事例1-1-9 飲食料品卸売業(野菜卸売業)
職務評価を用いてパートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況を確認した上で、パートタイム労働者の格付け制度、賃金制度を整備した事例
1. 企業概要
所在地 | 東京都足立区 |
---|---|
従業員数 | 1,513名 ※うち、1,336名がパートタイム労働者 |
主な事業内容 | 飲食料品卸売業(野菜卸売業) |
2. パートタイム労働者に関わる人材課題
業績が拡大基調の中で、顧客からの注文に対してタイムリーに製造、販売するためにパートタイム労働者を確保することが重要なテーマとなっていた。
一方で、パートタイム労働者の人事制度が整備されておらず、長期間に渡って働いてきた者や現場での属人的な裁量に基づき時給が決定される等してきたため、職務内容や勤態と処遇が必ずしも一致していない面も出てきていた。
そこで、パートタイム労働者を確保・定着、及びレベルアップさせるために、職務内容や勤態に応じた処遇を行う人事制度の整備を行うことが必要な状況であった。
3. パートタイム労働者の人事制度の概要
元々は、パートタイム労働者に対する格付け制度は整備されていなかった。そこで、まず労働時間の長さに応じてパート(原則週20時間以上)とアルバイト(原則週20時間未満)の2区分のコースを設定した。その上で、職務内容を棚卸して、パートの格付け制度を整備した。大きくは、役割ベースでPS(シニアクラス:部下の指導やとりまとめ、或いは専門的な業務を担う)、PM(ミドル:パートの中堅として基幹業務の担い手となる)、PE(エントリークラス:先輩に指示、指導を受けながら能力習熟に励んでいる)の3段階に区分して、それぞれを更に細分化(PS2段階、PM4段階、PE2段階)して能力習熟に応じた昇格運用ができるように設計した。なお、アルバイトについては、パートのエントリークラスのみを準用することとした。
図表1.パートの役割要件定義
階層 | 格付 | 基本定義 | 基本定義(高度事務職の場合) | |
---|---|---|---|---|
1 | シニア 階層 |
PS1 | ・チームリーダーとしてメンバーに対して指導、育成を行っている ・正社員の補佐職として、日々の業務が円滑に進むように務めている |
・交渉業務を含め、事務処理においてきわめて高度な知識を活用して業務を遂行している |
2 | PS2 | ・メンバーに対する指導、育成や正社員とのコミュニケーションにおいて、チームリーダーの補佐をしている | ・事務処理において、高度な知識を活用して業務を遂行している | |
3 | ミドル 階層 |
PM1 | ・複数の工程や領域に関する業務に従事し、小グループの取りまとめ役を担っている | - |
4 | PM2 | ・複数の工程や領域に関する業務に従事し、小グループの取りまとめ役を補佐している (OR特定の領域で一定の専門性を発揮しつつ、小グループの取りまとめ役を補佐している) |
- | |
5 | PM3 | ・複数の工程や領域に関する業務に従事している (OR特定の領域で一定の専門性を発揮している) |
- | |
6 | PM4 | ・自身が担当する業務内容に関する一通りの知識や技術を有しており、与えられた仕事を1人で着実にこなしている | - | |
7 | ジュニア 階層 |
PJ1 | ・自身が担当する業務内容に関して、まずは自ら行い、不明点や疑問点があれば確認しながら業務に従事している | - |
8 | PJ2 | ・上司や先輩の指示に基づき、日々の業務に従事している | - |
賃金制度は、それぞれの格付けに応じてシングルレートで時給を設定することとした。こうすることで、基本の時給は職務内容や役割に応じて決まる仕組みになった。
更に、首都圏と地方事業所での地域格差を制度に反映させるために、基本時給をベース給と職務給に分け、ベース給は都道府県別の最低賃金やハローワークインターネットサービスを活用した地域相場等を総合的に勘案しながら決定することで、地域事情に見合った時給設定ができる仕組みとした(図表2)。
図表2.格付け・拠点別の時給
ベース給 | 職務給 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
首都圏 | 地方 | PJ2 | PJ1 | PM4 | PM3 | PM2 | PM1 | PS2 | PS1 |
600円 | 430円 | 280円 | 300円 | 340円 | 360円 | 380円 | 400円 | 500円 | 600円 |
また、図表3のような項目を設定し、該当項目分の合計値を時給に加えることとした。
図表3.時給加算額と加算条件
番号 | 加算額 | 契約内容に基づく条件 |
---|---|---|
① | 20円 | 週30時間以上(社会保険加入)の契約である |
② | 10円 | 週20時間以上(社会保険加入)の契約である |
③ | 20円 | 土日祭日も常に出勤できる |
④ | 10円 | 土日どちらかは出勤できる |
⑤ | 20円 | 年末年始、GW、お盆など繁忙期は、自身の出勤日以外も協力できる |
⑥ | 10円 | シフトに柔軟に対応できる(定休、時間など) |
また、フォークリフトや機械操作等の特殊技能者に対しては、特殊業務手当を別途付加することとした。上記のように整備をした結果、時給がどのように決定するのかが明確になった(図表4)。
図表4.時給内訳例
項目 | 判定基準 | 適用金額、範囲 | 申請及び認定内容 | 時給算定 | 決定方法 | 認定者 |
---|---|---|---|---|---|---|
基本時給 | 格付に基づく (ベース給+職務給) |
890~1,200 | PS2 | 1,100 | ・職務内容、能力習熟度合いに応じて毎年見直し | 現場管理職、総務 |
勤務加給 | 週30以上 | 20 | ◯ | 20 | ・毎月1回本人の申請に基づき設定 →難しければ、契約改定時に見直し |
現場管理職、総務 |
週20以上 | 10 | |||||
土日両方 | 20 | ◯ | 20 | |||
土日どちらか | 10 | |||||
繁忙期 | 20 | |||||
シフト柔軟 | 10 | ◯ | 10 | |||
特殊手当 | 機械取扱 | ・上記で処遇出来ないものについて、限定列挙 ・市場相場等を勘案 |
現場管理職、総務 | |||
ドライバー | ||||||
フォークリフト | ||||||
その他 | 調整手当 | ・制度移行時などに発生したものを個別方針に基づき処理 | 現場管理職、総務 | |||
合計 | 1,150 |
4. 要素別点数法の導入目的と活用状況
職務評価の導入目的は、職務や役割に基づく格付け制度を整備してパートタイム労働者を階層毎に区分し、格付けに応じて賃金を支払う仕組みを導入するために、そして正社員とパートタイム労働者の賃金が均衡処遇となる仕組みを整備するためであった。
パートタイム労働者には当初格付け制度が存在しなかったため、大きく3階層程度に分類し、それぞれの階層毎にベンチマーク社員を抽出し、正社員の下位等級クラスも含め、職務内容の棚卸と職務記述書を作成した。
その後、当該職務説明書を活用しながら、パートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況を把握すべく、GEM Pay Survey Systemを用いて職務評価を行った。
5. 均等・均衡待遇の状況
パートタイム労働者を3階層に分類した時に、殆どの人が中位階層と下位階層に位置づけられる。この2階層のパートタイム労働者の職務内容は補助業務に限定されている。一方で正社員の場合は、パートタイム労働者に対して指示・指導を行うのが基本職務として含まれている。そのため、職務内容の明確な棲み分けがなされており、それに基づく賃金格差が設定されているため、均等・均衡待遇に関しての問題は発生していないと言える。
次に上位階層に位置づけられるパートタイム労働者は殆どいないが、元々はパートタイム労働者だったが契約社員に転換した人を対象に均等・均衡待遇が図られているかを確認した。その際に、当該契約社員については一定程度の専門知識などを有しており、他のパートタイム労働者への指示、指導等も職務内容として含まれていたことから正社員の格付B1クラスとの対応関係を確認することとした。
職務評価を実施した結果、当該契約社員と正社員B1クラスのベンチマーク社員の職務評価ポイントは概ね25ポイントで均衡していた。
次に、上記対象者の時間賃率を確認した。契約社員については時給単価を用いて、正社員については基本給、役職手当と賞与について1時間あたりの時間単価を算出した。また、活用係数の設定について、契約社員は勤怠状況に関する柔軟性を考慮して0.95とし、正社員については残業、配置転換、職種異動等があることから活用係数を0.75とした。それぞれの時間当たり単価に活用係数を乗じた金額は図表5にある通りほぼ一致したため、均等均衡待遇は確保されていることが確認された。
図表5.職務評価結果
項目 | 契約社員(元パートタイム労働者) | 正社員B1クラス |
---|---|---|
職務評価ポイント | 25ポイント | 25ポイント |
時間当たり単価(1) | 1,154円 | 1,459円 |
活用係数(2) | 0.95 | 0.75 |
(1)×(2) | 1,096円 | 1,094円 |
6. パートタイム労働者の人事制度により得られた効果
現在制度設計を終えて、従業員説明会の実施を準備しているところであり、本格的な制度導入は2015年7月を想定している。従って、具体的な効果が顕在化しているわけではないが、人事制度が明確になったため、キャリアステップを描きやすくなり、どうすれば処遇が上がっていくのかも明快になったため、優秀でやる気のあるパートタイム労働者等の確保、定着、囲い込みに寄与するものと思われる。
また、現在は業務の棲み分けがかなりはっきりしているが、今後の活躍に対する期待も含めてシニア階層(PS1,2)を設定したことで、パートから契約社員、正社員へと転換していく社員も今後発生していくと思われる。
- Point
- 好事例として参考にして欲しいポイント
パートタイム労働者等の人数が1,000名以上と人数が多いため、個人別の評価を実施することは現実的に負担が重過ぎる。そのため、格付けを細分化して、基本時給をシングルレートとすることで、査定昇給ではなく昇格時昇給のみに絞り込み、運用上の負荷を減らすように工夫した。
一方で、加給はきめ細かい項目を設定し、繁忙期のシフト勤務者を確保しやすくするように制度を整備した。