日新運輸工業株式会社
非正社員の積極的な正社員転換推進や多面的な教育訓練支援と人事評価により仕事の質と定着率向上に寄与、
併せて企業の求人力を強化。
業種 | 製造業 |
---|---|
本社所在地 | 山口県 |
正社員数 (2015年4月1日現在) |
正社員:約500名(男性約450名、女性約50名) |
非正規雇用労働者数 (2015年4月1日現在) |
契約社員:約80名(男性約60名、女性約20名) |
非正規雇用労働者の主な仕事内容 | 工場におけるアルミ・銅板等の製造、事務 |
取組のポイント | ■ トップの方針による積極的な正社員転換の推進 ■ 入社時安全教育から技能向上促進に向けた多面的な教育訓練支援 ⇒作業の質と定着率向上に寄与、併せて正社員転換実績をPRすることで求人力が強化 ⇒キャリアアップ助成金の活用により教育訓練支援を充実 ■ 定期的に契約社員の人事評価を実施し賃金を増額 ⇒契約社員の納得性と仕事に対する意欲を高める |
同社は、1938年に株式会社神戸製鋼所が下関市長府にアルミ合金素材工場を設立した際、原材料の運搬を主体業務として担う協力会社として創立された。その後、銅、アルミニウム、ステンレスやチタン等の整製・検査・梱包等の製造請負業務部門の拡充とともに、輸出入貨物取扱業務や通関業務等国際物流も手掛けている。現在では、国内を中心に7営業所、2工場及び1物流センターを、更に海外では、中国・蘇州及びタイ・アユタヤに現地法人を設立し事業を展開している。
1.取組の内容
◆トップの方針による積極的な正社員転換の推進
【積極的な正社員転換推進により、優秀な人材の確保・定着を目指す】
リーマンショックによる影響があったものの、その後業績は回復し、ここ数年は受注増大に伴う工場生産量の増加により、製造現場では深刻な人員不足に陥っている。そのため人員確保を最優先し、幅広く契約社員 (※1) として人材を確保してきたが、短期間に多くの契約社員を新たに雇い入れたことで作業の質の低下が懸念事項となった。そこで2013年5月、より積極的に契約社員の正社員転換を進めるようトップの方針が打ち出された。これにより、契約社員が目標を持って業務に当たることで仕事に対する意欲を持ち続け、作業の質の向上及び優秀な人材の確保と定着を図ることとした。
人員増員のために契約社員が増加していた中、正社員転換を積極的に推進したことで、2014年は、それまでの転換実績を大きく上回る40名を超える契約社員を正社員へ転換した。また、2015年においても20名程度を転換させている。
(※1) 契約期間は3か月間、所定労働時間は正社員と同じ7時間45分、給与形態は日給制。
【年1回の定期的な正社員転換を制度化】
正社員転換を行うに当たり、2005年から「正社員登用規程」を制定の上実施している。正社員転換までの大まかな流れは、毎年5月1日を正社員への転換日とし、3月中旬頃に総務から所属長へ「正社員登用申請書」を配付、所属長は、契約社員の能力及び適性並びに正社員への転換希望等を考慮の上、総務に「正社員登用申請書」を提出する。その後、3月末頃の筆記試験、4月下旬の面接試験を経て正社員へ転換される。
正社員転換のスケジュール
また、特に優秀と認められる契約社員は、上記のスケジュールによらず、都度正社員転換の対応がなされる。
正社員転換の要件は、本人が希望し、①勤続6か月以上(事務職や乗務員職は3か月以上、製造職においてはより本人の資質を見極めるため6か月以上としている)、②出勤率が良好であること、③心身の健康状態が良好であること、④所属長推薦があること、としている。
筆記試験は、品質管理(QC)に関すること、工場構内のルールや経営理念の理解度を問うなどの内容となっている。また、小論文試験では正社員転換への意欲や生産性向上に向けて取り組んでいること等をテーマとしてA4用紙1枚程度に記述させている。面接試験は、社長、総務部長、事業部長、総務課長及び所属長を面接官として、近況確認や小論文の内容についての聴取等が行われる。
正社員転換の概要
【キャリアアップ助成金の活用により教育訓練支援を安定継続】
正社員転換制度は、2005年から社内規程を整備して実施しているが、2013年からは、厚生労働省の「キャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)」を活用することで、受給した助成金を従業員の資格取得のための費用(後述)の一部に充てている。今後も助成金を活用し、従業員に対する教育訓練を充実させていく方針である。
【正社員転換で期待される労使双方のメリット】
正社員へ転換されると、契約社員にはない賞与(契約社員は寸志)や退職金、家族手当等の手当が支給される。また、正社員の賃金制度は9等級に区分されており、上位等級に昇格すれば等級に応じて賃金が上昇する。契約社員にはこのような等級区分はなく、後述する人事評価により日給額が増額するが、上位職を目指す上昇志向のある者にとっては、正社員に転換し上位等級へ昇格する方が大幅な昇給が見込める。
また、正社員になると、主任や班長等のリーダー職を目指すべく契約社員とは異なる人材育成となる。責任の程度は重くなるが、上位職に昇格することで一層やりがいの持てる職務に当たることができる。
社員は雇用の安定と待遇のアップを、会社は優秀な社員の確保・定着と仕事に対する意欲向上を期待できる。
◆入社時安全教育から技能向上促進に向けた多面的な教育訓練支援
【充実した入社時安全教育とマニュアルによるOJT】
社員(契約社員含む)の入社時は、社内の専門講師による6日間に及ぶ安全教育を実施している。工場内のルール、KYトレーニング(危険予知トレーニング)やリスクアセスメント等に関する座学や実習、グループトレーニングを行い、安全教育を徹底している。
安全教育を修了すると配属された現場においてOJTが実施される。現場ごとに詳細な作業マニュアルが整備されており、マニュアルに沿って作業指導が行われる。作業指導は現場に則した形で行われるが、作業マニュアルに沿った習熟度チェック表を用意し、チェック項目ごとに自己評価と上司評価の整合性が合うまで繰り返しチェックとフィードバックを行うことでレベルアップを図っている。
【資格取得費用を会社が負担し契約社員の技能向上を促進】
契約社員の技能向上を促進するため、フォークリフトや玉かけ、クレーン運転士等の資格取得に際し、筆記試験受験料(初回のみ全額)及び技能講習に係る費用を全額会社が負担している。契約社員にスキルアップ、キャリア形成に向けて積極的に取り組んでもらうことで、人材レベルの底上げや職場の活性化につながることを期待している。
◆定期的に契約社員の人事評価を実施し、賃金を増額
契約社員は入社時、全員が同じ日給額でスタートする。その後、毎年1月に勤続6か月以上の契約社員を対象に、所属長による人事評価を実施し、評価結果に応じて日給額を増額させている。
勤怠状況や職務知識、協調性、仕事の速さ・正確性等10項目の評価項目を定め、1項目5点、全50点満点で採点する。仕事に対する姿勢や作業内容を評価し日給額に反映することで、契約社員の納得性や仕事に対する意欲を高めることを目的としている。なお、人事評価により日給額が減額されることはない。
また、人事評価結果は、正社員転換審査時にも活用される。
2.効果と課題、今後の運用方針
◆作業の質と定着率向上に寄与、併せて正社員転換実績をPRすることで求人力が強化
会社側から積極的に正社員転換を推進し、契約社員にも正社員を目指してもらうことで、作業の質の向上と人材の定着率向上に寄与していると考えている。
また、このような積極的な正社員転換推進方針や、多数の実績を前面に打ち出すことで、会社の求人力が強化される上に、上昇志向のある優秀な契約社員の応募動機となりえるものと考えている。
◆女性活躍推進により女性の職域拡大や働きやすい職場環境づくりを図る
同社は、代表者が女性ということもあり、女性が現場部署でも活躍できるように、厚生労働省の「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」において女性の採用や職域拡大、職場環境の整備に積極的に取り組むことを宣言している。男性の職場といったイメージの強い業種であり、実際に女性の社員も少ないが、女性活躍促進の方針の下、これまで女性役職者は1名(製造現場の主任職)であったところ2015年の人事異動で5名(製造現場のほか経理事務職等でいずれも主任職)に増えた。
「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」の宣言内容
また、仕事と家庭の両立支援や男女ともに働きやすい環境づくりのため、安心して休暇を取得できるよう従業員の多様化を推進し、一人ひとりの作業領域を広げるなどの取組により、2012年9月に「やまぐち男女共同参画推進事業者」として認定された。
2014年11月に山口市で開催された男女共同参画全国会議では代表者自らパネリストとして参加するなど、積極的な活動を行っている。
パネルディスカッションの模様(右から2人目が代表者)
今後も積極的な女性活躍推進を図り、意欲と能力のある女性の契約社員が正社員へ転換し役職者を目指せる取組をしていきたい。
◆変わらぬ人材確保難で一層の取組強化が課題
これまでの取組で、作業の質の向上や優秀な人材の確保・定着にも一定の成果があったものの、人材確保が困難である状況に変わりなく、必要とされる人員数を確保することが求められる現状から、今後も作業の質や仕事に対する意欲の低下に対する懸念は払拭しきれない。
今後もより一層取組を強化していき、契約社員のキャリアアップや雇用環境改善等、職場の活性化に取り組んでいきたい。
3.活躍する従業員の声
銅板製造部門所属
春國一樹氏
年代 | 20代 | 性別 | 男性 |
---|---|---|---|
勤続年数 | 1年10か月 | ||
キャリアアップの過程 | 契約社員で入社した時から正社員を目指し、入社後7か月で正社員へ転換。今後は職域拡大や昇格にチャレンジすること等、将来展望に意欲。 |
◆入社時より正社員転換を目指す
2013年8月に契約社員として入社。入社時に会社から正社員転換制度についての説明を受けた。雇用の安定を求め、入社当初より正社員になることを目指していた。翌年3月の正社員転換時期に直属の上司から転換を勧められたこともあり、是非チャレンジしたいと会社に申請書を提出した。入社して初めての正社員転換時期であり、働きはじめて約7か月のことだったが、特に不安もなく試験と面接にパスし、正社員へ転換した。
◆正社員転換により、職域拡大や昇格等、将来に対する意欲が増大
契約社員から正社員へ転換したことで、賞与や退職金、昇給等、将来的な処遇面が充実したと感じている。仕事面では、安全作業に対する意識付け等は契約社員時代にも十分にあったが、正社員になったことで責任を重く受け止め、より一層強く意識するようになった。
今後は、仕事の幅を広げることや、契約社員の頃からの職務経験を生かして後輩の指導に当たるなど、活躍していきたい。また、チャンスがあれば係長や課長等の上位職を目指し、昇格にもチャレンジしていきたいと考えている。
◆非正社員と企業とのより深いコミュニケーション関係の構築に期待
契約社員の頃から会社の雇用環境は良好であったと感じている。しかし一般的には、非正社員の要望や声を拾ってもらえるような機会や意見交換のような場を今以上に企業側が用意すると、非正社員と企業の間により深いコミュニケーション関係を構築でき、非正社員の一層の意欲向上や各々の特性に合った配置につながるのではないかと考える。