東亜エレクトロニクス株式会社 ハマトウカンパニー

正社員とパートタイム労働者との間の基本給における均衡を図り、公平な待遇に資するために、均等・均衡待遇の状況を確認し、その結果を基に等級制度・賃金制度を作成した事例

1. 企業概要

所在地 静岡県浜松市浜名区都田町9162-1
従業員数 正社員:63名
パートタイム労働者:19名
主な事業内容 半導体・電子部品・産業用機器の総合商社。
電子部品販売・電子機器の設計・製造(EMS)・検査サービスを提供

2. 取り組みのポイント

 製造部門において、パートタイム労働者が製品製造の主要な業務を担っていることから、パートタイム労働者の重要性が増し、その活用が大きなカギを握っている。パートタイム労働者には、フルタイム・パート労働者(以下「フルタイム・パート」という。)と時短パート労働者(以下「時短パート」という。)が存在している。フルタイム・パートは、採用時は有期雇用であり、かつ、勤務時間は正社員より短かったものの、その後、無期雇用に転換し、勤務時間についても正社員と同じ時間働いている者のことを指している。また、時短パートは、有期雇用であり、かつ、勤務時間は正社員より短い者を指している。フルタイム・パートの中には、10年以上業務経験を有する者や、正社員と同等あるいはそれ以上の知識・技術を有している者もいる。そこで、能力を有するパートタイム労働者のさらなる活用を図るべく、現状、正社員とパートタイム労働者の均等・均衡が図られているかを確認し、新たな等級制度や賃金制度の設計を行うこととした。

3. 人事制度改革の経過

人事制度改革を検討したきっかけは、下記のとおりである。

① モチベーション向上

 事業の根幹である製造において、パートタイム労働者は、業務の主要な働き手として必要不可欠な存在となっている。
 しかし、パートタイム労働者間で業務経験年数や知識、技術の習得状況に大きな差異があるにも関わらず、正社員とパートタイム労働者、パートタイム労働者間の業務内容の区分が不明確であった。その結果、待遇について不平不満を抱くパートタイム労働者も少なくなく、パートタイム労働者間でも業務に対する考え方、取り組み方がバラバラでまとまりがない状況となっていた。
 そこで、業務の整理を行い、社員区分や業務分担について共通認識を徹底させることで問題を解消し、不公平感がなくやりがいのある職場づくりを目指すことが、パートタイム労働者のモチベーション向上につながると考えた。

② 職務分析・職務評価の実施

 上記①の目的を達成すべく、約1年間従業員からのヒアリングを行うなど、会社として改善を試みたが、思うような結果に結びつかなかった。担当部長が、社会人教育として講義を受講していた大学の先生に当社の取り組みについて相談したところ、職務分析・職務評価の手法及び働き方改革推進支援センター(以下「センター」という。)を紹介されたため、センターへ相談した結果、コンサルティングを受けることになり、センターより派遣された専門家とともに職務分析・職務評価を実施することとなった。

4. 職務評価の実施ポイント

ア.実施した職務評価に関する基本情報

実施目的 ・パートタイム労働者と正社員との均等・均衡待遇の確認
・パートタイム労働者の等級制度と賃金制度の検討
実施者 ・職務の棚卸、職務評価実施者
 管理部次長、製造部部長
実施対象 ▶製造部 パートタイム労働者:10名(フルタイム・パート5名、時短パート5名)
▶比較対象とした正社員:5名
職務評価実施手法 ・要素別点数法

イ.実施内容

(1)均等・均衡待遇の確保状況の把握

① パートタイム労働者の活用方針「フルタイム・パートの一部を正社員並みに活用したい」

 パートタイム労働者は、フルタイム・パートと時短パートの2パターンが存在している。フルタイム・パートには、10年以上の経験年数を有する者や、正社員と同等あるいはそれ以上の能力を有するものがいる。また、正社員に近い職務を行っている者も存在する。
 そこで、能力のあるフルタイム・パートを有効に活用していき、正社員が少ない職場である製造部の職務を円滑に行っていきたいと考えている。
 このような状況を踏まえ、同社は人材の活用方針について、経験・能力を保有するフルタイム・パートの一部を正社員並みにしたいという考えから「フルタイム・パートの一部を正社員並みに活用したい」という方針を設定した。

② 職務内容の棚卸

 職務分析・職務評価の対象としたのは製造部門で、従事するパートタイム労働者と比較対象の正社員合計で15名を抽出した。製造部門をピックアップしたのは、職務に賃金が連動していないという課題を感じている部門であること、正社員に近い職務を担っているパートタイム労働者がいること、パートタイム労働者の職務レベルが様々であることからである。
 職務の棚卸の作業においては、各労働者に、一日の時間を入れたシートに、標準的な日の時間ごとの業務内容を記入してもらい、そのシートを基に、責任の程度、権限の有無などの確認をし、第1階層:正社員(課長代理)、第2階層:正社員(主任及び技師等)、第3階層:パートタイム労働者(対応できるポジションが限定される職務レベル)の3階層に区分した。

【職務構造表】

職務構造表

③ 均等・均衡待遇の状況確認

 時間賃率の計算は、正社員については、基本給のほかに役職手当を含めて実施した。一方で、パートタイム労働者は、基本給のみで時間賃率を計算した。
 活用係数の設定にあたっては、人材活用の仕組みや運用の違いについて、正社員とパートタイム労働者とを比較すると、「転勤等、働く場所の変更可能性」「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について、以下のような違いがみられた。
 「転勤等、働く場所の変更可能性」について、正社員は、グループ会社内の異動があるが、パートタイム労働者は、転勤等、働く場所の変更の可能性はない。
 「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」について、正社員は、変更の可能性があるが、パートタイム労働者は、変更の可能性がない。
 「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について、正社員は、突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする必要がある。フルタイム・パートは、時間外勤務の発生はあるが、休日、深夜勤務等の対応は発生しない。時短パートは、変更の可能性はない。

 以上の人材活用の仕組みや運用の違いを踏まえ、活用係数はフルタイム・パートとの間では「0.87」、時短パートとの間では「0.85」とした。

人材活用の仕組みまたは運用の違い
正社員 フルタイム・パート 時短パート 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 × × ・正社員はカンパニー拠点内(横浜、大阪、浜松市内)の転勤があるが、パートタイム労働者は転勤の可能性はない。
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 × × ・正社員は職務や職種の変更が定期的にあるが、パートタイム労働者は原則職務が限定されているため、変更の可能性はない。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性
※時間外のみ発生
× ・正社員は突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする可能性があるが、フルタイム・パートは時間外勤務のみ発生し、時短パートは変更の可能性はない。

 これらを踏まえ、「フルタイム・パートと正社員の比較」と「時短パートと正社員の比較」の2つのプロット図を作成し確認することとした。また、参考として、正社員、フルタイム・パート及び時短パートの関係が一覧できるよう、時短パートを基準として、独自の三者比較プロット図を一枚のシートに落とし込むことにした。
 プロット図から、正社員と時短パートの比較ではある程度均衡が図られていると判断できた。正社員とフルタイム・パートの比較では、両者の職務ポイントが近くなっており、フルタイム・パートが正社員と同等程度の重要な職務を担っているにも関わらず、そのことが時間賃率に反映されておらず、均衡が保たれているとは言い切れないと判断した。
 この結果、正社員と同等程度の職務を担っているフルタイム・パートの時間賃率について早急に見直しが必要であることが判明した。

フルタイム・パートと正社員の比較
時短パートと正社員の比較
フルタイム・パートと時短パートと正社員の比較

(2)パートタイム労働者の人事制度

① 等級(グレード)制度

 同社では、正社員については明確な等級制度があるが、パートタイム労働者に対しては等級制度を設けていなかった。そこで、パートタイム労働者の活用方針やコンサルティングの結果をもとに、パートタイム労働者が納得して働ける組織づくりを目標として、パートタイム労働者の等級区分を3区分に分け、新たにそれぞれの職務(役割)の定義付けを行った。
 第一区分は、「現時短パートの職務ができるパートタイム労働者」、第二区分は、「現フルタイム・パートの職務ができるパートタイム労働者」、第三区分は、「正社員と同等の職務を行うパートタイム労働者」とした。そのため、フルタイム・パート及び時短パートの区分は、廃止した。

【等級制度(パートタイム労働者)たたき台】

等級制度(パートタイム労働者)たたき台

② 賃金制度

 同社では、正社員については賃金制度があるが、パートタイム労働者に対しては等級に応じた賃金制度を設けていなかった。職務分析・職務評価を行った結果、正社員と時短パートはある程度均衡が図られていると感じられたが、正社員とフルタイム・パートとの均衡が図られているとは言い難かった。そこで、正社員の賃金制度も加味しながら、たたき台の作成を行った。


【賃金制度(パートタイム労働者)たたき台】

賃金制度(パートタイム労働者)たたき台

5. 今回の取り組み、制度の導入後に期待する効果

●効果

・職務の棚卸を行うことで、誰がどのような仕事を何%行っているかということや、正社員と同等の仕事を行っているパートタイム労働者がいることが把握できた。
・均等・均衡待遇の現状を確認し、その結果を踏まえた上で、等級、賃金制度のたたき台を構築することができた。
・今回のコンサルティング支援を機に、等級の階層ごとの賃金が明確になったことで、職務に応じた賃金設計が可能となった。
・賃金制度が明確になったことにより、従業員が自身の待遇に納得感をもって働くことができるようになったと考える。
・一部のパートタイム労働者が正社員並みに活躍できる環境を整えたことにより、今後、パートタイム労働者がキャリアアップへの意識を持つようになることや、仕事へのモチベーションがアップすることを期待する。

●課題

・等級制度を3区分に設定したが、区分に応じた職務を毎日の仕事にいかに落とし込んで進めていくか、また、今後職務内容に変化があった場合の見直しなどが課題となる。
・細かい職務の区切りを明確にしていく必要がある。
・等級制度を持続的に運用する際の決め事、ルール及び方法を明確にしなければならない。

●工夫

・職務の棚卸を実施する際に、各個人の職務の時間配分が分かるように、標準的な1日のスケジュールを書き込む用紙を独自に作成し、正社員やパートタイム労働者が各自で用紙に業務内容を記入したため、各々が自身の職務に向き合うことができた。さらに、各自で記入した用紙を基に面談をおこなったことにより、スムーズに棚卸を行うことができた。
・時短パートを基準として、正社員とフルタイム・パートを1つのプロット図で表すことで、三者の関係が一覧できたため、現状把握が明確にできた。

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