国分グループ本社株式会社
グループ内の再編を契機に設けられた、5つのキャリアコースによって勤務地の範囲の選択を可能とした。
(国分グループ本社株式会社よりご提供)
会社設立年 | 1947年(創業 1712年) |
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本社所在地 | 東京都中央区 |
業種 | 酒類・食品・関連消費財にわたる卸売業及び流通加工、配送業務、貿易業等 |
正社員数 |
5,040名(連結:2018年12月31日現在) 含む 業務スペシャリスト:25名 |
非正規雇用労働者数 |
・嘱託社員:217名 ・パートタイマー:1,934名 (連結:2018年12月31日現在) |
資本金 | 35億円 |
売上高 | 1,885,767百万円(連結:2018年12月期) |
取組概要 |
<背景> ・2016年からグループ内の子会社や支社を再編し、それまで各社が独自で運用していた人事制度を改め、統一した人事制度を制定した。 <内容> ・正社員には5つのキャリアコースを設け、さらに社員の事情や希望に沿ってキャリアコース間の移動を可能とする制度を設けた。 <効果・結果> ・キャリアアップの道筋が明確となり、社員の意欲高揚につながった。 |
国分グループ本社株式会社は、1712年(正徳2年)、江戸・日本橋に創業した「大國屋」を起源としている、食品を中心とした卸売業である。
創業時の醤油醸造業は明治以降、業種転換し、多くの食品類を取り扱う問屋として発足した。以降、1950年に株式会社國分商店となり、1971年に国分株式会社に社名を変更した。その後、物流システムを構築するなど、食品卸の機能強化に注力し、2000年には単体売上高1兆円を達成するに至った。
2016年には、全国の支店や子会社を再編し、その際に社名を国分グループ本社株式会社に変更した。同年よりスタートしている第10次長期経営計画では長計ビジョンで「食のマーケティングカンパニー」として、顧客(食を扱うすべての事業者)の真のビジネスニーズに対して主体的に応え続け、顧客満足度No.1企業になることを目指している。
また、海外事業の基幹事業化を推進しており、現在では54か国への輸出ビジネスや、中国・アセアン各国で事業(主に卸売業・物流事業)を展開している。
現在は、連結売上高1兆8,857億円を超える、日本を代表する食品卸売企業である。
1.取組の背景
◆子会社や支社を含めて企業基盤を再構築し、共通の人事制度を導入
2015年以前は、卸売を営むグループ子会社及び支社が全国に約40社あり、それぞれの人事制度を運用していたが、各社で人事制度が異なることによる業務連携の支障や、出身会社間の心理的な隔たり等の弊害が生じていた。また、第10次長期経営計画では、ビジネス基盤の再編成・再構築に合わせた人事戦略として「総マーケティング人材化」を掲げ、社員一人一人が自身の付加価値と顧客満足度を上げられる人材となるべく、人材開発・育成を推し進めることが明示された。このような背景を受け、2016年1月、グループ内の子会社と支社を、7社のエリアカンパニーと2社のカテゴリーカンパニーに再編成した。その際、人事制度も見直すことになり、「働き方の共通化」、「人材育成の強化・推進」、「公正な処遇の決定」を視野に入れ、さらに社員の働き方に柔軟に対応できることを目指して、全社に共通したプラットホームの人事制度を設けることになった。その人事制度の管理は、ヘッドクォーターカンパニーである国分グループ本社が担っている。2018年12月時点でこの共通の人事制度の元で勤務する社員は、エリアカンパニー7社とカテゴリーカンパニー1社と事業会社1社、そして同社を合わせた合計4,468名である。
2.取組の内容①(多様な正社員の在り方)
◆5つのキャリアコース:多様な正社員と勤務地の選択
2016年から、正社員に対し5つのキャリアコースを設けた(表1)。各キャリアコース間(業務スペシャリストを除く)で業務範囲、昇進・昇格の範囲、各種手当、福利厚生、教育制度の違いはない。しかし、異動の範囲が広いほど、幅広い能力が求められることから、給与については、異動範囲に応じた水準が設定されている。また、地域キャリアについては、地域の物価の違い等を考慮し、全国を4分類し、勤務地に応じて基本給を変えている。
表1 正社員における各種キャリアコース
これまでの国分グループの正社員区分は、「総合職員」、「一般職員」、「勤務地限定型」などがあり、グループ会社によって区分も名称も異なっていた。また、名称が同じであっても、業務範囲や求められる能力が異なる等の課題があった。このため、新しい人事制度の立ち上げに伴い、旧正社員区分から新正社員区分への移行ルールも設定した。その上で、本人と今後の働き方を相談し、コースの転換希望を確認し、2016年1月に正式決定した。
2017年卒の新卒採用からは、「グループキャリア」と「エリアキャリア」のコースを選択できるよう、新卒採用の制度を改革した。
◆キャリアコース転換の実績
キャリアコース間の転換は可能で、年に1度キャリアコース転換の申請を受け付けている。
(1)異動の範囲を変えずに勤務地を変えたい場合
エリアキャリア社員、地域キャリア社員が、現在勤務するエリア・地域とは異なるエリア・地域への異動を希望する場合、本人の希望があれば、受け入れ側との調整が済み次第、異動が可能である。
(2)異動の範囲を狭めたい場合
本人の希望に応じて変更することができる。
(3)異動の範囲を広げたい場合
原則として隣り合うコースへの転換のみとなり、決められた手順に則り、申請と審査を受ける必要がある。具体的には、キャリアコース転換シート
(※1)
を提出して転換審査を受け、さらに、レポート提出が求められる。レポートでは、2~3つのテーマが与えられ、本人が希望するキャリアコースにふさわしい問題意識とそれに対する適切な提言ができるか(提案能力があるか)を判断する。それらの審査を通過した後、人事総務部および各社社長による最終面接を行う。面接の結果および、過去の年次評価結果を総合的に判断し、転換が決定される。これら審査や評価は、ヘッドクォーターカンパニーである同社が統括管理を担っている。
(※1)転換の志望動機、希望者の業務における強み、上長による推薦、棚卸評価(能力評価)の結果を記したシート
キャリアコース転換を行った社員の実績は、2016年には53人、2017年には101人、2018年には98人であった。介護の必要性や配偶者の転勤を機会に、キャリアコースを転換して勤務地域を限定するケースも多い。
また、諸事情でキャリアコースを転換し、勤務地の範囲を狭めることになっても、以降3年以内であれば元のキャリアコースに審査なしで復帰することを可能とする制度を設けている。この制度によって、キャリアコース間の移動を容易にし、社員のライフステージの変化に応じた柔軟な対応が可能となっている。
◆国分能力基準と能力等級制度
キャリアコース制度の新設に伴い、「国分能力基準」を新たに設定した。大きく「全員必須項目」、「重点強化項目」、「キャリアコース別項目」の3つの区分があり、各区分さらに細かく能力が設定され、各キャリアコースに求められる能力の範囲が明示された。
評価項目の設定に際しては、グループ内で高いパフォーマンスを発揮している社員にヒアリングを行い、その思考や行動特性を元に、社内で議論を重ねて策定した。
また、国分能力基準に基づき、これまでグループ会社別に異なっていた能力等級を7つの等級に再定義した。キャリアアップを促進するために、各等級には「(等級内)ステージ」を設定しており、1stステージと2ndステージに分かれる。
(1)1stステージ
新入社員や下位等級から昇格して間もない社員が対象となる。現能力等級で求められる能力基準を満たし、能力レベルに相当する業務を習熟することを目指す。
2ndステージへの移行は、基本給の水準および過去の能力に応じた年次評価(評価については後述)を元に決定する。評価の結果、2年連続で基準点に満たない場合は、1stステージに留まることとなる。
(2)2ndステージ
現能力等級において習熟度を上げた社員が対象となる。上位等級への準備期間として、必要な能力の修得を目指す。
◆評価制度
同社の評価制度は、「行動規範評価」、「成長度評価」、「戦略実行評価」の大きく3つに分かれている。「行動規範評価」と「成長度評価」は昇給に、「行動規範評価」と「戦略実行評価」は賞与に反映される。
(1)行動規範評価
行動規範として設定された8つの項目の実践度を評価する。各項目は、「問題なく実践」、「改善の余地あり」、「大幅な不足」の3段階で評価される。全項目とも問題なく実践できて当然の内容であるため、全項目「問題なく実践」であることが、昇給・賞与支給額の前提となる。
(2)成長度評価
国分能力基準を参考に、期初に部署長と相談の上、当年度の成長目標を設定する。設定した目標に対する到達度を、期末に部署長が評価し、昇給に反映する。
(3)戦略実行評価
部署長もしくはユニット長と相談の上、業務目標・予算目標を設定する。設定した目標に対する到達度を、期末に部署長が評価し、春の賞与に反映する。
3.その他の取組
◆グループ共通の採用試験を実施
採用活動は、同社とエリアカンパニー7社、カテゴリーカンパニー1社がグループ共通の採用試験を用い、本人の志望・能力・キャリア観を確認しながら入社する企業とキャリアコースを決定している。勤務地が日本国内全国や世界中となっているグループキャリア社員は、同社に入社することとなり、上記9社をまたいで異動する場合がある。その場合は「転籍」という形で各社間を異動することになる。また上記9社以外のグループ企業に異動となる場合はあるが、これは異動ではなく出向という形で異動する。
◆その他の取組
その他の取組として、2018年3月から社給携帯としてスマホを導入、2018年4月から時間有給休暇制度、2018年11月からテレワーク制度の取組が行われている。社員の事情に合わせるとともに、業務の効率化、生産性の向上を狙って取り入れたと人事総務部は語る。
4.効果と課題、今後の運用方針
◆取組の効果
最も大きな効果として、グループ内各社において一体感が得られた。2015年以前は出向という形で子会社に配属されていたところ、2016年の再編からは転籍という形で社員が配属されるため、各社内における強固な連帯感が生まれたという声が寄せられていた。
さらに、採用においても効果が見られた。2015年以前、同社の前身である国分株式会社の採用においては大きな問題は見られなかったが、地方の子会社は規模が小さいため新卒採用するノウハウに乏しかった。また、売り手市場の中、中小企業というイメージから母集団がつくれていなかった。しかし、2016年の再編以降、グループ横断でのノウハウを共有した採用活動を展開することで、知名度が活かされ、結果、多くの志望者を募ることができた。
また、既存の社員においては、人事制度の統一とキャリアコースの転換を可能としたことで、一地方にとどまらない、さらなるキャリアアップの道筋を示すことができた。このことは、社員の向上や意欲高揚につながった。
◆これからの取組(非正規雇用の無期転換と正社員登用)
非正規雇用の無期転換を2018年度から実施しており、(※2)さらに、無期雇用の正社員登用を2019年から予定している。5年間勤続した場合、希望者については1年契約の非正規雇用である嘱託社員、パートタイマーを無期雇用化する。また、無期雇用化された非正規雇用の社員を対象として、正社員登用する制度も設ける予定である。登用には審査が必要となるが、概ね正社員の採用と同等の基準で審査を実施する予定である。
(※2)毎年1月に契約更新のため2019年から取り組みを開始する(取材時は2018年12月)。