株式会社ガスター

人事評価制度との連動による積極的な正社員登用を推進。キャリアを見通すことができ、キャリアアップ意欲の向上を実現。

株式会社ガスター_01_外観
業種 製造業
本社所在地 神奈川県
正社員数
(2015年8月28日現在)
正社員:約650名(男性約520名、女性約130名)
非正規雇用労働者数
(2015年8月28日現在)
準社員:約90名(男性約70名、女性約20名)
パート:2名(男性1名、女性1名)
非正規雇用労働者の主な仕事内容 ガス風呂釜や給湯機器、給湯暖房風呂用機器等の製造・加工業務、事務業務
取組のポイント ■ キャリアアップ助成金を活用し、積極的な正社員登用を実施
⇒将来的なキャリアが見通せることで、非正社員のキャリアアップ意欲が向上
■ 充実した教育訓練の実施と自己啓発支援
⇒準社員のスキルアップによって、活躍の場の拡大に寄与

PDFデータ

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リンナイ株式会社や東京ガス株式会社を株主に持つ同社は、日本における大衆浴場から内風呂への流れを作り「おふろ新時代」を築いてきた。現在は、ガス風呂釜や給湯機器、給湯暖房風呂用機器等の製造・販売を展開している。地域に根差した企業を目指し、定期的に駅前を清掃したり、地元の阿波踊り大会に積極的に参加している。

1.取組の内容

◆明確な基準を作成し、積極的に正社員登用を実施

【正社員として働きたいという準社員のニーズ実現のためにキャリアアップ助成金の活用を決意】

同社では、20年以上前から準社員(※1) が正社員(※2) として働きたいというニーズがあり、慣例として準社員からの正社員登用を認めていた。だが、正社員数の増加に伴う人件費の増加を懸念したこともあり、積極的に正社員への転換を実施することができなかった。そのため、同社でこれまで実際に正社員へ登用した準社員は数名にとどまっていた。
ハローワークが主催する求人事務手続に関する説明会に参加した際に、キャリアアップ助成金の存在を知った。少しでも多くの準社員に正社員登用の機会を与え、正社員として働きたいというニーズに応えたいと考え、助成金の活用を決意した。

(※1) 契約期間1年。準社員は、準社員用の支給規定に基づく年2回の賞与、業績連動型賞与、退職金の支給対象であり、財形貯蓄、厚生年金基金等の福利厚生についても正社員と同様に対象である。
(※2) 同社では実質的に勤務地が限定されていることから、正社員・準社員ともに転勤はない。

【人事評価と連動した納得性の高い正社員登用制度】

同社では毎年4月に、在籍期間が2年以上の準社員を対象に、正社員登用試験を実施している。
正社員登用試験の候補者になるためには、マネージャー(課長相当職)が記入する「推薦者評価表」と部長が記入する「社員登用推薦書」が必要となる。更に、希望者は、直近の人事評価で一定以上の評価を得ていることが求められる。具体的には、「仕事の質」や「改善工夫」、「知識・技術」等の項目で構成されている「業務遂行能力」(60点満点)で44点以上であるとともに、「規律性」や「協調性」等の項目による「資質能力考課」(40点満点)で32点以上でなければならない。これらの条件を満たした準社員のみに同試験の受験資格を与えている。
正社員登用試験では、一般常識等を問う筆記試験と正社員登用への抱負等をテーマにした作文を課すとともに、役員による面接を実施している。同試験では、準社員の「正社員として働きたい」という思いがあるか、正社員として求められる深い知識・経験があるか、社員として今後も成長できるか、を重視して転換の可否を決定している。
なお、正社員登用試験の受験資格や実施時期は就業規則に明示しており、全員が閲覧することができる。正社員登用試験が近づくと、「一般回覧」という形で概要を周知し、より多くの準社員が同試験にチャレンジできる環境を作っている。また、1年に1回の上司との面談の際に、準社員の正社員登用の希望の有無を把握するよう努めている。
キャリアアップ助成金活用後、同社では積極的に正社員登用を進めており、2014年は8名、2015年は10名が準社員から正社員へ転換している。

雇用区分の関係

株式会社ガスター_02_雇用区分の関係

【多様な研修制度の実施により正社員登用後のキャリアアップを支援】

正社員登用試験に合格した者は、基本的には準社員として勤務していた時と同一の業務を担当するが、正社員になるとリーダーを担うこともある。したがって同社では、正社員登用試験を経て正社員になった社員も最初から正社員として入社した社員と同様に、階層別研修(※3) や部門別のOJT研修、グループ会社主催の勉強会等の体系的な研修制度の対象となっている。これらの研修を通じて、正社員に求められるリーダーとしてのスキルを磨き、キャリアアップが可能となっている。

(※3) 新任部長研修、新任マネージャー研修、新任リーダー研修等の管理職研修や中堅社員を対象とした人材育成研修等がある。

◆複数評価者による人事評価の実施により、公平で透明性の高い人事評価制度を実現

【より公平な評価実現のために複数評価者による評価を実施】

同社の準社員に対する人事評価は、チームリーダーによる1次評価とマネージャーによる2次評価の2段階にわたって行われており、評価者によって評価結果に偏りが生じないよう留意している。
人事評価は「業務遂行評価」と「資質能力考課」の2種類から成り立っている。業務遂行評価では、「仕事の質」、「改善工夫」、「知識・技術」等の項目について評価し、60点満点で点数を算出する。一方、「資質能力考課」では、「規律性」、「協調性」、「対人・対応力」、「表現力」、「実行力等」といった社会人に必要なスキルを判断し、40点満点として点数を算出している。その後全ての項目の点数を合計し、その点数によってS、A、B、C、Dの最終評価が決定する。
同社ではA~D(※4) の4つの業務の分類ごとに、1~20号俸を整備しており、この号俸によって賃金が決まっている。人事評価の結果、60点以上になると号俸が上がり、賃金が上がるという透明性の高い仕組みになっている。

(※4) A業務(組立)、B業務(組立、プレス、溶接等)、C業務(事務補助)、D業務(事務)といった4つの業務の種類に分かれており、A、Bは現業職、C、Dは事務職が担当する。

【評価者訓練の実施により評価者の質の保証とレベルアップを実現】

評価結果が公平で透明性の高いものとなるように、複数名での評価を実施している。正社員登用時には、社内での評価結果が条件となっていることもあり、同社は評価者のスキルを向上させることが重要と考えている。そのため、評価者を対象とした集合研修やマネージャー研修、社外講師を招いた評価者訓練等を積極的に実施している。このような取組により、評価者の一定レベル以上の質を保証することで、準社員が納得できる人事評価となるようにしている。

◆計画的な教育訓練及び自己啓発支援を推進

【経営ビジョン達成に向けて全社員対象の自己啓発支援を積極的に実施】

2013年に「KG2023Vision(10年後のありたい姿)」を策定した。このビジョンでは、「よい仕事から生まれる好循環によりよい会社になること」を目標とし、①会社の方針を理解すること、②自ら考え「考働」すること、③失敗を恐れずに果敢にチャレンジすること、の3つができるような社員を育成しようとしている。
上述の考え方に基づき、同社では準社員を含めた社員一人ひとりのスキルアップや自己啓発への取組が今まで以上に必要と考え、全社員を対象に200種類以上の通信教育講座を提供している。より多くの社員が積極的にこれらの講座を受講できるよう、「通信教育講座のご案内」という年間保存版の冊子を作成し、全社員に配布している。また、受講終了を条件に、受講料の半額を補助することで、社員が受講しやすい環境を整備している(※5) 。金銭的な援助だけではなく、修了証や優秀賞が各機関から送られることで、スキルアップへの意欲も向上し、多くの準社員が活用している。
更に、通信教育講座に加えて、資格取得支援も積極的に行っている。特に、メンタルヘルスに関する知識習得に力を入れており、外部機関によるメンタルヘルスマネジメント検定(ラインケアコース)の受検を推奨している。人事総務部門からは、過去問題や過去になかった問題への対策等、きめ細やかな情報提供を行っている。2013年度には準社員から1名合格が出ており、今後も準社員に対して積極的に受験を促していく。

(※5) ただし、受講料補助は1年間に2度までである。

2.効果と課題、今後の運用方針

◆キャリアップ助成金の活用により正社員登用が加速

キャリアアップ助成金を活用したことで、企業の負担が軽減し、正社員登用の後押しとなった。正社員になったことで、安定して働くことが可能となり、人材の定着につながっており、過去10年間で正社員登用後の離職者は出ていない。
準社員にとっては、準社員から正社員へ転換したのちに活躍しているロールモデルが職場にいるため、将来の正社員としてのキャリアを見通すことができる。また、正社員として働くという目標が具体的になり、働く意欲も向上しているようである。今後も、キャリアアップ助成金を活用しながら正社員登用を推進していきたいと考えている。

◆計画的な人材育成の効果が、準社員のスキルアップや定着率の向上に寄与

通信教育講座の受講支援や資格の取得支援等、経営戦略として人材育成に取り組んできた成果が、準社員のスキルアップにつながっていると実感している。スキルアップが可能になることで、仕事に対する目標もでき、定着率が向上しているようである。同社では勤続年数が20年以上となる準社員も活躍しており、準社員が十分に活躍できる環境が整備されているため、今後も多くの準社員にスキルアップを目指して欲しい。

◆正社員を希望する準社員の意思を尊重できるような正社員登用制度を検討

正社員への登用条件の1つに、上司の推薦がある。これは、同社の成長のために、将来に中核としての活躍が期待される人材を正社員として登用したいと考えているからである。
しかし今後は、より多くの準社員にチャレンジしてほしいという思いから、準社員が自らの意思で正社員登用へチャレンジすることが可能となる制度を導入することも検討したいと考えている。制度の詳細については今後の課題であるが、正社員登用者がより増えることによる企業の活性化も期待している。

3.活躍する従業員の声

株式会社ガスター_03_佐藤靖子氏

人事総務部勤労グループ
佐藤靖子氏

年代 40代 性別 女性
勤続年数 10年
キャリアアップの過程 派遣社員として約9年間勤務後、準社員として勤務。長年の経験と実績が評価され、2015年4月正社員へ登用され、着実に業務の幅を広げている。

◆派遣社員から準社員、正社員へと着実にステップアップ

2005年4月より、同社の人事総務部にて、社会保険に関する業務を担当していた。当時は子育てをしており時間的な制約があったため、派遣社員として勤務していたが、仕事と子育てとの両立に理解がある温かい社風に恵まれ、子育てをしながら、仕事にまい進することができた。
その後、子どもが成長し徐々に仕事に集中できる時間が確保できるようになったため、2014年1月に準社員となった。準社員に転向してからも業務内容は以前と変わらなかったため、専門性を磨くことができた。度重なる法律改正への対応等、複雑な業務をこなすにつれて、正社員にキャリアアップし、より活躍したいという思いが強くなり、正社員登用試験を受けることを決意した。2015年4月より正社員として勤務している。

◆同社の通信教育講座の利用等により自らのレベルアップを図る

現在は、長年従事した社会保険関係業務ではなく、労働組合や共済会業務等、新しい分野の業務を担当している。これらの業務では、会計に関する専門知識が必要となり、業務の中で日々知識の吸収に努めている。
また、業務の中で、祝儀・不祝儀の慶弔句を書くことがあり、より美しい文字で書きたいと考えるようになった。そのため、同社の通信教育講座を積極的に受講し、実務に生かしている。今後も、日々の業務に必要なスキルを、通信講座を活用しながら身につけていきたいと考えている。

◆新たな職域にチャレンジしていきたい

事務部門のみならず、現業部門の女性も出産・育児を経て働き続けている。仕事と育児との両立を会社全体でバックアップする社風は、更に職域を広げ、キャリアアップしていきたいという前向きな気持ちにさせてくれる。正社員になると、年度目標の達成度が賞与や号俸等に反映されるため、十分な成果を残せるか不安に思うこともあるが、同時にやりがいを感じている。
今後は今まで以上に会社へ貢献できるように、自らを高めていきたい。