事例1-2-2 中堅製造業

グローバル戦略に沿った人事戦略の実現のため職務評価を活用

同社は、絹糸紡績からエアコン・給油器などの家電製品や複写機・プリンターなどの事務機器などに、省エネ・省資源・低騒音を実現するための精密モーターを主力製品とする会社であり、早くから海外に販売拠点や生産拠点を展開しています。

グローバル戦略に沿った人事戦略の実現のため職務評価を活用
グローバル戦略に沿った人事戦略の実現のため職務評価を活用

職務評価を実施したきっかけ

生産拠点の海外へのシフトという経営戦略に即した人事制度の構築

同社は、グローバルな視点での事業展開が益々加速する中で、国内外の競合他社に対して、優位性を確保するためには、品質や納期はもちろん、コストに対する厳しい要求にも応えていかなければ、生き残れない環境におかれているとの認識が強くありました。

そのため、1990年代より人件費の安い中国に生産拠点を立地させていましたものの、厳しい市場環境に対応するためには、「生産拠点の中心を、日本から、海外に移転させる」といった戦略を取る必要が出てきていました。この経営戦略を実現するためには、人事面でも見直しが必要となっていました。

同社は、いわゆる年功的な賃金体系を採用しており、年齢や勤続年数が大きい社員が比較的高い賃金となっていました。そのため、新しい経営戦略で重要となる人材が適切に評価されていない状況にありました。そこで、経営戦略を実現するために重要な人材が正当に評価され、それに見合った賃金制度を構築することになりました。

職種別の役割等級制度の構築

平成15年、社員に求める役割を明確にする役割等級制度を導入しました。これにより、年功的だった賃金制度の運用を改め、社員ランクと「開発」「営業」「生産」「スタッフ」等といった機能別の職種を設定し、社員の役割を明確にするとともに、この役割等級制度を反映させる賃金制度が運用され始めました。その後、平成22年に人事制度の見直しを実施し、以下のような役割等級制度が整備されました。

【図表1】 平成22年に改定された役割等級制度

平成22年に改定された役割等級制度

職種別役割等級ごとの「仕事の価値の大きさ」を測定し市場価値にあった賃金制度を整備

職種別役割等級制度が導入されたものの、必ずしも、市場価値や「仕事の価値の大きさ」に即した仕組みには十分になっていませんでした。そこで、平成22年に人事制度の見直しの際に、職種別の市場価値を重視し、これにあわせた賃金制度を整備するため、職務評価を実施しました。

職務評価の実施プロセス

同社は、専門家の指導のもと、『要素別点数法』による職務評価を採用し、以下に示すようなプロセスで実施しました。評価項目は、長野県経営者協会の中で検討が行われた評価項目を一部アレンジしたものを採用しました。実際の評価は、現場の仕事内容を熟知している部門長(生産コースは課長を含む)が5段階評価で行いました。なお、職務評価のウェイトは協議の末、専門家の指導に基づいて設定しました。

また、同社の人事労務担当者も経済団体が実施する人事労務に関する研究会で職務評価について学習していたことから、人事労務担当者が中心となって進めていきました。

【図表2】 職務評価実施プロセス

職務評価実施プロセス

【図表3】 職務評価項目

(1)専門性 (2)問題解決力 (3)人材代替性
(4)目標・戦略に対する影響の強さ (5)管理組織のサイズ (6)仕事の範囲
(7)革新性 (8)交渉の困難さ(外部) (9)交渉の困難さ(内部)
(10)従業員への負担 (11)現在の経営への影響度 (12)将来の経営への影響度
(1)職務上の責任権限の範囲
(2)普遍的に課される責任(後輩や部下の育成など)
(3)経営方針、事業戦略、事業部方針、市場環境、上司の意思を反映した職務遂行管理の内容とプロセス

各部門長等より出された職務評価結果は全体の整合を図るため、人事担当者が調整をし、最終的に以下の職務(役割)ポイントとなりました。各部門長等から職務評価結果が出された当初は、「仕事の価値の大きさ」ではなく、その仕事を担当している人物の仕事ぶりの評価となってしまい、評価結果のばらつきが多くみられました。人事担当者は各部門長等と直接話合いを行い、必要により、評価結果の調整を行いました。

【図表4】 職務(役割)ポイント結果

職務(役割)ポイント結果

この結果をもとに、ポイント単価を計算しました。職種別の各ランクに該当する社員に現在支給している賃金水準をもとに、以下の計算式によりポイント単価を計算しました。

ポイント単価=年収÷ポイント数総和

その結果が【図表5】です。この結果を参考にして、賃金水準の再設定等の微調整を行いました。

【図表5】 ポイント単価の計算

ポイント単価の計算

職務評価の導入成功のポイントと効果

段階を踏んでの職務(役割)の理解の浸透

平成22年の導入当時の担当者が言う通り、「もし、従来の年功的な人事制度を、一気に現在のような制度に変えていたら、大きな混乱をきたしただろう」とのことです。職務評価を実施するにあたって、以前から役割等級制度が導入されていたことから、職務(役割)の定義や職種への理解があり、比較的容易に導入することができました。しかし、「職務の価値の大きさ」といった考え方はほとんど社員の中にはなかったため、その考え方を理解してもらうのに一定の時間が必要でした。

キャリアステップ等人材育成の仕組みについてもあわせて検討

この役割等級制度を社員に説明する際に、「賃金制度」を改定するためだけではなく、社員のキャリアステップを明確にすることを重視するとの説明を強調し、人材育成関連部署もかかわりながら整備することで、社員の理解が得られやすくなりました。

職務評価を実施すると、相対的に「仕事の価値の大きさ」が大きい仕事に従事する社員と小さい仕事に従事する社員が発生します。これにあわせて賃金制度も整備されます。そのため、「職務の大きさ」が小さい社員のモチベーション低下が懸念されるため、より「職務の大きさ」が大きい仕事に従事してもらうためのキャリアアップや職種転換を促すための人材育成の仕組みが重要な要素となります。同社でも、制度改定に合わせて、キャリアアップや職種転換の仕組みを同時に実施することで、仕組み導入に伴う社員のモチベーション低下を防ぐことができました。

人事担当者と職務評価実施者との考え方のすり合わせ時間の十分な確保

人事担当者が職務評価実施者と話し合い、他部署の結果とのすり合わせを何回も行いました。一部部署では、評価実施者が集まり、評価結果のレベル感のすり合わせを行う会議を行ったところもありました。このように評価結果の妥当性を確認するための作業に時間を割き、お互いに話し合って職務(役割)ポイントを設定していくことが重要になります。

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