株式会社ティップネス

社員が安心して働けるように転勤範囲を選択できる制度の導入と、処遇差や昇進範囲の調整で社員のモチベーション向上につなげる

株式会社ティップネス_01_ロゴと企業写真

<企業概略>

会社設立年 1986年10月
本社所在地 東京都千代田区四番町5番地6 日テレ四番町ビル1号館3階
業種 サービス業
資本金 9,000万円

<企業概要>

 フィットネスジムの運営を行う。『健康で快適な生活文化の提案と提供』を基本理念とし、「心身の健康の維持増進を通じて、人々のより豊かで、より快適で、より幸せな生活実現のための提案と提供」を目指す。

1.制度の概要

 社員自身が勤務地を選択できる制度を設けている。具体的には、全国転勤がある「ナショナル社員」、転勤の範囲が関東・東海・近畿の中で本人が選択するエリアに限られる「エリア1社員」、自宅から通勤可能な店舗での勤務に限定される「エリア2社員」という3種類の正社員区分を設けている。
 現在は、関東(東京、神奈川、埼玉、千葉、群馬)は約50店舗、東海(愛知、静岡)は4店舗、近畿(大阪、兵庫)が7店舗で構成されている。

正社員の区分

区分 雇用期間 勤務地 転居
ナショナル社員 定めなし 全国転勤あり あり
エリア1社員 定めなし 転勤の範囲を関東・東海・近畿の中で本人が選択するエリア内に限定 ※1 あり
エリア2社員 定めなし 自宅から通勤可能な店舗での勤務に限定 なし
協業店契約社員 最長5年 ※2 異動なし なし
(FG)サポート社員 無期転換あり ※3 自宅から通勤可能な店舗での勤務に限定 なし

※1 エリア範囲

エリア名 対象地域
関東 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県
東海 愛知県、岐阜県、三重県、静岡県
近畿 大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、和歌山県、奈良県

※2 契約は1年ごとに行い、更新4回で契約満了
※3 入社より5年を超える方に適用

2.制度導入のきっかけ・背景

 事業拡大に伴い、店舗を関東エリアに限定されることなく、関東エリア外にも設ける方針となった。そして、東海地方である名古屋への出店を契機として、様々な場所への出店を行うことが予測される状況になった。
 元々、正社員であれば異動の範囲に制限を設けず、どこでも転勤可能という取り扱いで正社員制度を運用していたが、関東エリア以外への転勤の可能性も生じるようになったことで、社員の勤務地に対する意向に応えられる制度が必要と考えた。例えば、新店舗のオープンが近づいているときに円滑に人員配置を行うことや、転勤を望まない社員が勤務地に対する安心感を得られることが有効と考え、新たに「エリア社員制度」を設けることとなった。実際に、結婚や育児を契機として、エリア1社員を選択する事例も出てきている。

3.制度導入の内容

①処遇

 ナショナル社員の給与を100%とすると、エリア1社員が95%、エリア2社員が90%、サポート社員(有期契約のフルタイム社員)で85%としている。定期賞与も同様の基準で反映される。

雇用区分 等級範囲 給与 夏冬賞与 決算賞与 退職金
ナショナル社員 制限なし ナショナル社員を100%として
エリア1社員 6等級まで 95% 95% 95%
エリア2社員 5等級まで 90% 95% 95%
協業店契約社員 4等級まで 85% 95% なし
(FG)サポート社員 3等級まで 85% なし なし

②教育訓練

 ナショナル社員、エリア1社員、エリア2社員とでは差を設けていない。

③転換制度

 サポート社員や有期契約のパート、アルバイトの社員からナショナル社員に登用できる社内登用制度を設けている。登用基準は、上司の推薦、スキルの習得、業務の習熟度、面接等としている。
 採用時の社員については、新卒はナショナル社員またはエリア1社員(関東のみ)を選択できるようにしており、中途採用についてはナショナル社員に限定している。
 入社から2年経過して、転換する権利を得られるようにしている。転換の申請時期は年2回設定している。転換後2年間は転換不可とし、転換回数の上限は3回としている。転換理由については、特に条件を設けていない。

雇用区分の変更

申告ルート 所属長を通さずに申告
変更の承認 申告のみ
変更時期 年2回(1月・6月)
変更のルール 最低2年在籍、転勤後最低2年在籍 ※4、変更回数制限(3回)

※4 雇用区分によっては変更可能な場合もあり
※協業店契約/(FG)サポート社員については、登用試験を通過した社員のみ変更可能

④昇給・昇格

 ナショナル社員については8等級(8等級は上級部長クラス)まで設けている。一方、エリア1社員は6等級(6等級は課長、支配人クラス)、エリア2は、5等級(5等級は係長、支配人代理クラス)を上限としている。

4.導入時の労使コミュニケーションをどのように行ったか

 導入時は、会社主導で対応した。具体的には、エリア社員制度を設ける際の社員教育の進め方を決め、その後、支配人会議でエリア社員制度の内容を説明し、期限を設けて全従業員に選択してもらった。

5.工夫点

 エリア社員の等級制限や社員間の給与格差(100、95、90)については、正解がないため、設定についてはとても苦慮した。場合によっては、給与格差を100、90、85とし、給与格差を広げることも考えられるが、少しでも社員に寄り添って、安心して働ける仕組みを作ることに留意した。このように格差を広げないようにしたことが工夫した点といえる。
 こうした対応が、会社主導で制度の導入を進めたにもかかわらず、制度の運用が円滑に行われている理由と考えている。

6.制度導入による効果

 チェーン展開している企業にとっては、社員にとって勤務地と居住地の関係は関心が高い面がある。こうしたことから、社員が勤務エリアを自分自身で選択できる制度は、社員に安心感を与えることができ、定着率の向上が図れている。
 また、エリア社員は、等級範囲に制限はあるものの、著しくキャリアを阻害していないことも、社員の安心感につながっている。特に、エリア1社員では過去は等級が5等級を上限としていたが、制度改正により、現在は6等級まで昇格可能としている。このため、家庭の事情でナショナル社員を選択できない場合も、エリア1社員は支配人に昇進できることもあるため、社員のモチベーション向上につながっている。実際に、女性社員から「育児をしながらでも支配人を目指そうと思うようになりました」という声も出てきている。
 また、採用の面においても、関東での勤務を希望している学生にとって、エリア1(関東)が選択可能となり、その結果、優秀な人材の採用にもつながっている。

7.今後の課題

 中途採用、社内登用はナショナル社員に限定し、新卒はナショナル社員かエリア1(関東)社員しか選択できないことに問題点を感じている。具体的には、新卒は関東だけでなく、近畿や東海も選択可能としたり、中途採用や社内登用も選択可能なエリアを広げることが、人材の獲得競争の中で重要になると考えているためである。
 現在の制度は、中途採用でナショナル社員として応募してきているが、詳しく話を聞いてみて転勤不可であれば、スタートは、サポート社員(契約社員)からになり、いわゆる中間がない状況である。今後は中途採用の募集をエリア1に拡大することも検討課題として考えている。

8.他の「多様な働き方」制度について

・ファミリーサポート制度

 出産、育児からの復職後、子供が3歳になるまでは雇用区分を変えず、今後どの雇用区分にするかを自分自身で考えられる「ファミリーサポート制度」を設けている。
 ナショナル社員は全国転勤が前提であるが、ファミリーサポート制度を利用すれば、復職後は、子供が3歳になるまで、自宅から通いやすい店舗で勤務でき、勤務シフトも本人希望で選ぶことができる。
 期限までに、この先ナショナル社員のままにするか、エリア1社員、エリア2社員に変更するか等を検討して選択できるようにするものである。
 ファミリーサポート制度は社員から好評で、「安心して復職できる」という声が上がっている。