事例2-2-1 大手製造業
職務分析を通じて課業をデータベース化し、人材育成に生かす
同社は、関東及び甲信越の複数の事業体が連合して集まった事業連合体で、食料品や日用雑貨等の店舗での販売や会員となっている個人宅への宅配などを行っています。事業は加盟団体ごとに運営していますが、人事管理は本部と加盟団体及び業態ごとにある人事担当社員が中心となって実施しています。
職務評価を実施したきっかけ
同社の人事制度は当初、年齢や勤続年数といった属人的な要素で処遇が決まる仕組みでした。この仕組みでは社員の役割が明確ではなく、合理的な仕事の展開ができないといった課題を抱えていました。そのため、人事制度を改定する必要があるという機運が高まり、属人的な制度を改定すべく、制度改定が進むことになります。
同社では人事戦略として、①全従業員(正規、非正規、派遣他)を視野に入れた要員管理システムの確立、②成果及び役割・職務の遂行能力を基準とした処遇システムの確立、③能力の育成、活用に主眼を置いた目標管理制度、人事考課システムの確立、④各人の個性、能力、適性を勘案したジョブローテーションの確立、⑤専門性、多様性、国際性のある人材確保に向けた人材育成システムの確立といった5つの柱を掲げます。この戦略を実現するためには、個々の社員がどのような仕事をし、それが効果的に行われているかを把握する必要があると判断されました。そのため、社員の業務内容を整理統合することを目的に職務分析・職務評価を行いました。
職務評価の実施プロセス
同社では、職務分析を実施した上で、分類法による職務評価を実施しました。具体的には、以下のステップで職務評価が実施されました。
同社では、まず、職務分析を行いました。具体的には、「誰が、どれ位の難易度の、どのような仕事をどれ位の頻度で行っているのか」「遂行レベルはどの段階に到達しているか?所要時間としてどれ位の時間がいるか?」を質問紙形式で回答してもらい、人事担当者がそれを集約しました(同社では、この調査を「職務担当調査」と表現しています)。なお、このような観点は、ISO9000における力量調査等に反映させることを趣意として作成しました。
この結果は、以下のような業務シートにあるような一覧表に落とし込まれました【図表1】。
【図表1】 職務内容の一覧表
その上で、「仕事の詳細(課業)レベル」で以下の図表にある区分で難易度を定義しました【図表2】。この区分はもともとあった資格等級制を参考に、各等級に求められる仕事のレベル(難易度)を定義したものです。すなわち、「難易等級」が1であれば、「単純・反復・補助業務」といった仕事が求められ、等級が上位等級になるに従い、難易度が上昇するように定義されています。
「難易区分」は難易度のレベルを示した記号になります。「難易等級」は「難易区分」で定義した仕事を実施することが期待される等級となります。
【図表2】 課業難易度の分類と対応等級(以下、「課業難易度分類表」)
定義 | 内容 | 難易区分 | 難易等級 |
---|---|---|---|
単純・反復・補助業務 |
|
A | 1 |
定型・定例業務 |
|
B | 2 |
非定形・判断・ 指導業務 |
|
C | 3 |
監督・企画立案業務 |
|
D | 4.5 |
管理・統率・政策・ 調整業務 |
|
E | 6 |
戦略・経営・統制業務 |
|
F | 7.8 |
※内容を一部改変しています。
この課業難易度分類表をもとに、課業ごとに難易度を設定し、実施すべき等級を定義していきました。この結果を一覧表に落としこみ、「職務分析システム」として構築しました。
同社グループ内の業務内容を整理統合目的とした「職務分析システム」の構築
同社では、職務評価という名目で「職務分析システム」を構築したわけではありませんが、①「課業難易度分類表」により等級の定義を行っていること、②この定義に基づき洗い出された課業を分類していることなどから分類法による職務評価を実施していると解釈できます。
最終的に職務分析により洗い出された課業は当初5,000以上に上り、それぞれに難易度を設定していきました(その後、課業は集約され3,000程度となっています)。
「職務分析システム」を活用し、各社員の職務分担を定義
同社ではこのような職務分析と職務評価結果を踏まえ、社員ごとに担当業務を整理し、業務と課業を記載した「職務基準表兼職務分担表」を作成しています。
下表はある社員の「職務基準表兼職務分担表」です【図表3】。業務と課業が記載され、課業の難易度が設定されています。難易度は「課業難易度分類表」の定義によるものになります。
仮にこの社員が「4等級」に格付けされているとすると、課業no1506の仕事は「資格等級と同等の課業」ということになります。課業no1501や0143の仕事は「資格等級未満の課業」になります。
「4等級」に格付けされたのであれば、難易度(等級)が「4」の課業をしてほしいのですが、実務を考えると必ずしもそうはいきません。人員構成や仕事の緊急度、重要度を考えると格付けされた等級以外の仕事もしなければいけないことも多いといえます。このような実情を踏まえ、「職務分析システム」では、「2等級」や「1等級」の仕事もしていることを表しています。
このように課せられている課業の内容は、「資格等級と同等の課業」「資格等級未満の課業」「資格等級より高位の課業」というように集計され、最終的には人事考課に反映されています。
【図表3】 職務基準表兼職務分担表 イメージ
職務評価の導入成功のポイントと効果
職務分析を通じた資格(役割等級)との乖離を分析し、その解消のための改善策を検討
職務分析システムを通じて、個々の社員の課業分担状況が明らかになりました。このことにより、各個人が格付けされている資格等級と担当課業の難易度、修得状況を照らし合わせて、「資格(役割等級)と役割の乖離度」を明確にし、その乖離が個人的修得状況によるものか、組織的な事情によるものかを分析することができるようになりました。
このような乖離状況を把握し、改善していくという視点で個人のキャリアアップ計画を作成しています。また、要因が組織にあると判断される場合はその組織の改善計画を立て、その解消のための対応を図っています。
技術認定制度に展開、人材育成に活用
職務分析システムを通じて明らかになった課業ごとに、求める技術レベル、最低限対応すべき量といったように質的・量的要求基準を設定しています。この課業を難易度係数として設定し、担当する社員が標準的な技能を身につけているかどうかを判断する指標の一つとしています。
職務分析システムのメンテナンスの実施
職務分析システムの継続的な運営のために、同社ではシステムのメンテナンスを定期的に行っています。職務分析システム構築当初より、課業をデータ化し、その内容を集計できるようにシステムを構築しており、定期的に行う担当職務調査を通じて大規模な課業の整理を行っています。また、不定期に社員から寄せられた意見等は人事担当部署が集約し、定期的な内容の修正に生かしています。