AIG損害保険株式会社
総合職は全国転勤が前提とされていた大手の損害保険業界において、全職種において望まない転勤の廃止やフレキシブルな働き方を実現
会社設立年 |
1946年 ※2018年1月1日、AIG損害保険株式会社として営業を開始しました。 |
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本社所在地 | 東京都港区虎ノ門4丁目3番20号 |
業種 | 金融業・保険業 |
従業員数 | 6,884名(2022年1月31日現在) |
資本金 | 137億円 |
売上高(単体) |
【元受正味収入保険料】 4,575億円(2021年3月31日現在) |
<概要>
2018年1月AIU損害保険株式会社と富士火災海上保険株式会社が合併し、AIG損害保険株式会社となる。
1.取組の背景
2018年の統合前、日本のAIGグループ内各社の人事制度を一本化するにあたり、社員の働き方に着目。それまで業界としても総合職は全国転勤が当たり前とされていたが、介護や子供の学校、ご自身の病気、がん治療など様々な制限があり、転勤できない方が増え始めた。
最初は転勤できない方を配慮し特別扱いとしたが、本人が肩身の狭い思いをしている状況があった。
また、他にも実態として転勤がなく同じ地域に居続けている社員もいたことや、一般職のキャリア開発が阻害されていることなどの課題も挙がっていた。
こういった事情も考慮し、雇用区分をシンプル化し、逆転の発想で、「そもそも大半の社員は転勤をしない、今のライフステージで転勤できる人だけがする」という運用案が挙がった。
社員から選ばれ続ける会社であるために、社員のライフイベントも受け入れる仕組みを構築することとなった。
2.取組の内容
(1)望まない転勤の廃止「Work @ Homebase」
2019年4月1日より、AIG損保だけではなく、日本のAIGグループ全体で、会社都合による転居を伴う転勤制度を廃止した。転勤制度の見直しにより、原則会社都合による転勤に伴う転居や単身赴任がない形での勤務制度「Work @ Homebase」をスタートした。
①制度の概要
全国を11の地域に分け、社員は自分の希望する勤務エリアを選択する。
希望エリアはあるものの転勤を受け入れる「Mobile社員」と、希望エリアにこだわる働き方をする「Non-Mobile社員」を社員のライフステージに応じて選ぶことが可能。
Non-Mobile社員
1.社員は希望勤務エリア・都道府県を選択し、その希望したエリア内のみで異動する。
2.社員本人および家族のライフステージの変化に伴い、別エリアへの異動を希望する場合には、社内公募制度などを活用し、エリアを変更することが可能。
3.キャリア設計においてライフステージの状況を確認しながらMobile社員への変更や希望勤務エリア・都道府県の変更をすることが可能。
Work @ Home Baseの設計コンセプト
Work @ Homebaseの歩み
Work @ Home Baseの働き方の選択
②導入における工夫点
これまでの業界の常識を覆す取組であったため、社内の合意形成は時間をかけて行われた。人事で計画を立ててからパイロットサーベイを実施し、その結果を踏まえて東京エリア⇔大阪エリア間のみのマッチングでパイロット異動を実施しつつ、適宜労働組合を通じて社員からの意見を反映しながら数年かけて制度を構築・導入した。また、正式運用開始前から新聞やオンラインなどのメディアなどでも話題になり、社外からのポジティブな反響も得られたこともあり、当初本施策に懐疑的であった社員にも安心感を得ながら着実に制度を定着させていった。
③雇用区分
Work @ Homebaseを可能にした大きな土台となっているのが、雇用区分のシンプル化である。日本のAIGグループ全体では各社それぞれに雇用区分があった事もあり、2015年に65あった雇用区分が、現在では正社員、専門職(コールセンター職員)、非正規社員の3つになっている。雇用区分の統合にあたっては、福利厚生や処遇を細分化し、社員の不利益変更とならないように労働組合とも十分に話し合いを重ねたことで実現した。
(2)フレキシブルな働き方
2021年1月からは基本的に東京にしか働く場所が無い(一部大阪勤務有り)管理部門に所属する社員も、東京以外の希望する勤務地でフルリモート(自宅等をオフィスとし、居住地と所属部門のエリアが同じではない形)で従来の仕事を続けられることとした。外出自粛など在宅勤務が推奨される中で1年以上の間全社的に在宅勤務やリモートワークを行ったことがきっかけとなり、働く場所もフレキシブルに選択できるような土台ができあがったため、このような取組も実現が可能となった。
①運用面での工夫
現在(2022年2月)、主に管理部門の社員30名程度が完全なフルリモートワーク、現場のフィールド社員30~40名程度がサテライト勤務(所属する部署があるオフィスではなく、住居の近隣オフィスなどへの出社に必要に応じ出社する勤務形態)を実施している。業務上、紙でのやり取りなどがどうしても発生する業務もあり、その場合は必要に応じて近隣のオフィスに出社する形式をとっている。
また、長期にわたりリモート勤務を継続した中で見えてきた課題を踏まえ、現場でもこの制度がより良く運用されていくための取組も行われている。例えば、新入社員には時間を決めて先輩バディを付ける(画面オフでオンライン通信をつないでおき、いつでも質問や声がけができるようにしておく)、オフィスに出社する日にはベテラン社員と新入社員ができるだけ同じ出社日になるようにするなど様々な工夫がされている。
②育成
育成やキャリア形成の観点から、現在(2022年2月)、新卒社員など一定の対面でのOJTが必要な社員はリモートワークと出社の頻度をコントロールしている。
一方、中途入社者に関しては自律して業務にあたることが出来るため制限は設けていないが、会社のカルチャーを知りたいなどの理由で社員側から出社希望が出ることも多い。
3.取組の効果
①採用面での効果
総合職の全国転勤が慣習となっていた大手の損害保険業界において、会社都合の転勤を原則廃止したことは異例のことで、新卒採用枠には取組前の約10倍の応募が来るなど大きな反響を呼んだ。
②従来の時短勤務者の能力発揮機会の増大
リモートワークの浸透とコアタイムをなくしたことで、これまで主に育児を理由に時短勤務をしていた社員が自身の都合の良い時間帯で勤務ができるようになり、フルタイムで働けるようになった事例も見受けられている。長時間労働とならないための管理も必要にはなるが、社員は自身の都合で時間調整をしながら、これまで通勤にかかっていた時間分も働くことができ、現場としても即戦力で活躍できる人材が増えることとなり双方から好評を得ている。
4.利用者、活用者、従業員の声
広報担当役員の林原さんは、2020年7月に、東京から佐賀県に移住した。林原さんが率いる広報チームは10人が在籍し、グループ全体で約9,000人の社内コミュニケーションや、報道対応、危機管理広報や社会貢献活動などの対応を行っている。緊急事態宣言など未曽有の事態においてはコミュニケーションがキーとなるため、チーム内の業務はさらに増加する状況だったが、まったく滞りなく対応できたという。部下とのやりとりや、役員会などの定例の社内会議も、ほぼ全員がリモートで対応ができる環境となっており、佐賀でも東京でも全くかわらない状態で勤務できている。
他にも管理部門所属のAさんなどは、地元が東京以外であったものの、現在の担当職務を継続したいという思いから、当初は希望する勤務地を「東京」として選択していた。ただフルリモート勤務の形態が選択できることとなり、あらためて本来の希望勤務地の登録とフルリモート勤務の承認を得て、今は家族と地元に転居をしながら、引き続き東京の管理部門業務に従事している。リモート勤務を1年以上経験したことにより、損害保険ビジネスの基本サイクル(1年間)を経験できたため、今の時点で業務に大きな不自由は感じていない。