取組事例(2020年)

H社

基本情報

業種 製造業
都道府県 東京都
社員数
(2020/02時点)
正社員:約600名
パートタイム労働者・有期雇用労働者:約360名
事業概要 創業100年以上の歴史を持ち、日用品の開発・製造・販売を行っている。

取組を行った待遇

基本給
賞与
手当
退職金
福利厚生
休暇・
休職制度
教育訓練
その他

PDFデータ

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取組のポイント・概要

背景

社員の働きぶりや会社への貢献に報いること、社員の働きぶりに見合った適切な待遇を実現すること、働きやすい環境を整えることを目的に、2015年度より取組を実施。

取組

パートタイム労働者・有期雇用労働者を対象とした等級制度を新たに導入し、等級に応じて基本給・賞与を決定。手当はすべて正社員と同じ基準で支給。さらに、パートタイム労働者・有期雇用労働者にも、正社員と同様の休暇・休職制度、休業補償を適用。

待遇 パートタイム労働者・有期雇用労働者に対する支給状況
取組前 取組後
基本給 市場相場、地域差を考慮し、手当を含めた金額を時給で支給 正社員とは異なる職能等級制度を導入し、職能等級に応じて支給
  • ※ 市場相場や地域差に相当する部分は調整給、手当に相当する部分は手当として整理し、基本給とは別に支給
賞与 寸志の支給 職能等級に応じ、賞与として支給
手当 通勤手当のみ支給 基本給に含まれていた手当に相当する部分を整理し、通勤手当、営業手当(※)、シフト手当として正社員と同様の支給基準で支給
  • ※ 営業職の外勤に対して支給
福利厚生
休暇・休職制度
休暇制度のみ適用
  • ※特別休暇については、パートタイム労働者・有期雇用労働者は無給
パート社員に、正社員と同様の休暇・休職制度を導入。2019年度からは正社員と同様の休業補償制度も導入

効果

導入後の社員アンケートの結果、「制度導入によってやる気がわいた」と回答したパートタイム労働者・有期雇用労働者が15%おり、働く上でのモチベーション向上に効果があったと考えている。

取組の詳細

取組に向けた検討プロセス

 同社では、社員の働きぶりや会社への貢献に報いること、社員の働きぶりに見合った適切な待遇を実現すること、働きやすい環境を整えることを目的に、2015年頃より人事制度の見直しを開始、2017年度に現在の制度を導入した。

 同社の主な社員タイプは、正社員、パート社員、契約社員の3区分である。パート社員は1年契約の短時間勤務だが、現在では、9割が無期転換している。

 取組前には、パートタイム労働者・有期雇用労働者からは、正社員との待遇差だけでなくパートタイム労働者・有期雇用労働者同士の待遇差についての苦情が多く寄せられていた。また、等級制度等もなく、どうしたら時給が上がるかわからないとの声もあった。また、パートタイム労働者・有期雇用労働者のうち、与えられた以上の役割や待遇を求める人は、正社員登用を目指す傾向があった。

表 取組の対象となる社員タイプ

社員タイプ
(人数)
職務内容 職務内容・配置の変更範囲 均等・均衡待遇
正社員
(約600名)
総合職 工場の生産管理、製造技術者、本社および地方営業所の営業、開発、スタッフ部門管理
  • ・職務内容の変更・配置転換の可能性がある。
  • ・転居を伴う異動の可能性がある。
-
一般職 工場の生産管理、製造技術者、本社および地方営業所の営業事務、開発、スタッフ部門管理
  • ・職務内容の変更・配置転換の可能性がある(工場以外の部門については、総合職に比べて該当者は少ない)。
  • ・本人同意の上で転居を伴う異動の可能性がある。
-
パートタイム労働者・有期雇用労働者
(約300名)
パート社員 工場での製品製造
  • ・職務内容の変更・配置転換の可能性がある(同一工場内のみ)。
  • ・転居を伴う異動の可能性はない。
  • ・1年契約または、無期転換による無期雇用である。
均衡待遇
契約社員 製品のデザインや、営業のうちラウンダー業務(数値責任を持たずに卸先店頭等の整備を担当する)
  • ・職務内容の変更・配置転換の可能性がない。
  • ・転居を伴う異動の可能性はない。
  • ・1年契約である。
均衡待遇

パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇改善状況の詳細

【基本給について】

 2017年以前は、パート社員・契約社員は人事評価は行われていたが、等級制度がないため、体系的な待遇決定の仕組みが整備されていなかった。そのため、入社時の時給をベースに賃金を決定しており、同じパート社員・契約社員の中でも、市場相場が高い時期に入社した社員と市場相場が低い時期に入社した社員の賃金に差が生じていた。また、正社員の基本給を時給換算した金額との均衡も取れていなかった。

 2017年以降、パート社員・契約社員に職能等級制度を導入した。ただし、正社員とパート社員・契約社員とでは従事する仕事が異なり、求められる職務遂行能力も異なると考えたため、正社員とは異なる制度とした。併せて、パート社員・契約社員の基本給の構成要素を整理し、市場相場や地域差を反映する部分と手当に相当する部分、職務に応じた部分に分解し、基本給、手当、調整給で賃金を構成することとした。この結果、パート社員・契約社員についても、正社員同様、職能等級に応じた金額が支給されることとなった。

【手当について】

 以前から正社員には、通勤手当、役職手当、営業手当、シフト手当を支給しており、そのうち通勤手当は、パート社員・契約社員にも同様の基準で支給していた。しかし、営業手当やシフト手当については、長年慣習的に基本給に含んで支給しており、支給基準が明らかでなかった。

 そこで、営業手当とシフト手当に相当する部分を整理し、基本給とは別に支給するとともに、支給基準を明文化した。営業手当は営業の外勤に対して、シフト手当は、工場での変則的なシフト勤務に対して支給する手当である。そのため、雇用形態に関わらず営業の外勤またはシフト勤務をする社員には同条件で支給すべきと整理し、パート社員・契約社員にも、正社員と同様の支給基準で営業手当とシフト手当を支給することとした。

【取組前】 【取組後】
   
職能等級
調整給
(市場相場や地域差を反映)
営業手当
シフト手当
基本給 基本給 手当

図 新たに導入した基本給、手当の支給方法イメージ

【賞与について】

 取組前から、パート社員には寸志を支給していた。但し、正社員は人事評価結果に応じて賞与を支給していたにもかかわらず、パート社員・契約社員には体系的な支給金額決定方法がなく、慣習的に決定されていた。

 賞与は、評価期間中の成果・パフォーマンスを評価し、会社への貢献度に対して正社員に支給していたことから、2017年のパート社員・契約社員の職能等級制度の導入に伴い、パート社員・契約社員に対しても、等級に基づき賞与を支給することとした。なおパート社員・契約社員には、評価期間における成果やパフォーマンスの変動がないことから、能力の違い(等級)が貢献度であると考え、等級に応じた金額を支給している。

【休暇・休職制度について】

 取組前は、パート社員・契約社員には休職制度はなく、休暇制度のみを適用していた。無期転換ルールの適用により、9割のパート社員が無期雇用契約になったことを踏まえ、取組後は、パート社員には、休暇制度、休職制度ともに正社員と同じ制度が適用されている。なお、契約社員についても正社員と同様の休職制度を導入している。また、2018年より、正社員とパート社員を対象に、休業補償制度を導入した。これは、社員が病気やケガで長期間働けなくなった時に、生活費をまかなうための収入を補償する任意加入の給与サポート保険制度であり、パート社員にも正社員と同様に適用される。

 また、特別休暇については、正社員は有給でパート社員・契約社員は無給であったが、2021年4月よりパート社員・契約社員も正社員と同様に有給とする。これまでは、長期勤続を期待する正社員については人材の確保・定着の観点から有給としていたが、パート社員の多くが無期雇用契約になったことを踏まえ制度を統一することとした。

取組による効果

 取組前には、パートタイム労働者・有期雇用労働者からは、正社員との待遇差だけでなくパートタイム労働者・有期雇用労働者同士の待遇差についての苦情が多くよせられていた。また、等級制度等もなく、どうしたら時給が上がるのかがわからないとの声もあった。また、同社のパートタイム労働者・有期雇用労働者のうち、与えられた以上の役割や待遇を求める人は、正社員登用を目指す傾向があった。

 制度導入後に行われたアンケート調査の結果から、パートタイム労働者・有期雇用労働者に等級制度を導入し、正社員と同様に能力や働きぶりが基本給や賞与に反映されるようになったことで、「制度導入によってやる気がわいた」と回答したパートタイム労働者・有期雇用労働者が15%いることがわかった。また、等級制度導入によって、社員からは、「正社員へのステップアップの道筋が明確化されたことが良かった」との意見もあった。こうしたことを受けて同社は取組を通じて、働く上でのモチベーション向上に効果があったと考えている。

 パート社員の9割が無期雇用となり、正社員とパート社員の間で契約期間における違いがなくなったことを踏まえると、今後、人事制度の見直しが必要と考えている。具体的には、正社員登用という形でのキャリアアップではなく、役割の違いに応じた、正社員と統一の人事制度を構築できないかを検討している。

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