社会福祉法人小坂ふくし会(あかしあの郷)
正規・非正規を含む職員全体の処遇改善を図る中で、職員の確保、雇用の安定をめざし正規職員転換制度を展開
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出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供
会社設立年 | 1986年 |
---|---|
本社所在地 | 秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山字栗平25-2 |
業種 | 医療、福祉業 |
正社員数 (2017年8月10日現在) |
98名(男性19名、女性79名) |
非正規雇用労働者数 (2017年8月10日現在) |
有期契約職員21名 ・男性5名、女性16名 ・10代1名、30代1名、50代3名、60代15名、70代1名 ・常勤8名、非常勤13名 ※同法人では、有期契約職員は、賃金形態により準職員(月給制)とパート職員(時給制)に分かれる。準職員・パート職員ともに、常勤(フルタイム)と非常勤(パートタイム)がある |
資本金 | ― |
売上高 | ― |
取組概要 | <背景> ・介護施設増加にともなう人材不足の危機感 ・理事長より職員の待遇改善の提案 <内容> ・正職員登用 ・処遇改善、人材育成、職環境改善 <効果・結果> ・多方面にわたる取組の効果 *資格取得者増加による事業所収益の増加 *リーダー人材の増加 *職員全体の仕事に対する意欲やスキルの向上 *離職者の減少 *職員数の増加 *ユースエール企業として認定 *採用コストの減少 ・さらなる人材確保と世代循環、多様な働き方の推進 |
同法人は、秋田県鹿角郡小坂町に、1986年4月に設立した。現在小坂町にて、3か所の社会福祉施設を運営する。
翌年1987年4月に、特別養護老人ホーム
サンホーム大石平を開設(介護老人福祉施設:定員50名、短期入所生活介護事業所:定員10名)。介護保険制度の施行を受けて、2003年4月には居宅介護支援事業所の事業をスタートした。続いて2004年10月あかしあの郷、2011年4月ケアハウスわかばを開設(定員22名)。あかしあの郷では、全室個室ユニットケアによる特別養護老人ホーム(定員30名)、ショートステイ(定員20名)、デイサービス(定員15名)、生活支援ハウス(定員10名)の4事業を展開するとともに、小坂町から委託を受けて町内在住の高齢者の生きがいづくりや介護予防に向けた「いきいき交流事業」を実施する。
利用者へ質の高いサービスを提供することを法人の使命とし、そのためには職員が健康でいきいきと働き続けられることが必要と考える。「明るい職場作りと、人材育成及び職員の資質の向上を図る」という経営方針のもと、また、「職場環境は、職員自ら改善すべき」という理事長の方針により、職員が中心となって職場環境の改善に取り組む。
1.取組の背景
◆介護施設増加にともなう人材不足の危機感
2000年の介護保険制度の施行以降、高齢化の進展も踏まえ、周辺地域に介護関連施設が増加した。
元々、介護職は人手不足である。さらに、同法人の周辺は人口が少なく、母数が限られることから、地域で複数の施設が人手を取り合う構造になり、人材確保に対する危機感は高まった。
こうした状況の中で、同法人は、利用者に対する質の高いサービス提供が使命であり、そのためには職員が健康でいきいきと働き続けられることが必要と考えた。そして、「明るい職場づくりと、人材育成および職員の資質の向上を図る」という経営方針のもと、職場環境の改善に取り組むに至った。
◆理事長より職員の待遇改善の提案
特に同法人では、2007年頃まで離職者が多く、雇用が不安定な状況にあった。職員のうち正規雇用はわずか2割にとどまり、ほとんどが準職員やパート職員といった有期契約職員であった。介護関連の資格を持つ職員も2割程度で、提供するサービスも内容や品質にばらつきがみられた。
このような中、理事長より職員の待遇改善の提案があった。そのねらいは、職員の確保、雇用の安定、職員にとってのやりがいを高め、利用者に高品質のサービスを提供することにあった。
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エントランスホール、事務室(右側)
出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供
2.取組の内容(正職員登用)
◆有期契約から正規への転換制度の開始
2008年、有期契約職員に対する正規職員転換制度を開始した。まずは、介護福祉士の資格取得者に対象を限定し、作文と面接の試験に合格することで、正規職員に登用することとした。当初、正規と非正規では待遇が違うということで、意欲的に資格を取り、正規職員に転換しようとする者が増えた。その結果、2012年10名、2013年2名、2014年5名が、有期契約職員から正規職員に転換した。
さらに、2015年には、より多くの職員の確保、優秀な人材の確保、雇用の安定をめざし、正規職員を一般職からなる職員Ⅰ(1級~2級)と管理職も含む職員Ⅱ(3級~7級)に分類するとともに、資格取得の有無に関わらず、転換制度の対象をすべての有期契約職員に拡大した。フルタイムで所定労働時間・日数である1日8時間、年間255日を働けることのみを要件とした。選定方法に所属長の推薦を加え、作文と面接の試験を経て、正規職員に転換する仕組みに改定した。制度改定にあたっては、後述の職場環境改善委員会においてアンケートを実施するなどして、職員の意見を把握し、反映した。新制度での転換実績は、2015年26名、2016年4名となっている。
◆基盤にある有期契約職員の人事考課
正規職員転換制度の基盤として、有期契約職員についても人事考課を行っている。年度初めに目標設定を行い、年度末に自己評価する。それに対して上長が評価を行い、結果を本人にフィードバックし、今後の業務改善につなげる。この有期契約職員を対象とする人事考課が、正規職員転換にあたっての所属長の推薦のベースとなる。
2015年度からは、厚生労働省のキャリアアップ助成金を活用したことも、正職員転換を後押しした。
職務の級
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出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供資料をもとに作成
3.取組の内容(処遇改善、人材育成、職環境改善)
◆有期契約職員の処遇改善、人材育成
その他、有期契約職員の処遇改善に向けた取組として、2007年より有期契約職員についても号を設定し、毎年ベースアップする仕組みを整えた。さらに、2012年に創設した職責・資格手当は、正規職員だけでなく有期契約職員も対象とした。その後も就業規程の見直しを行い、正規職員に関する等級や職責、給料・手当等の諸制度を整え、法人全体としての職員の処遇改善を図った。これにより、有期契約職員の正規職員転換のモチベーションアップにつなげた。
人材育成の面でも、有期契約職員に対しても新人研修、OJT、OFFJTを行う。年1回法人として新人合同研修会を開催し、未経験者は座学4時間、実技20時間、経験者には座学2時間というように、経験の有無に応じた研修を実施している。
◆職員の手による職場環境改善の取組
2011年に、職員で構成する職場環境改善委員会を設置した。これは、職場環境は職員自らが改善するという、理事長の方針にもとづく。当委員会では、アンケートを実施するなどして、職員の意見や要望を把握・集約し、正規・非正規を含む同法人の職員全体の処遇改善に反映していった。
具体的な取組として、当初、正規職員転換を資格取得者に限定したこと、正規・非正規を問わず資格手当を創設したことなどにより、資格取得に取り組む職員が増えた。そうした者達を対象に実技試験の模擬、試験に関する情報提供、受験者同士の交流等を行うなどして、支援し、同法人における資格取得を促進した。また、自分達で職場ごとの年次有給休暇の取得状況を把握し、資料として各職場に提供することで、年次有給休暇の取得促進を図った。その他、若手職員を対象とした交流の場を設けるなど、職員の結婚を促進する活動も実施している。
当委員会では、現在も2か月に1回会議を開催する。その場での議論を踏まえ、理事長が出席する会議にて職場環境改善に関する提案を行っている。
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居室
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共同生活室
出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供
4.取組の効果、今後の運用方針
◆多方面にわたる取組の効果
このような同法人における、非正規職員にとどまらない職員の処遇や職場環境改善に向けた取組は、多方面にわたって効果を生んだ。
一つには、介護福祉士の資格取得者が増加・確保できたことで、介護報酬の加算等により事業所として増収となった。介護報酬の中にある「サービス提供体制強化加算」では、介護福祉士の配置が一定基準を超えている事業所は、報酬がプラスされるのである。
二つ目には、人事労務管理上の効果として、リーダー、主任、係長候補となる人材を増やすことができた。2007年頃までは離職者が多く、職員の確保・定着が課題であり、経験豊富で有能な人材の流出が続いていたからだ。
三つ目に、正規・非正規を問わず職員全体の仕事に対する意欲やスキルを高めることができた。介護福祉士の資格取得者は、2007年頃は2割であったが、現在は職員全体の9割に至る。有期雇用から転換した者は、正規職員になったことで仕事に対する責任感やモチベーションが高まる。有期雇用の時には「私は、パートだから」と言っていた者も、正規職員に転換し、変わったと感じる。正規職員の等級制度の見直し及び職責手当創設は、等級を上がり、リーダーや係長に昇進する、賃金を上げるという目標につながった。
また、様々な職場環境の改善は、職員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスにつながり、離職者の減少、職員数の増加という効果ももたらした。
さらに離職率の低さが認定基準にかなったことにより、2016年にはユースエール企業として認定された。同制度は、若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度である。この認定により、①ハローワークなどで重点的PRを実施(「若者雇用促進総合サイト」に認定企業として掲載)、②ユースエール認定企業限定の就職面接会などへの参加が可能、③自社の商品、広告などに認定マークの使用が可能、④若者の採用・育成を支援する関係助成金の加算措置という4つの支援を受けることができるようになった。実際、ユースエール認定を受けていることに安心感をいだき、応募してきた者を採用したケースもある。採用コストも減少した。
◆さらなる人材確保と世代循環、多様な働き方の推進
同法人では、さらなる人材確保の必要に迫られている。現在、介護事業所としての人員配置の基準は満たしているが、そのうち育児休業中の者が数名いる。このため、介護職・看護職ともに増員が必要な状況にある。
また、職員の処遇改善を行ったことで、職員の定着が促進され、年々、人件費(職員に支払う賃金)が上昇する構造にあることも課題である。一方で介護報酬が下がり、介護事業所としては、いつか収入と支出のバランスが崩れ、経営が破綻するという危機感がある。これはすべての介護事業所がかかえる問題であり、介護報酬の増額、職員数やサービス内容による加算の設定など、制度上の見直しが期待される。法人内部の対応としては、定年による退職と若者の採用という職員の世代循環を、円滑に進めることを考えている。
その他、近年は職員の意識は多様化し、すべての職員が正規転換を必ずしも望まない状況にある。資格・等級の上昇を促すよう、キャリアアップに向けた研修体系の充実を図る。同時に、ワーク・ライフ・バランスと多様な働き方に対応した正規職員のあり方を検討する。1日のうち限られた時間帯だけでよい短時間勤務の正規職員や、施設間の異動がない正規職員、夜勤専門の正規職員など、多様な正規職員の区分を設定する、これが同法人の未来に向けた展望である。
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地域交流センター「はいから倶楽部」の外観と内部
出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供
5.活躍する従業員の声
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事務
和田 苑子さん
年代 | 50代 | 性別 | 女性 |
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勤続年数 | 3年7か月 | ||
キャリアアップの過程 | 2014年7月、常勤の準職員として同法人で働き始める。当初、育休代替要員で、1年間限定の予定。 1年後には契約更新、2016年5月に正規職員に転換。 事務職として、法人全体の職員の経理・総務関連業務を担当。 |
◆育休代替要員からの始まり
和田さんは、2014年7月に育休代替要員として1年間限定で入社した。はじめは、常勤の準職員として働き始めた。
1年が経った時、引き続き社会に関わりたいと思い、契約を更新した。
その後2016年5月に、正規職員に転換した。これまでも事務職として働いていたが、福祉業界は初めてであった。新しい会計方法を知り、知識を深めていきたいと思い、正規職員として働くことにした。せっかく機会をもらったのでやってみよう、さらに知識を身につけ、業務に生かしていきたいと思った。
◆正規職員としての雇用の保障と責任
正規職員に転換してよかったことは、基本給や賞与等が増額になったこと。また、定年(60歳)まで雇用が保障されることで、安心感を持つことができる。
その一方で、転換後は、正規職員としての責任を担うことになった。やることが増え、仕事がたくさんあって、大変である。新しいことが、どんどん増える。1日があっという間に過ぎる。業務も経理に加え、総務・勤怠管理・給与計算・有休管理を行う。あかしあの郷だけでも60人の職員がいるが、法人全体の職員に関する経理・総務的な業務全般を担当する。前職でも経理をしていたが、その時は労務士・税理士がいた。仕組みはわかるが、前職では自分がやっていなかったことを今はやっている。お金に関する業務なので、手続きが滞らないように心がけ、わからないことがあると都度質問して解決するようにしている。
◆定年後もゆったり業務に携われるとよい
転換直後の2016年8月に、神奈川県で会計処理の研修があり、参加した。二泊三日の研修が2回あった。和田さんは、「この研修で得た知識を活用し、定年後も業務に携わることができたらよい」と言う。ただし、定年後はフルタイムではない働き方をしたい。追われる仕事はしたくない。夫婦でゆっくり過ごしたい。このため、定年後の再雇用について、勤務時間短縮や週2~3日の勤務など、フレックスに対応できる規則があるとよい。
和田さんは、資格のある専門職の人は定年を延長してもよいのではないか、60歳を過ぎても働けるだけの専門性を持っており、そうした高齢の職員に活躍してもらうことも同法人として重要ではないか、と考える。
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出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供
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介護福祉士
成田 美佐子さん
年代 | 40代 | 性別 | 女性 |
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勤続年数 | 8年9か月 | ||
キャリアアップの過程 | 2009年5月、パートとして同法人で働き始める。 準職員を経て、2015年5月に正規職員に転換。 介護士として、入居者の食事や排泄等の介助全般を担当。 |
◆入院している母親の介護に役立てたく入職
成田さんは、2009年5月に常勤のパートとして入職した。入院している母親の介護に役立てたいと考え、同法人で介護職として働き始めた。
はじめは仕事がきつかった。スタッフに鍛えられ、支えられ、仕事を続けるうちに、入居者と話すのが楽しく感じるようになっていた。また、当初は扶養の範囲内で働いていたが、子どもが大きくなるにつれ、もっと働こうと思うようになった。
その後、常勤の準職員を経て、2015年5月に正規職員に転換した。賃金をアップさせたい、介護について勉強したい、将来ケアマネジャーや社会福祉士の資格を取って、そうした業務に従事したい、という思いから正規職員転換をめざし、介護福祉士の資格を取得して転換した。早く資格を取って、転換したかった。
◆正規職員になって「がんばろうと思った」
正規職員になって、給与や賞与がアップしたことがうれしかった。「がんばろうと思った」と言う。正規職員になると、非正規の頃と仕事に差はないが、責任が重くなる。それをバネにがんばろうと思った。いろいろなことを知り、自分がわかっていくことがうれしい。資格を取得し、今までやってきたことを知識として理解したことで、もっと知りたいと思うようになった。何でもやってみたい。今担当している以外の介護サービスや相談援助業務などもやりたい。職場の仲間もよく、自分の仕事も普通にやれており、今のところすべてうまくいっているので、これからもやっていきたい。
◆夢は施設長になること
「夢は施設長になること」。ケアマネジャー・社会福祉士等の資格取得をめざし、介護サービスの質の向上、介護の視野を広げていきたい。そのために法人には、資格取得のための情報提供、費用支援、受験勉強のための休日付与などを希望する。
職場については、「人が欲しい」。産休・育休の取得中の者が多い。人数が減った中でやっていくのは、大変である。休暇取得中の現場をサポートする、期間限定の職員がいればよい。
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出典)社会福祉法人小坂ふくし会提供