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(株)サイゼリヤ

パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル・好事例集(飲食サービス業)より

職能・経験時間によるメリハリのある時給評価、透明な資格等級制度の運用で人材定着

3.教育訓練等の能力開発
4.人事評価
5.キャリアアップ・
正社員転換推進措置
6.福利厚生・安全衛生
8.職場のコミュニケーション等
所在地 東京都 業種 飲食店
従業員数 22,110名 パート労働者数 19,845名
ポイント
  • 透明な資格等級制度を設け、職能・経験時間に応じて地区長判断で昇格。メリハリのある時給設定によって定着とスキルアップを図る。
  • 労働契約書等をすべて本部がチェックし、契約手続きを管理。外国籍の応募者・社員の在留資格・在留期間もチェック。
  • ワーク・ライフ・バランスに配慮して、店舗間異動や復帰に処遇スライドで対応。
  • ホットラインによる社内苦情対応を実施。

(1)企業概要・人員構造

同社は、昭和48年(1973年)に創業し、イタリア料理店「サイゼリヤ」をチェーン展開している。店舗数、売上高は近年においても年々増加しており、2010年8月期に842店舗であったものが、2014年8月期には国内 1,021店舗に上っている。中国等アジア圏を中心に海外店舗の展開にも積極的に取り組んでおり、2014年8月期の海外店舗数は230店舗である。また、新業態として都内でパスタ専門店を出店する等の試みも行っている。

正社員以外のパートタイム労働者は、全体としては「準社員」と呼称し、雇用期間は3か月である。そのうち月平均労働時間が 120時間以上の社員を「定時社員」と呼称している。主婦層や学生、フリーター等、さまざまな立場の人々で構成されている。準社員の所定労働時間は、原則として1日8時間以内とし、就業時間と始業、終業の時刻及び休憩時間は、雇用契約を締結する際に本人の希望を聴取して個別に定める。8時間を超える場合は残業手当を支給する。業務の繁閑やシフトの都合によって就業実態は変動しうるため、労働条件通知書には基本的な時間を記載するが、そこには「業務の状況により変動する」との但し書きを付記する形としている。

定時社員は 2014年8月現在2,012名おり、月平均労働時間が120時間以上及び1か月の所定労働日数が社員の4分の3以上の者で、資格等級が一定以上(資格等級がB以上)の者を指し、社会保険等に加入し、組合にも加入する。定時社員以外の準社員は2014年8月現在17,833名であり、社会保険等については非加入が基本ではあるが連続する2か月の合計勤務時間が168時間を超える者は雇用保険に加入する。組合には加入しない。

賞与は定時社員に適用し、退職金はそれに代わる制度として企業年金基金を定時社員に適用している。賞与額は人によって多い時は年間40万円程度、年2回の支給となる。賞与額は会社全体の業績に連動し、個々の定時社員の査定期間中の労働時間、勤務年数、資格等級に応じて決定される。個々の店舗の業績とは連動しないが、これは、定時社員等も店舗間ヘルプを頻繁にしていることから、店舗への帰属よりも会社への帰属を重視する考え方によるものである。福利厚生については、健康診断及び育児・介護休業、弔慰金を定時社員に適用している。通勤手当も支給している。

店舗は概ね午後11時まで、遅いと概ね午前 2 時までを開店時間としている。店舗運営においては、3~5店舗を1つの地区として管理し、地区の中でスケジューリングして人員を柔軟にヘルプし合う体制をとっている1つの店舗に平均すると2名程度正社員を配置しており、店長は正社員である。時間帯によっては準社員(資格等級がB以上)が時間帯責任者となることもある。キッチンオペレーションがさほど複雑ではないので、正社員も準社員のいずれも、ホールとキッチンの双方の職務を担っている。正社員は、売上規模が大きい店舗や、居住者が少なかったり近隣により求人条件が良いエリアがあってそちらに求職層をとられてしまったりしてパート・アルバイトが集まりにくい店舗に多めに配置されることが多い。

なお、同社は自社店舗で提供する野菜・ソース等を加工して供給する工場を千葉、埼玉・吉川、神奈川、兵庫の4か所に持っており、ここにも準社員が約300名働いている。

(2)取組の背景

店舗数の急増など事業拡大が急速に進む中において、全社員のうち約9割を占めるパートタイマーとして働く準社員の人材確保は経営上死活問題であり、さまざまな取組を行ってきた。定時社員を制度化したのは10年ほど前になるが、この制度化に際して組合が動き、定時社員も組合に加入とし、賞与を全員に支給することにした経緯がある。また同じ頃に、賃金と連動した準社員の資格等級の制度もほぼ固まった。

店舗数を拡大しながらも生産性向上を図っていくための取組においても、準社員の活躍は欠かせない。従来は、新店オープンの際には正社員のエリアマネジャー等が立ち上げ要員として入っていたところ、立ち上げ後に彼らが引き揚げた後に生産性の低下が生じがちであった。この課題を踏まえ、現在は、近隣にある既存店のベテランの準社員に新店に移ってもらって立ち上げるようにすることで、生産性の維持・向上を図っている。このように、準社員が保有する経験・ノウハウは事業の発展にとってきわめて重要な役割を果たしている。

(3)取組の内容

採用決定時オリエンテーションの実施による労働条件等の説明

パート社員採用の採用決定時には、必ず入社に関するオリエンテーションを実施し、そこで会社の仕組みや経営方針、賃金決定や評価、教育訓練、キャリアアップを含む各種制度の内容、労働条件等について説明することを各店舗の店長に義務付けている。オリエンテーションは約2時間で、参加時間については賃金を支払い、内容は本社管理部門で企画構成してマニュアル・資料も用意している。なお、こうした説明とパート社員の雇用管理が適切に行われるように、社内報を活用して、働き方についての課題や法的義務について社員全員に意識付けを図る取組も行っている。

評価制度とリンクした契約更改時における労働条件説明の徹底

同社では、パート社員に対する評価制度を導入し、職能・経験時間に応じた時給設定を行っている(詳細は後述)。3か月ごとの契約更改時には、この評価制度に基づく面談を店長とパート社員とが必ず行い、先の3か月間におけるレベルアップの状況と今後の課題について共有しながら次の契約期間における等級ランク位置付けについて確認し、併せて契約更改時の労働条件の変更に関することを明確に伝えている。契約更改に係る説明と教育・評価の仕組みとを連動させることによって、契約更改時における本人との話し合いや説明が必ず実施されるようにしている。

職能・経験時間に応じた時給設定、透明な資格等級制度の運用

入職時の時給は地区ごとに地区相場を考慮して設定しているが、入社後、契約更新のタイミングである3か月に1度毎に評価を行って職能・経験時間に応じて時給を上下させる。おおむね100時間を経験しないと次の職位には上がらない仕組みであり、職能を地区長が評価して昇格を決定している。なお、同社の管理体系は、店舗運営部の下に5名のゾーンマネジャーがおり、その管理下に42名のエリアマネジャー、さらにその下に220名の地区長、そして約1000店舗の店長がいるという構造になっている。同社では、店舗間ヘルプを頻繁に行うことから地区内で時給のレベル感をそろえる必要があること、また、本人に近い立場である店長に昇格の判断を委ねると職能ではなく都合の良い人を上げてしまう懸念があること等から、準社員の昇格の判断権限を地区長に持たせ、最終決裁はエリアマネジャーが行っている。

職能等の評価による時給の上昇幅は比較的大きく設定されており、入社時の一律の設定と比較すると200円以上の差が生じる仕組みとなっている。具体的には、準社員のランクをL・A・B・Cの大きく4つに分け、さらに各ランクに3段階ずつがある形で、全体で12段階を設けて管理している。Cランク内は3段階とも同じ時給のため、時給としては10段階での管理となる。A~Cランクは「クルー」と呼称するが、Lランクを「リーダー」と呼び、名札も区別している。また、AAランク以上から、新人・後輩の指導的立場であることを明確化する意図から制服を変えている。名札や制服を区別することは、準社員の責任感やモチベーションを生み出すことにもつながっている。AAランク以上は、食事代も会社が6割負担する(Aランク以下は3割負担)。

Lランクのリーダー職階は、経験豊富で固定客に精通し地域社会への影響力もあり、店舗運営のキーパーソンとなる存在である。そのため、Lランクへの昇格は、エリアマネジャーからの推薦を必要とし、各種マニュアルについての理解を問う内容の筆記試験を課している。筆記試験は年に2回実施している。また、Lランクになるには、キッチンとホールの双方ができること、そして土日の出勤ができることが条件となる。

同社では各種マニュアルによって、何ができたらどの等級に当てはまるかの評価基準を明確化している。マニュアルは資格等級のレベル別に整備されており、Cランク等の初級者向けの「ベーシックマニュアル」をはじめとして、キッチンとフロアの双方の「オペレーションマニュアル」、さらにはより上位のAランク以上になるための「トレーニングガイド」等がある。各人のスキルの状況は、マニュアルで定められているチェックシートに基づいて日々本人及び店長がチェックして確認している。

社員一人ひとりがどの職位・資格等級に位置付けられているかについては、正社員も含めてシフト表(稼働計画表)に書く形で社員間でも共有しており、透明性の高い制度として運用している。

なお、地域相場に応じて新規採用するパート社員の時給水準を上げる場合は、公平性に配慮して既に入社しているパート社員についても時給を上げるようにしている。

資格等級の仕組み

準社員からの正社員登用制度の積極的な運用

希望する者で、会社側の採用基準に合致した場合には、準社員から正社員に登用する制度がある。具体的には、新人・キャリア採用と同じプロセスで、準社員からも正社員登用応募者を募っており、例年約30~40名を登用している。正社員の雇用区分は総合職のみなので、異動ができることが前提となる。

正社員登用の要件にエリアマネジャーの推薦を必要としているが、その推薦を毎年6月に募る。7月に筆記試験及び人事部面接による選考を行い、9月1日付で正社員採用となる。準社員からの登用の場合は、年齢、勤続年数、準社員時の資格等級レベルを考慮して給与水準を設定する。入社後は、入社式及び入社研修を実施し、入社研修では正社員としての勤務のルールを説明するとともに、正社員としての意識転換を促す内容となっている。

労働契約書等本部チェックによる外国籍の応募者・社員への対応

同社では、各店舗が準社員と3か月に1度交わす労働契約書をすべて本部にFAXで送付させ、記載事項及び添付書類の内容をチェックしている。チェックしている中で、記載の不備や添付書類の提出漏れ等があれば本部から各店舗に連絡し、適正な労働契約が行われるよう指導している。

このようなチェック体制の中で、特に外国籍の応募者及び社員に対するチェックは重視して行っている。外国籍の方が応募してくる場合に、違法就労にならないか、在留資格や在留期間を本社人事部で必ずチェックしている。在籍する外国籍社員については、本社人事部で全員リストアップして勤務時間や在留期間を管理している。

ワーク・ライフ・バランスに配慮した店舗間異動や復帰への対応

配偶者の転勤等で引っ越しして従来の店舗で働けなくなった準社員に、転居先にある店舗への異動を本人希望があれば認めており、その場合、異動先での資格等級ランクは前の店舗のランクのものをそのまま引き継ぐ形としている。

また、何らかの事情でいったん退職しても、その後6か月以内であれば以前の資格等級レベルのまま再雇用する仕組みがある。

企業理念浸透のための取組

同社では、社の基本理念や行動指針を書いた二つ折りにした名刺サイズのカードを準社員全員に配っており、ここには自分自身の行動指針を書く欄も設けている。基本理念の「人のため、正しく、仲良く」を現会長が直筆で書いたカードであり、準社員も含め入社した社員は全員入社時にこのカードを受け取って説明を受け、人としての約束ごとを守ることが契約更新の前提となることについて理解を促している。

準社員も含めた社員全員に配布する社内報でも理念の浸透に向けた内容を掲載する等の取組を行っている。

ホットラインによる社内苦情対応

同社では、「ホットライン」という名称で、上司や仲間とうまくいかなかったり、パワーハラスメントなどの問題について、誰でも電話で相談できる仕組みがある。その電話番号は誰でも見ることができる場所に貼ってあり、電話は本社の総務部門で受け、必ず対応するようにしている。

例えば、店舗の店長についての苦情の場合には、その管轄のエリアマネジャーに当該店長及びその周辺社員に対してヒアリング及び調査をさせ、苦情の内容が正しいのかを確認する。内容が正しく、深刻度が高い場合には賞罰審査にかけることもある。

(4)成果と課題

準社員の処遇について、職能・経験時間に応じたメリハリのある時給評価を行っていることにより、優秀な準社員人材の定着につながっており、人材不足が言われる昨今の業界においても特に人材確保に苦慮することなく事業拡大を進めることができている。働きに応じて適正に評価して時給を上げていくと、結果的には人材が定着して経験値が上がって業務の効率化が進み、店舗全体としては労務費が下がるといった効果もみられている。実際、実験的にデータで確認したところ、平均時給が高い店舗の方が、売上・利益等の業績が良く、社員の定着率や生産性(総労働時間に対する客数)も高いという結果が得られたことがある。

今後の課題の一つとして検討中のことは、Lランクのさらに上の職位層を作ることである。現状、Lランクに位置する準社員が増えておりそれ以上レベルアップできるランクがないこと、また遠隔地の新店の教育係となる社員が必要であることから、明確に「トレーナー」等と位置付ける、より上位の資格等級を検討しているところである。

また、準社員から正社員への登用の門戸を広げる措置として、地域限定正社員の制度を導入するべきか否かについても検討中である。これについては、制度を導入するともともと正社員だった人から地域限定正社員に移行を希望する人が多く生じる懸念もあり、慎重に検討している。

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