事例1-1-1 飲食サービス業
職務評価を活用しパートタイム労働者の賃金制度を構築した事例
1. 企業概要
所在地 | 東京都大田区 |
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従業員数 | 正社員9名 準社員8名(パートタイム労働者) パート・アルバイト約80名 (パートタイム労働者) ※同社における準社員もパートタイム労働者であるが、パート・アルバイト社員の上位の位置づけとして「準社員」と呼称していることから、そのままの表現を用いる。 |
主な事業内容 | 飲食業 喫茶店及びファーストフードのフランチャイズ加盟店 東京都内、神奈川県内で計4店舗を経営 |
2. 取組のポイント
- パートタイム労働者から正社員へとステップアップするキャリアパスを構築する際に職務評価を活用した。
- 求められる仕事内容が明確になり、職務に応じた賃金制度を構築したことで社員の納得感が高まった。
3. 人事制度改革の経過
喫茶店やファーストフードのフランチャイズ加盟店として飲食事業を開始してから、日が浅いため、正社員、準社員、パート・アルバイトに関する明確な人事・給与制度を定めていなかった。
4. 実施の背景・目的
次の目的を実現するため、職務評価を活用した人事・給与制度の構築を検討することとした。
- 人事・給与制度に関する明確な定めがなかったことから、社員に対して公明正大なルールを提示し、しっかり説明できるようにしたい。
- 社員の成長のステップを明確にしたい。正社員になって成長すれば、店長や店舗を束ねるスーパーバイザーになれるといった夢を持って働けるような会社にしたい。そのためには、期待する役割や給与体系を明確にする必要がある。
- パート・アルバイトの戦力化を図りたい。パート・アルバイトの仕事、準社員の仕事、正社員の仕事というように仕事内容を明確にし、役割をはっきりとさせる必要がある。
5. 職務評価の実施ポイント
(1)実施した職務評価に関する基本情報
図表3-1-1 実施した職務評価の基本情報
実施目的 | ・仕事内容を定量化することで従業員への説明根拠を明確にし、納得感を高めること |
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実施者 | ・代表取締役 |
実施対象 | ・正社員、準社員、パート・アルバイト それぞれの社員ランクについて実施 |
活用評価手法 | ・要素別点数法 ・ガイドラインに記載されている職務評価表をそのまま活用 |
その他 | ・同社は全社員のうち9 割がパートタイム労働者(準社員、パート・アルバイト)であり、パートタイム労働者の制度を構築することが必要であるとの判断から、パートタイム労働者を対象に職務評価を実施 |
(2)実施内容
①パートタイム労働者の活用戦略の検討
はじめに、パートタイム労働者の活用戦略を設定した。
前述したとおり、同社では正社員が全社員の1 割程度であり、パートタイム労働者(準社員、パート・アルバイト)の戦力化が企業の発展につながるとの考えから、図表3-1-2
に示すような活用戦略を立案した。
将来的には、パート・アルバイトから準社員、準社員から正社員というように現場業務だけではなく、店長として複数の店舗の管理や、スーパーバイザーとして店舗の指導に当たる立場まで活躍の幅を広げて欲しいと考えている。
図表3-1-2 パートタイム労働者の活用戦略
区分 | 属性 | 位置づけ・特徴 | 活用戦略・キャリアステップ | |
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正社員 | 準社員から登用 | ・店舗運営責任者 店舗マネジメント 人材育成 ・本部スタッフ |
・店長として、店舗オペレーション、店舗マネジメントを行う | |
外部から登用 | ||||
パートタイム労働者 | 準社員 | フリーターから登用 | ・時間帯責任者ひと通りのオペレーションと店舗マネジメント補佐 | ・優秀でやる気のある人材には、正社員へのステップアップの道を用意する |
採用時に正社員を希望していた者 | ||||
パート・アルバイト | 主婦 | ・現場オペレーションの担い手(昼間の勤務が中心) ・勤務地、時間などに制約が多い |
・モチベーションアップのための施策が必要 ・優秀でやる気のある人材には準社員へのステップアップの道を用意する |
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フリーター | ・現場オペレーションの担い手(随時) | |||
大学生 | ・現場オペレーションの中心的な担い 手(夕方以降の勤務が中心) ・優秀な人材が多いが、時限的な勤務となる(卒業まで) |
②基本給体系の確認
前述したように、同社は外食業に参入してから日が浅いことから、賃金体系が明確に定まっていなかった。
③パートタイム労働者の格付け(役割等級)制度の設計
パートタイム労働者の格付け(役割等級)制度の設計を、以下のとおり実施した。
ア職務内容の棚卸し
正社員、準社員、パート・アルバイトの活用戦略が確定した後、「職業能力評価基準(注1)」の飲食業を参考に、現在の仕事に着目して、職務内容の棚卸しを行った。
なお、同じ飲食業でも喫茶店とファーストフード店の職務内容は異なるため、両者を分けて整理した。また、店長を補佐する正社員、店舗マネジメントを担当する正社員、各店舗を支援・統括する正社員(エリア統括、本社スタッフ等)を区分するため、それぞれを「正社員1」「正
社員2」「正社員3」と区分設計することとした。
職務内容の棚卸しを通じて、店舗内でのオペレーション作業は正社員と準社員に大きな違いはないが、正社員は「店舗マネジメント・新入社員教育」といった業務も担当しているといった違いが明らかになった。また、喫茶店の準社員とパートタイム労働者とでは、キッチンフロアサービスの仕事は同じであるが、準社員は、オペレーション管理の仕事も担当しているといった違いを整理することができた。
さらに、職務内容の棚卸しの作業を通して、現在行っている仕事に加えて、本来行ってほしいが実際にはできていない仕事等を整理することもできた。
その結果、「○」は現在行っている仕事とし、「△」は現在はできていないが、今後できるようになって欲しい仕事として整理し、職務内容を見える化した(図表3-1-3)。
図表3-1-3 職務内容の棚卸(活用した実際の表)
職務 | 能力ユニット | 現 状 | ||||||
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大分類 | 中分類 | パート・アルバイト | 準社員 | 正社員1、2 | 正社員3 | |||
喫茶店F | FF(※1) | 喫茶店 | FF | 喫茶店 | FF | 共通 | ||
店舗開発 | 出店計画 | ○ | ||||||
物件 | ○ | |||||||
店舗 | ○ | |||||||
商品開発(※2) | マーケット・食材研究 | |||||||
メニュー開発 | ||||||||
食材・商品購買 | 商品調達計画 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
商品仕入 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
セントラルキッチン(※3) | ||||||||
商品管理 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
営業・店舗管理 | 営業サービス | △ | △ | ○ | ||||
エリア店舗管理 | △ | △ | ○ | |||||
フランチャイズ企画・管理 | ○ | |||||||
店舗従業員教育 | △ | △ | ○ | ○ | ○ | |||
オペレーション管理 | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
キッチン(ドリンク、食べ物) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
フロアサービス | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
※1 は、ファーストフード店の略。 ※2 は、社長が担当している職務である。 ※3 は、職務の棚卸しを実施していない。
イ職務内容のグルーピング
次に、棚卸しの結果を基に、正社員、準社員、パート・アルバイトに対して求める仕事について整理した。現在、店舗開発と商品開発はフランチャイズ本部のアドバイスの下、社長が実施しているが、職務評価の整理作業を通して、将来的には、店舗開発や営業について、正社員に順次移譲していくこととした。
ウ格付け(役割等級)制度の設計
以上のような職務内容の整理を踏まえ、ガイドライン(注2) を参考に格付け(役割等級)制度を設計した。
具体的には、図表3-1-4 のように準社員を含めて4段階の格付け(役割等級)制度を設定した。当初はガイドラインにあるように5
段階で階層を設定していたが、違いが明確でないため、社内での検討を踏まえて4段階の格付けに修正した。
また、コスト意識や収益マインドを高めてもらうために、各等級の定義の中にその内容を含めることとした。
さらに、「喫茶店」と「ファーストフード」では、職務内容に若干の違いがあることから、パート・アルバイトについては、「喫茶店」と「ファーストフード」を別々に設定した。
図表3-1-4 パートタイム労働者(準社員、パート・アルバイト)の社員ランク(注3)
等級 | 格付け段階(役割等級)の基本定義 |
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P4準社員 | ・全体の業務を熟知した幅広い視点から自社において培われた知識・スキルを体系化し、下位者に対して教示した上で店舗スタッフ全体のレベルアップを図っている ・店舗の調整役として店舗スタッフや正社員と連携を図り、快適な職場環境作りに努めている ・店舗の月次での売上・利益数値を確認し、予算の進捗状況を把握しながら売上増強やコスト削減に関する改善策を提案している |
P3現場リーダー | ・豊富な知識・スキルを有し、期待どおりのサービスを提供している ・主体的なアプローチ、顧客ニーズの把握、ニーズに沿った提案を徹底し、顧客満足向上に努めている ・担当業務についての問題意識を常に持ち、上位者や正社員に対して改善提案を行っている ・日々の売上集計や発注作業を通じて、売上増強やコスト削減の意識を持って業務に従事している |
P2一人前 | ・基本的な知識・スキルを有し、与えられた仕事を1人で着実にこなしている ・他メンバーに対して、積極的にフォローを行っている ・時間管理の徹底、ロス率削減等無駄を省く努力を継続している |
P1エントリー | ・具体的な作業指示を受けながら、与えられた仕事に従事している ・日々の業務を通じて、少しでも仕事を早く覚えられるよう、努力している ・大きな声と笑顔で挨拶し、テキパキとお客様の応対を実践している |
以上のように、各等級の定義を定め、同社では社員ランク(格付け(役割等級)制度)を図表3-1-5 のように設定した。
図表3-1-5 パートタイム労働者と正社員の格付け(役割等級)制度(検討後)
④職務評価表のカスタマイズ
職務評価表について、自社なりのアレンジをしてしまうと、逆に従業員の納得感が得られなくなってしまうことが懸念されたことから、同社では、ガイドラインに掲載されている職務評価表を特にアレンジせずに実施した。
⑤職務評価を用いた格付け(役割等級)制度の検証
図表3-1-5 で設定した格付け(役割等級)制度の社員ランクごとに職務評価を実施した。結果は以下の図表3-1-6 である。
パート4等級(準社員)が20 ポイント、正社員1 等級が22 ポイントとなったことから、パート4等級(準社員)と正社員1 等級の対応関係にほぼ問題ないことが検証された。
なお、ポイント単価の算出のための時間賃率の計算は、パート4等級(準社員)と正社員の間に人材活用上の相違はあるものの(店舗異動・職務内容の変更等)、運用実態としては大きな違いはないとの判断から、活用係数を「1」として計算をした。また、時間賃率は、基本給、諸手当、賞与を合わせた金額で算出をした。
図表3-1-6 職務評価結果
上記の制度を構築するに当たっては、パート・アルバイトから準社員、準社員から正社員にステップアップできるよう、図表3-1-7
のとおり転換に関する基本的な考え方も整理した。
このように、基準を明確にすることで、社員の納得性を高め、モチベーションを高めることを期待している。
図表3-1-7
正社員登用基準 | ・店舗異動ができること ・マネジメント業務や改善指導、新規出店、新業態進出に関する意欲があること ・また、そのノウハウを蓄積していること ・店舗の年間予算を把握して、予算と実績の差異分析を行いながら適切な改善施策を実施していること |
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準社員登用基準 | ・一定の労働時間勤務ができること(ほぼフルタイムで、時間帯の責任者として勤務できる) ・主要3業務を習得していること ホール業務 : お客様からの注文、要望への対応、給仕 ドリンク業務 : お客様からの注文に基づき、ドリンクを作成 スナック業務 : お客様からの注文に基づき、スナック(サンドイッチやケーキなど)の調理 ・店舗運営におけるリーダーシップを発揮できること ・店舗の月次での売上・利益数値を確認し予算の進捗状況を把握しながら売上増強やコスト削減に関する改善策を提案していること |
⑥賃金制度の改定、処遇にかかわる検討
パート4等級(準社員)と正社員1等級との賃金水準は時給換算するとほぼ同程度の賃金水準とした。なお、範囲給で設定しており、段階号俸表による昇給とした。
6. 職務評価を活用した効果
同社では平成26 年度からの制度導入を想定していることから、現段階で具体的な効果までは見出せないが、次のような効果が期待できると考えている。
- 格付け制度を整備するに当たって、各社員ランクの定義をベースに職務評価を行った。結果的に、等級ごとの役割が定量化された。職務内容やその大きさが明確になることにより社員の制度への納得感が高まることが期待できる。
- 評価結果を踏まえて、賃金制度を構築することにより、パートタイム労働者の納得感が高まると考えられる。
注1 「職業能力評価基準」とは、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を業種別、職種・職務別に整理したもので、厚生労働省が策定している公的な職業能力の評価基準です((参照)中央職業能力開発協会職業能力評価基準http://www.hyouka.javada.or.jp/user/outline.html)。
注2 ガイドライン 28p 参照
注3 この他に喫茶店やファーストフード店それぞれの要件が記載されている。