取組事例(2021年)
K社
基本情報
業種 | 製造業 |
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都道府県 | 奈良県 |
社員数 (2021/07時点) |
正社員:570名 パートタイム労働者・有期雇用労働者:25名 |
事業概要 | 自動車部品や液晶画面等の製造等に使用する工業用熱処理装置の開発から設計、生産、メンテナンスまでを一貫して行っている。国内は本社の他に全国7つの支社や営業所を、海外は韓国、台湾、タイ、中国、ドイツに拠点を有している。 |
取組を行った待遇
基本給 | ○ |
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賞与 | ○ |
手当 | ○ |
退職金 | |
福利厚生 | |
休暇・ 休職制度 |
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教育訓練 | |
その他 |
取組のポイント・概要
背景
パートタイム・有期雇用労働法の改正以前から、休暇・休職制度や教育訓練機会については差を設けていなかったが、法対応に向けて改めて待遇を見直すとともに、制度の改定を実施。
取組
パートタイム労働者・有期雇用労働者を対象に、賃金制度を改定。基本給は、正社員と同様の支給基準で決定。賞与は、正社員と同様の基準で支給するとともに、支給する職務関連手当を拡大。
待遇 | パートタイム労働者・有期雇用労働者への待遇の変化 | |
---|---|---|
取組前 | 取組後 | |
基本給 | 前職等の時給を参考に支給 | 役割等級制度を導入し、正社員と同条件で等級に応じた資格給と人事評価に基づく職能給、年齢に応じた年齢給を支給 |
賞与 | 算定対象期間における在籍月数×1万円を支給 | 正社員と同様に、各人の業績貢献の評価等に基づいた係数を基本給にかけて支給 |
手当 | 通勤手当、役職手当、資格手当を支給 | 通勤手当、役職手当、資格手当に加え、業務資格手当を支給 |
効果
新制度の運用開始から1年程度のため、会社全体としてはまだ明確な効果が表れているとは言えないが、契約社員からは前向きな変化として捉えられていると感じている。
取組の詳細
取組に向けた検討プロセス
同社では、パートタイム・有期雇用労働法の改正以前から、休暇・休職制度や教育訓練機会については雇用区分のみを理由とした待遇差を設けていなかったが、法対応に向けて改めて待遇の見直しを行った。
その結果、正社員と契約社員に求める業務内容や職務遂行能力には大きな違いがないことが分かったが、契約社員については業務内容や能力を賃金に反映する仕組みになっていなかった。そのため、職務内容に応じて金額を決定する賃金制度を導入することとした。
同社の主な社員タイプは、正社員、契約社員の2区分であり、契約社員は、半年契約の短時間勤務または半年契約のフルタイム勤務である。なお、同社では、契約社員は最終的に正社員に転換して活躍してもらうことを前提に雇用している。
表 取組の対象となる社員タイプ
社員タイプ(人数) | 職務内容 | 職務内容・配置の変更範囲 | 均等・均衡待遇 | |
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正社員 (570名) |
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- | |
パートタイム労働者・有期雇用労働者 (25名) |
契約社員 |
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均衡待遇 |
パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇改善の詳細
【基本給について】
同社の契約社員は、派遣社員から転換して雇用している場合や、今後正社員を目指す場合の労働者が該当する。そのため、従前は、高い水準での職務内容や能力を求めないという認識の下、派遣社員の際の時給や前職の給与を参考に基本給を決定し、昇給を設定していなかった。一方、正社員の基本給は、年齢給(年齢に応じた金額を支給。40歳で最大額となり、以降は同額)と資格給(社内で規定した期待役割に基づく等級で決定)、職能給(職務遂行能力に関する人事評価結果に基づいて決定)の3つの要素で構成されている。
同社では、契約社員には最終的に正社員転換を促したいと考えており、またパートタイム・有期雇用労働法の対応も必要であったことから見直しを行うこととした。各契約社員が担当する業務内容等を上長にヒアリングしたところ、契約社員に対しても業務において正社員と同様の職務内容や職務遂行能力を求めることがあると分かった。
そこで、契約社員に対しても職務内容や能力に応じた支給をする必要があると考え、正社員と同じ基本給制度を導入した。なお、正社員と契約社員とでは、責任の程度や職務の内容・配置の変更の範囲等の違いから人事評価の内容が異なっている。そこで、基本給の均衡を確保するため、契約社員と同等の職務を担う正社員を選出し、役割や職務遂行能力を比較して同等であれば同じ金額になるよう、職能給の賃金テーブルを設定した。資格給については、契約社員に対しても資格等級制度を導入することで、全社員共通の等級と紐づいた金額を支給している。
取組前 | 取組後 | 【職務遂行能力】 人事評価結果を踏まえて金額を決定 |
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▶ | 職能給 | |||
派遣社員時の 時給等を参考に 金額を決定 |
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資格給 | 【担う役割・責任】 役割等級制度に基づいて金額を決定 |
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年齢給 | ||||
【年齢・技能レベル】 年齢ごとに決まっている金額を支給(40歳で最大額となり、以降は40歳の時の金額を支給) |
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図 契約社員の基本給の構成要素
同じ年齢・同じ役割・同じ職務遂行能力の場合 | ||
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職能給 | 職能給 | |
資格給 | 資格給 | |
年齢給 | 年齢給 | |
正社員 Aさん | 契約社員 Bさん |
同じ年齢・同じ職務遂行能力で Aさんの方が役割が上の場合 |
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職能給 | ||
職能給 | ||
資格給 | ||
資格給 | ||
年齢給 | 年齢給 | |
正社員 Aさん | 契約社員 Bさん |
同じ年齢・同じ役割で Bさんの方が職務遂行能力が上の場合 |
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職能給 | ||
職能給 | ||
資格給 | 資格給 | |
年齢給 | 年齢給 | |
正社員 Aさん | 契約社員 Bさん |
図 正社員・契約社員共通の基本給の決定方法
【賞与について】
取組前も契約社員に対しても賞与を支給していたものの、算定対象期間における在籍月数×1万円という形で寸志として支給していた。同社では、賞与を会社業績への貢献に対する報酬として支給しているが、契約社員も業績に直結する製造業務に就いているにもかかわらず、従来の算出方法では、業績への貢献度を賞与に反映できていないと考えた。
取組後は、正社員と同じ決定方法で年2回賞与を支給している。具体的には、年2回実施する業績に関する人事評価結果に基づいて、基本給に労働組合と合意した月数を掛けて算出している。なお、正社員と契約社員とでは求める責任の程度や職務の内容・配置の変更の範囲等が異なり、業績に対する貢献の仕方も違っている。そのため、人事評価の評価項目にもその違いを反映することで、雇用区分ごとの業績への貢献度に応じた金額を支給できるようにしている。
【手当について】
取組前は、正社員には通勤手当、役職手当、資格手当、業務資格手当を支給していたが、契約社員には業務資格手当が支給されていなかった。
しかし、前述の通り、契約社員の職務内容の棚卸しを行ったところ、正社員と同様の業務を行っていることが多いと判明した。そのため、職務に関連する手当については、雇用区分の違いで支給に差を設けることは適切ではないと考え、製造業務に従事する契約社員に対しても正社員と同額の業務資格手当の支給を開始した。
取組による効果
契約社員の賃金制度改定に当たっては、労働組合から反対等はなく、また、正社員に対して従前より運用していた制度であったため、スムーズに導入し運用を開始することができた。導入間もないため、会社全体に対する効果は明確ではないものの、契約社員には前向きな変化として捉えられていると感じている。
今回の取組みを通して、賃金制度についても正社員と同様の制度に統一することができたが利益の享受に長期間を要するような持株会や財形貯蓄については、長期勤続を想定している正社員のみを対象としているため、契約社員への適用も考えていきたい。