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(株)吉野家

パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル・好事例集(飲食サービス業)より

先輩が後輩を教える教育体制の整備、OFF-JTの充実により定着率が向上

3.教育訓練等の能力開発
4.人事評価
5.キャリアアップ・
正社員転換推進措置
6.福利厚生・安全衛生
8.職場のコミュニケーション等
所在地 東京都 業種 飲食店
従業員数 約21,000名 パート労働者数 約19,700名
ポイント
  • ハンドブックによる初期教育、一定期間後の集合研修で丁寧なフォロー。
  • 先輩が後輩を教えるランクアップ体制を整備、ランクに応じ時給も昇給。
  • 副店長登用、正社員登用制度によりキャリアアップ。
  • 業界ならではの福利厚生。

(1)企業概要・人員構造

同社は、創業100年以上の歴史を有する牛丼事業を中核としたナショナルチェーンである。

正社員(グローバル社員、エリア社員)も約 1,400名いるが(おおむね1:2の割合)、店舗におけるオペレーションの中核を担っているのは、約19,700名の「キャスト」(パートタイム労働者)である。標準的な店舗は、基本的に、正社員の店長の他はほぼ全員がキャストで構成されている。店長も接客や調理を行うことがあるが、その他に数値、人材、設備等の管理責任を負っている点で、キャストと職務内容が異なっている。

キャストの雇用契約期間は1年間である。ただし、採用された当初だけは、2か月間の雇用契約を結び、2回目の雇用契約から1年間となる。

キャストは、社会保険・労働保険の適用関係により、A(週実働30時間以上)、B(同20時間以上30時間未満)、C(同20時間未満)の3区分に分けられている。いずれも時給制で、賞与、退職金は支給されない。

キャストの属性は、店舗立地により大きく異なっている。都心店では圧倒的に学生が多いが、郊外店では主婦や高齢者層が中心である(契約更新の上限年齢は特に定めていない)。

(2)取組の背景

同社は、グループ経営理念である「For the People」に基づき、店舗活動において「For the Customer」を重視している。とりわけスピードを最も大事な価値観とし、キャストを中心とした全従業員に、「早く、先に、直ぐに、お待たせしない」を意識して行動することを求めている。そうした行動をとることができる人材を効果的に育成し、定着化させることをねらいとして、キャスト向けの諸制度も整備されている。

特に、効果的な人材育成のために、店長の能力、考え方、忙しさの状況に左右されるやり方を改め、新たなランクアップシステムを導入したところである。これは、キャストのランクをより明確にして、上位のキャストが下位のキャストをマニュアルに基づき教育するスタイルの確立と人材育成の 標準化を目的としたものである。賃金面も、このランクに応じて決めている。

(3)取組の内容

ハンドブックの配布

採用されたキャストには、勤務する上での重要事項を記載したハンドブックを配布している。そこには、次のような内容がイラストや写真も交えてわかりやすく掲載されており、雇用されている期間はキャスト一人ひとりが保管することになっている(自宅への持ち帰りも可)。また、基礎的事項についての「トレーニング記録」の頁もあり、トレーニング勤務日、トレーニング内容と合格記録を記載するようになっている。

このハンドブックは、採用直後の教育資料であるとともに、雇用契約書や就業規則と併せて、労働条件の考え方、就業上の約束ごと等の説明資料にもなっている。採用時には、店長又は地域の採用担当者が、このハンドブックを使いながら個別に説明を行っている。

キャストハンドブックの内容

  • はじめに(価値観、サービス)
  • お客様商売の基本を学ぶ
  • ハウスルールを学ぶ(身だしなみ、勤務スケジュール、連絡、挨拶と返事、休憩時間、食事補助、給料と昇給、有給休暇、入店・退店の流れ)
  • 接客の基本を学ぶ(接客場面のイメージ、接客場面ごとの動作と用語、自社固有ルール、食器の名称と持ち方)
  • 巻末資料(入店登録・退店登録の方法、オーダー票の記入方法、…(中略)…、トレーニング記録、交通費伝票と食事補助券の記入例)
    *後述の「パートナーランク評価シート」の本人手控え的なもの

入社直後の教育と評価

新人キャストの最初の雇用契約は、2か月間である。この間に、先輩キャストの指導を受け、基本的事項をマスターすることが期待されている。新人キャストには、マスターすべき項目を記載した評価シートが渡され、2か月後に個々の項目の合否を評価される。指導者は、後述のアテンド又はサポーター以上のランクのキャストであり、評価者は、それ以上のランクのキャスト又は店長である。おおむね8割方をマスターできていれば、後述のパートナーレベルと認められ、「本契約」と呼ばれる1年契約に変更となる。

この本契約前後には、エリアマネジャーが主催する集合研修を実施している。同時期に入社した新人キャストを集めた2時間程度の研修であり、職場の問題の意見交換や交流を行う場にもなっている。技術的な教育もさることながら、入社直後の不安解消、仲間意識の醸成等を重視して運営している。

パートナーランク(本契約)評価シートの構成

店舗   氏名  
本契約目標日   年齢・性別  
    評価担当者  
人材像 マインド サービス業として必要な資質があり、基本事項を守り仕事を覚えようとする意欲が ある。
行動 明るく元気に挨拶、返事が言えている。
スキル サービスマニュアルに沿って実践できる
客数対応目安 ・・・・
評価項目 評価・要求水準 合否○×
サービス 1 ・・・・  
2 ・・・・  
・・・・  
クオリティー ・・・・  
・・・・  
 
※本契約おめでとうございます。吉野家で働いてみて良かったなと思うことを30文字以上で記入してく ださい。
評価者コメント 店長 評価者 教育者 本人
         

ランクアップシステムによる体系的教育

同社のキャストは、その技能及び職能に応じ、次のような9つのランク区分が設けられている(入社直後は、ランク外の「チャレンジャー」という位置付け)。ランクごとに人物像及び必要スキルが詳細に設定されており、それがそのまま後述の評価項目として活用されている。

S サポーター・Sアテンドランクが約2,000名、サポーター・アテンドランクが約5,000名おり、下位ランクの教育者等として活躍している。

ランクと評価項目

(職能による区分)※対象はサポーター以上

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上位ランクのキャスト(2ランク以上、上位である者)は、下位ランクのキャストに対し、マニュアルに基づき教育を行う役割が期待されている。先輩が後輩を教えることを通じ、365日24時間、常に教育が行われている状態を作ることを目指した体系となっている。

こうしたOJTとは別に、ランク別のミーティング(Off-JT)を、エリア単位で実施している。このミーティングでは、近隣店で働く同ランクのキャストを集めて、接客や調理の技術面の教育、苦情対応等のロールプレイング、意見交換を通じたノウハウ共有、防犯やフェア等の季節的テーマの確認等を行っている。キャストにとって、自分のスキルを他店のキャストと比べる良い機会となっている。このミーティングには、店長も常に複数名が参加している。店長にとっては、他店のキャストと自店のキャストとを比較してみることで、自分の評価尺度の妥当性や教育効果の確認の場になっている。

なお、ミーティングは、接客技術や調理技術を競うコンテストを兼ねて開催することもある。

ランクの評価と時給への反映

店舗には、個々のキャストのランクに応じた評価表が用意されており、レベルが上がったと判断されれば、その都度評価される。評価者は、教育担当者より上位ランクのキャスト又は店長である。

この評価表は、個人別にファイリングされており、キャスト本人がいつでも見ることができる。また、実際に職場に入る際にはこのファイルを持参し、指導者であるキャストがこれを見て OJTを行うようになっている(自動車教習所で実車するときにファイルを持っていくイメージ)。

上位ランクへの昇格も、評価に応じて随時、行われる。キャストの時給は、店舗の地域相場等に応じた「本時給」とランク別の「ランク給」から構成されているので、ランクが上がると時給も随時アップする仕組みである。

ランク給のイメージ

パートナー Sパートナー アテンド Sアテンド サポーター Sサポーター
0円 10円 20円 ・・・円 ・・・円 ・・・円

対象はサポーター以上

リーダー シフトリーダー ストアリーダー
+20円 +・・・円 +・・・円

副店長への登用

比較的小規模の店舗については、個別の店舗に店長を置くのでなく、複数店をとりまとめる統括店長が置かれている。この場合、統括店長の下には、店舗ごとにオペレーションの責任者として副店長が置かれ、これにはキャストが任じられている。現在、全国で130名あまりの副店長が活躍している。週実働30時間以上のAキャストであること、ストアリーダーのランクにあることが登用条件となっており、本人の希望も聞いて地区長が任命する。

副店長になると、時給の他に月額 15,000円の副店長手当と、1回10万円程度の賞与が支給される。賞与には、キャストの定着を主な評価ポイントとして、A、B、Cの3段階評価が反映されている。正社員の店長とは異なり、計数面での評価はない。

副店長には、固有の研修もある。研修では、他のキャストとの面接の仕方、労働関係法令等、オペレーション上で重要なスキル・知識を学習させている。

正社員への登用

同社では毎月、正社員登用試験を行っている。

副店長やそれに準じる役割を果たしている者を対象に、本人が希望し、店長とエリアマネジャーの推薦を受け、適性検査と営業部長面接に合格すれば、エリア社員として採用される。最近の登用実績は、年間30~40名である。

同社では、新卒の正社員も最初はエリア社員である。グローバル社員になることを希望するエリア社員は、所定の研修や社内資格試験に合格した後に、別の転換試験を受ける必要がある。キャストからエリア社員を経てグローバル社員になった者も、これまでに数名いる。

業界ならではの福利厚生

福利厚生施策として、社内各店舗での飲食に使える無料券・割引券を組み合わせた「従業員サービス券」を、毎年7月及び12月に配布している(在籍1年以上には2冊、在籍2年以上で5冊)。

また、平成26年度には、職場での懇親イベントを支援するため、年間1人当たり3,000円の飲食代補助を行った(次年度以降については検討中)。

総合的な相談窓口の設置

人事担当者及び労務担当者を「労務相談窓口」として、セクハラ、パワハラ問題に加え、職場での悩み、労働条件に関する疑義等も含め、あらゆる相談を受け付けている。

店舗には、電話番号及びメールアドレスを掲示し、いずれか好きな手段で連絡できるようにしてある。

(4)成果と課題

キャストがキャストを教える体制が整ったことで、スキル習得がスピードアップし、定着につながっている。また、ランク別のミーティング等の Off-JT も、不安解消やモチベーション向上に寄与し、定着につながっている。結果として、顧客へのサービスレベルが向上し、また、正社員の負担軽減にも効果をあげている。

今後については、外国籍、女性、シニアの方がもっと活躍できるような、ハード面・ソフト面の環境整備を課題と考えている。すでに、それぞれをテーマとした委員会を作り、検討を開始したところである。

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