社会福祉法人恩賜財団済生会支部福井県済生会病院

短時間正社員へ配慮していることは?

まずは働く職員の状況やニーズをしっかりと把握することだと思います。制度利用者は申請書に所定の事項を記入したうえで、所属長や副部長等と面談を重ねながら勤務条件等の詳細を決めていきます。育児利用の場合には、復帰の準備段階にも状況確認を行い、何か変更点があればすぐに汲み取れるようにしています。

貴院は、どんな病院ですか?

済生会そのものは、明治天皇の済生勅語によって創立され、広く医療・福祉を提供してきていますが、「済生の心」のルーツは聖徳太子が593年に作った施薬院にあるといわれ、「施薬救療」精神の源泉となっています。

当院は昭和16年に恩賜財団済生会福井診療所として開設された病院であり、「済生の心」を受け継ぎ、「患者さんの立場で考える」という基本理念を掲げて質の高い医療・福祉を提供できるよう努めています。

2013年4月現在では、病床数460床、職員数1283名となっており、福井県を代表する総合病院の一つになっています。

短時間正社員制度の導入・実施状況は?

正式な制度として運用を開始したのは2006年です。2013年4月時点では64名の看護師が制度を利用しています。看護師以外でも医師やリハビリ担当者、事務職員等がそれぞれ数名ずつ利用しています。利用目的は育児が多くなっていますが、介護、療養、資格取得、パートタイマーからの転換等様々なケースで利用が可能です。

制度を導入した背景や経緯は?

ある時、優秀な看護師が子育てを理由に仕事を続けることが難しいといった相談をしてきたことが直接のきっかけです。優秀な看護師が、どうすれば看護師を続けることができるのか、という視点で勤務体系を見直し、2006年から制度として活用できるようにしました。

子育てを機に看護師が離職を考える主要因は、「長時間勤務」「夜勤」にあることが聞き取り調査でわかってきました。そこで、勤務時間を短くする制度(短時間勤務制度)、夜勤が免除される制度、夜勤のみを専門に勤務する制度等を新たに導入することにしました。

制度の概要を教えてください。

(1) 対象者は?(就業形態、役職等)
・ 原則として全職種、全職員が対象となります。勤続年数等の制限はありません。

(2) 利用目的は?
・ 育児目的での利用者が大半を占めていますが、介護、療養、自己啓発(資格取得)、パートタイマーからの転換等多岐にわたります。

(3) 勤務時間や日数は?
・ 看護職の勤務シフトはもともとは3交代で時間帯は合計8区分でした。それを、14区分に細分化し、各自が働きやすい時間帯で勤務できるように修正しました。このシフトをベースにしながら、実際には個人のニーズを詳細にヒアリングして看護師長や副部長を交えながら決定します。勤務日数には特に制限はありませんが、勤務時間については週の合計が30時間以上になるという条件を設定しています。

・ その他の職種についても、まずは個人のニーズを詳細にヒアリングしたうえで個別に決定します。勤務日数や時間の制限については看護職と同様です。

(4) 短時間正社員として就業可能な期間は?
・ 育児目的の場合は子どもが未就学の間です。

・ その他の目的の場合には、個別に決定します。

(5) 賃金や評価はどのようにしていますか?
・ 給与、賞与、退職金:短縮した時間分は控除しています。

・ 評価:フルタイムの職員と同様です。

(6) そのほか、貴院の制度に特徴があれば。
・ 看護師のシフトは看護師長が繁忙状況等を見ながら、各看護師のニーズをふまえて最終的には決定しています。シフト表はシステム上で管理され、月単位、週単位、日単位ですぐに集計できます。引き継ぎがスムーズに行われるように副部長が相談に応じるなどして、全体としての残業削減にもつなげるようにしています。

制度の導入や運用にあたっての課題・問題は?

パートタイマーと異なり業務の性質上多少の残業が発生する可能性があります。また、勤務時間によっては、研修に参加できないこともあるかもしれません。妊娠、出産、育児の流れが複数回連続して発生すると、仕事のキャッチアップ、モチベーション維持という観点から弊害が出てくる可能性もあります。また、職員間での不公平感などから、利用者が働きづらくなったり、業務効率が低下することもあるかもしれません。

今のところ上記のような短時間正社員制度導入に関する一般的なデメリットについて、問題が顕在化している状況にはありません。制度利用者が今後更に増加していくと問題が顕在化するおそれはあると思いますが、その場合にはしっかりと原因を追究して一つ一つ改善してこうと思います。

制度導入でどんな効果やメリットがありましたか?

看護師の制度利用者は毎年増加傾向にあります。制度導入前の離職率が10%を超えていたのに対して、24年度は4.7%まで低下しました。「やめなければならない理由」を取り除く制度を構築した成果だと考えています。また、副次的な効果として1ヶ月あたりの平均残業時間数が制度導入前との比較で半分程度に減少しました。短時間正社員制度の導入だけが理由ではないと思いますが、勤務シフトの見直しなどを図る過程の中で業務内容・スケジュール等が整理され、結果として残業時間が減ったのではないかと考えています。経営的な観点からも良い効果が出てきていると考えています。

また、もともと当院では看護師のキャリアアップにも力を入れており、大学院進学や認定看護師資格の取得に励む看護師が多いことが特徴でした。この制度の導入により、更にキャリアアップを目指す看護師が増えて、部署全体に好影響を及ぼすという嬉しい効果が出ました。

当院には現在50名前後のパートタイマーの看護師がおります。短時間正社員制度があることで、本人の意欲や就業上の制約条件に応じてパートタイマーと正社員の間を自由に行き来することが可能です。

短時間正社員制度やワークライフバランスを支援する様々な取り組みが評価された結果、平成23年には第5回ワークライフバランス大賞を、平成24年度には内閣府「カエルの星」を受賞しました。

制度についての今後の方針やお考えは?

今では、各病棟に2、3名程度の制度利用者がおり、院内には制度そのものが完全に普及、定着したと考えています。

一方で、育児目的の場合、子どもが未就学の間という期間制限がありますが、ニーズ調査からは子どもが小学校入学以降について不安の声もあがっており、制度の見直しが必要かどうかは今後検討する必要があるかもしれません。