公益財団法人田附興風会 医学研究所 北野病院

貴院は、どんな病院ですか?

当院は、1925年、大阪の実業家である田附政次郎氏による財団法人田附興風会医学研究所の設立を初めとし、1928年に臨床医学研究所用病院として発足しました。

2015年で、創立90周年を迎え、病床数699床、職員数1400名を超え、大阪を代表する総合病院の一つにまで発展しました。

短時間正社員制度の導入・実施状況は?

2011年4月に制度を導入し、7月から本格的に運用を開始しました。

2015年9月時点で、医師8名、看護師36名、助産師4名、事務員2名が制度を利用しています。また、勤務形態についても、短日勤務(曜日指定あり、土日休みありなど)を行う者、夜勤免除、夜勤勤務のみ等とパターンも多様です。

制度を導入した背景や経緯は?

制度の導入は2011年4月ですが、2006年から男女共同参画委員会が主体となり、病院や職員に対して医療人としてのワーク・ライフ バランスの重要性や病院経営におけるメリットを説き、制度導入に至る土壌作りを行ってきました。

以前は、育児などを理由に退職する職員が少なくありませんでした。また、継続して就業する場合は、嘱託勤務としていたため、やりがいのある仕事が任されにくくなり、出産を期に嘱託勤務となった女性医師が強い挫折感を抱くケースも見受けられました。

このような経緯から、当初は、育児中の女性医師を支援するという視点から検討を始めました。しかし、人員構成としては女性医師よりも看護職の比率が高いため、検討の対象を病院全職員に拡大することにしました。また、同時に介護についても支援対象に含めることにしました。

さらに、当院は医学研究所ということもあり、自らのブラッシュアップのため、病院勤務だけでなく研究もしっかり行いたいというニーズが以前からあったため、医療人としてのスキルアップに繋がる勉学への支援についても制度の目的として取り入れることにしました。

このように、検討対象を女性医師支援から全職員へ、また利用目的を育児から介護や勉学へと範囲を広げることで、職員全員が自身の働き方の問題として捉えるようになり、制度導入における議論が深まるようになりました。

なお、制度導入に関する議論の際には、制度の仕組みだけでなく、短時間正職員制度を利用することのメリットについて、①勤務時間が短くても、正職員としての責任のある仕事を担うことができること、②それにより、周囲の職員の手助けになること、③仕事のやりがいを損ねないことで本人のモチベーションを維持できること等を丁寧に説明し、病院全体において制度の理解が深まるよう努めました。

制度の概要を教えてください。

(1)対象者は?
全職員を対象としています。

また、入職前の申請が必要となりますが、入職当初からの利用も可能です。

(2)利用目的は?
原則として、育児、介護、勉学とそれに準じる事由としています。

(3)勤務時間や日数は?
勤務時間や勤務日数については、特に細かく定めていません。

職員の申請内容(利用目的、勤務時間・日数、利用期間)を審査の上、個別に決定する手続きを取っています。

(4)短時間正職員として就業可能な期間は?
勤務時間・日数と同じく、職員の申請内容を審査の上、個別に決定しています。

(5)賃金や評価はどのようにしていますか?
賃金(基本給と手当の一部)・賞与:短縮した時間分を減額しています(医師は年俸額を短縮した時間分を減額します。)。

退職金:ポイント制退職金制度により毎年ポイントを付与しています。制度利用期間中については、1年間の所定労働時間に対して短縮された時間分のポイントを減じ付与しています。

人事考課:個人目標の達成度を評価しています。制度利用者については、各々の働き方も踏まえた目標を立案し、それを100として達成度を評価しているため、制度利用者であっても、不利になることはありません。

(6)そのほか、貴院の制度に特徴があれば。
制度として、勤務時間・日数、利用期間の制限を設けていないところが、一番大きな特徴と言えます。どのような利用パターンが発生するのか分からない中、初めから制限を設けてしまうと、制度があっても利用できないケースが増えてしまい、職員の不満要因となります。制度を設計・導入しても、そこで完成とはせず、運用状況を確認し、必要に応じて整えていけばよいので、どのような利用パターンがあるのか事例を集めるため、また、職員の制度利用を促進するために、細かなルールを設けないことにしました。

制度の導入や運用にあたっての課題・問題は?

制度導入以前から、短時間正職員制度やワーク・ライフ・バランス施策の病院経営におけるメリットを説いてきました。しかし、長時間労働が常であった医療現場で、短時間正職員制度を含むワーク・ライフ・バランス施策に対して理解を求める事は、容易なことではありませんでした。

しかし、時間や労力をかけても、制度導入により人材の確保・定着が期待でき、さらに制度利用者がきちんと役割をもって活躍することで、職場の同僚の業務の効率化が図れるなど、制度を利用しない職員にとってもメリットがあること丁寧に説明していくことが、制度の効果を上げるために必要なステップだと考えます。

制度導入でどんな効果やメリットがありましたか?

大学院での勉学や研究を目的とした利用が認められることを以前から待っていた職員からは、「本当によかった」との喜びの声を聞いています。

医師の制度利用は、一見難しいと思われがちですが、制度利用者にも正職員としての役割や仕事を持ってもらうことで、本人のやる気だけでなく、周囲のサポートにもつながっているようです。例えば、当院の医師は病院業務だけでなく研究も行っており、論文や報告書を作成するのですが、データ整理にかなりの時間をとられます。このデータ整理や分析などを制度利用者が担うことによって、フルタイムの医師は効率よく業務や研究を行うことができるため、随分助かっているようです。

また、今回の取り組みの内容について、特定非営利活動法人「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会」から「働きやすい病院評価」第3号認定を受けました。また、院内の取り組みをHPに掲載していることもあり、職員採用への応募数が増えるという効果もありました。

制度についての今後の方針やお考えは?

制度導入したばかりなので、まずは、職員にどのようなニーズ(利用目的、勤務時間・日数、利用期間)があるのか等、制度利用者のいる職場の状況について、しっかりと把握する段階であると認識しています。

今後は、運用の状況を見ながら、病院の人材マネジメントのあり方や職員ニーズに応じて、仕組みを整えていく予定です。