事例2-1-1 中堅サービス業
職務評価を通じてパートタイム労働者の均等・均衡待遇を図る
同社は、宿泊や日帰り温泉の事業を行っています。立ち上げ当初から順調に経営基盤を確立してきたものの、平成18年ごろに災害に見舞われます。その影響で、平成19年に一時休業してしまいますが、会社合併や施設の改修等経営の刷新を図り、黒字の維持を目標に様々な改革を実施しました。その改革の一環として職務評価による人事制度改定を行いました。
職務評価を実施したきっかけ
いわゆる年功運用を改善するために役割等級制度を導入
同社では、設立当初、行政職給料表を適用した給料体系を採用していました。賃金はいわゆる年功的な運用となり、職務、職能に関わらず毎年一律に昇給したため、人件費の増加と従業員の労働意欲の低下などが起こりました。そのため、平成11年10月に給与規程を全面改定し、行政職給料表から民間企業で多く用いられている職務・職能給料表に給与テーブルを改定します。これにあわせて、正社員の役割とパートタイム労働者の役割の違いを確認し、役割等級制度(同社では単線型職務・職能制度と呼ぶ)を整備しました。【図表1】。
【図表1】 役割等級制度(単線型職務・職能制度)
人事制度改定後9年目の年に、人事担当者は改正パートタイム労働法が平成20年から施行されるとの情報を得ました。改正パートタイム労働法では、職務内容や人材活用の仕組み・運用等の同一性などを考慮して通常の労働者(正社員)との均等・均衡待遇を図ることを求めていますが、当時の正社員とパートタイム労働者の状況は改正パートタイム労働法の内容に抵触するおそれがありました。正社員と同等に働くパートタイム労働者がいたり、部下を何人も統括しているリーダー的なパートタイム労働者がいたためです。したがって、改正パートタイム労働法に対応できるよう、経営改革の一環として職務内容を明確にできる職務分析・職務評価を実施し、人事制度の見直しをすることにしました。なお、段階の役割等級制度の枠組み自体には特段問題がなかったため、7段階は維持したうえで、改定を行いました。
職務評価の実施プロセス
分類法により正社員とパートタイム労働者の仕事を明確化
【図表2】 職務評価実施プロセス
人事制度の見直しに際し、実態に合わせた基準が必要であろうということで、まずは同社の「仕事の洗い出し(課業の洗い出し)」を行いました。「仕事の洗い出し」は、どのような課業(業務)があるかを、等級別に人事担当者が課長クラスのメンバーに聞き取りする形で行いましました。
そして、洗い出した課業(同社では“業務”)について人事担当者と部門全体を把握している役員とともに比較を行いながら、責任・難易度が低い順にAランクからEランクのいずれかに分類し、「職務」として大括りにしました。A・Bランクの課業(業務)は、主にパートタイム労働者でも担当できるような課業(業務)、C~Eランクは正社員が行う課業(業務)という形で分類しました(分類法による職務評価)。
【図表3】 職務・職能基準表(一例)
この一連の作業を繰り返した後、役割等級別に自社のすべての課業(業務)、職務の責任・難易度を示した「職務・職能基準表(いわゆる職務レベル定義書)」を完成させました【図表3】。職務・職能基準表があることによって、どの課でどの役割等級の人がどのような仕事をしているのかが一目瞭然となりました。
次に「職務・職能基準表」の役割等級別に散らばっている職務・課業を、職務・課業(業務)別に集約した「職務一覧表」を作成しました【図表4】。たとえば、「職務・職能基準表」で課業(業務)レベルAの「基本販売」、課業(業務)レベルBの「熟練販売」、課業(業務)レベルCの「専門販売」は、「職務一覧表」では「販売業務」という職務全体として集約しています。
そして各責任・難易度の課業(業務)を誰が担当しているかを、主管(責任者として行っている)、担当(主担当として行っている)、補助(補助で行っている)というように役割ごとに切り分け、整理しました。
最後に、各責任・難易度ABCの課業(業務)について、担当者名を見ながら、正社員とパートタイム労働者の課業(業務)が切り分けられているか否かを判断をしました(「○:パータイム労働者と同じ課業(業務)」「×:パートタイム労働者と異なる課業(業務)」)。
【図表4】 職務・職能基準表と職務一覧表
等級別になった「職務・職能基準表」だけでなく、職務別の「職務一覧表」を作成することにより、誰がどのようなレベルの仕事を行い、それがどのような点(責任・難易度)で異なっているのかが明確になりました。課業(業務)を担当する担当者名も明らかにし、パートタイム労働者が行っている仕事が、正社員の仕事と比較して、同じ仕事をしているのに賃金に差が出ていることはないかなど、改正パートタイム労働法の趣旨に反しないかについても一覧表にして確認することもできました。主にパートタイム労働者が、責任・難易度がA、Bランクの課業(業務)を担当しており、C~Eの課業(業務)については正社員が担当する役割分担もおおむね示すことができるようになりました。「職務一覧表」を作成した目的は、まさに正社員とパートタイム労働者の均等・均衡待遇がなされているか、明らかにすることです。
一方、「職務一覧表」にて職務評価を行った結果、レベルC以上の職務が多いなど、正社員とほぼ同じ責任・難易度の職務をしているパートタイム労働者がいることも判明しました。そのため、正社員と同じような難易度の仕事をしているパートタイム労働者については、正社員と同水準の賃金が支払われるように、賃金水準を調整しました。たとえば、風呂掃除について、6人のとりまとめ役になっていたパートタイム労働者については、正社員の時給単価とほぼ同じ時給となっています。
同社にはパートタイム労働者のみの賃金制度はありませんが、正社員とパートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現により、パートタイム労働者の仕事に対するモチベーションアップを図っています。また、正社員転換制度も設け、優秀なパートタイム労働者には将来正社員に転換してもらうことを、経営層および人事担当者は望んでいます。
職務評価を実施する際に、特に苦労した点は次の2点です。これらの点を考慮しながら、人事担当者を中心に対応を進めました。
①人事担当者が職務評価実施者(各課長)に仕事の洗い出しを依頼したが、洗い出された業務の細かさが各課長で異なっていた点
②業務の細かさを統一するために、追加のヒアリングや再度の仕事の洗い出しを依頼しなければならなかった点
職務評価の導入成功のポイントと効果
正社員とパートタイム労働者の職務の明確化
同社のすべての仕事の洗い出しを行ったうえで、職務を難易度別に示した「職務・職能基準表」を作成し、「職務一覧表」により誰がどのような仕事をしているのか具体的に明確にしました。これにより、正社員とパートタイム労働者の均等・均衡待遇が、職務内容の面でどのように図られているのかを確認することができました。
また、「職務・職能基準表」は毎年、「必要な職務」、「不要な職務」を考慮し、最新のものになるように調整しています。そのため、人事異動があった場合でも、次の配属先の仕事がイメージしやすく、すぐに取り組めるという利点がありました。