SRSホールディングス株式会社

パート・アルバイトを正社員として登用する「短時間正社員制度」を労働導入、時間・職務・勤務地を限定し、ライフスタイルに合わせた働き方が可能に

SRSホールディングス株式会社_01_店舗外観
会社設立年 1968年8月27日
本社所在地 大阪府大阪市中央区安土町2丁目3番13号
大阪国際ビルディング30階
業種 小売業(外食チェーン)
正社員数 1,171名(2019年3月31日現在)
非正規雇用労働者数 パート社員:11,758名
(2019年3月31日現在)
資本金 85億3200万円
売上高 445億1200万円(2019年3月期)

PDFデータ

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社員区分 正社員 非正規社員 計(名)
フルタイム 短時間 パート・アルバイト
M職群 G職群 L職群 A職群 T職群
男性 32 23 107 268 44 2,134 2,608
女性 2 11 8 28 224 5,457 5,730
34 34 115 296 268 7,591 8,338

*上記は、サトフートサービス(株)の従業員数(2019年3月時点)。
*2019年4月以降は職群制度変更により、L職群とG職群は統合され、新G職群となる。

1958年 法善寺すし半開業
1968年 「株式会社尼崎すし半本店」を設立(実質上の存続会社の設立)
1974年 商号を「株式会社サト」に変更
1984年 株式を大阪証券取引所市場第二部に上場
2013年 東証・大証統合により東京証券取引所市場第一部に上場
2017年 商号を「SRSホールディングス株式会社」に変更

 2018年8月に創立50周年を迎えた同社では、レストラン事業を生業としており、「和食さと」、「天丼・天ぷら本舗 さん天」、「にぎり長次郎」、「宮本むなし」、「かつや(FC)」等のブランドを展開する。
 2020年2月より、株式会社家族亭及び株式会社サンローリーをグループに迎え、673店舗を展開する。海外にも店舗を広げ、台湾やタイ、インドネシアに計15店舗を出店している。

 外食産業を取り巻く環境は大きく変化しているが、お客様から求められている「安くて美味しくて楽しく満足できる」食事と空間を提供し続け、「食を通じて社会に貢献し、100年企業として必要不可欠な社会的インフラになること」を目指し、各事業の成長に注力している。

1.社員体系の全体像(サトフードサービス(株))

 同社では、期待される役割・成果や働き方の違いに応じて、正社員を4つの職群に区分している。フルタイム勤務の正社員はM職群、G職群、A職群の3区分、短時間勤務の正社員はT職群に属する。フルタイムの正社員は月給制だが、短時間正社員は時間給制である。
 正社員入社時はG職群(新卒)、A職群(中途)での採用となるが、本人の希望による職群転換が可能であり、「働き方の選択」を実現できる環境になっている。
 なお、職群制度に基づき、職群ごとに賃金体系が設定されている。昇進などの条件も職群ごとに異なる。短時間正社員は、パート・アルバイトからの社内登用を前提としており、社会保険(*)の適用が1か月以上であることが登用の条件となる。
 現在、短時間正社員、パート・アルバイト勤務を含め、社員の7~8割を女性が占めている。

サトフードサービス(株) 社員体系

構成要員

正社員

フルタイム M 職群
G 職群
A 職群 地域限定
短時間 T 職群 自宅通勤圏内
社会保険適用(*)パート・アルバイト 店舗限定
パート・アルバイト

(*)週20時間以上かつ月額給与8.8万円以上

サトフードサービス(株) 職群制度 概要

職群 等級 定義(抜粋)
M職群 6~7 部・課等の組織単位での部下の指導育成、指揮統率を通して所管業務を統括する職務ならびに自らの高度な専門的知識、技能および豊富な経験等を基にして、業務を開発・拡大・推進する職務を担う
G職群 2~5 基幹社員としての役割を担いながら多様な経験教育により、将来の経営幹部を目指す。 職種は限定なく、本部への配転も行い、異動は海外も含めSRSグループ各社に及ぶ。
A職群 1~5 生活基盤を中心としながら原則店長職を目指す働き方。 職群転換を経て、より上位職位へのステップアップが可能。 原則自宅通勤圏内に勤務であるが、地域内の異動に限り転宅を伴う場合がある。
T職群 1~4 生活基盤を中心に、店舗組織内の役割・職務を担当する働き方
職群 給与制度 勤務地 職種 勤務時間 昇進上限
M職群 月給制 限定なし 限定なし フルタイム なし
G職群 月給制 限定なし 限定なし フルタイム なし
A職群 月給制 (原則)
自宅通勤圏
限定不可※ フルタイム 和食さと:上級店長
さん天:エリア課長
T職群 時間給制 自宅通勤圏 限定可能※ 短時間勤務 店長

※A職群・T職群の職種とは、フロア業務・キッチン業務を意味し、A職群は全般を担い、T職群はどちらか一方のみでも可とする。(但し店舗運営責任者になるには、双方を習得する必要あり)

2.短時間正社員制度(T職群)

(1)導入のきっかけ

 同社では店舗勤務のパート・アルバイトが多くを占めるが、労働人口の減少に伴う採用難が進む中、「辞めさせない」、また「辞めたい気持ちにさせない」、さらに、いったん退職しても「戻ってきてもらえる」制度や仕組みを設けていく必要があったため、短時間正社員制度(T職群)を導入した。
 本制度はまず、2014年10月から「和食さと」で働くパート・アルバイトを対象として導入され、T職群に転換を希望する社員について転換が進められた。グループ会社となった「宮本むなし」でも2017年4月から同制度を導入している。

(2)特徴

 T職群は、店舗での職務(接客、調理及び店舗運営に関わる業務全般)に従事し、勤務地は自宅から通勤可能な範囲に限定されている。所定労働時間は、他の職群が1日8時間(週40時間)であるのに対して、1日6時間(週30時間)となる。T-1からT-4の職務等級があり、T-1はさらに3段階に分かれている。

T職群の職務等級(和食さとの場合)

職務等級 職務
T-4 店長(監督職試験合格者)
T-3 店長
T-2 シフトリーダー
T-1(3) シフトリーダー代行、その他リーダー
T-1(2) フロアリーダー、キッチンリーダー
T-1(1) ヘルパー

・T-2までの職務等級の見直しは、随時、所属部長の評価により行っている。
・T-3以上の職務等級の見直しは、毎年4月1日に行う。

(3) 導入における工夫点

① 設計の工夫

 本制度は主に、パート・アルバイトで長期間働いている社員や意欲的な社員に、柔軟で安定した働き方をしてもらうことを目的としている。そのため、T職群での採用はしておらず、初めはパート・アルバイトとして入社し、1か月間の社会保険適用パートとしての実績を経ることがT職群に転換する条件であり、その条件を満たした社員が希望すれば、T職群へと転換できる。
 パート・アルバイトからT 職群へ転換する際は、それまで担っていた職務を基に職務等級に格付けされる。例えば、転換前にフロアリーダーだったのであれば、転換後はT-1(2)の職務等級に格付けされ、それまでの実績が反映される。なお、所定労働時間については週30時間となる。勤務シフトは個々の事情によりフレキシブルに設定できる。

パート・アルバイトから短期間正社員へのステップアップ

パート雇用契約

  • ・週20時間未満
  • ・社会保険未加入

社会保険適用
パート契約

  • ・週20時間以上
  • ・月額給与8.8万円以上
  • ・勤務1年以上見込み

短時間正社員

  • ・週30時間の契約
  • ・社会保険パート契約で1カ月就業後、本人承諾と所属部長面談を経て任命

② 職群の転換

 職群は柔軟に転換可能で、T職群からフルタイム勤務のA職群、さらに全国転勤のあるG職群以上へのキャリアップを目指すこともできる。T職群からA職群については部長の推薦で可能となる。
 また、ライフイベント等に応じて、M・G・A職群からT職群に転換することも可能である。G職群の店長が、家庭の事情で一度T職群に転換し、再びフルタイムで働ける状況になり、G職群に戻った例もある。

(4) 処遇

 T職群の給与は時間給で、確定拠出年金は対象外である。ただし、各種福利厚生制度は、原則フルタイム正社員と同じである。
 給与は下記の構成となっている。

  • ①基本時間給…勤務可能な地域(営業エリア)で一番高い時給
  • ②習熟時間給…能力の向上、職務の習熟度合いにより支給する給与
  • ③職務時間給…職務に連動する給与
  • ④その他…勤務地域の賃金水準変動や職務の習熟度合いの反映等

夏と冬に賞与も支給される。金額については、T-1~T-2は定められた定額が支給されるが額としてはさほど大きくない。一方、T-3~T-4は定額支給ではなく、他職群の店長と同じ扱いとなる。すなわち、店長の評価配分に基づいた支給額となる。

T職群の等級別時間給・賞与(サトフードサービス(株)

職務等級 基本時間給 習熟時間給 職務時間給 賞与の評価 評価配分額/支給額
T-4 勤務地域の最高時間給金額 能力向上、職務習熟度あいで加算される金額 400円 あり 店長職位者は、固定配分はなく、評価に基づき店長評価額を支給。
T-3 300円 あり
T-2 200円 なし 5万円
T-1(3) 100円 なし 4万円
T-1(2) 50円 なし 4万円
T-1(1) 0円 なし 3万円

3.制度導入のメリットや効果

 2018年11月時点でT職群は287名で、そのうち8名が店長として活躍している。短時間正社員制度を設けたことによる効果は、大きく3点挙げられる。1点目は、ステップアップの道筋や安定した処遇が得られることによる社員のモチベーションの向上、2点目は、正社員が増えることで安定した店舗運営がしやすくなったこと、3点目は、様々な役割を担え社員人が増え店舗組織化が進んでいることである。

4.他の「多様な働き方」制度

  • ・親子割制度(働く親世代の応援施策として、サトフードサービスで実施。 「和食さと」で働く社員の子ども(中学校を卒業するまで)が店で食事をした食事代が半額になる制度。正社員・アルバイト・パート問わず利用可)
  • ・65歳定年制度(高齢者の雇用促進として、サトフードサービスで実施)

5.今後の課題

 制度の導入により離職率の減少を期待していたが、T職群に転換しても離職率は想定していたほど低下しなかった。背景には、配偶者の転勤などで離職してしまうケースが多いことが挙げられる。
 ただし、制度利用者からは、無期雇用になったことで安心して働ける、正社員になったことで保育園の審査が通りやすくなった、ローンを組みやすくなったといった声が寄せられるなど、社員の満足度が上がったことはメリットといえる。
 今後は店舗の拡大とともにT職群で働く人を増やし、その中から店長を担う人、さらにはT職群からA職群やそれ以上のG職群などの管理職を目指す人が出てくることを期待している。そのためにも、現場のいろいろな意見を聞きながら制度をブラッシュアップしていきたい。

6.活躍する従業員の声

SRSホールディングス株式会社_09_和食さと 筏(いかだ)店長

和食さと 筏(いかだ)店長

年代 40代 性別 女性
勤続年数 12年
キャリアアップの過程 2006年、パートとして入社。社会保険適用パートを経て短時間正社員となり、2015年から店長を務める。

◆制度を利用してパートから短時間正社員へ

 2000年、長女の出産を機に、前職を辞め、専業主婦として子育てに専念していた。子どもが成長し、また親が定年退職し、「週3日くらいなら子どもを見ていてあげるから働いたら?」と言われたことをきっかけに就職を考え始めたところ、家の近所で「和食さと」のオープニングスタッフの募集があった。
 最初は平日2日と土日どちらか1日の週3日、昼間だけのパートとしてスタートし、子どもとの時間も確保しながら働いた。それから、10時から13時であった勤務時間は15時まで、17時までと増え、店舗での等級もリーダーからシフトリーダーと上がり時給も少しずつ上がっていった。働くなかで「103万円の壁」の問題が生じ、その範囲内で働くことが難しくなってきたところ、社会保険適用パートの話があり転換した。
 その後2014年10月の短時間正社員制度導入時に短時間正社員(T職群)となり、2015年10月にはT職群として店長に就任した。

◆生活スタイルを守りながら短時間正社員として頑張りたい

 現在は、短時間正社員で基本的には週5日勤務だが、週3回休むこともある。働き方は自由なので自分の希望に合わせて休みも取れる。社会保険適用パートのときはあくまで自分が働いた時間で収入を得る働き方だったが、シフト制である短時間正社員は、「ライフスタイルに合わせて時間・収入を気にせず働ける」、「正社員として安心して働ける」、という2点がとてもありがたいと感じている。
 短時間正社員に転換した当時は、下の子が小学生、上の子が中学生だったので、学校行事等があれば、昼に休んで夜から出勤するなど、自分の生活スタイルを守りながら働くことができた。
 現在、子どもの手が離れ、A職群などへのステップアップ等も考える段階ではあるが、親の介護の問題も出てきている。A職群になると1日8時間勤務となり、これまでのような融通は利きにくくなるので、もうしばらくは自分の生活スタイルを守れる短時間正社員で頑張りたいと思っている。

SRSホールディングス株式会社_10_和食さと 米田店長

和食さと 米田店長

年代 20代 性別 女性
勤続年数 9年
キャリアアップの過程 2010年からアルバイトとして勤務、その後、社会保険適用パートを経て2014年から短時間正社員となり、2015年10月から店長を務める。

◆アルバイトから短時間正社員の店長へ

 高校の通学途中にあった「和食さと」で、2年間アルバイトとして勤務後、社会保険適用パートとなった。高校を卒業し大学を退学後フリーターとしてそのまま働き続けていたところ、短時間正社員制度の話をもらった。そこで2014年10月短時間正社員となり、2015年10月に店長となった。店長の話があった際、一人では不安だったが、短時間正社員店長を全国で増やしていきたいということ、全国に同じような状況でも店長になっている女性がいるという話を聞き、自分も頑張りたいと引き受けた。
 2017年に結婚し、家庭と仕事の両立への不安から一度は店長を退いたが、生活が落ち着いたので、2019年3月から再び店長を務めている。

◆家庭との両立を考えた短時間正社員という選択

 現在の勤務先で働く短時間正社員は自分1人。短時間正社員制度があることを知ってはいるが、実際にどういう働き方をするのかを知らないパートの方も多い。「正社員」ということで負担が重いイメージがあるようなので、もっと制度が認知され多くの人に利用してほしいという。
 T職群でありながら、所定労働時間を超えて1日8時間勤務を続け、A職群と変わらない働き方をしていたため、A職群への転換を提案されることもあった。仕事をメインとするのであればA職群でしっかり働くという選択もあるが、今後の生活環境の変化を考えると、今はT職群のまま家庭と仕事を両立していきたい。ただ、将来的にもっと挑戦したいと思うようになれば、職群転換も考えていきたい。