事例1-2-12 製造業(電気機械器具製造業 等)

「役割定義書」を基に職務評価を実施し、役割等級制度を確立した事例

1. 企業概要

所在地 東京都港区
従業員数 単独約23,000 人
連結約102,000 人
主な事業内容 電気機器等の製造業
国内に連結子会社270 社(平成25 年3 月現在)

2. 取組のポイント

  • 期待する役割を定めた「役割定義書」を作成し、この内容に基づき職務評価を実施した。
  • 職務評価は、まずベンチマークとなる部門・ポジションを選定して実施し、その結果を踏まえ、全部門・ポジションに展開した。

3. 人事制度改革の経過

同社は、多くの企業と同様に年功的な人事制度であったが、事業環境が厳しくなる中で、企業を存続成長させるためには、「『個人』と『企業』の緊張感のある関係が、両者を切磋琢磨し、ともに強くなる原動力となる」という考えに基づき、会社は社員に求める役割を提示し、社員がその役割にチャレンジするという関係を目指した。このため、社員が役割に応じた報酬を得ることができ、会社が社員の能力発揮を支援する等の仕組みを構築するため、平成14 年に管理職を対象とした役割等級制度(役割等級制度)を導入した。
この「役割等級制度」の構築に当たり、まず、各ポジションに求められる役割を「役割定義書」に整理した。次に、各ポジションの仕事の大きさを測定するために、職務評価を実施した。

4. 職務評価の実施ポイント

(1)実施した職務評価に関する基本情報(平成14 年改定)

図表3-9-1 実施した職務評価の基本情報

実施目的 ・管理職社員の役割等級への格付け
実施者 ・カンパニー(当時、会社の事業部門を独立した会社のように分け、独立採算が取れる組織作りをしていた。当社ではこの事業部門のことを「カンパニー」と表現した。)の人事担当者と本部人事担当者で実施(最終的には役員が内容を確認)
・ベンチマーク社員については、人事担当者(プロジェクト担当者)と外部専門機関が実施し、その他の社員については人事担当者が実施
実施対象 ・管理職を中心とした約9,500 のポジション
実施手法 ・要素別点数法による職務評価を実施
・部門・ポジションごとに求められる仕事が記載されている役割定義書を作成
・その内容に基づき、外部専門機関が保有する職務評価表を活用して職務評価を実施
・まず、全ポジションの1 割程度を「ベンチマーク部門・ポジション」として選定して、職務評価を実施し、役割等級を設定。その後に、全部門の役割等級へと展開
・なお、職務評価の実施に先立ち、部門長に対し当該部門・ポジションの役割に関する質問形式の調査を実施。その上で、人事担当者(ベンチマーク社員については、外部専門機関社員と一緒に)がインタビュー調査を実施することにより、評価

(2)本事例から得られる職務評価を実施するためのポイント

Point1
役割定義書を作成し、そのポジションに求められる役割を明確に設定

「役割定義書」に、部門・ポジション(例 〇〇本部■■事業部△△部プロジェクトマネージャーの仕事)ごとの役割を整理し、各ポジションにどのような仕事を求められているかが分かるようにした。
役割の定義は、「成果責任」と「プラクティス」の2つの要素から構成されており、「成果責任」には、その部門・ポジションが遂行すべき戦略や、遂行しなければならない業務などが記載されている。「プラクティス」には、求められる行動基準と、役割に必要とされる経験/ 語学/ 知識・スキル・ノウハウが記載されている。
「役割定義書」の作成に当たっては、まず各事業部長に調査書の記入を依頼した上で人事担当者が、インタビュー調査をすることにより内容を精査し、完成させた。
なお、「役割定義書」は、社員に対し原則公開されており、自分がどのような仕事を任されているかが確認できるようになっている。

Point2
「役割定義書」に基づき、ベンチマークとなる部門・ポジションを対象に評価を実施し、その結果を踏まえ、全部門・ポジションに拡大

同社では、上記の「役割定義書」に基づき、管理職クラスの格付け制度を見直した。その際、全部門・ポジションを対象としてしまうとそれだけで負荷が大きくなってしまうことや、調整がやりにくくなることが懸念された。このため、従前の格付け制度を基に、部門の代表的な仕事をしている社員をベンチマーク社員として1 割程度抽出し、外部専門機関の社員とともに職務評価を実施した。
また、ベンチマーク社員とほぼ同等か、類似した仕事をしている社員の仕事はほぼ同じ職務(役割)の大きさとなることから、詳細な職務評価は省略し、ベンチマーク社員の仕事を基に得点を算出した。
ベンチマーク社員の評価は、外部専門機関と人事担当者が実施した。これにより、当社の社員が外部専門機関の実施する職務評価の手法を間近で学ぶことができ、その結果ベンチマークの部門・ポジション以外の職務評価は自社の社員だけで実施することができた。

Point3
職務評価結果をもとにその部門・ポジションの役割等級を決定

職務評価の結果を活用して、部門・ポジションごとの役割等級を決定した。役割等級は人事担当者が全体のバランスを踏まえて構築した。役割等級の設定に当たっては、細かくしすぎると異動させにくくなり、逆に大括りにしてしまうと差異が付きにくくなってしまうため、全体のバランスを踏まえた設計が重要であった。

Point4
社員の納得感を得るために、自社独自の職務評価項目を作成するのではなく、外部専門機関が提示する職務評価表を活用

職務評価表の作成については、「自社の独自性を重視するか」、「客観性を保つか」のいずれにすべきかについて外部専門機関と協議した結果、客観性を保ち社員の納得感を得るため、あえて評価項目の変更を行わず、外部専門機関が活用している職務評価表をそのまま用いることにした。これにより、他社の水準とも比較することができ、社員の納得感を高めることができると判断した。

5. 職務評価を活用して導入された人事制度

(1)部門・ポジションごとの役割等級の決定に活用

これまで、管理職については、役割等級が9段階であったが、図表3-9-2 のように、上位等級をマネジメント職とプロフェッショナル職に分け、6 段階に整理した。その上で、それぞれの部門・ポジションごとについて、役割等級を決定する際に、職務評価の結果を活用した。

図表3-9-2 設計した社員ランク

図表3-9-2 設計した社員ランク

(2)賃金制度の状況

 賃金制度は、役割等級と報酬額を連動させて決定しており、役割の大きさと求められる仕事の達成度合いに応じて変動する仕組みとしている。
 また、基本給はM5 とM6 についてはシングルレートであり、それより大きい等級はレンジ給を採用している。

6. 職務評価を活用した効果

  • 役割定義書を作成することにより、次のような効果があった。
    1. 求める役割が明確になることで、社員の制度に対する納得感が高まった。
    2. 役割が明確になることで、その役割を全うできる人材を抜擢することができた。このため、若手からも管理職に登用することができるようになり、組織の活性化につながった。
  • 役割定義書を作成し、職務評価を実施することで、役割と処遇の連動性が確認され、より納得感が高まった。

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