事例1-2-11 製造業(電子部品・デバイス・電子回路製造業)
「役割の大きさに応じた賃金制度」を構築した事例
1. 企業概要
所在地 | 神奈川県秦野市 |
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従業員数 | 約220 名 連結約570 名(ほぼ全員が正社員) |
主な事業内容 | 製造業 主に半導体関連製品を製造 |
2. 取組のポイント
- 社員ランク制度(ミッショングレード制)を構築する際に職務評価結果を活用した。
- 職務評価の手法を研究し、独自にアレンジした職務評価を実施した。
3. 人事制度改革の経過
同社は、能力資格制度を採用し、年功的な人事運用を行っていた。しかし、年功的な人事運用では、厳しい経営環境の中で高い成果を上げることが難しくなってきた。
そこで、「経営理念・経営計画を踏まえ、本人の適性に応じた育成と活用を行い、職務の役割に対する能力の発揮度合いと業績達成度を評価し処遇する」を基本理念として、平成23
年に新人事制度を構築することとなった。
上記理念に基づき、「役割の大きさに応じた賃金制度」を構築するため、ミッショングレード制度(社員ランク制度)を導入することになった。このミッショングレード制度を構築するに当たって、ポジションごとの役割の大きさを客観的に測定する必要があり、職務評価を実施することとなった。
4. 職務評価の実施ポイント
(1)実施した職務評価に関する基本情報(平成23 年改定)
図表3-8-1 実施した職務評価の基本情報
実施目的 | ・管理職のミッショングレード制(社員ランク制度)の構築 |
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実施者 | ・人事担当役員、人事担当者、各部門の代表者の計7 人 |
実施対象 | ・課以上の組織単位の長が行っている約40 ポジション全てについて実施 |
実施手法 |
・要素別点数法による職務評価を実施 ・外部専門機関が提示した指標を基に、独自に「グレード基準」を設定 ・評価結果については、各部門でも個別に複数回調整を実施した上で、会社全体でも5 ~ 6 回の会議を通じて調整 |
(2)本事例から得られる職務評価を実施するためのポイント
- Point1
- 職務評価の手法について研究し、自社に適した独自のグレード基準を作成この基準に基づき、管理職の役割について職務評価を実施
同社では、職務評価の手法について研究し、自社の考え方に基づく独自の評価項目である「グレード基準」を作成した。具体的には、図表3-8-2 に示す「テクニカルスキル」「マネジメントスキル」等の8
つの評価項目とそれぞれの評価項目についての着眼点を定義し、この定義をもとに、評価項目ごとに4 ~ 6 段階のスケールを設定した。
この「グレード基準」を用いて、課長以上の全管理職の役割を対象として、職務評価を実施した。なお、「グレード基準」は、同社として管理職に求める能力を示すために、社内公開している。
図表3-8-2 管理職層の評価要素の概略
評価項目 | 着眼点 |
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テクニカルスキル | ・担当業務に求められる技術的な専門性、知識やノウハウ |
マネジメントスキル | ・本人の直接的なマネジメントや巻き込む範囲・コミットする範囲の広さ、部署の規模 |
ヒューマンスキル | ・相手への対応難易度、深さ |
開発度合 | ・本人の業務及び検討していくテーマの広さ |
改革度合 | ・価値実現に要する現状からの改革度合 |
裁量度合 | ・本人が自分の裁量で決定し動ける範囲 ・報告義務のある上長の役職 |
収益サイズ | ・本人の担当する売上、経費、運用額等の取扱い |
収益関与責任度 | ・上記責任範囲に関しての関与、責任度合 |
注:この図表は、同社のグレード基準をもとに一部を加工して作成している。
- Point2
- 職務評価結果は非公開
一般的には、職務評価から得られた数字を公開することで、役割に対する違いが明確になり、納得性が高まると考えられている。
しかし、同社の場合、職務評価の結果と、賃金制度が関連付けられているため、公開すると各社員の賃金水準が分かってしまうことから、本来の趣旨に反した解釈(例えば、あのポジションより、自分のポジションはなぜ低いのか。など)がなされ、混乱が生じる可能性があった。
このような混乱を避けるため、職務評価の結果について公開しないこととした。
- Point3
- 人事担当者が中心となって職務評価を実施
対象となるポジションは40 程度であったことから、人事担当者2~3
名が中心となって、各部門長の話を聞きながら評価作業を行った。評価に当たっては、部門長には必ずしも職務評価の詳細な内容まで理解することを求めず、聞き取り作業を通して、人事制度改革の趣旨や制度全体の概要を理解してもらうことを重視した。
最終的には、出てきた結果を部門長に確認してもらい、必要に応じて全体で調整を行った。
5. 職務評価を活用して導入された人事制度
(1)社員ランク制度に活用(職種・資格体系(グレード)の仕組み)
職務評価の結果を参考にして、ミッショングレード制度(社員ランク制度)を導入した。
この制度は、事業部別にグレードを設定、担当する役割によってグレードの大きさが変化する仕組みである。
図表3-8-3 同社が導入しているミッショングレード制度のイメージ
グレード | ○○事業部 | ■■事業部 | △△事業部 | ・・・ |
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1 | ○○部長 | △△部長 | ||
2 | ●●部長 | ■□部長 | ||
3 | □□部長 | ▲▲部長 | ||
・・・ |
注:本図表は、同社の制度をご理解いただくために、イメージで作成したものである。
(2)賃金制度設計に活用
賃金制度の見直しに当たって、基本給は、グレードにより決定することとしたため、「ミッショングレード制度」と賃金制度との連動が強いものとなった。
ただし、移行時には労働条件の不利益変更とならないように配慮した。
6. 職務評価を活用した効果
従来の人事制度では、仕事(役割)と等級が連動していないため、担当する仕事(役割)が、より大きなものに変わっても、昇格しなければ処遇は変わらないということがあった。今回「仕事(役割)」と「処遇」を一致することを原則としたため、このような矛盾が解消され、仕事(役割)に応じた処遇を実現することができた。