ここから本文です
(株)ねぎしフードサービス
パートが主役の経営改善活動により、顧客の支持と社員の働き甲斐を向上
正社員転換推進措置
所在地 | 東京都 | 業種 | 飲食店 |
---|---|---|---|
従業員数 | 1,034名 | パート労働者数 | 914名 |
ポイント |
---|
|
(1)企業概要・人員構造
同社は40年余り前に現社長により創業され、約30年前からは和食の単一ブランドで東京都内に絞り込んだ出店を行ってきた。現在は都内に33店舗(1店舗のみ別ブランド別業態)と横浜市に1店舗の直営店を構え、セントラルキッチンも都内で操業している。
各店舗には、店長以下2~4名の正社員と10~40名の短時間社員(以下、便宜上「パート」と表記する。)が配置されている。全社では、正社員が120名(男性101名、女性19名)に対し、パートは914名(男性405名、女性509名)である。パートの半数以上が学生層で、残りの多くは主婦層だが、芸術芸能を本業とするなどのダブルワーカーも多く就業している。
同社では正社員を「パートナー」と呼称しているのに対して、パートは月間170時間又は120時間就業する雇用契約をしている社員を「Tパートナー」(在籍10名)、これに満たない契約時間の社員を「Aパートナー」(約620名)、外国籍の社員を「Fパートナー」(約280名)と3つに区分しているが、各パートナー(パート)の資格基準や給与体系は同一である。その中で、週の労働時間が30時間以上の約100名が社会保険に加入している。
パートの採用は店長権限で行われ、店舗の勤務シフトパターンにもとづいて勤務日時を決めて雇用契約を結んでいるが、実際の勤務日と勤務時間は、本人から勤務可能な日時の申告を月単位で受け作成する勤務シフト表により決定している。
採用時には調理、接客のいずれかに配置されるが、6か月ほどを目途に両方の業務を担当できるように訓練され、結果として全ての社員は勤務シフトやその場の繁閑に応じて定められた業務を担当できるようになる。
(2)取組の背景
同社では、食文化や街づくりへの貢献と併せて、「働く仲間の幸せ」を会社経営の目的の一つに掲げている。そして、その実現のための組織運営として、顧客との接点が最も大きいパートを最上位に置き、次にパートナー(正社員)を、会社幹部は最底辺に位置して店舗の社員たちを支援する構図を掲げている。また、職場では互いをすべて「さん」付けで呼び、「店長、部長」などの役職 で呼ばないことを徹底している。
日々の仕事に加えて人事制度や社内活動においても、立場や働き方の異なる社員たちが名称どおりパートをパートナー(「仲間」)と扱い、同じ舞台で活躍し、高い働き甲斐につなげていく取組が行われている。
(3)取組の内容
詳細な能力基準による資格制度を正社員と一体的に運用
同社のパートは、正社員のように勤務シフト作成、売り上げ集計等の店長業務代行の役割は担わず、店舗間異動もないが、資格制度については、正社員とすべてのパートを同一のシステムで運用している。
パートである各パートナーにはトレーニー(研修期間)、チャレンジャーⅠ~Ⅲ、リーダー、サブマネージャーの6ランクの資格があり、正社員であるパートナーはこれに店長が加わっての7ランクになる。そして、ランクごとに到達すべき能力基準として、各ランク3~40の「ステッププログラム」が、全ランクでは100を超える「ステッププログラム」が設定され、細かく能力評価ができるようになっている。
またトレーニーに対するOJT指導者も、社員区分を問わず先輩社員の中から決めている。
正社員と共通の資格制度
パートの時給はこの6ランクごとに、パートナー区分による差異がなく設定されており、ランクアップの評価は、毎月行われる店長面談の中で実施される。
チャレンジャーⅡまでの社員は、この面談で店長が現行ランクのステッププログラムを所定の水準でクリアできていると判断した場合にランクアップが決まる。より上位のランクの社員については、店長が本社へランクアップの申請を行い、その後の集団評価や試験結果などにより決定される。
なお、入社6か月をめどに基本を確認するための集合研修を実施し、この研修を受講することをチャレンジャーⅡ(第3ランク)ランクへアップするための要件としている。
ランクアップ評価のフロー

経営の全体活動に主役として参画
同社では、経営理念の理解深耕やサービススキルとサービスマインドの向上を目指す全体活動が、恒常的に行われている。特定の役職者などを対象とするものを除き、パートがその中心に置かれており、参加への準備過程や職場での共働、成果の掲示や表彰などを通じて、達成感や会社との一体感なども体感できる活動となっている。
社員参加型の全体活動例
活動名 | 活動内容 | 開催頻度 | 継続年数 | パート参加数 |
---|---|---|---|---|
文集 「私と経営理念」 |
経営理念との関わりについての作文。自由参加だが多数の社員が投稿する。 | 年2回 | 6年 | 年間に250名が投稿 |
経営改革 全体会議 |
各層が参加する全体会議。各現場での改革改善ケーススタディーの発表、トラブル・クレーム事 例の発表、個人表彰などが行われる。 | 月1回 | 23年 | 年間では50名が参加 |
クレンリネス コンテスト(※) |
全店がクレンリネスを競い、店長が相互に審査する。各店舗とも一丸となって取り組む。 | 年2回 | 17年 | 店舗で全員が参加 |
新宿クリーン作戦 | 各店から20名が参加して、靖国通りの1キロをゴミ拾い。 | 月1回 | 2年 | 年2回はパート50名が結集して実施 |
(※)店舗間のクレンリネス(店内の清潔さ)の状態を競うもの。
また、隔月で発行している社内報でも、紙面の大部分にはパートが主役として登場している。
働き甲斐に結びつく多くの顕彰機会を設定
お客様アンケートや社内アンケートとリンクさせた個人表彰・チーム表彰、誕生祝いパーティー等のイベントが繰り返し行われているが、ここでも一番の主役はパートであり、職場のチームワークづくりやサービス提供者としての働き甲斐の向上に寄与している。
顕彰の機会と方法
顕彰名 | 内容 | 実施頻度 | 顕彰方法 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|
親切賞 | 顧客から回収されたアンケートはがき(テーブルに常設)でお褒めを頂いた社員を表彰 | 月1回 | 賞状(顧客自筆の 褒め言葉を転写)、食事券贈呈 | 月280名以上のパートが受賞 | |
親切大賞 | ベストコメント賞 | 一番素晴らしい褒め言葉を頂いた社員(パートリーダーが投票) | 年2回 | 全体会議で表彰 | 社員区分に関わらず対象 |
最多得票賞 | アンケートはがきに名前を書かれた件数が最多の社員(半期賞、年間賞) | ||||
親切店舗賞 | 親切・気配りへのお客様の満足度、上位5店舗 | ||||
チームワーク賞 | 親切賞受賞率上位5店舗 | ||||
親切さん | 同僚として「ありがとう」を言いたい社員名を事務局へ投票、集計結果での各店トップを表彰。 | ||||
誕生祝い | 直営の韓国料理レストランで のパーティー | 3か月ごと | 食事券贈呈 | ||
Fパートナー懇親会 | 〃 | 年3回 | 本格コース料理を提供 | Fパートナー全員 |
(4)成果と課題
同社ではパートを、常に顧客に接しながら最前線で営業を支えている「働く仲間」として位置付けて、フラットな組織体制の中で正社員と一体化した資格制度を運用し、経営改善を目的とするさまざまな活動にも主役として参画することを求めて、パートもそれに応じてきた。
その結果、継続的に実施されているESアンケート(社員アンケート)で、同社で働くことに「満足」と回答している社員が2010年以降は毎年85%に上っている。また、同社のパートの平均勤続は2.7年であり、学生層が半数を超える社員構成の下では高い定着率を示していると言える。
経営への成果としては、2010年7月以降の既存店の月間売上が 2011年3月を除いて4年間にわたり連続して前年を上回っており、これらの取組が顧客からの支持にもつながったとも解釈できる。
また、こうした取組を含めた同社の経営改善活動は、2009年度から連続3回にわたる「日本経営品質賞」(各賞を含む)受賞など、多くの経営賞の受賞にもつながっている。
ただ、今後も多くの新規出店が計画されており、拡大する組織人員体制の下できめ細かな制度運用と多様な社員参画機会の運営を行うことの困難も想像される。同社では、これらの取組を一層充実させながら組織風土と社員の働き甲斐を維持向上していくことを今後の重要テーマとしてとらえている。