事例1-1-2 卸売・小売業(飲食料品小売業)
職務評価を用いて、パートタイム労働者のモチベーション向上に資する格付け制度を構築した事例
1. 企業概要
所在地 | 長野県長野市 |
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従業員数 | 正社員:約440人 パートナー・アルバイト社員(パートタイム労働者):1,100人 |
主な事業内容 | 小売業 生鮮食品・一般食品・日用品などスーパーマーケットチェーン 長野県内32店舗 |
2. 取組のポイント
- 正社員の人事制度について、職能資格制度から職種別賃金制度(同社での表現、いわゆる職務別の賃金制度)に改定したため、これに併せて、パートナー・アルバイト社員(パートタイム労働者)の格付け制度についても見直しを行った。
- 人材活用戦略や将来のキャリアパスを意識して、これまで3段階であったパートナー・アルバイト社員の格付け段階を6段階とした。
3. 人事制度改革の経過
同社では、ガイドラインに記載されているGEM Pay Survey System(長野県経営者協会版)に基づき、正社員については、既に職務評価を活用した人事制度を導入済みである。
現在、パートナー・アルバイト社員について採用が難しい状況が続いている。そこで、パートナー・アルバイト社員の処遇改善やモチベーションアップを意識した改革が必要と考え、以下のことを目的に、正社員と同じ職務評価を活用した人事制度導入を検討することとなった。
- パートナー・アルバイト社員の職域拡大を図り、キャリア開発やモチベーション向上を図る
- パートナー・アルバイト社員と正社員の均等・均衡待遇を実現し、処遇改善を図る
- パートナー・アルバイト社員が長く働くことができる職場環境を整える
4. 職務評価の実施ポイント
(1)実施した職務( 役割) 評価に関する基本情報
図表3-1-1 実施した職務評価の基本情報
実施目的 | ・正社員とパートナー・アルバイト社員の格付け制度の対応関係の検証 |
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実施者 | ・現場の管理職 |
実施対象 | ・パートナー・アルバイト社員の一部をベンチマーク社員として抽出して実施 |
活用評価手法 | ・要素別点数法 ※GEM Pay Survey System(長野県経営者協会版) |
(2) 実施内容
①パートナー・アルバイト社員の人材活用戦略の再検討
当初、パートナー社員にはチーフクラスまでの役割を期待していた。ところがパートナー社員の一部をベンチマークとして選定し、職務評価を実施した結果、ジョブサイズ(同社では、職務評価結果をジョブサイズと表現している)の数値が正社員におけるチーフクラス(正社員の職種ランクの3)に相当するパートナー社員が数名確認された。
そこで、パートナー・アルバイト社員の人材活用戦略を見直し、将来的には、さらに上のクラスの副店長相当の職務内容まで期待することとし、これまでの店舗管理を正社員2
名(店長+副店長)体制から、正社員1名(店長)+ パートナー社員1名(副店長)の体制も可能となるよう、人材活用戦略を改めた。
②職務内容の棚卸し
現場責任者は、日々現場に出て、パートナー・アルバイト社員の仕事全体をほぼ把握しており、現在の仕事を正確に把握し、正社員の仕事と比較できると判断された。しかしながら、パートナー・アルバイト社員の仕事は正社員の仕事と比較して、体系的に整理されていなかったことから、まずは、パートナー・アルバイト社員の職務内容の棚卸しを行った。職務内容の棚卸しは、中央職業能力開発協会「職業能力評価基準(スーパーマーケット業)」を参考として、パートナー・アルバイト社員と正社員の職務内容の棲み分けについて確認した。
③格付け制度の設計
上記①で見直したパートナー・アルバイト社員の人材活用戦略に基づき、図表3-2-2 のようにランク定義を作成した。なお、同社には16 の職群があるが、パートナー・アルバイト社員であっても、図表3-2-3 のように正社員とランクが同じであれば、職種に関係なく同程度の処遇とする方針とした。
■パートナー | |
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ランク | 定義 |
P6 |
・マネージャー職の下、店長を補佐し、各部門のチーフを指揮する職務 ・マネージャー職の下、専門能力を基に、部門に影響度の高い課題を担う職務 ・店長不在時に、店長代行として一定の判断業務を行う職務 ・正社員における副店長相当 |
P5 |
・マネージャー職の下、専門能力を基に、部門又はグループ(チーム)に影響度の高い課題を担う職務 ・正社員における店舗、本社の各部門チーフ相当 |
P4 |
・所属長の指導の下、部門を構成する一定範囲を職務とし責任を担う職務 ・チーフ不在時に、定型職務及び一定の判断業務を行う職務 ・正社員における担当職2等級相当 |
P3 | |
P2 | ・所属長の指導の下、指示の範囲内で責任を担う職務 ・正社員における担当職1等級相当 |
P1 | |
■アルバイト | |
A3 |
・所属長の指導の下、部門を構成する一定範囲を職務とし責任を担う職務 ・チーフ不在時に、定型職務及び一定の判断業務を行う職務 ・正社員における担当職2等級相当 |
A2 |
・所属長の指導の下、指示の範囲内で責任を担う職務 ・正社員における担当職1等級相当 |
A1 |
図表3-2-3 ランク別マトリックスの格付け対応関係
正社員 | パートナー | アルバイト | |||
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ランク | 店舗管理 | 店舗販売 | |||
6 | 副店長 | P6 | |||
5 | チーフ | P5 | |||
4 | 担当2 | P4 | |||
3 | P3 | A3 | |||
2 | 担当1 | P2 | A2 | ||
2 | P1 | A1 |
④職務評価による検証
図表3-2-3 を検証するため、棚卸しした職務内容をもとに、正社員と同じ職務評価表(注1)
を活用し、パートナー・アルバイト社員のランク別マトリックスを検証した。その結果、ランク別のパートナー・アルバイト社員のジョブサイズは図表3-2-4 のとおりとなった。
ジョブサイズの数値で比較すると、パートナー6 等級と正社員6 等級がほぼ同じとなり、以下、いずれのランクでもほぼ同程度の大きさとなっている。これにより、図表3-2-3
で設定したパートナー・アルバイト社員のランクと正社員のランクの対応関係が、適切であることを確認した。
図表3-2-4 ランク別マトリックス
正社員 | パートナー | アルバイト | |||||||
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ランク | 店舗管理 | 店舗販売 | |||||||
ポイント | ポイント | ランク | ポイント | ランク | ポイント | ||||
6 | 副店長 | 280 | P6 | 270 | |||||
5 | チーフ | 250 | P5 | 240 | |||||
4 | 担当2 | 200 | P4 | 210 | |||||
3 | P3 | 190 | A3 | 190 | |||||
2 | 担当1 | 170 | P2 | 175 | A2 | 175 | |||
1 | P1 | 160 | A1 | 160 |
⑤賃金制度の改定、処遇にかかわる検討
同社では、図表3-2-4 のランク別マトリックスに記載されているジョブサイズを職種給に反映させており、パートナー・アルバイト社員に対しては、図表3-2-5 のような枠組みで給与項目を設定した。
図表3-2-5 給与体系
名称 | 概要 |
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基本給 ◆職種給 ◆勤続給 ◆調整給 |
給与締日現在の職種ごとのジョブサイズにより支給毎年4月1日現在の勤続年数による 特別な事情により賃金の調整を必要とする場合に、期間を限定して支給 |
そのほか、技術手当、通勤手当等を支給 |
なお、パートナー・アルバイト社員に対する職種給の算出方法は以下のとおりである。
また、ジョブサイズ単価については職務評価結果を、活用係数については、異動等の人材活用の仕組みの違いを踏まえながら、同社の労働組合と協議の上、決定した。
【職種給の算出方法】
職種給(時給)=ジョブサイズ × ジョブサイズ単価 × 活用係数
ジョブサイズ単価:4.5 円
活用係数:0.80
5. 職務評価を活用した効果
同社では、今回整備したパートナー・アルバイト社員に対する制度について、平成26 年4月導入を予定していることから、現段階で具体的な効果までは見い出せないが、次のような効果が期待できると考えている。
- 既存の正社員の制度に基づいて、パートナー・アルバイト社員の制度を設計することにより、正社員、パートナー・アルバイト社員が共通の仕組みで制度運用する素地を形成した。これにより、均等・均衡待遇の推進が図られ、パートナー・アルバイト社員にとって、納得感の高い賃金制度ができあがったと考えられる。
- パートナー・アルバイト社員の格付け制度を整備したことでパートナー・アルバイト社員自身がどうすれば昇格できるか、どこまでキャリアアップできるのかなどを確認することができ、結果として、本人のモチベーション向上につながると考えられる。