取組事例(2020年)
エフコープ生活協同組合
基本情報
業種 | 卸売業・小売業 |
---|---|
都道府県 | 福岡県 |
社員数 (2020/02時点) |
正社員:約1,300名 パートタイム労働者・有期雇用労働者:約1,680名 |
事業概要 | 1983年4月に福岡県内の5つの地域生協が合同して誕生した生活協同組合であり、福岡県内で約50万名の組合員が加入。現在、福岡県内に店舗及び支所が31ヵ所、福祉施設事業所が5ヵ所ある。 |
取組を行った待遇
基本給 | ○ |
---|---|
賞与 | ○ |
手当 | ○ |
退職金 | |
福利厚生 | ○ |
休暇・ 休職制度 |
○ |
教育訓練 | ○ |
その他 |
取組のポイント・概要
背景
スタッフの生活の安定と「より良い社会」を実現することを目指した待遇改善に取り組み、2001年以降、全雇用形態を視野に入れた同一評価制度、同一賃金制度を中核とする人事制度改革を推進。
取組
パートタイム労働者を対象に、人事制度を改定。基本給は、正社員と同様の支給基準で決定。賞与は、年度末賞与を新たに支給。手当はすべて正社員と同条件で支給。
待遇 | パートタイム労働者・有期雇用労働者に対する支給状況 | |
---|---|---|
取組前 | 取組後 | |
基本給 | 勤続年数に応じて支給 | 正社員と同じ支給基準で決定
|
賞与 | 支給なし | 年度末賞与を支給 |
手当 | 子育て支援手当や役付手当の対象外 | 正社員と同じ支給基準で3つの手当を支給
|
福利厚生 休暇・休職制度 |
適用のない待遇あり
|
正社員と同様に適用
|
教育訓練 | 現場でのOJTのみ | OJTに加え、全社員に対しOFF-JTを用意 |
効果
2008年度より、正社員とパートタイム労働者に同じ人事制度を適用し、雇用形態に関わらない同一評価制度、同一賃金制度を実現。2018年度から、子会社7社等についても同様の人事制度を導入。こうした取組により、離職率が大幅に減少(2006年度:15%⇒2019年度:7%)。スタッフの意識改革と定着率の向上等により事業運営の安定化、利用者満足度の向上が図られ、業績も好転。
取組の詳細
取組に向けた検討プロセス
同生協では、生活と密接につながる生活協同組合として、自生協で働いている労働者の生活を守ることが不可欠である。また、「より良いくらし、より良い社会を実現する」という理念に基づき、社会全体を視野に入れた待遇改善を実現する必要があるとの考えから、2001年より人事制度改革が始まった。当初は、正社員に職能給や職務給の考え方を取り入れることから始め、2004年にはパートタイム労働者の人事制度を大きく変革、2008年には、雇用形態に関わらない同一評価制度、同一賃金制度の運用を開始した。
同生協の主な社員タイプは、フルタイムスタッフ(正社員)、定時スタッフ(パートタイム労働者)の2区分である。両者ともに無期雇用であるが、定時スタッフは短時間勤務である。フルタイムスタッフと定時スタッフは、配置転換の範囲に違いがあるものの、職務の内容には大きな違いがないことを踏まえ、職務の内容と職務遂行能力に基づく賃金決定の仕組みを導入した。
表 取組の対象となる社員タイプ
社員タイプ(人数) | 職務内容 | 職務内容・配置の変更範囲 | 均等・均衡待遇 | ||
---|---|---|---|---|---|
正社員 (約1,300名) |
フルタイムスタッフ | 59歳以下 |
|
|
- |
60歳以上 |
|
||||
パートタイム労働者・有期雇用労働者 (約1,680名) |
定時スタッフ | 59歳以下 |
|
|
均衡待遇 |
60歳以上 |
パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇改善状況の詳細
【基本給について】
2008年の取組前は、定時スタッフには人事評価がなく、職務の内容等に関わらず実質的に勤続年数で基本給を決定していた。
取組後は、フルタイムスタッフ、定時スタッフ共通の職務等級制度、職能ランク(職能等級)制度を導入し、「仕事の大きさ」や「能力の高さ」が同じであれば、雇用形態に関わらず、時間単価が同一となるようにした。職務給は、担当職務で必要とされる責任の程度や知識の程度を点数化し、その点数(職務ポイント)に応じて決定する(下図左)。職能給は、職務遂行能力に応じた格付けと人事評価結果を踏まえ決定する(下図右)。
なお、同生協では仕事とコストの均衡を保つため、雇用形態に関わらず59歳以下と60歳以上とで適用する等級制度と基本給の構成を変えている。59歳以下のスタッフには上記したように職務等級制度と職能等級制度を適用し、基本給は職務給と職能給で構成される。一方、60歳以上のスタッフには職務等級制度のみ適用し、基本給も職務給のみで決定している。

図 新たに導入した基本給の決定方法
【賞与について】
取組前は、定時スタッフには賞与を支給していなかったが、月例給与・賞与・退職金見合い分を含めた年収換算で、人事異動の範囲の違いを考慮した上で待遇の均衡を図るべきと考え、定時スタッフに対し年度末賞与の支給を行うこととした。なお、59歳以下のフルタイムスタッフには年2回賞与を、60歳以上のフルタイムスタッフには定時スタッフと同様に年度末賞与を支給している。賞与と年度末賞与の支給額は、経営状況を踏まえ労使交渉を経て、基本給×○ヶ月分と算出するが、掛け率は社員タイプごとに異なる。同生協の賞与は、社員の貢献度に対する功労報償として支給しているため、定時スタッフとフルタイムスタッフとで職務の内容・配置の変更の範囲や、定時スタッフには転居を伴う異動がないことを踏まえ、支給に差を設けている。
【手当について】
取組前は、定時スタッフは一律に各種手当の対象外としていたが、取組後は、定時スタッフについても職務遂行能力を踏まえた昇格や役職就任を可能とし、役付手当の支給対象とした。
また、子育て支援手当についても、育児をするスタッフを支援するという性質を考慮すると、雇用形態の違いを理由に差を設けることは不合理でないとはいえないと考え、フルタイムスタッフと同条件で支給を開始した。

図 人事制度改革の概要
【福利厚生、休暇・休職制度について】
取組前、定時スタッフは配偶者出産休暇等一部の休暇・休職制度の対象外であるとともに、永年勤続表彰、自己啓発援助といった福利厚生も適用されていなかった。取組後は、全ての福利厚生、休暇・休職制度について、フルタイムスタッフと同様の制度を適用しているが、一部、勤務時間等の違いに応じた差を設けている。
具体的には、永年勤続表彰の表彰金が挙げられる。永年勤続表彰は、長年の勤務に対する功労報酬であるため、定時スタッフとフルタイムスタッフの勤務時間の差を反映している。
【教育訓練について】
取組前は、配属された事業所内でのOJTのみであったが、現在はOJTに加え、フルタイムスタッフと同様に集合研修(OFF-JT)も実施している。
また、定時スタッフを含む全スタッフに対して、書籍の定期購入支援、通信教育支援、社内資格制度取得に向けた研修なども用意している。
取組による効果
2008年に、定時スタッフとフルタイムスタッフの人事制度を統合したことにより離職率が大幅に減少した(2006年度:15%→2019年度:7%)。それを受けて2018年度には、子会社7社等についても同様の人事制度を導入した。
取組前はスタッフが定着せず、欠員状態が発生することもあった。さらに、教育した内容が現場に蓄積されず結果として利用者からの苦情も多かった。しかし、取組後は、待遇改善を通じてスタッフの働く意識が変化するとともに定着が進み、その結果、事業運営が安定し、利用者満足度が向上した。
こうしたことを背景にして2008年以降は経常剰余金が増え、経営改善が進んでいる。具体的には、2013年ごろまでは2~5億円で推移していたのが、2015年以降は8~11億円と、スタッフの待遇改善を進めながらもこれまでより高い水準で推移している。