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A社
職場環境の改善を重ね、パートタイマーの長期雇用と戦力化を図る
正社員転換推進措置
所在地 | 非公開 | 業種 | 銀行業 |
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従業員数 | 約2,100名 | パート労働者数 | 約500名 |
ポイント |
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(1)企業概要・人員構造
同社は、概ね100店舗を有する地方銀行である。地域の発展とともに栄えるという経営理念を有している。
雇用区分は、行員(正職員)、嘱託、パートタイマー(主にパートタイム労働者)の3つである。
雇用区分ごとの人数と特徴
雇用区分 | 人数 | 特徴 |
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行員(以下「正職員」と記載) | 約1,400名 (男性約900名・女性約500名) |
契約期間の定めなし。月給制。退職金制度あり。他の雇用区分と比べて、職務の幅が広く、責任の度合いも大きい。 |
嘱託職員 | 約130名 (男性約50名・女性約80名) |
1年契約・更新あり。月給制。退職金制度あり(正職員とは異なる制度)。フルタイム勤務(勤務時間は正職員と同じ)。パートタイマーからの転換、中途採用者、定年退職者の再雇用等が該当。主として正職員の補助業務等を担う。 |
パートタイマー | 約500名 (男性若干名・女性500名) |
1年契約・更新あり。時給制。1か月15日、1日5~6時間の勤務を基本とするが、本人の希望も勘案して決定する。正職員に比して定型事務、補助的業務、軽易な業務に従事する。 |
パートタイマーの職種は、営業店一般事務(預金、為替事務、諸届け事務、店頭セールス)、本部業務(文書整理事務等)である。正職員と比較して、職務範囲や責任の度合いは小さい。
パートタイマーへの応募者は、子どもが小学生となり働く時間ができた30歳~35歳位の主婦が多い。また、現在勤務中のパートタイマーの約半数は、同行の行員経験者である。
パートタイマーのうち、雇用保険加入者(週20時間以上の勤務)は300名、そのうち社会保険加入者は90名である。
(2)取組の背景
銀行が地域に根付いた経営をしていくためには、地域のことをよく知るパートタイマーの存在は重要である。また、銀行業務が現在ほど機械化されていない時代の経験を有するパートタイマーは、事務の取扱いに長けており、事務作業手順・コミュニケーションの取り方とも、若手行員の良い手本となっている。
このように、パートタイマーは銀行にとって戦力であり、欠くことのできない貴重な存在であるため、パートタイマーの雇用管理については、「離職せずに働き続けてもらうこと」に主眼を置いている。(3)取組の内容
職務内容ごとの労働条件を明確化
パートタイマーの主たる職務内容と勤務条件は、次の3通りである。
職種区分と処遇の概要
職務区分 | 職種区分A | 職種区分B | 職種区分C | |
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業務内容 | 営業店一般事務 本部事務ほか |
窓口業務(振込・預金の受付等) | 窓口業務に加えセールス業務あり | |
契約期間 | 当初1年は6か月ごとの更新、以後は1年ごとの更新 | |||
時給(初任時時給は、職種区分ごとに異なる) | 当初6か月 | 同行規定の初任時時給 | 同行規定の初任時時給 | 同行規定の初任時時給 |
次の6か月 | 初任時時給に10円加算 | 初任時時給に50円加算 | 初任時時給に50円加算 | |
1年契約以降 | 初任時時給に30円加算 | 初任時時給に100円加算 | 初任時時給に100円加算 | |
通勤費 | 当初1年は6か月ごとの更新、以後は1年ごとの更新 | |||
賞与 | 年2回支給(6月、12月) | |||
健康診断 | 採用時健診、定期健診あり。パートタイマーの労働時間にかかわらず受診できる。 |
時給については、職務区分ごとに異なる時給を設定している。また、採用後は、契約期間6か月を2回更新し、3回目以降は1年の更新となるが、3回目までの時給の引き上げ時期及び引き上げ額を本社で実施する採用時研修の際に、文書及び口頭にて個別に説明している。
勤務評価を賞与に反映
パートタイマーに支給する年2回の賞与の額は、勤務評価の結果に基づき決定している。具体的には、「勤務時間区分(フルタイム勤務・フルタイム以外勤務の別)」、「職務区分(前出のA~Cの3職種)」及び「5段階の評価ランク」の組み合わせにより支給額が細かく決められており、パートタイマーにその支給額の一覧表は明示されている。支給額の上限は、フルタイム勤務者は7万円、フルタイム以外の勤務者は6万円である。
賞与支給額の概要
評価項目は、事務処理の丁寧さ、コンプライアンス遵守、お客様へのトラブル時の対応等である。
項目ごとに評価し、最終的に5段階のランクを決定している。
勤務評価の結果については、賞与の支給日前の個人面談の際に、所属長から本人にフィードバックを行う。評価のランクと支給額が直結しているため、現実には下位の評価はなされない傾向にある。
正職員等への登用制度により意欲の向上を図る
パートタイマーのモチベーションを高め、また、正職員の年齢の均等化を図るために雇用区分を転換できる制度を実施している。応募の基準は、「本人の希望がある」、「前2回の勤務実績の考課の結果が上位ランクである」、「所属長の推薦がある」の3点である。
雇用区分の転換には、①パートタイマーから嘱託職員へ転換、②嘱託職員から正職員へ転換の2通りあるが、いずれも登用制度として実施している。①又は②のいずれかにより雇用区分を転換した者は、1年間に2~5名程度である。雇用区分が転換することで、年収の増加や、無期雇用化など処遇の改善がなされるので(無期雇用は前出②の場合)、今後も登用制度を活用して処遇の改善を行っていきたい。
労務管理を円滑に行うための体制づくり
パートタイマーを広範囲から雇用していることから、採用、契約更新に関する業務を円滑に行うために、様々な工夫をしている。
①採用時研修を本店一括で実施
パートタイマーの採用時研修は、各店舗で採用されたパートタイマーが本店に集合して受講する(毎月の第1営業日に実施)。研修では、コンプライアンス研修に加えて、勤務時間、有給休暇日数、産休、育休、契約更新後の賃金額、正職員登用制度などの労働条件についても説明している。また、労働条件について本店の人事労務担当者からパートタイマーに個別に説明する時間も設けている。
現在、パートタイマー用の手引きを作っており、休暇の取り方、有給休暇の比例付与、有給休暇の繰り越しの計算方法、相談窓口などの処遇を記載する予定である。就業規則にも同じ内容が記載されているが、処遇をより分かりやすくするために作成し、配布しようということになった。
採用時研修は、入社式も兼ねており、雇用する側も雇用される側も気持ちを新たにできる、相談窓口担当者との顔合わせができる等のメリットがある。
なお、採用時研修は、遠方からの参加者もいるため、往復の移動時間も考慮し、実施時間は半日程度としている。
②パートタイマーの契約更新時期を工夫
パートタイマーは、採用後1年を経過した後は契約期間が1年となるが、その期間を毎年8月1日から翌年の7月末日までの1年間としている。4月から6月は、新卒の採用、定期昇給、夏季賞与の支給など、人事労務の繁忙期に当たるため、パートタイマーの契約更新の業務に十分に時間が取れるよう、繁忙期を過ぎた8月1日を契約更新日とした。4月から6月までの2~3か月は、勤務時間や勤務日数の変更希望、勤務形態の変更希望などを確認する期間としている。
③イントラネットにて社内情報を共有化
パートタイマーにもIDとパスワードを付与し、社内のイントラネットで社内のお知らせ、社内報などを閲覧できるようにしている。閲覧範囲も正職員と同じである。
④相談窓口の設置
人事とコンプライアンス担当部門の両方に相談窓口があり、専用ダイヤルを設けている(正職員と同じ制度を活用できる)。人事部では、労働条件に関する相談のほか、メンタルヘルス不調、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、悩みなど、どのような相談でも受け付けている。
相談は年間数件程度であり、パートタイマーからの相談もある。
表彰制度の実施
業務の正確性、契約獲得実績、銀行業績向上につながった行為などに基づき、各部の長が推薦し、表彰者を決定している。正職員、嘱託職員、パートタイマーの各雇用区分から表彰されるようにしている。
最近のパートタイマーの表彰者は、仕事が正確かつ丁寧で、お客様からの評判の良い人が選ばれた。
こうした表彰を行うことで、銀行として目標にしてほしい人物像を示すことができるメリットもある。
(4)成果と課題
パートタイマーが勤務を継続できるように配慮してきた結果、現在の平均年齢は40歳台半ばであり、平均勤続年数も10年~15年程度となっている。
教育研修は、パートタイマーに対しては、採用時以外は集合研修を行っておらず、職場のOJTのみとなっている。店舗が広範囲に渡るため、集合研修を行う場合は宿泊を伴うこともあり、家族を持つパートタイマーに参加を求めるのは難しいが、その点も考慮にいれた上で、研修制度を構築していきたい。
賃金については、勤務評価を時給に反映させる仕組みがないため、今後検討していく必要を感じている。
また、登用制度のステップアップの仕組みはどのようなものが適しているのか(登用の段階の数やその処遇等)も検討していきたい。人口減少が進み、新卒の採用が難しくなる中で、これまで身近で一生懸命働き続けてくれたパートタイマーが活躍できる職場にしていかなければならない。
パートタイマー各人の事情(家族のこと、仕事への意欲、仕事に使える時間など)も勘案しながら、賃金、管理職の登用や雇用区分の転換など処遇面を魅力あるものにして、パートタイマーの更なる定着率向上と能力が発揮できる職場づくりを目指して、その仕組みづくりに取り組む予定である。