事例1-1-7 食料品製造業(肉加工品製造業)
職務評価を用いてパートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況を確認した上で、パートタイム労働者の格付け制度、賃金制度を整備した事例
1. 企業概要
所在地 | 茨城県猿島郡 |
---|---|
従業員数 | 約190名 ※うち、約130名がパートタイム労働者 |
主な事業内容 | 食料品製造業(肉加工品製造業) |
2. パートタイム労働者に関わる人材課題
同社では、パートタイム労働者が生産現場における社員の大半を占めており、パートタイム労働者を積極的に活用しモチベーションを高め生産性の向上に繋げるという方針があった。既に、パートタイム労働者については定期昇給や、リーダー的役割の付与等を行っていたが、人事制度の導入によって役割や処遇の基準を明確化し、多能工化や正社員への道筋を示すことで、処遇のメリハリやモチベーションの一層の喚起を促したいという狙いがあった。
また、S正社員(職種限定正社員)のうち入社1~3年目の社員と、パートタイム労働者のうち勤続年数が長く能力も高い社員との間の、均等・均衡待遇についても確認する必要があった。
3. パートタイム労働者の人事制度の概要
同社では、総務人事、受注電算、運送事務、入出庫、食肉加工、惣菜加工、品質管理、精米といったほぼ全ての職種においてパートタイム労働者を雇用しており、同一職種内でも業務範囲が広範囲に渡り、個人間でも職務内容が異なっていることから、職種ごとに職務内容を細かく設定することは困難であった。また、今後のパートタイム労働者の活用戦略として、職種内・職種間での多能工化、一部正社員化を進めていくことを考えており、人事制度もパートタイム労働者の活用戦略に沿った形とする必要があった。
そこで、パートタイム労働者を職務ではなく役割に応じて、3段階の役割等級制度とし、正社員化の有無や人事管理(主に賃金制度)の違いに応じて、職種を事務系、事務系以外、運送ドライバーの3つに分類した。
図表1.パートタイム労働者の役割要件定義
役割等級 | 等級定義 |
---|---|
PA3 |
・業務全体を見渡しつつ、必要に応じて他のメンバーへの指示・指導を行い、一部業務については、他部署への応援を行うことができる ・一部正社員の行う仕事を必要に応じて肩代わりできる |
PA2 |
・業務に必要な知識・スキルを有し、与えられた仕事を1人で着実にこなしている ・他メンバーに対して積極的にフォローしている |
PA1 |
・作業指示を受けながら、与えられた仕事に従事している ・1人前になるために、日々の業務を通じて仕事を早く覚えられるよう努力している |
図表2.パートタイム労働者格付け制度
給与構成は、ベース給、職務給の2つから構成した。同社は、埼玉県と茨城県に拠点を有しているが、茨城県の社員であっても埼玉県の最低賃金で運用していたため、ベース給の設定にあたっては地域性を考慮しなかった。職務給は、職務ポイントにポイント単価を乗じることで、計算し、ベース給は620円に設定した(職務ポイントについては後述)。
図表3.パートタイム労働者給与制度
パート1 | パート2 | パート3 | |
---|---|---|---|
上限値 | 940円 | 1,021円 | 1,102円 |
中央値 | 870円 | 945円 | 1,020円 |
下限値 | 800円 | 869円 | 938円 |
ポイント単価 | 25円 |
---|---|
ベース給 | 620円 |
4. 要素別点数法の導入目的と活用状況
入社1~3年のS社員(職種限定正社員)は、パートタイム労働者同様、担当職種が限定されており、人材活用の面でもパートタイム労働者と差異がないため、パートタイム労働者との均等・均衡待遇の状況について確認を行うため要素別点数法による職務評価を実施した。
職務評価を実施するに際して、パートタイム労働者が属する全ての職種(総務人事、品質管理、運送、受注電算、入手出庫(常温、ピッキング、保冷)、精米、食肉加工、惣菜加工)において、パートタイム労働者およびS社員入社1~3年の中からベンチマークとなる社員を選定した。本コンサルティングを実施する以前に、茨城県労働局の雇用均等コンサルタントの指導のもと、職務説明書の作成と既にいくつかのベンチマーク社員に対する職務評価を実施していたため、均等・均衡待遇の確認においては、その結果も併せて活用した。
評価項目はGEM Pay Survey Systemのものを使用し、ウェイトは全て1を設定した。
最終的には、雇用均等コンサルタントが実施した分も合わせて、正社員14名、パートタイム労働者31名が職務評価の対象となった。
また、本事例では、パートタイム労働者の格付け制度の検証および賃金制度の設計についても職務評価結果を活用した。
格付け制度の検証においては、PA1~3およびS社員入社1~3年の職務ポイントを算出して行った。結果として、パートタイム労働者の格付け制度については、職種間で職務ポイントに差がないことが検証された。
そこで、パートタイム労働者の賃金制度の設計にあたっては職種別賃金とせず、共通の賃金テーブルを設定することとした(賃金制度については図表3)。
なお、運送ドライバーの処遇については、職種の特性を踏まえ、職務評価結果を活用せず、歩合に基づく賃金体系とした。
図表4.パートタイム労働者格付け制度の職務評価による検証
パートタイム労働者 | 正社員 | |||
---|---|---|---|---|
役割等級 | 事務系 | 事務系・ ドライバー以外 |
S社員 | |
入社1~3年 | 18 | |||
PA3 | 16 | 16 | ||
PA2 | 13 | 13 | ||
PA1 | 10 | 10 |
5. 均等・均衡待遇の状況
ベンチマーク社員に対して行った職務評価の結果は、図表5.の通りである。なお、パートタイム労働者のうち、パートリーダーが存在する入出庫(常温)、入出庫(ピッキング)、惣菜加工については、パートリーダーとそれ以外のパートからそれぞれベンチマーク社員を抽出した。
S社員入社1~3年とパートタイム労働者がともに在籍する、運送、受注電算、入手出庫(常温、ピッキング、保冷)、食肉加工、惣菜加工の職種について、均等・均衡待遇を確認した。
結果として、一部の職種において、パートタイム労働者とS正社員1~3年との間で、処遇(時間賃率)の重複がみられたものの、職務ポイント(職務内容の大きさ)は同程度の大きさであったことから、均等・均衡待遇が図れていることが確認された(図表6.参照)。
なお、時間賃率は、パートタイム労働者については時給を用い、S社員入社1~3年については基本給・役職手当・調整手当の合計額を1か月の所定労働時間で割って算出した。
図表5.ベンチマーク社員に対する職務評価の結果
職種 | S社員 入社1~3年 |
対応 関係 |
パート リーダー |
パート a |
パート b |
パート c |
---|---|---|---|---|---|---|
総務人事 | 15 | 12 | 10 | |||
品質管理 | 11 | |||||
運送 | 19 | ⇔ | 12 | |||
受注電算 | 18 | ⇔ | 12 | |||
入出庫(常温) | 15 | ⇔ | 18 | 15 | 12 | |
入出庫(ピッキング) | 15 | ⇔ | 16 | 12 | 10 | |
入出庫(保冷) | 18 | ⇔ | 13 | |||
精米 | 16 | |||||
食肉加工 | 18 | ⇔ | 13 | |||
惣菜加工 | 18 | ⇔ | 15 | 13 | 10 |
図表6.ベンチマーク社員に対する均等・均衡待遇の確認例
6. パートタイム労働者の人事制度により得られた効果
新制度の導入時期については、平成27年度中を予定しており、具体的な効果が表れるのは今後となる。現在、キャリアアップ助成金の利用やパートタイム労働者の人事評価制度の改訂を視野に入れつつ、導入のタイミングを検討している。
- Point
- 好事例として参考にして欲しいポイント
本事例におけるパートタイム労働者の人材活用戦略は、パートタイム労働者の多能工化と優秀なパートタイム労働者の正社員化を促すことである。多能工化という観点から、職種を事務系と非事務系の大枠で分類し、それぞれに共通の役割に応じた格付け制度と、職種によらない賃金制度の設計を行った。多能工化という観点に対して、職種を大ぐくりにして整理した点、賃金制度の設計に職務評価結果を直接活用した点が、他社への参考となるポイントである。また、パートタイム労働者の正社員化については、既に正社員転換を実施した実績があり、他のパートタイム労働者のモチベーションの向上への貢献が期待される。