が発行できる
  • ・3つ以上の検査項目を担当できる
  • ・後輩社員に対して、適切な納期管理の指導ができ、社内納期が守れる
同水準
④一般Ⅰ
⑤一般Ⅱ
⑤2等級 24~31pt
  • ・検査、分析の担当者として一人前
  • ・2つ以上の検査項目を担当できる
  • ・納期管理、簡易なトラブルが処理できる
  ⑥一般Ⅲ
⑥1等級 16~23pt
  • ・上司の指導のもと、分析ができる
  • ・上司の指導のもと、納期管理ができる
  • ・適切な報告、連絡、相談ができる
⑦一般Ⅳ

② 賃金制度の検討

これまでパートタイム労働者の賃金は1年に1回、昇給機会が設けられており、20~30円程度時給アップをおこなっていたが、今回のコンサルティング支援を通じて、等級制度の設計に伴い、等級に応じた基本給の水準を設定した。基本給の設定には、同一労働同一賃金の対応として、正社員とパートタイム労働者の間に待遇差が生じている諸手当(免許資格手当、家族手当、住宅手当、長距離移動手当)の改定も行った。

■ 賃金制度たたき台(検査業務)
パートタイム労働者
等級名 職務ポイント 基本給※時間賃率
上限 中央値 下限
④3等級 32~40pt 1,500 1,325 1,150
⑤2等級 24~31pt 1,150 1,050 950
⑥1等級 16~23pt 950 915 880

③ 評価制度の検討

 評価制度については、同社では従前より、パートタイム労働者に対しても正社員同様の評価項目にて評価していたが、人事評価の改定に向け、等級制度に紐づけた評価項目や評価方法の検討を進めている。評価項目については、「個人設定目標」「グループ設定」「全社共有」という3つの括りで案を作成した。

■ 評価制度たたき台
指標 目標 月次評価 中間
活動
報告
月次評価 活動
報告
一次考課 二次考課
7月 8月 9月 10月 11月 12月
個人設定
目標
正確性 担当業務の流れやポイントを理解し、業務をミスなく正確に遂行していたか                    
計画性 担当業務は優先順位を考え、計画的・効率的におこない、納期までに完了していたか                    
業務改善 日頃より業務上の課題に目を向け、改善提案や創意工夫をしていたか                    
...
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効果

  • 均等均衡待遇の現状把握ができ、その結果を活用し、新たな等級制度、賃金制度を構築できたことは、人材マネジメントの観点において、賃金決定の物差しができたと考えており、これは大きな成果だと考えている。
    例:新規採用時に経験や能力を等級制度の定義に当て嵌め基本給を設定する。経験者に対して基本給の上限を提示する等

課題

  • 現在の評価制度は、上級管理職と役員のみが評価者となっているが、今後はより現場に近い課長クラスの評価結果も反映したいと考えている。具体的には、課長クラスとパートタイム労働者での評価面談を検討しているが、現状は期待役割に対する考え方にギャップがある。そのため、新たな評価制度を通じて、コミュニケーションの活性化に繋げ、課長クラスの職員により強くマネージャーとしての意識をもってもらい、各社員がしっかりと自身の役割を認識し、責任をもって職務にあたれるようにすることが必要。

工夫

経営者への説明

  • パートタイム労働者の賃金改定にあたっては、経営者の理解を得るため、目的を整理することに重点を置いた。具体的には、手当を支給する条件面において、正社員との公平性が担保されているか、また改定後の支給対象者数はどれくらいかを整理した。

社員への周知活動

  • 新しい制度の導入に向けては、パートタイム労働者と1人1人面談し、等級制度の詳細、自身の等級、賃金、手当について説明した。1人1人が、今後のキャリアップステップのイメージ、賃金への反映、先々どのくらい昇給が見込めるのか等を理解し、モチベーションの向上に繋がれば良いと考える。

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