C社

すべての社員の意欲向上を図るため、パートタイム労働者のキャリアステップを明確にするとともに、基本給において、正社員と均衡を図るために、等級制度・賃金制度を作成した事例

1. 企業概要

所在地 広島県
従業員数 正社員:6名
有期雇用労働者:44名(全てパートタイム労働者)
主な事業内容 飲食業

2. 取組みのきっかけ

飲食店において、パートタイム労働者の活用が店舗運営の大きなカギを握っているが、採用難で人材確保に苦慮していた。最低賃金の引上げへの対応だけでなく、賃金制度の整備も必要であると考えた。そこで、自社の正社員とパートタイム労働者の現状を把握すべく、職務の棚卸を行い、職務評価に取組んだ。
正社員とパートタイム労働者の均等・均衡待遇は図られていることを確認したが、等級制度や賃金制度が明確ではなかったため、新たに制度設計を進めることとなった。

3. 人事制度改革の経過

人事制度改革を検討したきっかけは、下記のとおりである。

①人材確保

求人を行っているが応募者数が少なく、パートタイム労働者の人材も不足している。以前は、学生の卒業シーズンに退職者が増え、人材の不足が生じていたが、今では慢性的に人材不足の状況が続いている。課題である人材確保のために、魅力ある会社づくりを目指したいと考えた。

② 最低賃金の上昇

最低賃金の上昇に伴う人件費の増加が収益性に影響を与えることから、仕事ができる人材に見合った賃金を支払い、キャリアステップを明確にすることで、長く働いてもらいたく、これらの仕組みを検討したいと考えていた。

職務分析・職務評価→等級制度設計→賃金制度設計の手順で、制度設計のコンサルティングを実施した。

4. 職務評価の実施ポイント

ア.実施した職務評価に関する基本情報

実施目的 ・非正規雇用労働者と正社員との均等・均衡待遇の確認
・非正規雇用労働者の等級制度と賃金制度の検討
実施者 ・職務の棚卸:代表取締役
・職務評価実施者:代表取締役
実施対象 ▶飲食事業部 パートタイム労働者:23名
▶比較対象とした正社員:2名
職務評価実施手法 ・要素別点数法

イ.実施内容

(1)均等・均衡待遇の確保状況の把握

①パートタイム・有期雇用労働者の活用方針 「パートタイム労働者の一部を正社員なみに活用したい」

パートタイム労働者の活用は店舗運営において重要である。しかし、職務レベルもパートタイム労働者によって異なる。シフトが少ないパートタイム労働者もいれば、意欲・能力のあるパートタイム労働者もいる。意欲の高いパートタイム労働者には、正社員と同様の一部管理的な業務を任せていきたい。また、正社員転換制度を積極的に活用したいと考えている。
このような状況を踏まえ、同社は人材の活用方針については、経験・能力を保有するパートタイム労働者の「一部を正社員並みに活用したい」という方針に設定した。

②職務内容の棚卸

取組みの対象としたのは、飲食事業部に従事するパートタイム労働者合計23名。飲食事業部をピックアップしたのは、賃金について課題を感じている部門であること、正社員がいること、パートタイム労働者の職務レベルが様々であることからである。
職務の棚卸の作業として、職務内容の洗い出しを基に、責任の程度、権限の有無などの確認を行い、第1階層:店長(責任者)、第2階層:店長補佐(チーフ)、第3階層:全ポジションに対応できる職務レベル(リーダー)、第4階層(対応できるポジションが限定される職務レベル)の4階層に区分した。

【職務棚卸】

職務棚卸

③均等・均衡待遇の状況確認

時間賃率の計算は、正社員については、基本給のほかに役職手当を含めて実施した。一方でパートタイム労働者は、基本給のみを計算に含めて時間賃率を計算した。
活用係数の設定にあたっては、人材活用の仕組みや運用の違いについて、正社員とパートタイム労働者とを比較すると、「転勤等、働く場所の変更可能性」「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について以下のような違いがみられた。
「転勤等、働く場所の変更可能性」について、他の場所で運営している店舗はあるが、距離的に離れているため正社員及びパートタイム労働者は転勤の可能性はない。
「職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性」について、小型店舗であるため、正社員及びパートタイム労働者ともにマルチな職務をこなすことが基本になり、変更の可能性はない。
「時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性」について、正社員は、突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする必要があるが、パートタイム労働者は、原則として時間外勤務や急な呼び出し対応は発生しない。

以上の人材活用の仕組みや運用の違いを踏まえ、活用係数は「0.9」とした。

人材活用の仕組みまたは運用の違い
正社員 パートタイム労働者 相違のポイント
転勤等、働く場所の変更可能性 × × ・当社は、現在支店はあるが、正社員及びパートタイム労働者は転勤の可能性はない。
職務や職種の変更等、従事する仕事の変更可能性 × × ・小さい店舗になるため、正社員及びパートタイム労働者ともにマルチな職務をこなすことが基本になるため、変更の可能性はない。
時間外、休日労働、深夜勤務等の勤務時間の変更可能性 × ・正社員は突発的な時間外勤務や急な呼び出しへの対応をする可能性があるが、パートタイム労働者は、原則として発生しない

これらを踏まえ、職務評価ツールを用いた結果、パートタイム労働者間同士の賃金のバラツキが多少確認できたが、均等・均衡が図られていることを確認した。正社員の時間賃率については、職務に応じて明確に設定されており、パートタイム労働者の賃金も問題なく設定されていた。
また、担当者としては、想定していた通りの現状であったが、最低賃金の上昇に伴うパートタイム労働者の時給アップが必要となり、同時に正社員の賃金の見直しが必要となる。

プロット図①パートと正社員の比較

(2)パートタイム・有期雇用労働者の人事制度

①等級(グレード)制度

同社では、正社員及びパートタイム労働者に対して、等級制度は設けていなかった。そこで、コンサルティングの結果をもとに、現在の組織の状況、将来的に形成していきたい組織の姿を加味しながら、職務レベルと職務評価ポイントに応じた格付け制度の設計を行った。

②賃金制度

正社員、パートタイム労働者の均衡が図られている結果となったが、賃金制度を設計する上で、人材確保に繋がる制度づくりを目指す一方で、収益性を無視することはできないので、課題解決に苦慮した。同時に、パートタイム労働者の最低賃金上昇の影響で、正社員の賃金アップを図る必要があったことから、新しい賃金制度においては、基本給のみで比較ができるように、賃金の設計を行った。


【賃金制度(パートタイム労働者)】

賃金制度(パートタイム労働者)

③評価制度

同社では、正社員及びパートタイム労働者に対しても、評価制度は存在していない。 シフトに協力的な人、調理がマニュアルどおりできる人など、人の能力部分を評価に組み入れたいとの思いもあり、人事評価制度導入検討は、今後の課題となる。

5. 今回の取組、制度の導入後に期待する効果

●効果

今回のコンサルティング支援を機に、職務に応じた賃金の設定が明確になった。等級の階層ごとの賃金が明確になったことで、モチベーションがアップすることを期待する。

●課題

課題については、下記の点が考えられる

  • 人材不足の現状を鑑みると、採用に注力することも求められるが、今いるパートタイム労働者を有効活用することが急務となり、育成・評価・モチベーション管理を自社で運用しやすい制度が求められる。
  • 必ず、運用し続けること。ここは大きなポイントとなる。運用し続けることで、さらなる課題や改善ポイントが発見できる。中小企業のウィークポイントは、行き詰った、時間が無かった、よく分からなくなったなどで、途中で断念することが多いことである。それを乗り越えることが課題である。

●工夫

コンサルティング支援の過程において、会社の課題、どうしたいのか、どうであったら良いかなど、背景にある事情なども含めて、現状を把握することが重要であると考える。コンサルタントからのヒアリングは、どのように課題を解決したら良いのか、その道筋がはっきり見えてくるようになり、重要な工程であった。企業側とコンサルタント側の認識を共有することが課題解決に向けてのポイントである。

【プロット図:令和4年2月時点 等級制度:令和5年2月時点】

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