モロゾフ株式会社

社員がワーク・ライフ・バランスに応じて働く時間を選択できる制度(ショートタイム制度)の導入でパートタイマーの社員への転換を促進

モロゾフ株式会社_01_企業ロゴ

出典)モロゾフ株式会社提供

会社設立年 1931年
本社所在地 兵庫県神戸市東灘区向洋町西五丁目3番地
業種 製造業 (洋菓子の製造・販売および喫茶レストラン事業)
正社員数
(2017年4月現在)
社員:677名
(男性355名、女性322名)
フルタイム(FT)社員 男性295名、女性293名
ショートタイム(ST)社員 男性3名、女性17名
嘱託社員 男性57名、女性12名
非正規雇用労働者数
(2017年4月現在)
902名
(男性21名、女性881名)
資本金 37億3,746万円
売上高 291億6700万円
取組概要 <背景>
・良質人材の確保、パートタイマー戦力化、多様化、女性活躍推進への対応
・社員と上級パートタイマーの格差解消
<内容>
・ショートタイム(ST)社員制度の導入
・パートタイマーの社員への転換を促進する制度
・社員がワーク・ライフ・バランスに応じて働く時間を選択できる制度
・年内所定労働時間960時間以上(FT社員の半分)
<効果・結果>
・パート応募のきっかけとして、半数以上が「ST社員制度」と回答。パートタイマーのモチベーション向上。
・転換者もフルタイム社員とほぼ同じ年数で昇格⇒格差解消。

PDFデータ

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 同社は1931年に神戸市において、チョコレートショップとして誕生した。会社の使命は、「洋菓子を通してお客様に感動と笑顔をお届けする」である。創立以来、本場西欧の洋菓子を超えるような本格的で、安心・安全な品質のスイーツ作りをめざし、全国の百貨店を中心に洋菓子の高級ブランドとして業績を伸ばしてきた。
 バレンタインデーを最初に日本に取り入れたのは、同社といわれており、創業以来、さまざまな洋菓子の製造・販売を手がけている。チーズケーキやチョコレート、カスタードプリンは、何十年も愛され続けるロングセラー商品である。
 販売店舗(菓子店舗直営店15店 百貨店・専門店1,118店)を中心に、カフェ28店舗、レストラン3店を全国にて展開している。(2017年1月期)

1.取組の背景

◆パートタイマーのさらなる戦力化と多様化への対応

 同社の社員計の男女割合をみてわかるように、女性の割合が7割以上と大きい割合を占める。また、契約社員が約6~7割を占め、店舗や工場等において重要な戦力として活躍している。販売店舗のうち220店舗で直雇用の社員が働いている。その中にはパートタイマーが店長を務める店舗もある。業績向上のためにパートタイマーのさらなる戦力強化を目的とし、2002年に【上級のパートタイマー(エキスパート)制度】を導入し、処遇を改善した。2007年にはパートタイマーのリーダー(店舗の店長クラス)は83名で、社員のリーダー(109名)の人数に近づいていた。また、仕事内容等の違いが不明確になりつつあり、「社員とパートタイマーの違いは何か?」について社内でクローズアップされた。
 また、市場の変化としては、労働力の売り手市場化等によって、良質人材の確保・人材流出の防止、就業形態・職業観の多様化への対応が求められていた。また、同時期に女性の活躍推進の機運もあり、女性が働き続けられる環境の整備を進めていた(社内アンケート、女性を対象としたセミナー実施、管理職に対する助成育成計画の目標化等、各種制度の整備)。
 優秀なパートタイマーと社員との不公平感を解消するとともに、結婚・出産後も女性社員に長く働き続けてもらえるようにという思いで、2005年から「パートタイマーの社員化」「社員の短時間勤務化」に向けた検討を開始し、2007年にショートタイム(ST)社員制度を導入した。


従業員区分別人数(2007年、2017年)

モロゾフ株式会社_02_従業員区分別人数

※2016年に「パートタイマー」⇒「契約社員」の名称変更。
本文中で名称変更を行うまでの経緯については、「パートタイマー」と表記。

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載

2.取組の内容(正社員・限定正社員への登用)

◆ショートタイム(ST)社員制度(2007年導入)

(1)ショートタイム(ST)社員制度について
 同社では、1.の背景を踏まえ、2007年10月に【ショートタイム(ST)社員制度】を導入した。ST社員制度は、「パートタイマーの社員への転換を促す制度」「社員がワーク・ライフ・バランスに応じて働く時間を選択できる制度」「年間所定労働時間960時間以上(フルタイム(FT)社員の半分)」である。


ST社員制度の概要

モロゾフ株式会社_03_ST社員制度の概要

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



 制度導入当初の目的は4つあり、一つ目は多様な雇用形態の実現(社員が安心して働き続けられる柔軟な労働・雇用体制)である。二つ目は良質な人材を確保、三つ目は社員とエキスパート(上級のパートタイマー)の格差の解消、四つ目はパートタイマーの(社員登用という)モチベーション向上である。


ST社員制度導入の目的

モロゾフ株式会社_04_ST社員制度導入の目的

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



 従業員区分については、社員と有期契約のエキスパートとレギュラーパートから、FT社員、ST社員、有期契約はレギュラーパートのみの3区分に改定した。制度導入前までは、働く時間に応じてFT社員と契約社員に分けていたが、制度導入後は仕事の内容および発揮する能力による区分となっている。


従業員区分の改定

モロゾフ株式会社_05_従業員区分の改定

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



(2)社登用(転換)の流れ
 パートタイマーからST社員への転換(正社員への転換)の流れが下図のaの流れである。転換の基準は、①勤続3年以上でエントリー可、②上司評価、③筆記試験・適性試験、④部門長面接、⑤役員による最終確認によるものとなっている(毎年1回実施)。試験は新卒の大卒に対して実施する試験と同じレベルである。ただし、制度新設時の2007年には、上級パートタイマーに格付けされていた175名について本人の意思のみで転換を承認した(経過措置)。
 ST社員は、給与はFT社員の月給を時間比例で支給する。労働時間は、年間所定労働時間960~1800時間の範囲で設定(短時間・短日いずれも可)している。年次有給休暇、福利厚生、健康・厚生年金保険についてはFT社員と同じとなっている(雇用保険は1週20時間未満のものは適用しない)。
 ST社員に転換してから1年経過すればFT社員に本人希望のみで転換できる。パートタイマーから転換したほとんどのST社員は1年後にFT社員に転換し、ST社員は社員登用の経過措置という位置付けとなっている。
 図に示されているように、ST社員とFT社員は行き来することが可能となっている(図のb、c)。
 FT社員からST社員への転換(cの流れ)については、ライフイベント等によってある一定の期間、短時間を希望する社員については、本人希望により4月1日付で転換を認めている。この転換について、一番の特色は、理由を問わない点である。ライフ側の要因に理由が必要な場合、申請がしづらく、上司も内容をチェックしなければいけなくなる。本来、プライベートについてチェックするのはおかしいと考え、理由を問わないこととしている。


ST社員制度の処遇と転換基準 【2007.10.1導入】

モロゾフ株式会社_06_ST社員制度の処遇と転換基準 【2007.10.1導入】

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



(3)処遇
 ST社員の処遇について、諸手当は、パートタイマーからST社員に登用した時点では諸手当はない(原則1年間)。
 ST社員の賞与については、基本時給×勤務時間×乗率(FT社員の70%)となっている。退職金については、前払い退職金(資格別単価×契約時間)と確定拠出年金(DC)となっている(FT社員は確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(企業型DC))。
 職能資格について、FT社員からST社員の転換の場合は転換時の資格等級に、パートタイマーからST社員への登用の場合は主事補2級になる。
 昇格要件および昇給は、FT社員に準ずる。


ST社員の処遇

モロゾフ株式会社_07_ST社員の処遇

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



◆取組にあたってのポイント

(1)対象者への案内
 導入時にほとんどの部門において制度に関する説明会を行った。全国に店舗があったため、説明会が開催できないところについては店長クラスから対象者に説明した。
 現在は、制度導入から10年経って制度が浸透していることもあり、パートタイマーに対する説明会は行っていない。現在の対象者(勤続3年以上)については、給与明細にST社員のエントリー資格があることを知らせる案内文を入れている。イントラネットにも制度の説明等は掲載している。

(2)難易度とフォロー
 パートタイマーのエントリー資格者は毎年500人程度で、その約1割がエントリーし、そのうちの約1割が合格している。筆記試験(会社の経営理念や人事制度等)は1回目に受からなくても複数回目に受かることが多いが、面接が難関となっている。面接では、「社員になったらどういうことをしたいか」「今の働き方と何が変わると思うか」について聞き、目標とそれに対して現在何をしているか等の回答が求められる。ST社員は基本的に1年後にFT社員になることもあり、新卒と同じように評価している。将来的には参事クラス(課長クラス)をめざすような人を登用したいと考えている。
 登用試験後、登用できなかった従業員に対して上司が必ずフィードバックを行うように指導している。

(3)モチベーションダウンさせないための施策
 パートタイマーは習熟加算があるが時給が上がらなくなるラインがあり(習熟加算の終了)、何年か経ったら社員登用の道をめざしてくださいという前提としている。しかし、ST社員の登用は狭き門であり、複数年受けても受からないパートタイマーも中にはいる。このような習熟加算が終了したレギュラーパートについて、評価は賞与にのみ反映していた。勤続3年以上のパートタイマーはパートタイマー全体の約50%と多いこともあり、パートタイマーとしてがんばりたい者のモチベーションアップについて検討した。そして、2013年に【パート評価加算制度】を導入した。業務を評価し、それを時給に反映させる制度である。さらに、2017年に評価区分を細かくし時給が上がる可能性が高くなるように改定した。その後も、店長手当等の増額等、パートタイマーの処遇改善も行っている。

(4)社員登用後の研修等
 ST登用時には登用者研修があり、登用者が全員集まり、会社の人事制度等についての研修を受講し、工場を見学する機会をもつ。登用後は会議等への参加を通じて社内のさまざまな部署と関わりを持っていく。

3.効果と課題、今後の運用方針

◆制度導入の目的は達成

 目的①「多様な雇用形態の実現」については、毎年FT社員からST社員への転換希望者があり、社員のワーク・ライフ・バランスの実現に貢献する制度として定着している。
 目的②「良質な人材の確保」については、パート応募者アンケートの結果、応募のきっかけを「社員登用制度」と回答した人の割合が徐々に上昇しており、近年は半数以上の人がST社員制度がきっかけと回答している。離職率については、市場環境の影響が大きいために評価は難しいものの、2013年度の離職率は2006年度比から10%減となっている。
 目的③「社員とエキスパートの格差解消」については、比較的年齢が低いときにST社員に登用され、昇格をしていけば格差は解消されると考えている。
 目的④「パートタイマーのモチベーション向上」については、主事1級への昇格者がいる。


ST社員制度導入後の状況と検証(パート→ST社員への定期的な転換)

モロゾフ株式会社_08_ST社員制度導入後の状況と検証(パート→ST社員への定期的な転換)

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



 2007年の制度導入時にST社員に登用された169名について、10年後の2017年の状況を下図に示している。職能制度では4段階(主事補2級、主事補1級、主事2級、主事1級)となっており、転換後は主事補2級に配置され、一番上の主事1級(いわゆる係長クラス)まで昇格した人が12人いる(下図の赤丸で囲まれている人)。主事補2級から主事1級の昇格にかかる年数は、FT社員として入社した者とほぼ同じ年数となっている。これらの検証により、目的の③と④は達成していると考えている。


ST社員制度導入後の状況と検証(2007年の第1期転換者の昇格状況)

モロゾフ株式会社_09_ST社員制度導入後の状況と検証(2007年の第1期転換者の昇格状況)

出典)モロゾフ株式会社提供資料より転載



 ST社員制度導入から10年経って振り返ると、ST社員制度は働き続けるためのセーフティネット的役割を果たしており、精神的な安心感につながっているととらえている。
 非正規社員の社員化による人件費の変化については、制度の検討時に人員構成上の退職者の想定等(団塊世代の退職等)を踏まえた設計をしているため、10年間の総人件費としては想定通りコントロールできた(人件費増分を吸収)。

◆課題と対応

 そもそものパートタイマーという母集団の確保が難しく、応募が減っている。この課題に対して、2016年に名称変更(パートタイマー→契約社員)および契約社員の再雇用制度の導入、2017年に店長手当の増額、評価加算制度の改定を行った。
 また、店舗においては女性、特にライフイベントがくる年齢層の女性が多い。継続した課題として、この層の制度利用率が高くない。店舗はシフト勤務のため、自分がシフト固定(短時間)になることで他の人に迷惑がかかることを懸念し、制度があっても退職してしまうパートタイマーが多い。この課題に対して、制度についての周知活動の継続に加えて公平な評価、ロールモデルを示すことが重要と考えている。店舗に制度利用者がいることで実績を積み重ね、お互い様という気運が生まれ、サイクルが回っていくことで制度の定着を図っていきたい。

4.活躍する従業員の声

モロゾフ株式会社_10_中川 聖子さん

経営統括本部
中川 聖子さん

年代 非公開 性別 女性
勤続年数 18年
キャリアアップの過程 1985年正社員として入社。91年に退職後、アルバイト勤務を経て8月から2007年までパートタイマーとして勤務。2002年のエキスパート制度開始時にエキスパートに昇格。
2007年10月(ST社員制度開始時)にST社員に転換。2009年4月にFT社員に転換。
入社当時から総務・人事に関わる業務に従事。

◆制度変遷とあわせてステップアップ

 中川さんは、事務職の正社員として人事・総務関連の仕事に6年程勤務し、結婚を機に退職。結婚後も働けると感じ、アルバイトを経てパートタイマーとなった。1985年の正社員の頃から、人事関連の仕事に従事。パートタイマーとして働き始めて10年たったころにエキスパート制度が導入され、エキスパートに昇格。
 そして、2007年のST社員開始時にST社員に転換。さらに2009年4月にFT社員に転換した。
 一貫して、総務・人事に関わる業務に従事してきた。

◆社員に転換する際には、考え方の変化が必要

モロゾフ株式会社_11_勤務の様子

 パートタイマーでエキスパートになったときは、これまでの仕事が評価してもらえて収入が上がって嬉しいと感じたが、仕事に関する変化はそれほどなかった。
 パートタイマーから正社員に転換した際には考え方が大きく変わった。会社のために何ができるかと考えるようになったのは大きな違いである。ST社員(正社員)になったときは、これまで一緒に働いてきた周りの社員と同じになったと感じた。いろいろなことを経験させてもらい、ありがたいと感じている。
 パートタイマーとしての期間が10数年と長く、がんばるといっても言われたことを適切に、周りを見ながら仕事が遅れないようにする、みんなのフォローをするなどだった。社員になってしばらくは、当たり前なことでわからなかったことが多くて困った。遅れた分を必死になってやっている状況だった。
 ST社員からFT社員に転換するまでは仕事の内容も意識もあまり変わらない。就業時間が30分程度伸びた程度の変化である。
 パートタイマーの時は、例えば新しい制度ができた際、その制度の導入や運用について対応していたが、正社員となった今は課題設定の検討から携わるようになった(例:長く活躍し続ける人を増やすためにはどうすればいいかを考える等)。
 現在は、日々、チャレンジングであり、こういう機会がなければ勉強することもなかったと感じている。FT社員になって2~3年程は考え方のギアチェンジが大変な時期だったと振り返る。
 中川さんは、ST社員制度導入の初年度に大勢登用された中の一員だった。1年目の転換者は希望のみで転換できた。2年目以降は、試験を受けて、狭き門をくぐった人が多く、目標意識が明確である。面接に向けて社員になったらどうしたいか、何がしたいかについて考え、準備している。また、パートタイマーに応募する時から正社員に転換できることを知っていて、やる気のある人もいると聞いている。今後も、やる気のあるパートタイマーには社員登用にチャレンジして欲しいと思っている。