事例2-1-3 大手卸・小売業

パートタイム労働者の職務を整理し、職務及びその熟練度、役割にあった賃金制度を構築

同社は、関東及び甲信越の複数の事業体が連合して集まった事業連合体で、食料品や日用雑貨等の店舗での販売や会員となっている個人宅への宅配などを行っています。事業は加盟団体ごとに運営していますが、人事管理は本部と加盟団体及び業態ごとにある人事担当社員が中心となって実施しています。

職務評価を実施したきっかけ

同社は複数の事業体が徐々に同社に加入しながら、一つの連合体を形成してきたため、人事制度もそれぞれの事業体ごとに複数存在し、複雑なものでした。2000年代前半までは、正社員は職能資格制度により運用がなされていましたが、事業体ごとに制度が異なっていたため、その制度を、幹部職員と一般職員に分けた上で、それぞれ役割等級制度に変更する改革が行われました。そして、2000年代中頃に加盟団体の各事業部にある人事部門からの意見を集約し、現在の人事制度が構築されました。

また、正社員の役割等級制度を構築する際に、職務の棚卸を行い、職務評価の手法により職務の難易度を相互に比較して、役割等級ごとに担う役割を定義しました。

このほか、制度構築後、新しい職種が発生した際に、既存の職種と比較してどちらの職種の方が、難易度が高いかを確認し、賃金を設定する際に活用しています。

職務評価の実施プロセス

役割等級制度設計時の実施プロセス

まず、はじめに、課長や店長クラスの社員により、課長クラスの仕事、店長クラスの仕事の棚卸の作業が行われました。その上で、棚卸された仕事内容を整理し、仕事同士を「何時間で行える仕事なのか」「定型業務なのか、非定型業務なのか」等といった視点で比較し、どちらが「難易度の高い仕事か」を確認しました。そして、この整理結果を、役割等級制度に反映させました。

具体的には、「ラインマネージャーと副センター長の仕事、あるいはセンター長の仕事」等について、「こういった仕事をする役割だ」という大まかな整理を行いました。その上で、棚卸した仕事について個別に難易度を比較し、それぞれの役割に当てはめていきました【図表1】。

結果として、仕事内容と等級制度にもとづいた制度設計がなされました。

【図表1】 職務評価プロセス

職務評価プロセス

新たな職種の賃金水準を決定する際に活用

同社は役割等級制度の実施に伴い、加盟団体の事業を「業態」と「職種」に分類しました。「業態」とは、同社の提供するサービスの大きな枠組みであり、「職種」とは業態で提供するサービスを機能的に展開するために設定された社員個々の役割を指します。そして、業態ごとに複数の職種が存在し、職種により賃金額(仮称:職種手当)が変わります。

また、パートタイム労働者についても、正社員と同様に職務役割手当の額を決定する際に職務評価の結果を活用しています。

以下は、パートタイム労働者が該当する業態及び職種の一例です【図表2】。

【図表2】 同社の業態と職種

業態 職種
宅配 ①地域担当(配達) ②営業担当(訪問し、会員の勧誘を行う) など
店舗 ①水産 ②畜産 ③農産 など
流通 ①各担当 ②清掃係 など
生産 ①盛付  ②値付  ③畜産加工 など
本部 ①事務係/担当 ②検査係 など

さらに、新しい職種を設定し、職種手当を決定する際にも、職務評価の手法が活用されています。ここでは、上記、「宅配」を行う業態の中で、宅配先に保険の販売を促進する「販売員」の職種を新設することになった際のプロセスについて示します【図表3】。

【図表3】 職務評価プロセス

職務評価プロセス

この場合、同じ業態の中にあり、かつ、類似した活動を行っている「②営業担当(訪問し、会員の勧誘を行う職種)」と「販売員」の職務を比較し、まずは、本部の人事担当者と事業部の責任者及び人事担当者が協議をし、それぞれの仕事内容について整理しました。その協議の中で、「営業担当の方が、会員ではない人に売るわけだから難しい」、「販売員の方が保険という目に見えないものを売るわけだから難しい」等という意見がありました。それぞれの意見を検討した結果、新規に開拓する方が、既存の会員に対して営業するより難易度が高いと判断し、「販売員」の職務を「営業担当」の職務よりも低く設定し、労働組合との協議を経て、本部から、目安となる数値(職種手当額)を提示しました。同社では、このように新しい職務を他の既存の職務と比較することで職務手当額等を決定しています。

職務評価の導入成功のポイントと効果

より実態に沿った制度を構築することにより社員の納得度が向上

同社では前述したような職務(役割)評価を実施したことで、より職務の実態に沿った役割等級制度を構築することができました。

仕事同士を比較し、その難易度の違いを確認した上で賃金に反映させる制度を構築したことで、正社員及びパートタイム労働者の納得感を高めることができました。

仕事内容を熟知した者が職務評価の実施に関与

同社では、事業部ごとに人事担当者が配置されており、職種の新設等は現場に最も近い現場事業部が発案することができる人事システムになっています。そのため、仕事内容を熟知した事業部の人事担当者が職務評価に関わることで、職務評価の実施に対する社員の理解も得られたのではないかと思います。

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