全日本空輸株式会社
客室乗務員を非正社員から正社員に転換し、優秀な人材の確保と早期のキャリアアップを目指す。
業種 | 運輸業 |
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本社所在地 | 東京都 |
正社員数(客室センター) (2015年11月現在) |
長期社員:7,011名(男性25名、女性6,986名) |
非正規雇用労働者数(客室センター) (2015年11月現在) |
契約社員:250名(男性0名、女性250名) |
非正規雇用労働者(客室センター) の主な仕事内容 |
機内でのサービス業務、保安業務 |
取組のポイント | ■ 客室乗務員を契約社員から長期社員に転換 ⇒応募者が増加。既存社員には雇用安定への安心感が広がる ■ 新等級を設け、早期の業務拡大やキャリアアップを促す ⇒個々の意欲や能力に応じた育成支援が可能に |
1952年、純民間航空会社として発足し国内線からスタートした同社は、1986年に国際線への進出を果たし、現在は旅客数で世界トップ20に入るアジアを代表するエアラインの一社として数えられている。
同社では、経営ビジョンである「世界のリーディングエアライングループ」の達成には「人」が最も大切であると考え、社員のことを「人財」と表現して、積極的に「人財育成」に取り組んでいる。「自律成長」をコンセプトに、社員一人ひとりの「成長したいという意志」を原動力にして、それをサポートするプログラムを数多く用意している。
2014年3月、女性人材の活用を積極的に進めている企業として、東京証券取引所より女性活躍推進に優れた上場企業を紹介する「なでしこ銘柄」に空運業で初めて選定された。また、2015年5月には日経ウーマン「女性が活躍する会社Best100」で総合ランキング3位、公共サービス部門1位を獲得するなど、同社の取組が外部から高く評価されている。
1.取組の内容
◆1年契約の客室乗務員を長期社員としての雇用に転換
【競争力向上を実現する「人財育成」に向け、客室乗務員の長期社員採用を再開】
同社では、客室乗務員を1年契約の契約社員として採用するスカイサービスアテンダント制度(以下、「SS制度」と記載)を1995年に導入した。SS制度では、3回目の契約更新時に、長期社員(※1)になるか、引き続き契約社員として契約を更新するかを自由に選択することができる。ただし、契約社員として勤務する場合は、契約更新は5回(SSとして6年間)までしか認められていなかった。
しかし、国際線の増便等により、採用競争力を維持・向上させ多くの社員を確保することが喫緊の課題となった。また、SSに期待される役割は「客室乗務(フライト)」が中心であり、意欲や能力があってもチーフパーサー等の機内マネジメントや組織運営まで求めておらず、個々に合わせた成長を支援できる制度になっていなかった。以上を踏まえ、採用競争力を維持・向上させて優秀な社員を確保すること、個々の意欲・能力に応じた「人財」の育成を実現することを目的に、契約社員を長期社員に変更することを決定した。
(※1)無期契約の社員。同社では契約社員も正社員と捉えているため、社内での呼称は「長期社員」としている。
【2年間の移行期間を設けて、長期社員への転換を実施】
2014年4月に長期社員への移行開始を目指し、2013年から該当する契約社員に対して移行の意思確認を開始した。移行に同意した社員は長期社員に転換し、移行を望まない場合は契約社員のまま契約を更新した。移行には2年間の移行期間を設けた。
2014年4月のタイミングでの長期社員への転換者は、全契約社員の8割強の約1,600名に上った。一方で約186名は契約社員のままの継続を選択した。転換を希望しなかった理由として、求められる役割期待を望まない場合、ワーク・ライフ・バランスの重視等があったが、その後の意思確認の中で2016年4月1日までに約150名が長期社員に転換した。
【経験に応じた格付のために新たな等級を新設】
長期社員に転換する契約社員は、N4等級若しくはN5等級に格付される。今まで3回目の契約更新にて長期社員へ移行した社員は、全員N4等級に格付していた。しかし、今回の移行により、契約期間が1~2年の契約社員も長期社員になる場合が生じる。そのため同社ではN5等級を新設し、経験年数に応じた格付を行った。
契約社員の賃金は、勤務時間並びに乗務時間に単価を掛けたSS報酬と諸手当で構成されている。また、「精勤報奨金」という一時金に近い報酬も年2回支給している。長期社員になると、固定給と諸手当、一時金といった、より安定した賃金体系に変更となる。
◆長期社員の育成体系を再整理し、早期の業務範囲拡大やキャリアアップを促進
契約社員の業務は機内業務にとどまるが、長期社員になるとそれに加え、パーサーやチーフパーサーとしての機内マネジメント業務や地上での組織運営の役割が求められることになり、契約社員からの移行者をいかにして育成するかが課題となった。
そこで同社では、長期社員としての育成体系を再度整理し、新設したN5等級に求める役割として、機内マネジメントや組織運営の視点を加えた。このことで、契約社員から長期社員への移行者が、早い段階で長期社員として必要な役割を認識し、機内マネジメント業務や組織運営等、新たな業務にチャレンジすることが可能となった。
これまでは、例えば他の航空会社から転職してくる既卒者も、契約社員として採用しなければならないため、客室乗務員として相応の乗務実績があっても新人と同列に扱わなければならないという弊害があったが、今後は経験や能力に応じた役割付与が可能となる。
長期社員の役職体系と育成体系の変化
◆新たな役割付与に対応した教育を実施
今後はN5等級から組織運営の役割が加わることもあり、組織マネジメントも視野に入れた教育を実施している。また、長期社員であっても、当然、客室乗務員として完璧な保安業務とハイレベルなサービス提供を行うため、保安訓練とサービス訓練を受講している。
更に、2007年より、同社では「人財大学」という「人財育成」の担当部署を設置し、階層別研修や通信教育(語学等)、オープンセミナー(ビジネススキル、異業種交流等)等、300弱の多様なプログラムを準備し、等級に関わらず、成長の機会を提供している。
◆評価結果を給与・昇格に反映
長期社員には年1回人事評価を実施し、その結果を給与と昇格に反映している。これは、契約社員から長期社員へ移行した者も対象である。評価項目は、全職掌共通項目と客室乗務員固有の項目から成り立っている。例えば共通項目では、「安全意識と専門性の発揮・深化」「お客様視点による価値創造」に関する内容、客室乗務員固有の項目では、安全・保安、笑顔、身だしなみ、機内マネジメント等に関する内容等となっている。
上記項目の採点結果により、評点が決まり、その評点に応じて号俸が決まる仕組みになっている。
◆長期社員になることで、より充実した福利厚生制度の利用が可能に
長期社員になると、退職金や企業年金の支給対象となる。また、留学やボランティアのための休職制度である「わくわく休職制度」や配偶者の海外転勤に同行する社員について一定の条件で休職を認める「配偶者海外転勤休職制度」、通常より少ない勤務日数(9割勤務、7割勤務、5割勤務)でゆとりを持って働く「短日数制度」等の取得が可能となる。また、福利厚生の一環として航空券の利用優待を受けられる「社員優待制度」は、長期社員、契約社員ともに利用することが可能だが、長期社員は契約社員よりも付与されるポイントの点数が多い。
2.効果と課題、今後の運用方針
◆長期社員への移行や長期社員としての採用により、応募者が増加
同社には、これまでも長期社員へ移行する機会はあった。しかし、早期に契約社員から長期社員へ移行したことや入社時より長期社員として採用したことにより、採用募集時の応募者が増加し、それに伴い、応募者の多様化にも繋がったと感じている。また、長期社員への転換者からは「長期社員として雇用されることとなり、親からも喜ばれている」と歓迎する声が上がっている。
長期社員への移行を開始してから2年経過したが、若手社員の成長機会を拡げ、意欲・能力のある社員が活躍できる場を提供することで、組織全体の成長にもつながっていくと確信している。