事例1-2-8 製造業(その他の製造業)

職務評価を活用し、職能資格制度から職務(役割)に基づく人事制度を確立した事例

1. 企業概要

所在地 東京都品川区
従業員数 約2,900 人
ほぼ全員が正社員
主な事業内容 製造業
(電気電子・電力・通線関連機器、建築・サイン・ディスプレイ関連機器、ヘルスケア関連機器等)

2. 取組のポイント

  • 管理職を対象に実施した要素別点数法による職務評価を活用して、社員ランク(同社では、ジョブグレードという。)を構築した。
  • その後、同様の手法を管理職だけではなく、生産・技能職を除く一般職にも展開した。

3. 人事制度改革の経過

同社では過去、米国本社の意向や経営環境の変化等に基づき、複数回にわたり人事制度の改定を行ってきた。本事例では、管理職に対するジョブグレードの導入後に、生産・技能職以外の一般職の社員に対して、職務評価を活用して、ジョブグレードを構築したプロセスを中心に紹介する。

①職務評価を活用した制度導入以前

平成7 年に管理職にジョブグレードを導入する以前は、職能資格制度に基づく人事制度を導入していた。しかしながら、賃金の運用が年功的になりやすく、個人の成果反映が不十分であったことから、役割と貢献に基づく処遇体系の導入が求められていた。
また、米国本社では、グローバル共通の制度設計の必要性が示されており、日本法人でもそれに合わせた制度設計が求められた。

②管理職に対する職務評価を活用したジョブグレードの導入( 平成7 年-平成 8 年改定)

このような背景から、平成7 年 ― 平成8 年に管理職を対象とした人事制度改定を実施することとなり、米国本社より示された職務評価項目に基づき、ポジションごとの職務評価を実施し、ジョブグレードを整備した。

③一般職に対する職務評価を活用した人事制度導入(平成15 年改定)

その後、一般職に関しても平成15 年に新たにジョブグレードを導入することを目指し、職務評価を活用した制度改定を実施した。

図表3-5-1 人事制度改定の経過

時期 主な実施事項
平成7年以前 職能資格制度に基づく処遇制度
平成7年-平成8年 制度改革を実施、職務評価結果を活用したジョブグレードを管理職に導入
平成15年 職務評価結果を活用したジョブグレードを生産・技能職以外の一般職にも導入

その後、平成23 年以降は、米国本社で作成された社員ランクごとのジョブディスクリプション(注1)を活用した人事制度に移行した。

注1 ジョブディスクリプションとは、企業内の職務内容について詳細を記載したもののこと。同社で現在活用されているジョブディスクリプションは、同社の職務と合わせて、その職務がどの等級に期待される職務なのかも合わせて記載されている。

4. 職務評価の実施ポイント

(1)実施した職務評価に関する基本情報(平成15 年実施)

図表3-5-2 実施した職務評価の基本情報

実施目的 ・平成8 年に管理職を対象に導入したジョブグレードを、生産・技能職を除く一般職にも展開するため
実施者 ・人事担当者を中心として、人事制度改革のためのプロジェクトチームを組成、メンバーが中心となって、課長クラスに職務評価に関するレクチャ ー等を実施
・その上で課長クラス(約300 人)が職務評価を実施
実施対象 ・生産・技能職以外の約1,300 人が行っている仕事が対象
実施方法 ・要素別点数法による職務評価を実施
・職務評価表の職務評価項目、スケール、ウェイトは米国本社より示されたものをそのまま活用
・部門単位での検証会議を経て、人事担当者がチェックをし、明らかに修正が必要な部分を各部門と調整した上で、経営幹部に提示し最終的に確定
・結果を米国本社から提供されたプログラムファイルに入力し、合計点を算出
・あらかじめ定められた得点範囲に基づき、ジョブグレードに個々の社員を格付け

(2)本事例から得られる職務評価を実施するためのポイント

Point1
「職務評価」を理解してもらうため、評価実施者に丁寧な説明を実施

同社にて職務評価を担当した課長クラスは、約300 人と人数が多く、職務評価を実施する際にブレが生じやすい状況であった。そのため、人事担当者が全国の拠点を訪問し、「人事評価」と「職務評価」の違いや職務評価の詳細な内容を丁寧に説明した。その際には、「なぜ、人事担当者が評価しないのか」などの疑問も寄せられたが、これらの疑問にも丁寧に答えていくことで、理解を得るように努めた。

Point2
「人事評価」との混同を避けるために工夫

「職務評価」と「人事評価」を混同し、ポジションごとの仕事の大きさを正確に測定できなくなることを避けるため、次の2 点を評価実施者に伝えた。
・当該社員の「仕事ぶり」ではなく、「任せている仕事」について評価すること。
・「仕事」に着目してもらうために、配布した職務評価シートに敢えて、「職務」を書き出す項目を設定していること。

Point3
抽象的な評価項目を解釈しやすくするために評価基準書を作成

米国本社から提示された既存の職務評価表では抽象的な表現が多かったため、日本独自に、具体的な定義や例示を記載した評価基準書を作成した。例えば、「折衝対象の職務レベル」であれば、折衝相手となる対象のレベルが上場企業の役員クラスであれば◎点、課長クラスであれば○点というように、抽象的な水準を具体的に解釈した基準を例示した。

Point4
「職能」から「職務(役割)」に評価基準が変わったことへの理解促進

「能力」から「職務(役割)」に基づくジョブグレードによる格付けが行われていることを部門長に理解してもらうために、人事担当者が「職務(役割)」とは何かについて説明をした。内容については労働組合にも説明をし、理解を得るために努力した。

Point5
想定するジョブグレードを下回った社員への対処

想定するジョブグレードより、実際のジョブグレードが下回った場合には、該当する社員の上司(部門長)に人事担当者が丁寧に説明をした。該当する社員本人に説明するのは部門長であり、部門長が納得した上で本人に説明することを重視した。

Point6
生産・技能職には職務評価を実施せず

同社における生産・技能職は、生産活動、検査・評価に従事する職種である。これらの社員は、日々の経験や熟練度合が生産性や正確性に大きく関わるため、「今の仕事」を定義したとしても、社員個人の熟練度合いや経験により、アウトプットが異なってしまう。
このため、職務評価により仕事内容を定義し、それに合わせた賃金を支給しようとすると、かえって熟練度合いや経験が加味されず、逆に不公平感が生じる可能性のあることが懸念された。
そこで、同社では生産・技能職に対して、職務評価に基づくジョブグレードは導入せず、これまでの職能資格制度をベースとした制度を導入することにした。

5. 職務評価を活用して導入された人事制度

(1)社員ランク制度(ジョブグレード)

職務評価の得点により、該当するジョブグレードが決まる仕組みとなった。このことは社員に周知され、異動等により担当の職務が変わり、職務評価の得点が変わればジョブグレードが変更されることになった。
人事異動は不定期に行われており、管理職の場合は、その都度職務評価を実施し、ジョブグレードの見直しを行っている。しかしながら、一般職の場合は、頻繁にジョブグレードの見直しを行うと混乱が生じてしまうため、原則年に1回、時期を決めて見直しをしている。

(2)賃金制度設計に活用

ジョブグレードごとに賃金レンジを設定し、人事評価によりレンジ内での昇給が実施されている。このため、どのジョブグレードに格付けされるかにより、賃金額が決まる。異動等によりジョブグレードが上がれば賃金が上昇し、ジョブグレードが下がれば下がる仕組みとなっている。

6. 職務評価を活用した効果

  1. それまであいまいであった仕事内容と処遇の関係が明確となり、人事制度へ社員の納得感を高める結果となった。
  2. 仕事に合わせた処遇体系となったことから、優秀な人材を適材適所で配置しやすくなった。

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