事例1-2-4 中堅製造業

戦略に基づきポジションを設定。ポジションごとの職務の大きさを測定し、賃金制度に反映

同社は、1970年代に米国本社の日本法人として設立され、一般産業及び航空宇宙産業分野において精密機器とシステムを取り扱う企業です。日本以外にも世界各地に現地法人があり、グローバルな事業展開をしています。設立当初は日本企業と合弁で設立されたため、日本型の人事制度が導入されていましたが、その後、本社や他地域の現地法人との整合を図るため、諸制度の統合を図る必要性が生じました。


職務(役割)評価を実施したきっかけ

顧客企業のグローバル化に対応し更なる成長をするため、2000年代中ごろより、米国本社の経営戦略が変わり、経営資源をグローバルな観点で効果的、効率的に運用するため重点を置くマーケットの明確化、開発体制の見直し等を行ってきました。経営戦略を効果的に実行するため組織の見直しも並行して進めてきました。人事制度の改定はこの一連の経営戦略の方針転換の中で実施されました。同社は当初日本企業との合弁企業として設置されたため、いわゆる職能給をベースとした日本型の人事制度を運用していいましたが、その後、経営戦略の方針転換に基づき、米国本社の仕組みを基準とした新人事制度を構築することになりました。この制度構築を進める中で、外部専門家の助言のもと、要素別点数法による職務(役割)評価が実施されました。

なお、製造関連部署の現場社員については、職務(役割)評価に基づく結果ではなく、同社独自に設定した職務の習熟度合を評価する視点で制度設計がなされています。


職務(役割)評価の実施プロセス

同社では、「公正で、社員にしっかりと理解され、分かりやすいこと」「職務と成果を基軸とした賃金制度設計であること」「挑戦と創造を重視し、そういった社員を評価すること」等を基本方針として制度設計がなされました。

その中で、外部専門機関の助言のもと、以下のプロセスで職務の大きさを測定し、その結果を報酬制度に反映させることとなりました。

【図表】 職務(役割)評価の実施プロセス

職務(役割)評価の実施プロセス

同社ではまず、米国本社の方針に基づく経営戦略を構築しました。この戦略を効果的に実行するためのポジション(役職・職務)の内容を整理しました。整理する際には、現状のポジションを前提とするのではなく、「戦略を実現するためにはどんなポジションが必要か」という視点で検討しました。

併せて、新たな人事制度を構築するために、米国本社のアジア地域担当役員及び技術関連担当職員等の数名でプロジェクトチームが結成されました。このプロジェクトチームの中で制度設計に必要な職務(役割)評価の手法について検討しました。

同社では世界基準の職務(役割)の大きさ(同社では「各職務における成果責任の大きさ」と表現していますが、本サイトでは他の事例とあわせて「職務(役割)の大きさ」と表現します)を確認する必要があったことから、外部専門機関が有する職務(役割)評価手法を採用することとなりました。

職務(役割)評価項目は、外部専門機関が有する4つの大分類、10の小分類の評価項目について、同社で一部オリジナルの視点を入れて設定しました。尺度についても、外部専門機関の実施手法に基づき、評価項目ごとに得点(たとえば、A項目の満点は3点、B項目は10点)を設定しました。なお、ウェイトはすべて同一としています。

上記、職務(役割)評価の実施内容は外部専門機関が作成する実施マニュアルに基づき、プロジェクトチームが各事業部の部門長に説明をしました。説明は実施マニュアルを説明するだけではなく、演習形式で実際に職務(役割)評価を実施し、職務(役割)評価項目それぞれの解釈のズレを調整する方法で行いました。また、一回だけではなく、複数回説明会を実施し内容の理解を含めました。複数回繰り返すことで視点のズレをおさえ、「人事評価」ではなく「職務(役割)評価」の視点で評価を実施することができるようになったとのことです。なお、こういった説明会を通じた研修は忙しい部門長の予定に合わせて、少人数で複数回実施し、本制度改定への理解を促進しました。

以上のような活動を経て、6人ほどの部門長が、対象となる30から40ほどのポジションの職務(役割)評価を行いました。最終的にはプロジェクトチームで内容を調整し、職務(役割)ポイントの大きさを確定しました。

同社では、職務(役割)ポイントの大きさと外部専門機関が保有する世界基準のポイント単価に関する統計値を比較して、各ポジションの適切な賃金水準を設定しました。なお、賃金水準はシングルレートではなく、レンジレート(一定の幅をもったレート)で設定をしています。(製造の現場職は、これとは別に同社内の基準に従い、オリジナルで賃金水準を設定しています)。

以上のような制度設計を経て、社員に周知を図りました。また、現状では高いポジションにあったとしても、職務(役割)評価を実施した結果、従来より低いポジションだと判断されるケースがあったため、併せて人材育成の仕組みも構築し、モチベーションの維持を図りました。


職務(役割)評価の導入成功のポイントと成果

職務(役割)評価実施者への演習を通じた説明会の実施し、周知を図る

同社では、プロジェクトチームが中心となって、職務(役割)評価の実施手法を部門長に説明をしました。説明の際には外部専門機関が作成した実施マニュアルを参考にその考え方や方法について伝達しています。また、個別ケースを参考にしてプロジェクトチームが職務(役割)評価を実演し、そのポイントを解説しました。加えて、部門長に実際に演習で実施してもらい、その視点や手法について演習を通じて確認をしてもらいました。こうすることで、職務(役割)評価に関する考え方のズレを解消し、納得感を高めた上で実践できたと考えられます。

職務(役割)評価結果を賃金に適用する範囲を限定し、納得感を高める

同社では、製造の現場職には上述した職務(役割)評価とは別の視点で評価(職務評価というよりは、技術の習熟度に焦点を当てた評価)に基づき制度設計がなされました。その理由として、上述の仕組みで、製造の現場職を評価してしまうと総じて低い値となり、また、賃金もほとんど変わらなくなってしまうため、モチベーションの低下を招く恐れがありました。そのため、操作できる設備の習熟度や「援助を受けてできるのか」「独りでできるのか」「指導監督できるのか」といった視点での判断を行うこととしました。

そうすることで、全社員を「職務給」的給与とするのではなく、職種の性格に応じて「職能給」的給与も導入し、納得感の高い制度設計が行われました。

制度改定と併せて、人材育成の仕組みも並行して導入する

職務(役割)評価を実施することで、結果から判断すると賃金を下げなければいけないポジションも発生しました。そういったポジションと賃金のミスマッチが生じた際には現在そのポジションに就いている社員にその理由を説明する必要が出てきます。同社では、より職務の大きさが大きいポジションに移ってもらえるように人材育成の仕組みをセットで説明し、社員のモチベーション維持に努めました。

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