事例1-1-5 織物・衣服・身の回り品小売業(男子服小売業)
職務評価を用いてパートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況を確認した上で、パートタイム労働者の格付け制度、賃金制度を整備した事例
1. 企業概要
所在地 | 東京都町田市 |
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従業員数 | 約430名 うち、約340名がパートタイム労働者 |
主な事業内容 | 織物・衣服・身の回り品小売業(男子服小売業) |
2. パートタイム労働者に関わる人材課題
同社の従業員の大半は店舗で働く定時社員(パートタイム労働者)であり、業界としてパートタイム労働者の人材確保が困難な状況にある。また、平成27年4月1日施行の改正パートタイム労働法等の法改正への対応も行う必要があった。そこで、法改正に対応しつつ、パートタイム労働者にとって納得性が高く、やりがいを感じられる人事制度を整備することで、モチベーションの向上および優秀な人材の定着を図ることを目的として、パートタイム労働者の人事制度改訂に取り組んだ。
3. パートタイム労働者の人事制度の概要
パートタイム労働者(同社では定時社員)を職務(役割)内容に応じて、初級、中級、上級の3段階で格付けし、それぞれの主な職務内容を、職務説明書を用いて下表の通り整理した。
図表1.定時社員の職務(役割)内容
定時社員上級 | 定時社員中級 | 定時社員初級 | |||
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業務内容 | 主な業務内容 |
レジ締め レジ打ち 伝票入力 掃除 出荷入荷作業 検品 アナウンス お店のカギ開け締め 銀行入金 スタッフへの指示出し クレーム(簡易) ディスプレイの交換 接客販売 商品整理 品出し 棚卸 売場の作成 在庫管理 備品・消耗品の発注 POPの作成 |
レジ締め レジ打ち 伝票入力 掃除 出荷入荷作業 検品 アナウンス |
レジ締め レジ打ち 伝票入力 掃除 出荷入荷作業 検品 アナウンス |
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必要な知識や 技能の水準 |
商品知識・高 売場作りの演出力 総合的なセンス 接客の上手さ |
商品知識・中 | 商品知識・下 | ||
責任の 程度 |
権限 | 部下の有無 | 有 | 無 | 無 |
権限の範囲 | 時間管理 (タイムカード) |
無 | 無 | ||
役割の範囲 | 担当エリア 指示出し |
シフトに応じて | シフトに応じて | ||
トラブル発生や 緊急時の対応 |
クレーム(簡易)対応 | 無 | 無 | ||
成果への期待の程度 | 無 | 無 | 無 |
定時社員の給与構成は、ベース給、職務給の2つから構成した。また同社では、店舗ごとに定時社員の採用の困難性に応じてスタート時給を設定していたことから、それらを店舗加算として再構成し、時給の設定が採用の可否に直接関わる定時社員初級にのみ適用することとした。
職務給は、職務ポイントにポイント単価を乗じることで、計算し、ベース給は700円に設定した(職務ポイントについては後述)。
図表2.定時社員の給与制度
定時社員 初級 | 定時社員 中級 | 定時社員 上級 | |
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上限値 | 886円 | 983円 | 1,129円 |
中央値 | 820円 | 910円 | 1,045円 |
下限値 | 754円 | 837円 | 961円 |
ポイント単価 | 15円 |
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ベース給 | 700円 |
店舗加算 | 0~150円 |
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4. 要素別点数法の導入目的と活用状況
同社の定時社員と一般正社員とでは、人材活用の面であまり差がなかったため、定時社員と一般正社員との均等・均衡待遇の状況を確認するため、要素別点数法による職務評価を実施した。
職務評価の実施は、以下の実施手順・実施体制の下で行った。
図表3.職務評価の実施体制・手順
実施手順 | 実施体制 | 実施内容 |
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①「人事制度改革プロジェクト」の組成 | 社長、部長、 部長代理、店長2名 |
②以下の実施事項について、意思決定を行うための会議体を組成 |
↓
②定時社員のレベル区分(格付け)の検討 | 社長、部長、 部長代理、店長2名 |
定時社員を職務(役割)内容から3段階に区分 |
↓
③モデル店舗の選定とベンチマークとなる正社員、定時社員の抽出 | 社長、部長、部長代理、店長2名 | 店長2名が在籍する店舗をモデル店舗として指定し、②のレベル区分に合わせて、ベンチマークとなる定時社員を抽出 |
↓
④ベンチマーク社員に対する職務説明書の作成 | 店長2名 | モデル店舗の店長が、レベル区分に合わせて抽出した社員の職務(役割)内容を職務説明書の形で整理 |
↓
⑤「人事制度改革プロジェクト」内における職務評価に関する勉強会の実施 | 社長、部長、 部長代理、店長2名 |
職務評価を実施するに先立ち、プロジェクトメンバー間で、職務評価の内容について理解と共有を行うため、コンサルタントによる勉強会を実施 |
↓
⑥「人事制度改革プロジェクト」におけるプレ職務評価の実施 | 社長、部長、 部長代理、店長2名 |
ベンチマーク社員に対する、「人事制度改革プロジェクト」メンバーによるプレ職務評価の実施 ※個人によって評価差異が生じることを確認 |
↓
⑦職務評価の実施 | 常務統括本部長、副本部長、部長3名、部長代理2名、店長2名、他1名 | ⑥の、個人によって評価差異が生じることを受けて、職務評価の実施者を役員やその他の管理職へ拡大し、合計10名による職務評価を本実施 |
↓
⑧「人事制度改革プロジェクト」による職務評価結果の調整 | 社長、部長、 部長代理、店長2名 |
最終的には、各実施者の職務評価結果の平均値をとることで、職務評価結果を調整 |
あらかじめ社内において経営層(社長)、管理職(部長、部長代理)、現場責任者(店長2名)からなる「人事制度改革プロジェクト」を組成し、職務評価の実施手順に関して、都度、意思決定を図ることで、納得性が高く円滑な職務評価の実施が実現された。
また、職務評価を本格的に実施する前に、プロジェクトメンバーに対し、職務評価に関する勉強会や、プレ評価を実施したことで、職務評価の精度を高めるという工夫を行った。
なお、評価項目はGEM Pay Survey Systemのものを使用し、ウェイトは全て1を設定した。
また、本事例では、定時社員の格付け制度の検証および賃金制度の設計についても職務評価結果を活用した。
職務評価による格付け制度の検証においては、役員4名、部長・部長代理等管理職4名、店長2名の合計10名で職務評価を実施し、算出された職務ポイントを平均することで決定した。検証の結果、定時社員と均等・均衡待遇の関係にある一般正社員との間で職務ポイントにほぼ差がないことが検証された。
なお、賃金制度については、図表2参照。
図表4.定時社員格付け制度の職務評価による検証
定時社員(パートタイム労働者) | 対応関係 | 正社員 | ||
---|---|---|---|---|
役割等級 | 職務ポイント | 職能資格 | 職務ポイント | |
店長 | 34 | |||
上級 | 23 | ⇔ | 一般正社員 | 26 |
中級 | 14 | ⇔ | ||
初級 | 8 | ⇔ |
5. 均等・均衡待遇の状況
定時社員と一般正社員のベンチマーク社員に対して行った職務評価による均等・均衡待遇の確認状況は下記の通りである。
定時社員の時間賃率は時給を用い、一般正社員の時間賃率は基本給と役職手当の合計額を1か月の所定労働時間で割って算出した。
図表5.ベンチマーク社員に対する職務評価の結果
6. パートタイム労働者の人事制度により得られた効果
定時社員への人事制度の本格的な導入は平成27年度以降を予定しており、まだ具体的な効果は得られていない。人事制度の導入にあたっては、人材獲得競争が激しい店舗から優先的に制度導入を進めていく予定である。また、あわせて定時社員上級の処遇改善を検討中であり、人件費負担を緩和するため、キャリアアップ助成金の申請を計画している。
- Point
- 好事例として参考にして欲しいポイント
本事例では、パートタイム労働者(定時社員)の活用の場が販売店舗中心であったことから、職務内容を実施するに際してはモデル店舗を選定し、その中からベンチマーク社員を抽出するという方法をとった。
職務評価を実施する際には、経営層、管理職層のみならず、店舗の責任者である店長を巻き込むことや勉強会やプレ評価を実施することで、職務評価の内容・結果に対する合意形成が円滑に図れるよう工夫を行った。
本事例における、職務評価の実施手順、実施体制についての詳細は、他社にとっての参考となるものと考えられる。