事例1-2-7 製造業(輸送用機械器具製造業 等)
職務評価の手法を活用し、「業務の価値」に着目した仕事給を創設した事例
1. 企業概要
所在地 | 東京都港区 |
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従業員数 | 正社員 約11,100 人 パートタイム労働者 200 人 |
主な事業内容 | ・建設機械、車両製造業 ・産業機械他の販売 |
2. 取組のポイント
- 「業務の価値」に着目した仕事給を導入するために職務評価の手法を活用した。
3. 人事制度改革の背景
同社では過去、複数回にわたり人事制度改定が進められており、本事例で取り上げる「仕事給」は「業務の価値」を反映させた仕組みである。この仕事給の制度を構築していく過程の中で、職務評価を活用しており、本事例ではこの「仕事給」の創設プロセスを取り上げる。
①「 業務の価値」に着目した賃金の原型(昭和43 年改定)
「仕事給」の原型は、昭和43 年に「職種給」として創設された手当である。当時の工場等は輻射熱、騒音、粉じんなどの多い「身体的つらさ」を伴う職場環境であった。そこで働く社員に対し、それに見合った賃金で報いるべきだとの考えから、経営の近代化という経営戦略に合わせて、「職種給」を導入した。この「職種給」を創設する際に、仕事を「身体的つらさ」という視点から一定の尺度の下に点数化し、その結果を参考にして賃金額を決定した。
②「 業務の価値」と「身体的つらさ」を切り分けた改定(昭和56 年改定)
「職種給」はその後、何度か改定を重ねてきたものの、「身体的つらさ」を中心に評価していたため、工場等に勤務する現業職の値が高くなる傾向にあった。しかし、非現業従事者の割合が増えるにつれ、現業職以外の社員の職務も適正に評価する必要が高まったた、「身体的つらさ」だけではなく、「業務の価値」に着目して賃金を決めることとなった。
そこで昭和56 年に、「業務の価値」に着目した「職務ランク」に応じた賃金を支給する「ステップ給」を創設した。
「ステップ給」を導入するに当たり、「業務の価値」を判断するために、その仕事に必要な「知識」や「責任の大きさ」などを評価項目として合計得点を算出する職務評価を実施した。
なお、それまで職務評価の対象となっていた「身体的つらさ」は「ステップ給」を決める際の評価項目からは切り離し、新たに創設した「特殊作業手当」に反映させた。
③職務分析・職務評価を実施した「仕事給」の設計(平成2 年―平成3 年改定)
更に「業務の価値」に着目した賃金制度を構築するため、「ステップ給」を「仕事給」に改定することとなった。
「業務の価値」を明確にするために、職務分析により仕事の棚卸しを行い、要素別点数法による職務評価を実施した。その結果を踏まえ、仕事給の金額を決定した。
④その後の制度改定
その後、平成9 年には現業職のT系社員と非現業職のR系社員に分け、「仕事給」はT 系社員を対象とする仕組みとした。
また、平成23
年には少子高齢化をはじめとした外部環境変化と社内環境の変化(労務構成、グループ間の人材交流)から、T系社員、R系社員の区分を職種に関係なく「事業所での育成や経験を通じて、より専門性に特化した知識・技能を獲得し、円滑な事業所運営に貢献する社員」を対象としたE
コース、「全国採用であり、グローバルな育成ローテーションを通じてより幅広い視野・考えを身につけ、新しい付加価値を創造していく社員」を対象としたG コースに分ける改定を行った。その中で、仕事給はE
コースの社員に対して支給する仕組みとする改定を行った。
図表3-4-1 職務評価手法を取り入れた仕事給創設の経過
改定時期 | 主な実施事項 |
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昭和43年 | 職種給導入(現在、仕事給として支給している賃金の原型) |
昭和56年 | ステップ給新設 併せて、特殊作業手当も創設 |
平成2 年―平成3年 | ステップ給を仕事給に改定 |
※その後、数回にわたり制度改定が実施された。
4. 職務評価の実施ポイント
(1)実施した職務評価に関する基本情報
図表3-4-2 実施した職務評価の基本情報(注1)
実施目的 | ・仕事給の支給根拠を明確にするため |
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実施者 | ・機能ごとの部門長が職務評価を実施し、人事担当者(プロジェクト担当者)が全体を調整 |
実施対象 | ・仕事給支給対象となる個々の社員の仕事 |
実施方法 | ・要素別点数法による職務評価を実施・既存の職務評価項目に関する情報収集を行い、同社なりにアレンジした職務評価表を活用・評価スケールは原則6 段階で実施 |
注1 平成2年-3年時に実施した職務評価の概要。これ以降の人事制度改定についても、必要により職務評価表の改定を行いながら、職務評価を活用している。
(2)本事例から得られる職務(評価)を実施するためのポイント
- Point1
- 仕事給見直しに伴い、仕事内容の棚卸し・職務分析を実施
同社は職務評価を実施する前に、職務分析を実施し、仕事内容の棚卸しを行った。職務分析を通じて、仕事内容を整理することで、現業職の仕事内容を確認することができた。
- Point2
- 職務評価項目は自社なりにアレンジ
職務評価の評価項目は、他社で活用しているものを参考に、以下の7 項目を自社なりにアレンジした。これらの項目を原則6段階のスケールで評価した。なお、評価自体は機能(部門)ごとに実施した。
図表3-4-3 非現業職評価項目
1 | 社会的に通用する知識の必要度 |
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2 | 社会的に有用と判断される知識・固有技術の必要度 |
3 | 仕事の複雑さ |
4 | 創造性 |
5 | 業務遂行上必要とされる折衝の程度 |
6 | 独立性 |
7 | 業績への直結度 |
- Point3
- 「身体的つらさ」といった「業務の価値」と混同してしまいそうな概念は、別の枠組みで設定
「身体的つらさ」「労働環境の苛酷さ」といった要素は「仕事給」として反映させるのではなく、「特殊作業手当」として反映することとした。
5. 職務評価を活用して導入された人事制度
(1)機能別に職務ランクを設定
平成2年-3年の改定時に、同社ではあらかじめ職務ランクを設定し、それを機能(部門)別に展開した「機能別職務ランク表」(図表3-4-4)(注2) を作成した。
次に、同社では、この機能別職務ランクに個々の社員の仕事を当てはめることができるかを検証するために、個々の社員を対象として職務評価を実施した。職務評価の結果から、個々の社員がいずれかの機能別職務ランクに当てはまることが確認できた。
そして、機能別職務ランクごとに当てはめられた社員の仕事内容を基に、具体的にランクごとの仕事を定義した。
機能別職務ランクごとの仕事について、例えば、図表3-4-4
にある営業のランクⅠの社員は、「営業職、市場企画職」の仕事を会社が求めているという解釈になる。なお、この「営業職、市場企画職」の仕事には別途詳細な定義書があり、該当者はその記載を読んでどんな仕事をするか(期待されているか)を確認できる仕組みを構築した。
この仕組みは平成2-3年の制度改定以降も踏襲され、制度変更により仕事給の支給対象となる機能が変更になると、その都度機能別職務ランク表も合わせて改定され、現在に至っている。
図表3-4-4 機能別職務ランク表
注2 図表3-4-4 は平成2 年-3 年改定当時のものではなく、その後改定が加えられた平成25 年現在活用されている表の抜粋。平成2年-3年改定当初と一部に違いがあるが、主旨は現在も変わっていない。
(2)職務ランクの仕事給への反映
先述した機能別職務ランク表は、仕事給の支給額を決定する際に活用している。職務ランク及び機能別に仕事給が決まっており、金額はランクごとに固定である。また、この金額については社内で公開されている。なお、従事する仕事が変更され、職務ランクが変われば、それに連動して仕事給も変わる。
6. 職務評価を活用した効果
平成23 年の改定でも、平成2 年―平成3 年に実施した職務分析・職務評価の結果を活用している。制度の変遷や微調整はあるものの、はじめにしっかりとした土台を作っておけば、その後、納得のいく形で制度を継続しやすくなっている。