事例1-2-10 金融業

評価項目を3つにし、職務評価の結果を社員の処遇に反映した事例

1. 企業概要

所在地 東京都港区
従業員数 約24,000 人
正社員約19,000 人 パートタイム労働者約5,000 人
主な事業内容 金融サービス業
日本国内にグループ企業約650 社、関連拠点約1,000 か所
海外にグループ企業約90 社、関連拠点約350 か所

2. 取組のポイント

  • 職務評価項目を3項目に厳選して実施した。
  • 職務評価を活用して、社員ランク(グレード)ごとに役割バンド(職務評価結果により得られた役割の大きさに応じた区分)を新たに設定し、役割に合わせた処遇制度を実現した。

3. 人事制度改革の経過

同社では過去数回、大きな人事制度改定が行われた。本事例では、職務評価を活用した役割等級制度の改定を行った平成21 年改定を中心に記載する。

①役割等級制度導入以前

平成14 年以前の人事制度は、仕事や役割といった基準ではなく、社内の職能資格によって年功的に賃金が決まりやすい仕組みであった。この制度では、担当する役割の大きさによって賃金が決めにくく、上位の資格になってしまうと降格しにくいためその資格に安住してしまい、挑戦する意欲を失いやすいといったような弊害も顕在化していた。

②役割等級制度導入(平成14 年改定)

以上のような背景から、平成14 年に人事制度改定に着手し、役割の大きさや成果に応じた処遇を実現する人事制度を構築することとなった。具体的には、全社員を対象に、それまでの職能資格制度を改め、役割等級制度を導入した。その中で、管理職に対しては職務評価を活用して役割等級制度を導入した。

③職務評価を活用した役割等級制度の改定(平成21 年改定)

平成14 年の制度改定以降、事業領域の拡大に伴い、社員が行う仕事の多様化が進んだ。これに伴い、同一等級であっても役割の大きさにバラつきが生じており、必ずしも役割の大きさと対応した処遇とはなっていないという問題が顕在化してきた。そのため、平成21 年に要素別点数法による職務評価を実施して役割等級制度を見直し、個々人の役割の大きさを処遇に的確に反映させる仕組みへと制度改定を行った。

④役割等級制度の拡充(平成25 年改定)

その後、平成25 年には「チャレンジを続け、より大きな役割を果たそうとする社員に一層報いる仕組み」を目的として、平成21 年に実施した職務評価結果をベースに役割等級制度の再編を行い、役割の大きさに対応した処遇制度をさらに拡充した。

図表3-7-1 人事制度の変遷

時期 主な実施事項
平成 14 年 役割等級制度の導入
平成 21 年 職務評価を活用した役割等級制度の改定
平成 25 年 役割等級制度の拡充

4. 職務評価の実施ポイント

(1)実施した職務評価に関する基本情報(平成21 年改定)

図表3-7-2 実施した職務評価の基本情報

実施目的 ・担う役割の大きさに応じた処遇の実現(管理職)
実施者 ・人事担当者(人事制度改定に関するプロジェクト担当者)が実施
・管理職の上位等級者である部長クラス以上については、経営幹部が実施
実施対象 ・管理職の仕事約1,300 ポジションを対象
実施手法 ・要素別点数法による職務評価を実施
・職務評価表については、多方面から情報収集を行った上で、評価項目は3つに厳選するなど、同社なりにアレンジして実施
・評価者である人事担当者が、全ポジションの仕事内容を適宜各部門の責任者である部門長に確認しながら実施
・最終的に役員が職務評価結果を確認し、決定

(2)本事例から得られる職務評価を実施するためのポイント

Point1
評価項目を3つに厳選

同社が職務評価を実施する目的は、担う役割の大きさに応じた処遇の実現であったことから、同社では、評価結果の明らかな違いが明確にできればよいと考えた。このため、職務評価項目は多くなるほど、評価実施者の作業負荷が大きくなることから、経営戦略や経営トップの考えを踏まえた上で、職務評価項目を「経営へのインパクト」、「業務の困難度」、「管理範囲」の3項目に厳選した。評価項目が厳選されたことにより、評価実施者は判断基準を少なくすることができ、作業負荷を軽減することができた。

Point2
人事担当者が統一的な視点で職務評価を実施

評価項目を厳選することで、職務評価を数人の人事担当者で実施してもあまり偏りが生じずに、全ポジションの職務評価ができた。
例えば、担当エリアが違うだけで同じ仕事をしている場合は、同じ評価得点になることが想定されることから、人事担当者は同じ得点と判断し、その判断でよいかどうかを担当部門長に確認をとる形で調整をした。この際、評価項目が3つに厳選されていることから、チェックがしやすく、お互いに合意が取り易かった。

Point3
客観的な判断ができるよう数値等の判断基準を設定

「経営へのインパクト」はそれぞれの組織の営業目標数値を判定基準の一つとし、「管理範囲」は該当ポジションで何人の社員を管理する立場にあるかといった「人数」という客観的な指標を用いて判断するなど、評価実施者の主観ができるだけ入らないように工夫をした。
一方、「業務の困難度」は、「代替人材の少なさ」「業務の創造性」といった定性的な判断基準を設定していたが、評価実施者や部門により解釈が変わり主観的な判断がされ易かったことから、「専門的な人材が何人いるか」など、できるだけ客観的に判断できる指標を定めた。
これらの判断基準は、評価実施者が判断を迷った際の指針として整理をした。

5. 職務評価を活用して導入された人事制度

(1)役割等級制度(職種・資格体系)

既存の役割等級制度のグレード(等級)は4段階であったが、職務評価結果を活用して、グレード(等級)を3 段階に集約するとともに、各ポジションの担うべき仕事や期待される役割の大きさを表す「役割バンド」を新設した(図表3-7-3)。この改定により、同じグレード(等級)であっても役割の大きさが違うという問題は概ね解消された。
なお、「役割バンド」は、原則毎年4 月に改定され、異動等により仕事内容が変われば「役割バンド」は再度見直されることとなった。

図表3-7-3 新しい役割等級制度

図表3-7-3 新しい役割等級制度

(2)賃金制度

処遇についても役割の大きさに応じた処遇となるように改善した。
平成21 年の改定では、職種及びグレード(等級)により定額が支払われる「ベース給」がグレードの改変に合わせて変更となり、また、役割バンドにより金額が変わる「役割給」が新設された。なお、人事評価結果は「ベース給」とは別に「加算給」に反映され、評価結果により増減する仕組みとなった。

6. 職務評価を活用した効果

  1. 社員の関心がグレード(等級)から「どんな仕事を任されるのか」にシフト
    既存の制度では、社員の目線はグレード(等級)に目が向きがちであった。それが今回のグレード(等級)と役割バンドの仕組みを導入することで、「自分はどんな役割なのか」という点に関心が向くようになった。
    また、「この仕事をするから(この役割バンドに格付けされることから)、この賃金になる」といったことが明確になったため、納得感がそれまでより高まったといえる。
  2. ポジション(仕事)に合わせた処遇体系を実現既存の制度ではグレード(等級)の変更が難しかったため、役割の大きさと処遇との均等・均衡が図られていなかった。役割バンドが導入されたことで役割の大きさに基づいた処遇を実現することができ、優秀な人材を適材適所で配置しやすくなった。

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