株式会社クララオンライン
多様性を重視した働きやすい環境づくりに取り組み、優秀な人材を確保
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会社設立年 | 1998年 (前身、合資会社クララオンライン設立:1997年) 1999年12月1日有限会社より組織変更 |
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本社所在地 | 東京都港区芝大門二丁目5番5号 住友芝大門ビル10階 |
業種 | 情報通信業 |
正社員数 (2018年3月現在、単体) |
62名(男性42名、女性20名) |
非正規雇用労働者数 (2018年3月現在) |
アルバイト社員2名(男性1名、女性1名)(うちインターン1名) 派遣・業務委託者15名 |
資本金 | 1億円 |
売上高 (2017年実績) |
13億2,400万円 |
取組概要 | <背景> ・優秀な人材の定着と確保 <内容> ・本人の意思・タイミングを尊重した正社員への転換 ・多様性の尊重と制度に縛られない柔軟な運用 <効果・結果> ・優秀な人材の定着と確保 ・従業員のモチベーションアップ ・個々のライフイベント等に応じた柔軟な働き方を実現 |
同社は、1997年に創業し、東京・名古屋・北京・シンガポール・台北・ソウルを拠点として、クラウドの運用や構築をするインフラサービス、インターネット・モバイル領域のコンサルティングサービスを提供している。各国・地域におけるサービスと共に、特にクロスボーダー領域における取り組みに強みをもち、日本からアジア、海外から日本への双方向で、ビジネスとインフラの両面でお客様の事業展開を支援している。
創業以来、サーバホスティング事業を中心とした事業から、インフラソリューションサービスを提供するテクノロジーカンパニーへ事業を拡大し、日本及びアジア各地での提供実績を積み重ねている。これに加え、各国のインターネット事情やインターネットに関する法制度・規制、求められる品質基準などのナレッジをクララオンライングループ全体で共有することにより、「アジアのインターネットを最も知るプロフェッショナル」として、顧客から信頼されるビジネスパートナーを目指している。
同社は、「インターネット社会の発展への貢献と多様性の尊重」を企業理念に掲げており、特に組織の多様性を企業成長の重要な鍵と位置付け、国籍・性別などを問わない採用を続けてきた。お客様を次なる市場・時代へ先導する「Global
Navigator」であり続けることをコアバリューとし、さらに今後もアジアを土台に顧客と共に成長を目指している。
1.取組の背景
◆エンジニア等の優秀な人材の確保
同社業務の核となるインフラを支えるエンジニアは絶対人口が少ない(エンジニア人口の20分の1程度。)。したがってインフラのエンジニアの採用環境は非常に厳しく、また、同社の強みであるクロスボーダー領域に関わることができるスキルを有する人材はさらに限られる。同社では中途の採用(正社員)が多い。正社員が確保できない際に、アルバイト社員や派遣社員の採用、業務委託を行うが、仕事内容は正規も非正規も特に変わらない。会社への入社時の雇用形態がアルバイト社員でも契約社員でも、バリューのある人材はつなぎとめたいと考えている。特に専門職であるエンジニアは、安定して同じ会社で働きつづけることを望んでいるとは限らず、転職することで自らのスキルアップを目指す人が多い。エンジニアの働き方は多様であり、多様なニーズに対応しないと良い人材が採用できない。
2.取組の内容①(社員登用と多様な働き方)
◆本人の意思・タイミングを尊重した正社員への転換
同社の雇用形態は、「社員」「パート・アルバイト社員」「派遣社員」「業務委託」で構成されている。同社では、アルバイト社員・パート社員・派遣社員から正社員への転換は、能力と本人のやる気しだいで転換が可能である。転換の条件(就業期間等)は特にない。本人の希望を重視し、所属長の推薦を受けた者は面接実施となる。非正規社員に対して、社員と同じタイミングで実施する目標設定の面談(目標設定とフィードバックで年4回)の際に希望があれば直属の上司に申し出る。上司からも面談時に正社員になる道があることを伝えている。
転換のメリットは、契約期間が無期になること、賞与が支給される等の待遇面である(アルバイト・パート社員は寸志のみ)。
表 雇用形態ごとの特徴
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*契約期間は本人希望により、短い場合もあり、
*本社近郊在住の場合、手当を支給
出所)株式会社クララオンラインへのヒアリング調査をもとに作成
以前から正社員転換は運用で行っていたが、2016年に就業規則を改定し、正社員転換について盛り込んだ。中小企業やベンチャー企業においては、良い人材を確保することを第一目的に、正社員転換を行っていることが多く、制度化するか否かは重要ではない。同社では就業規則に明記することで正社員に転換する方法があるということを社員により良く知ってもらいたいと考えたからだ。さらにキャリアアップ助成金の活用もしている(キャリアアップ助成金の申請については対象が決定後に申請予定)。
同社において、エンジニアは事業のコアを担っており、従業員全体に占める割合は3分の1と多い。アルバイト・パート社員のエンジニアのうち、希望する者については、できるだけ仲間に取り込んで行って一緒に成長したいと考えている。ただし、一般的に、スキルの高いエンジニアの中にはプロパーとして雇われることを求めない人材もおり、転換の推進が難しい。複数企業での経験を経て、自身が「この会社だ」と思ったとき、またはある年齢に達したときに正社員を希望することはある。
副業がある非正規社員については、継続して声かけを行い、他の仕事の比重の変化を見て正社員に転換してもらったケースもあった。良い人材については、非正規社員から正社員に転換してもらうケースもあれば、退職後に他企業での経験を経て再び雇用するケースもある。
3.取組の内容②(その他)
◆多様性の尊重と柔軟な運用
同社では、企業理念として、「インターネット社会の発展への貢献と多様性の尊重」を掲げている。「多様性の尊重」を織り込んでいることが特徴的であり、この企業理念を大前提として事業に取り組んでいる。
1999年頃から外国籍社員を積極的に採用している。これまでに様々な国籍の社員が働いており、社員の半数が外国籍のときもあった(現在の外国籍社員は11人)。外国籍社員の多い職場は、宗教や働き方・休み方に対する考え方も異なる中での働き方となる。仕組み的なワークシェアリングではなく、従業員全員でワークシェアリングしないと仕事が回らなくなる。このような社員のバックグラウンドの違いがダイバーシティを促進してきた。
代表取締役の家本氏の第一子が2006年に生まれたときに一つの転機があった。経営者という立場でありながら育児休暇を取ったことで、「自分自身感じるものがあり、いわゆるパパスイッチが入った」。当時のインターネット業界の就業者の年齢層の幅が狭く、当時は20代から30代前半の社員が多かった。「社員の年齢層が子育て世代に入ろうとしている、子育てが一つのキーワードではないか」と考え、ワーク・ライフ・バランスに関する取組を開始した。しかし、もともと多様性を重視し、柔軟な働き方ができていた同社ではまだそこまで制度でのニーズがなかったために受け入れられなかった。この失敗を経て、中小ベンチャーでの働き方、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティについてコンサルティングを受け、育児に偏ることなく、そして大企業的な制度を整えるやり方ではなく、最低限必要とされる制度を整えつつ、柔軟に運用で対応する方針に切り替えた。
同社では子育てしながら働く社員や勉強しながら働く社員が多く、様々な社員のニーズや相談に対応してきた。多様なバックグラウンドを認めながら、その度に個々に規則を整備すると、制度上の平等性の担保が難しくなる。中小企業にとって制度設計にコストがかかることもあり、大きく公平性を失わない範囲で、最低限の制度を整備し、柔軟な運用については意思決定を素早く行うことで対応している。(例:所定の勤務時間に対して、運用で所定より早い出勤時間を認めている社員がいるが、フレックス勤務は導入していない)
◆ワーク・ライフ・バランスの充実
同社は、風通しの良い職場であり、家本氏がプライベートの充実を大事にするようにメッセージを発していることもあり、家本氏や人事担当者に相談しやすい社風である。
前述の正社員転換した社員の一人は、正社員として働き始めた際に育児短時間勤務が適用され、その後、就業規則上の上限である小学校就学が過ぎた後も、家庭の事情による継続を希望し、所定労働時間より1時間短い時間での勤務が認められた(通知書の発出)。また、勤務時間についても所定の9時30分から18時30分に対して、9時から17時までと就業開始時間についても30分早い時間に調整している。さらに、全社的に1時間単位の年次有給休暇の取得が可能となっており、「子どもの学校行事参加や通院等に使うことができて助かっている」と社員には好評である。
また、同社では男性社員の育児休暇(育児休暇に準ずる形での休暇取得)を積極的に推進している。育児休暇を取得した経験によって「部下の悩みなどに対して理解しやすくなる」「在宅勤務でも仕事が可能だとわかった」等、社内のワーク・ライフ・バランスの充実につながっている。休暇の取り方も社員の希望に沿うように努めており、ある男性社員は約1ヶ月間にわたり、毎日午前のみ出勤し、午後は時間単位の有給休暇を取得した。
このように多様な社員のニーズに相談にのり、柔軟に対応するという社風であることが優秀な人材の定着につながっている。
4.取組の効果、今後の運用方針
◆転換できることを定常的に伝え続ける
2018年現在の転換の実績については、2002年以降にアルバイト・パート社員から正社員への転換、2007年以降に派遣社員から正社員へ転換の実績がある。2009年以降でみると、7名が正社員に転換している。そのうちエンジニアが4名、コンサルタントが1名、営業事務が1名、管理が1名である。前述の7名は日本人だが、2009年4月の転換者では、アルバイト社員(外国籍の学生)が現在執行役員になっており、国籍の条件はない。これまでの転換者は自発的な希望による転換が多かった。
同社では、人の価値が源泉という大前提のもと、会社の理念や方向性に沿って一緒にやっていこうという人がいれば、これからも間口を広げて行きたい。正社員転換の門があること、門が開いていることをキャンペーン的にではなく、定常的に伝え続けることが重要である。
半期に一回振り返りの面談時に、直属の上司が部下に、会社として期待する業務等を伝える以外に、「次の半年、1年、3年後にどうしたいか」聞いている。その際、直属の上司が正社員転換の可能性があることを説明することに加え、二次考課を行うその上の上司が正社員の転換の道があることを認識し、縦のラインで働いている社員のキャリアを考えることが重要である。
これからも非正規社員自身には正社員になるチャンスをポジティブに掴んでいってほしい。
5.活躍する従業員の声
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アドミニストレーション部
植木 しのぶさん
年代 | 40代 | 性別 | 女性 |
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勤続年数 | 8年 | ||
キャリアアップの過程 | 2009年にパート社員として入社。 2012年に契約社員、2013年に正社員に転換。 庶務として入社し、契約社員になってから人事業務に携わるようになり、以降一貫して人事関連業務に従事。 |
◆短時間勤務のままステップアップ
植木さんは、2009年にパート社員として同社に入社。入社前は、1人目の子どもの出産まで人事採用関係(主に給与計算のデータ提供等)の仕事に2年程携わっており、出産後は派遣社員として週4日勤務していた。下の子が1歳になったタイミングで同社が自宅から比較的近かったこともあり、庶務の仕事に対して応募した。会議室の調整、備品管理、お客様対応が主業務だったため、小さい子どもがいても負担にならないスタートだった。入社3年後に、直属の上司より契約社員への勧めがあり、育児との両立のために時短勤務でも大丈夫か相談したところ、週5日・1日6.5時間勤務のままで契約社員に転換した。そして、その翌年に正社員への声かけがあり、正社員スタート時より育児時短勤務で、1日7時間の勤務となった(所定労働時間は8時間)。最初から他の正社員より短時間で働くことについての迷いはあったが、当時の同僚も「正社員と同じ働きなのに賞与がないのはおかしい」と正社員になることについて背中を押してくれた。
契約社員になってからは人事アシスタント(採用関係の面接調整やエージェント調整等)や総務の業務が主業務となった。また、正社員に登用されてからは、上記に加えて従業員の勤怠管理、労務手続き等を行うようになった。現在は人事考課、海外からの新卒入社対応(ビザ手続き等)、休職者のフォローも業務内容に加わっている。
◆柔軟な働き方に関する運用のおかげで働き続けられる
子どもが小さいときは病気になる等の心配があり、社員になる不安はあったものの、時間単位の年休制度があったため、出社前の数時間を使い、通院や学校行事への参加もできた。自分の業務さえ都合がつけば2,3時間調整することができ、とても働きやすかった。社内には自分より若い社員が多く、自分自身が先に直面する問題について会社に相談し、実例を参考に様々な働きやすい運用等のパターンを作っていった。このような柔軟な働き方が可能だったため、働き続けられたと感じている。
◆会社に近い位置で関わっていられる楽しみを実感
パート社員のときも上司からの評価フィードバックがあり、自分の頑張りが時間給に反映されることで、家の中にいるのとは異なる喜びがあった。契約社員になった時には、会社へ帰属する重みを感じた。そして、正社員になった時は、サブ担当ではなくなったという意識を強く感じた。今は様々な業務を任される立場となり、大変という気持ちもあるが、正社員は、自身が掲げた目標に対してシビアに評価され、賞与や昇給に反映される。より課せられるものも重くなるが、その分の見返りも大きい。
正社員登用されたことにより、仕事のスタンスが全く変わった。会社から必要とされていると感じる機会が多くなり、より会社に近い位置で関わっている楽しみがある。