社会福祉法人生活クラブ
正規職員転換制度の導入で人材の安定確保・キャリアアップを実現
出典)社会福祉法人生活クラブ風の村ホームページより転載
会社設立年 | 1998年 |
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本社所在地 | 千葉県佐倉市山崎字石井戸529番地1 |
業種 | 社会福祉事業(介護保険サービス等の提供) |
正社員数 (2017年4月1日現在) |
600名(男性130名・女性470名) 正規Ⅰ職員(いわゆる「総合職」に相当):400名 正規Ⅱ職員(勤務地限定、月当たり労働時間選択可)200名 |
非正規雇用労働者数 (2017年4月1日現在) |
契約社員1080名(男性170名・女性910名) 29歳以下:70名 30~39歳:125名 40~49歳:225名 50~59歳:235名 60~69歳:345名 70歳以上:80名 |
資本金 | ― |
売上高 | 事業活動収入5,313,964千円 |
取組概要 | <背景> ・働きたいのに働きにくい人を職場に迎え入れる「ユニバーサル就労」を推進 ・個人の事情をカバーし合って、誰もが働きやすく、働きがいを感じられる職場づくりを推進 ・より働きやすく、長く働ける職場環境整備として、多様な働き方の実現に向けた取組実施 <内容> ・家庭の事情などでフルタイムでの就労は難しいが働く意欲のある方を、就労する曜日、時間帯などを相談の上、非正規雇用労働者として採用 ・正規職員転換制度、勤務時間、勤務地等の限定を行う多様な正規職員登用などを運用 <効果・結果> ・従来以上に柔軟なシフト編成が可能となり、サービス提供が行いやすく。 ・職員の責任感が増し、遅刻・欠勤、トラブルなどが減少。併せて職員のモチベーション向上、スキル・知識がアップ。 ・離職率の低下、業務の効率化など、事業運営上の効果も実感。 |
社会福祉法人生活クラブは、1976年に生活クラブ生活協同組合千葉(生活クラブ虹の街)を母体として設立された。その後、1994年に生活クラブ生活協同組合千葉で「たすけあいネットワーク事業」を開始(全国の地域生協として初のホームヘルプサービス事業を実施)し、高齢者福祉分野での活動を始める。1995年には特別養護老人ホームの運営に向けて高齢者福祉施設設立準備会を設置し、1998年、現法人につながる社会福祉法人たすけあい倶楽部を設立した。
2000年には特別養護老人ホーム「風の村」、2003年には福祉総合相談窓口を開設し、2004年に社会福祉法人たすけあい倶楽部と生活クラブ生活協同組合千葉のたすけあいネットワーク事業を統合し、法人名称を変更し、現在の社会福祉法人生活クラブとなった。2004年には併せて地域ニーズの高かった保育園(わらしこ保育園)、在宅総合支援センターさくら風の村を開設し、高齢者福祉事業にとどまらない事業展開を行うこととなった。
その後、2007年には障がい者通所事業所、障がい児放課後活動支援事業所、2011年には地域包括ケア拠点、2013年には重症心身障がい児者通所施設、児童養護施設の開設を行ってきた。
2015年には福祉用具事業の開始とともに生活困窮者自立支援事業の受託、2017年には乳児院を開設し、法人全体で赤ちゃんからお年寄りまですべての人を支援する法人として成長、千葉県東部・南部を中心に事業を展開している。
1.取組の背景
◆「働きたい」と考えるすべての人に働く場を
同法人では、従来より障がいを持っている人も自分らしく働く仲間として、誰もが働きやすい「ユニバーサルな職場環境」の実現を目指し、「ユニバーサル就労」に取り組んできた。ユニバーサル就労の対象は、「はたらきたいのにはたらきにくいすべての人」とし、精神的な理由、身体的・知能的な理由、社会的な理由の如何を問わず、個別の事情による不採用とせずに職場に迎え入れる可能性を検討してきた。法人では、ユニバーサル就労の考え方に基づき、個々の事情を勘案しつつ、職場に迎え入れることを可能とするために報酬や雇用形態、勤務時間等を提案することを続けてきた。
こうした背景のもと、個々の事情に配慮しつつ、1000名を超える契約職員を雇用してきたが、個別の事情の変化、より長く働き続けてもらうため、そして、職員個々のキャリアアップも見据え、正規職員転換制度を導入し、現在も運用中である。
2.取組の内容(正社員登用)
◆契約職員から正規職員への転換制度
同法人では職員の多用な働き方を支援するために、大きく2つの雇用区分(正規職員Ⅰ、正規職員Ⅱ)を用意している。契約職員から正規職員の転換においてもこの2つの雇用区分が適用される。
正規職員Ⅰはキャリア形成を重視した区分であり、幅広く、責任のある仕事を担うことを通じて、将来的には管理職、法人幹部職員を目指す区分とされている。正規職員Ⅱはワークライフバランス重視型とされ、時間や勤務地限定を通じてキャリア形成と家庭などの事情を両立させられる可能性をより拡大し、特定分野での専門性の向上などを視野に入れた区分となっている。
上記のように正規職員の2つの区分は就労条件に一定の限定を付すなどの違いの他、各区分に階層(等級)を設け、マネジメントコース、スペシャリストコースの2つに分けて昇格・昇進ができる制度としている。
出典)社会福祉法人生活クラブ風の村人事教育制度紹介ページより転載
①正規職員Ⅰへの転換
正規職員Ⅰとは、同法人におけるいわゆる総合職に相当する雇用区分である。同法人事業所は千葉県内各所に広がっており、人事異動による転居転勤が必要になる場合も想定されるが、こうした異動に対応可能な職員区分正規職員Ⅰとなる。
契約職員から正規職員Ⅰへの転換は、毎年4月と10月の年に二回の転換試験を実施し、合格すると転換できる。転換試験に際しては、作文及び上司からの推薦書の提出が求められ、その上で役員による面接を経て転換の可否が判断される。
中には転換がかなわない志望者が出ることもあるが、次回試験での登用に向けたフィードバック及び人材育成支援策を充実させることで、モチベーションを維持し、キャリアアップに向けたチャレンジを継続できるよう支援を行っている。
②正規職員Ⅱへの転換
正規職員Ⅱとは、家庭の事情等で、職務に一定の限定を設けることができる雇用区分である。具体的には勤務地の限定(自宅からの通勤圏内での就労を原則とする)、職務の限定(職種の変更を要するような人事異動は行われない)、労働時間の選択(A:170時間/月、B:136時間/月、126時間/月)が可能となっている。
契約職員からの転換にあたっては、正規職員Ⅰと同様、4月と10月の年に二回の転換試験があり、作文、上司の推薦書の提出が求められる他、施設長・エリアマネージャーの承認を得ることが条件となる。正規職員Ⅰと同様、正規職員Ⅱへの登用が叶わなかった場合は、その内容がフィードバックされ、次のチャレンジに向けてスキルアップを図ることへの支援がされている。
その他、従前設けられていた嘱託職員区分の全職員について、2016年4月に正規職員Ⅱへの転換を実施した。
◆長期的なスキル形成を見据えた人材育成
同法人ではヒューマンスキル、マネジメントスキル、テクニカルスキルのインプットとアウトプットを繰り返し、人事考課で定期的にその能力の成長度を確認、今後の成長に向けてサイクルを回していく仕組みを構築している。
研修等のプログラムは大きく本部(人事)主催による入職年次別・階層別研修などの他、事業所エリア別のエリア主催による専門スキル、重点実施項目事項に関する研修が提供される他、介護、看護、保育などの分野別研修が提供される。
出典)社会福祉法人生活クラブ風の村人事教育制度紹介ページより転載
◆キャリアアップ
正規職員Ⅰ、正規職員Ⅱともに法人内の教育研修制度を用いつつ、キャリアアップを目指すことができる。
両区分にはそれぞれ経営幹部を目指すことが可能なマネジメントコースと高度な専門性をもって現場のリーダーを目指していくスペシャリストコースが用意されている。
キャリア形成を重視する正規職員Ⅰでは、マネジメントコースの場合、経営幹部層に至るキャリアパスを目指すことが可能となっている。正規職員Ⅱでは、月間労働時間170時間となるA区分では、マネジメントコースで管理職層(施設長・所長級)まで昇格が可能なほか、スペシャリストコースではプロフェッショナルと呼ばれるリーダー職層までの昇格が可能である。正規職員Ⅱで月間労働時間が短いB,C区分ではスペシャリストコースでは他の区分と同様にリーダー職層までの昇格が可能だが、マネジメントコースでは管理職手前の主任級までの昇格となる。
出典)社会福祉法人生活クラブ風の村人事教育制度紹介ページより転載
◆取組にあたってのポイント
制度の構築や運用体制の確立にあたっては、各事業所の管理職を含む職員からの意見収集や話し合い、他法人での成功事例収集や社外コンサルタント、社会保険労務士などからの情報収集を行った。
正規職員への転換制度は職員の長期的定着・離職防止、モチベーションの維持・向上、職員満足度の向上、有期雇用職員の不安の除去、雇用の安定化などを目的に導入した。取り組みをすすめるにあたって、同法人では制度の導入が、上記の目的に即したものであることを職員に丁寧に伝えていった。特に施策への理解ときちんとした運用体制を構築するため、制度導入にあたって関係する部署、役職者、実務担当者への説明を重視し、制度の導入と運用に当たっての協力体制を構築した。新制度導入後、職員や事業所に情報が浸透するまでには相応の時間が必要になるため、本部では各事業所、職員からの問い合わせに対応する体制を取った。
また、平成28年に賃金規定の改定を含む新人事制度に移行し、評価制度の見直し、正規職員の処遇向上も実現した他、定年延長(従前の60歳から65歳へ)、契約職員への人事考課の導入など雇用区分を超えて公平性を実現するよう関連制度の見直しを行い、法人内各層での新制度導入への協力体制を作り上げた。
3.効果と課題、今後の運用方針
◆風通しの良い組織へ
正規職員への転換が可能となり、職員の総勤務可能時間が増加したことで、従来以上に柔軟なシフト編成が可能となった。また、雇用区分の明確化や有期雇用職員の長期勤続に向けた安心感、公正な登用制度の確立などで組織の風通しが良くなるとともに、職員の責任感が増し、遅刻・欠勤、トラブルなどが減少している。併せて長期勤続やキャリアアップの道筋が明確化されたことで、職員のモチベーション向上が図られ、スキル・知識の向上や、スキルアップに対して前向きな姿勢が生まれている。職員個々のスキルアップとともに責任感ある職務遂行が可能となったことにより、業務の効率化も進んでおり、新人事制度の導入に際して一時的に増加した人件費の吸収に貢献している。その他、離職率の低下、採用競争力向上などの面での効果も実感されている。
◆キャリアアップに向けたモチベーション維持に向けて職員フォローを徹底
制度導入に伴う人件費の増加への対応を行う必要があるが、業務効率化、経費削減等の施策を展開して課題への対応を実施している。
転換制度そのものの課題としては、正規転換を希望して叶わなかった職員へのフォローが挙げられる。同法人の正規職員転換は、幹部昇格をも目標に含む制度であり、登用にあたっては相応のハードルが課せられているため、希望即転換とはならないこともある。このため、毎年正規転換を希望しつつ、転換がかなわない職員が一定数出ることになるが、こうした職員を含めて、今後もキャリアアップへのモチベーションを維持してもらうため、現場の上司を含めた丁寧なフォローが重要となっている。
こうした職員フォローをすすめるため、定期人事考課の結果をフィードバックし、職員の能力開発の手がかりとしてもらっている他、転換試験を年間2回設けることでチャンスを増やす、各層・各職種に応じた研修制度を整備することで能力開発を支援するなど、キャリアアップ支援の仕組みを整備して対応を進めている。
◆今後に向けて
今後は、現在の「ユニバーサル就労」の考え方を継続し、働き方の選択肢を増やす(勤務時間・日数などの選択肢を増やしていく等)、有給休暇の取りやすい環境整備、残業の削減などをすすめるほか、受講可能な研修を増加させるなどの人材育成施策の展開も引き続き行うことで、障がいの有無や個人の事情にかかわらず長期勤続できるような体制づくりを目指していく。
4.活躍する従業員の声
本部(経理グループ)
Oさん
年代 | 30代 | 性別 | 女性 |
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勤続年数 | 3年 | ||
キャリアアップの過程 | 経理事務担当の契約社員として入職。より職責の大きな形態の契約職員への転換を経て産育休へ。育休復帰後、仕事の幅を広げるためにも正規職員への転換を希望。併せて育児との両立を実現するため比較的短時間の勤務形態が可能な正規職員Ⅱとして転換を実現。 |
◆経理のプロとして。正規職員化で安定と自信を持って積極的に仕事に取り組む。
Oさんは前職では営業事務担当として働いてきたが、結婚を機に退職。仕事そのものは続けていきたいと考えていたため、子どもが生まれたときのことを考え、自宅近くで勤務できる仕事を探していた。福祉事業に興味はあったものの、興味だけでできる仕事ではないこと、福祉に関する職務経験もなかったため、特に福祉事業での就労を希望していたわけではないという。生活クラブの求人を見て、自身の職務経験が活かせそうな事務部門での求人があったこと、自宅から近かったことなどが同法人への大きな志望動機となったという。時間や職務に限定のある契約職員として入職し経理事務を半年ほど経験。その後、契約職員の中でも職務の幅が広がる区分に移行して1年後、出産のため産育休を取得。約一年間の産育休から復帰し、2017年4月から正規職員Ⅱに雇用形態を転換した。
現在は正規職員として予算作成や行政への報告書類の作成などにも携わるようになっているOさんだが、正規職員への転換にあたっては、自身の仕事を認めてもらえたという素直な喜びとともに職責が重くなることや家庭での時間を確保できるかなど不安も感じたという。同法人の持つ正規職員の2つの区分のうち、勤務地限定、時間限定のつく正規職員Ⅱへの転換ということで、ワーク・ライフ・バランスへの不安は随分軽減されたという。
さらに、Oさんは正規職員への転換に先立って、スキルや経験の蓄積を行ってきたという背景もある。会計及び会計ソフトの習熟に関する研修など、専門性を高めるための研修に参加することを上司も積極的に支援したという。また、決算業務などの経理部門における重要業務への参加経験などもOさんの成長の契機となっているという。Oさんは同じ職場の各業務がチームとして機能するためにどのように作業を組み立てていけばよいかを考えてきたといい、業務手順の改善などについて、上司が前向きに相談に乗ってくれるという経験を通じて経理の専門家としてのスキルと経験を積んでいった。こうした経験を通して、Oさんは法人の求める正規職員の要件を満たしていくことができた。
Oさんは将来的には限定のない正規職員Ⅰへの転換も視野に入れつつ、現在は子育てと仕事を両立しながらスキルアップを目指している。契約職員時代にはどちらかと言えば与えられた業務をこなす感覚があったといい、現在は自立性と責任感をもった仕事に変化してきているという。今後はまだまだ知識不足を認識している介護保険制度についての知識の吸収や、重要業務への参加機会の増加に伴い、法改正等に関する知識も継続的に吸収していきたいと考えている。
ライフ&シニアハウス市川
(生活コーディネーター・シニアスタッフ)
草茅 耕平さん
年代 | 20代 | 性別 | 男性 |
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勤続年数 | 3年 | ||
キャリアアップの過程 | NPO法人勤務からアルバイトを経て高齢者施設に勤務する母の影響で高齢者介護に関心を持つ。2014年に契約職員として生活クラブに生活コーディネーターとして入職。その後シニアスタッフ(介護スタッフ)も兼務し、2017年4月に正規職員に転換。 |
◆高齢者施設の介護スタッフとして正規職員転換プロセスを通じた成長を実現。
草茅さんは、2014年に契約職員(有期雇用)の生活コーディネーターとして社会福祉法人生活クラブに入職した。生活コーディネーターは利用者・入居者の生活上の様々な悩みについて相談を受ける仕事であり、豊富な人生経験が求められる。草茅さんは、入職後、まず、生活コーディネーターとして介護の現場を直接介護ではなく、「生活」の観点から学ぶことになった。生活コーディネーターとして勤務しながら、2015年11月には介護スタッフとしての職務も兼務するようになる。介護施設で働く母親の影響もあり、高齢者介護のしごとに関心を持って入職した草茅さんだが、ここで、生活と介護の両面から高齢者介護に携わるようになる。介護スタッフを兼務するようになり、福祉分野で働くこと、介護スタッフとして働いていくことのやりがいを強く感じるようになった。そして、入職してはじめて正規職員への転換希望を持つようになったという。そして草茅さんは、法人の用意する「キャリアエントリー制度」に手を挙げ、正規職員転換試験を受験した。
現在は市川市にあるライフ&シニアハウス市川で正規職員として生活コーディネーター兼シニアスタッフとして活躍している草茅さんだが、最初の正規職員への転換希望は叶わなかったという経験も持つ。自身の成長のためには仕事に対する上司からのフィードバックが重要だが、忙しそうな上司の姿に遠慮を感じ、上司から仕事に対するフィードバックをもらう機会が少なかったことが原因の一つだった。さらに、草茅さんの正規職員登用が見送られた時期に、中途採用に正規職員が入職してくるという経験もすることとなった。
外部からの正規職員採用に関して、法人からは中途採用の必要性について草茅さんに丁寧な説明がなされたという。そして、その説明は草茅さんにとっても納得できるものであった。この経験も一つの契機として、草茅さんは自身の仕事に対する上司からのフィードバックを積極的に受けるようになり、2017年4月、正規職員への転換希望を叶えた。
正規職員への転換を志したことからもわかるように、草茅さんは仕事にやりがいを感じていた。雇用形態が変わった現在も、仕事の内容そのものは大きな変化はないという。ただ、仕事への責任の持ち方、責任感が大きく変わったという。今後はサブリーダー、リーダーへとキャリアを進めていきたいとの希望を持つ。経験を積むに連れ、仕事の全体観を持てるようになってきたことを実感しており、それを強みに成長していきたいと考えている。正規職員として異動の可能性もあるが、異なる職場、異なる仕事の経験も成長の糧にしていきたいと考えている。